- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163902920
作品紹介・あらすじ
女が映し出す男の無様、そして、真価――。太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか――。時代小説の新旗手が贈る傑作武家小説集。「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。
感想・レビュー・書評
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六つの話をまとめた短編集。『ひともうらやむ』と『逢対(あいたい)』がとても良かった。
特に『ひともうらやむ』の主人公・長倉庄平の「本家の嗣子(しし)を護るのは分家の務めだ。」という考えが己を支えたこの作品が一番良かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第154回直木賞受賞作。
なめらかな文章で時代小説にしてはとても読みやすく、さわやかな印象。
下級の武士たちの様々な生き方が取り上げられているのが面白い。
女性との関わりが重要な物語ですが、「女は怖い」という話ばかりかと思ったら、そうでもないのが良かったです。
『ひともうらやむ』
本家の男は、才色兼備と評判の美女・世津を妻にする。
分家の男は見合いで地味な結婚をして、無事に暮らしていたが‥
本家では緊迫した事態に。
美男美女なら幸福になれるわけではないという。
武家でなければ、こんな立場にはならずに済むのに。
『つゆかせぎ』
旗本の家侍をしている男は、武家奉公に上がっていた芝居茶屋の娘・朋を妻にする。
俳諧の才で夫は出世すると見込まれたらしいが‥?
妻のほうが才覚を発揮して、どんどん綺麗になっていくたくましさ。
『乳付』
望まれて旗本の妻になった民江。夫は優しいが家格の違いが気になっている。
初産で乳が出なかったため、遠縁の女性が乳付けにやってくる。自分よりも家柄に馴染んでいるようにみえる美しい彼女に嫉妬する妻。
可愛らしい女性で、夫にも家族にもちゃんと認められているとわかります。
『ひと夏』
飛び地となっている難しい土地へ派遣された武士。
百姓から無視されてしまう事情があるのだが、剣の腕を発揮する機会が訪れる。
『逢対』
若年寄の元へ毎朝通う武士たち。
無役の侍が出仕を願い出る場なんて、あったんですね。
自ら通いつめて仕事探しとは、当時もキビシイご時世だった。
持っていた刀を理由に仕官できそうになった男が選んだ道は‥
『つまをめとらば』
老いた男二人が何となく一緒に暮すようになった話。
それぞれかっては結婚もしたが今は独り身の幼馴染。
同じ敷地に住むことになり、案外居心地がいいと思っていたが、因縁ある女性が現れ‥?
とぼけた味わい。
武士といっても下級だと、収入は少なく、身分違いの結婚もしばしば。
運(女運?)と己の決心次第で、身分も人生も違ってしまうんですね。
サラリーマンに通じるような哀感と、江戸時代ならではの具体的な状況が興味深く、面白く読めました☆ -
「つまをめとらば」なんて古めかしい言いまわしに惑わされてはいけません。連想されるような時代がかったものからおおよそかけ離れ現代的な男女間の結びつきに圧倒されます。直木賞を受賞された時に「つまをめとらば」だけを読み、その時も青山さんの女性観に驚きました。過去の感想はこちら➡http://amegasuki3.blog.fc2.com/blog-entry-269.html
今回は「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」の他5編を読みました。
やっぱり、青山さんの女性観はあの時代の新しい境地を開いている気がしました。今まで時代物文豪の男性作家さんに登場する女性観には好感が持てませんでしたが、齢70歳と知りますます驚きます。きっと周囲には素晴らしい女性の方々がいらっしゃったのでしょうと思わずにはいられません。まるで著者のシャイで素直なお人柄が登場人物たちに投影されているようでした。
中でも「ひともうらやむ」「乳付」「逢対」も好きでしたが、やはり「つまをめとらば」に、作者のすべてが詰まっていて最高峰に揚げたい。 -
江戸時代の庶民を描いた短編集。登場する女性がしなやかでしたたかに強く、男性も誠実で堅実、己の弱さを見つめ付き合っていくような人物で、どの作品も地味だけど味わい深い煮物のような旨味がありました。(何度か出てきた美味しそうな煮物とお刺身が印象に残ってます…)
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短編集。どの物語の中の男も女も、迷い惑って生きている。どの話の人物も一筋縄でいかない関係になんとなく新鮮さを感じて、奥深い物語だと思えました。面白く読めた。
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直木賞候補作。
前回の『鬼はもとより』もそうだが、時代小説の中の多少ニッチなテーマを描いている。
自分には少し物足りない。
青山文平の王道の時代小説を読みたい。 -
描かれているのは、心の機微、かな。久しぶりに時代小説を読んだと思うんだけど、滋味とでもいうようなものが沁みる気がした。短編集で、『つまをめとらば』の他に『ひともうらやむ』とか、『つゆかせぎ』とかいくつかのお話が収録されている。夫婦関係の話だけではない、というかむしろそれ以外の話の方が多い気がする。『乳付』あたりは、奥さん、あるいはお母さんの側の話ではあるから、単純に男、夫側の心を描いているだけではない。とはいえなんとなく、男の側からの視点が読後感として強かったかな。決してわかるものではないけれど、ちがう心の動きと接するからこそ、生きていける。読んで、そんな印象を持った。どろどろしたところのない、決してお伽噺ではない、ほっとする話ばかりだったと思う。また、読みたくなりそうな、ね。
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青山さんの著書、初めてでしたが、男女の機微を描いているけれど、くどさがなくて余韻が心地よかったです。