長いお別れ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902654

作品紹介・あらすじ

帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする――。東家の大黒柱、東昇平はかつて区立中学の校長や公立図書館の館長をつとめたが、十年ほど前から認知症を患っている。長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし、娘が三人。孫もいる。“少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行く”といわれる認知症。ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう、迷子になって遊園地へまよいこむ、入れ歯の頻繁な紛失と出現、記憶の混濁--日々起きる不測の事態に右往左往するひとつの家族の姿を通じて、終末のひとつの幸福が描き出される。著者独特のやわらかなユーモアが光る傑作連作集。

感想・レビュー・書評

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  • 認知症を発症した東昇平と主にその妻、娘3人の10年間の介護生活を描いた作品。認知症とは「長いお別れ」を意味する…記憶は長い時間をかけて失われ遠ざかっていく…終始、重い介護の視点を明るく前向きにとらえているような、そんな内容でした。この東さんのような方ばかりではなく、急激に認知症状が進み周囲が困惑してしまうケースも多いのが実際です。

  • 本書は認知症を患っている昇平と介護をする妻の曜子、そして3人の娘たちの10年間を描いた連作短編集。中島京子さんらしいユーモアと優しさにあふれたあったかい介護小説だった。介護と言うと途端に暗くなりがちで読んでいるだけで疲労感が押し寄せてくるものもあるけれど、この小説はあくまでも明るい。

    現実はこんなもんじゃないと心の中で思う一方で、羨ましいと思うのも正直な気持ち。折れることなく夫をまっすぐに思い続ける妻の覚悟もあっぱれだし、なんだかんだと言いつつも3人も娘がいることで気持ちに余裕が出てくるのだと思う。
    これが父ではなく母が認知症になってしまったら、3人の娘ではなく3人の息子だたらそうはいかないだろう・・・、なんて意地悪な思いを抱きつつ読むのもまた楽しかった。

    特筆すべきは一つ一つのエピソードの描き方の巧さ。冒頭の遊園地の場面、同級生のお葬式に参列した時のこと、入れ歯をめぐる冒険、妻の入院などなど・・・。どれもこれもどこかしらほっこりとさせて、深刻なテーマを深刻にさせない作者のさじ加減の妙が素晴らしい。
    さすが中島京子さん。

    まだほんの数冊しか作者の作品は読んでいないけれど、もっともっと読みたくなった。
    とりあえず、「かたづの!」かなぁ。

    • だいさん
      認知症
      介護

      これから(の時代)は、こんなテーマの小説が増えそうですね?
      どちらも、医療ではHOTな話題だから。
      認知症
      介護

      これから(の時代)は、こんなテーマの小説が増えそうですね?
      どちらも、医療ではHOTな話題だから。
      2015/09/04
    • vilureefさん
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      そうですよね、増えそうですよね。
      おまけに私の親も認知症を患っているので、...
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      そうですよね、増えそうですよね。
      おまけに私の親も認知症を患っているので、余計に目についてしまいますね。
      2015/09/04
  • 文句無しに星5つです♪ まさに今風の「恍惚の人」ですね。元中学校長や公立図書館長まで務めた東昇平氏を縦糸にして、徐々に認知症が進行して行く10年間が支え続ける妻や3人の娘や周りの人々の様子を横糸に語られていく、しかも全体にユーモアをまぶしながら。両親の介護体験がある私には何度も頷きながら時に反省しながら読み進めることができました♪ 長いお別れをこんな風に軽く深刻にならずに著していてとても良かったです。介護等が分かる人 通じる人にはオススメの本でした。

  • 右膝上の骨折をきっかけに1年間で3度の骨折の手術を行い、リハビリ、介護施設への入所を経て6年間の入院生活の末後半は我が子である私の事も分からなくなって他界した母との思い出が重なりリアルな感じを持って読んだ。
    認知症を患って叙々記憶を失くしてゆっくり遠ざかってゆく、これがロング・グッドバイとの事だが、私の母もベッドの上からロング・グッドバイだったのだな。

  • 老々介護だぁ。
    わが家はまだ両親も元気にしていてくれているので具体的に考えたことはないが、この先あるかもしれない設定にむむむと考えながら読んだ。
    父が認知症、その介護を母が……。
    夫婦ならお互いの面倒をみようと強く思うだろうけれど、近所に住んでいない娘たちにはどうしていいものか。
    本人、介護をしている人の希望も聞かなければならないし。
    元気なうちにあれこれ話し合っておくのが1番かもね〜。
    父親には、いい暮らしだったと思う。

  • アルツハイマー認知症の父の介護に振り回される家族
    でも母親も娘もあくまでもやさしい
    私だったらとても無理
    文は読みやすいい中島京子さん
    でも、章ごとにぶつぶつ切れてるのが残念
    もうすこしリンクしてほしかった です

