ネアンデルタール人は私たちと交配した

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902043

感想・レビュー・書評

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  •  これこそが、わたしが25年にわたって夢見てきた成果だった。数十年にわたって議論されてきた、人類の起源にまつわる重大な謎を解く証拠を、わたしたちは手にしたのだ。そしてその答えは予想外のものだった。現代人のゲノムの情報のすべてがアフリカの祖先に遡るわけではないと、それは語り、わたしの師であるアラン・ウィルソンが主な提唱者である厳格な出アフリカ説を否定したのである。それはまた、わたしが真実と信じていたことも否定した。ネアンデルタール人は完全に絶滅したわけではない。彼らのDNAは現代の人々の中に生きているのだ。
    (中略)わたしたちが発見した結果では、ネアンデルタール人はヨーロッパ人だけでなく、中国やパプアニューギニアの人々にもDNAを伝えていた。なぜこんなことが起きたのだろう?わたしは考えが定まらないまま、机上の整理を始めた。最初はゆっくりとだったが、次第に勢いづき、古いプロジェクトのがらくたを次々に捨てていった。机上にたまっていた埃が宙に舞う。新しい章の始まりだ。机をきれいにしなければ。(pp.264-5)

     マイクは、この他者の注意を何かに向けようとする衝動を、発達段階の初期に現れる認知特性のひとつで、人間に固有のものだとしている。それは、心理学者が「心の理論」とよぶ、他者が自分とは異なる心(認識・知覚など)を持つことを理解し始めた兆候である。に逃げんが巨大で複雑な社会を誕生させたのは、社会活動、他者の操作、政治的駆け引き、団結といったことに秀でていたからだが、そうした能力が、人の立場、政治的駆け引き、団結といった興味を操作できるというこの特性から生まれたことは、想像に難くない。マイクのグループが突き止めたこの特性は、現生人類が、類人猿や、ネアンデルタール人などの絶滅した他の人類と異なる道をたどる根本的な要因になったものだと、わたしは考えている。(p.286)

  • 研究への情熱と科学への謙虚さに感動した。
    そして自分はそれを持ちえず、去っていく。
    わびしい。

  •  我々の中にネアンデルタール人のDNAが残っいる・・その事実については、まあだからどうした、というくらいの感想しかないのであるが、その事実を明らかにする過程がスリリングである。というか、真の科学者というのはここまで「科学」に対して誠実であることができるのだということに感動した。。
     掘り出された古代のDNAにはすでに現代の微生物や人のDNAが混入している。それらから目的のDNAだけを取り出し、増幅する。だが、目的のDNAだと思ったものがやはり混入した現代人のDNAだったりする。様々な設備や装置や仕組みを自ら開発し、2重3重のチェックを自らに課し、そしてたぶん科学ではもっとも重要なことの一つ「再現性」に徹底的に拘っていく。そうして、長い長い道のりを経て真実を明らかにするのである。
    その間に、ライバルたちは数万年どころか恐竜のDNAまで解析したと、サイエンスやネイチャーなどの有名な雑誌に発表していく。しかしそれらはすべて、科学的には不誠実な態度で、再現性もなく、実際に間違っていた。メジャーな科学雑誌もまた、実は「科学」に忠実というよりも商業主義的なのである。正しい道を歩んているという自覚と自信があっても、それはそれは苦しいものだったに違いない(と、著者も言っている)。
     読んでいる間じゅう、STAP細胞を巡る「捏造の科学者」(文藝春秋)を思い出していた。小保方さんや笠井さんが、スヴァンテ・ペーポほどに「科学」に対して誠実に向き合い、つまり「再現性」に謙虚に向き合う勇気があったなら、そしてスヴァンテ・ペーポがすでに喝破していたように著名な科学雑誌が極めて商業主義的であることを理解していたなら、あの事件は起こらなかったに違いないと。

  • ネアンデルタール人と我々ホモ・サピエンスの間に血縁関係があったというのはここ数年、急速に得られた研究結果である。ネアンデルタール人のゲノムを読めるようになったのは、リーダーであるスヴァンテ・ペーボが人生を賭けて化石やミイラからDNAを分析をするという1つの研究分野が生まれるところから始まる。本書には現役研究者の輝かしい成功だけではなく、苦難や失敗だらけの研究と赤裸な個人事情が描かれている。この分野の歴史を知るには良い本である。

  • 研究の意義や技術的な困難の説明は面白かったが、私生活の思い出話や人間関係の恨み言などつまらない部分もかなり多かった。伝記は自分で書いちゃだめだな。

  • 人類の歴史の話だから、当たり前であるが、
    研究室間の競争や、恋愛、家族など、非常に人間くさいドラマでもあった。

  • まず、この本は非常に面白い。『イヴの7人の娘たち』や『アダムの呪い』のように、遺伝子解析によって人類の歴史をたどる話は、自分にとってはほぼ外れなく面白いのだけれど、この本は特に研究界の競争の実情がよく伝わる内容になっていて興味深い。

    本書では、著者のスヴァンテ・ペーボが、古代生物のゲノム解析の研究者として成功し、マックスプランク進化人類学研究所を率い、その分野の第一人者となる物語が自身の手で描かれている。その過程では、古代生物解析におけるDNA汚染の回避に向けた地道な闘いや、他研究機関との協力や競争の内実、研究者としてのテーマ選択やキャリア形成、メディアとのやりとりなどが描かれていて実に面白い。熾烈で情け容赦がない先陣争いやそれにまつわるどろどろとした感情も伝わってくる。

    著者の研究対象は、古代生物のDNAであり、タイトルにあるネアンデルタール人だけではないのだが、やはり著者を一躍有名にしたネアンデルタール人DNA解析の話のインパクトが大きい。さらに驚くべきことは、かつてアフリカから出たわれわれの遠い祖先は、約三万年前にすでに欧州にいたネアンデルタール人と出会い、そして交配したという事実の発見だ。その交配の痕跡がわれわれのDNAに刻まれているという。驚いたことに、アフリカを除く現生人類の遺伝子の約2%がネアンデルタール人由来のものであるという。この割合はヨーロッパ人でもアジア人でも大きくは変わらないことから、現生人類とネアンデールタール人がいつどのように出会ったのかまで推定できる。残されたDNAの分析からそこまでわかるのか、とまさに科学の力を見せつけた事例だと思う。今後、遺伝子学によって、人類についてますます多くのことがわかり、ますます多くのことができるようになるだろう。

    科学研究の話だけでなく、著者がバイセクシャルであることや、研究者仲間の妻となっていた昔の同僚の女性を略奪する形で結婚したことまで赤裸々というよりも淡々とした調子で書かれている。こういった自伝的要素も含まれているのも単なる科学解説書にはないこの本の特徴である。

    それはともかく、面白いので読んでもらいたい。

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