    ≪ 毎日の 暮らしの後の お別れが ≫

  • じんわりあたためる、炬燵のようないい物語だった。

    中学校の校長や図書館長を勤めあげ
    退任後に認知症になった、
    東昇平さんと家族の十年間の物語。

    だんだんと症状がすすんでいく様子を
    丁寧な物語に包んでありました。

    結構な分量の大変なことも書かれているのに
    ギスギス感が全くないんです。
    入れ歯騒動や、お父さんの椅子ボタン騒動や
    寝室排泄物騒動なども、クスクス笑ってしまいました。

    妻の曜子さん、すごいです。
    曜子さんのように寄り添ってあげることができれば…。

    昇平さん自身もすごいです。
    今あるもの出来ることを駆使して、
    感覚で相手に伝えていきます。

    三女の芙美と父との電話での会話、
    とっても温かかったです。
    そんなこと言われたら…号泣ですよね。
    言葉って意味を超えて、添えた気持ちを届けたり
    できるんですねぇ。

    それと「家へ帰る」とか「嫌だ」とかの発言は
    そういうこともあるのかも知れないなぁと
    色んな場面で考えさせられました。

    このラストの描き方も、本の題名もすごく好みです。
    「くりまらない」で「ゆーっと」する一冊です。

    GPSの名称って、すごいんですね。
    私も地球防衛軍を連想してしまいました。

  • 期待を裏切らない読み応え。二人暮らしの老夫婦と三人の娘たちの話。長女は既婚で子供あり、夫の仕事の都合で渡米中、次女も既婚で子供あり、割合近くに住んでいる、三女は独身でフリーランスで働いており忙しい。父がアルツハイマー型認知症を患っており、母がなんとかかんとか介護しながら暮らしている。少しずつ進行してゆく認知症の症状と介護している母を慮りながらも、自分たちの生活の事情もありつつあれこれ悩みつつ寄り添う家族の様子が、もの悲しいだけでなくユーモアというか暖かみのある筆致で描かれており読み終わるのが勿体なかったです。大変良い本でした。

  • 図書館で予約、結構待たされて、ようやく手元にきました。


    今は亡き義父を思い出しました。

    義母は大変な呆け方をしたのですが、義父は品性を保った認知症だったというか、
    認知症であることを、「悟られないようにするのが上手」で、まさにこの本の中の父親のようで、
    「思ったよりずっとしっかりしてて安心しました」
    なんて会いに来た友人親戚に言われた時期もありました。
    (もうすでにかなりすすんでましたけど)
    ・・・品性を保っていてくれたことは、当時、
    介護する側として本当に救われました。
    (品性を保つこととシモのことはモチロン別です。
    この本も品性を保つこととシモは別になってますね。)

    義父もとても不安だったんだろうな。
    あのときのことを、心の整理をしながら読みました。
    ・・・もしやこの方、親の介護されたことあるか、
    兄弟姉妹が介護していて、ちょこっとだけでも手伝っていたのかな。
    という印象を受けました。しっかり取材されてるんですね。
    便秘になるとあっというまに不穏になるとか、
    そうそう、そうだよねえ・・・。としみじみしたり。
    キレイにまとめてあるけど、
    「介護はこんなモンじゃない、もっと壮絶。こんなの真実じゃない」ってことはないです。
    ハタからみたら、こういう形にみえる介護もあると思います。

    親の介護をする、とは少し離れて、
    「主人を看取る」ことも考えたりしました。
    (ウチは15才近く、夫と年が離れているので)
    もし私が「妻」だったら、こんな風に介護できただろうか。
    とか。
    ・・・この奥さんみたいになりたいものです。

  • 校長や図書館館長まで務めた一家の大黒柱だった昇平が
    アルツハイマー型認知症を患い、亡くなるまでの
    一家の長い物語。

    老いた妻が老いた認知症の夫の介護をしなくては
    いけない現実。
    その娘たちも私は忙しい、私は家庭がある、
    私は遠方で力になれないなどの日常に
    どうしても老いた父親の問題が降りかかってくる現実。

    重いテーマだけれど、これは今の日本の現実であり
    自分にも関わりがあることで、これから向き合わないと
    いけない問題なので、すごくのめり込んで読んでしまった。

    介護の大変さ、介護の金銭的問題などリアルに
    描かれていてすごくためになった。

    物語の視点が家族それぞれにかわり、
    更に他の登場人物にもかわるので、
    慌ただしくもあったけれど、一人に焦点をあてて
    描くよりもそれぞれの立場の言い分が
    よくわかってよかった。

    のめりこんでのめりこんで、最後の視点は
    日本ではなく外国に住む昇平の孫の崇が
    祖父がなくなったと説明する場面で
    のめりこんだ気持ちを、ふっと遠くに飛ばされたから
    余韻があって、余計にジーンとなった。

    こういうテーマはよくあるけれど、すごく読みやすくて
    かといってすごくシリアスすぎず、
    さすが中島さんだなって思った。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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