浮遊霊ブラジル

著者 :
  • 文藝春秋
3.71
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本棚登録 : 892
感想 : 133
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905426

感想・レビュー・書評

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  • 初めて津村さんの著作を読みましたが、かなり好きな短編集でした。
    シュールだけど地に足がついている感じがするところが、とても不思議です。ディテールに生活感があるからでしょうか。
    7編とも甲乙つけがたいのですが、「地獄」が可笑しくて堪らなかったなあ。あと表題作もユニークで好きです。

  • 実は一度読んでいた…ことに気づかず、また借りてしまった。
    さらりと読める短編集なのだが、なかなかスパイシーな感じ。
    「地獄」の話が一番好きかな。
    胎児になる前から道を聞かれ続ける話も面白かった。

  • いやあ、面白かった。面白いと書くのは、物語の登場人物たちに失礼な気もするのですがね。

    最初の「給水塔と亀」が、定年を迎えた男の、故郷に引っ越した一日を、子供の頃と今の風景を重ね合わせつつ、あたたかく描いた話だったので、こういう感じの話が続くのかと思っていたら、なんか、必死だったり、辛かったり、切なかったりするのだけど、つい、おかしくて笑ってしまう、その独特な雰囲気がだんだんクセになり、物語の世界観にハマってしまいました。

    「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」の、あまり知り合いでないがゆえの、気まずい感じに、ああと思いました。でも、すごい分かる。

    「アイトール・ベラスコの新しい妻」の、怖さと哀しさが交互に押し寄せるなかを読み進めていくうちに、なんだかどうでもいいやと思いました(失礼)。

    「地獄」は、地獄での生活というか仕事のシステムがしっかり確立されているのが面白くて、面白いけど、実際に自分がやるとしたら、本当に辛そうで、絶対に嫌だろうなと思うのですが、物語は危機感をあまり感じず、笑えるんですよ(また失礼)。

    「運命」は、あらゆる状況で、必ず道を聞かれる主人公が、とても切ないのだけど、面白いです(またまた失礼)。最後もセンスの良さが抜きん出ているが、控えめな物腰に、やはり爆笑。

    「個性」は、「どうしちゃったの?」と思う状況にも、必ず理由があるということを実感できる作品ですが、その必死さのベクトルの方向が面白くて、やはり笑ってしまう(本当に失礼)。

    「浮遊霊ブラジル」は、主人公よりもマテウス君に感情移入してしまい、頑張れと思いましたが、最後のオチが、おそらく、大抵の人が、この終わり方だったらスッキリするなという、正に、その終わり方になって、テトリスで長い棒を入れて、まとめてブロック消せました的な、爽快感でした。切なさを含ませながらの。

    この作品を振り返ると、面白いだけでもなく、切ないだけでもない、それらが、いい具合に共存しているのが、なんともいえない味を醸し出しているのだと思いました。私は好きです。

    また、ネタにはあまり関係ないのですが、調べたくなるような言葉が、多く出てきたのも興味深かったです。リアハブ、アスンシオン、オモ族、テレレ、サーリセルカ等々。

  • 笑えるけど薄っぺらではなく、刺さるけど重苦しくなく、謙虚だけど自虐的ではなく、そして誠実。ああ心地よかった。ずっと読んでいたい。

    ◼️備忘メモ
    「給水塔と亀」初老男性の新生活。清々しい。
    「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」超ささやかな、こんなことできたらいいな、の絶妙なファンタジー度合い。
    「アイトール・ベラスコの新しい妻」スクールカースト。
    「地獄」一番笑えた。電車で読めないくらい。
    「運命」手塚治虫っぽい。
    「個性」これも最後笑った。深刻にも書けそうなところ、こういう風に落としてくるところが好きだ。
    「浮遊霊ブラジル」これも笑った。いろんな人のいろんな人生、みんなかわいく見える。

  • 半径5メートルの世界と、その外部とが溶け合う短編集。
    日常感覚で読むとなんとも空想的というか妄想的な話に感じるけど、日常感覚で語られてるせいか、これはこれで何かの現実かもしれないと思わされる。現実の裏側ではこういう空想的な世界が動いているのかもしれない…とか。

    それぞれの話が、日常とその裏(裏というか淵というか…日常と切り離せないけど日常とは異なる何か)を共通して描きつつ、どういう裏を切り取るかがそれぞれ異なっていて、しかもたぶんちょっとずつ広がってる感じがして面白い。時間的、空間的、心理的、空想的…日常の多様な裏が集められたと言ってもいいかな。ちなみに、裏と言っても影のイメージはあまりない。

    著者の本はこれが初めてだけど、他のも読んでみたくなりました。

  • どの短編も 不思議な空気感
    気楽に 気負いがなく 大らかに書いているようにみえて
    明るくて 意地悪なユーモアも見えます
    浮遊霊が 最後に 成仏できて よかった よかった

  • 読みながらいつの間にか口角が上がってしまっている短編小説。

    たとえば『地獄』。
    おしゃべりなかよちゃんが地獄で課された断しゃべの刑。
    しかし会話ポゼッション率が鬼である西園寺さんにはかなわずひと苦労。
    「米amazonのCEOはものすごくプレゼンに厳しい人らしい」とか「私はとりあえず『鼻毛が出ていたから』と書いて…」など、ところどころ飲んでるコーヒーを吹いてしまう箇所があるので注意してほしい。

    ここに出てくる主人公がみんな愛すべき人間なのである。

    『個性』の「私」は、聞き役に徹する坂東さんとの会話で、バイトの店長がお気に入りの女の子に、休みの日にどっか行こうとか言ったりしてたんだってすげえきめえ、などと言ったりするから こちらとしては一瞬で「私」に親近感を覚えるし、『浮遊霊ブラジル』の浮遊霊さんが、女湯に希望を持ち、乗り移った仲井さんの息子さんをスーパー銭湯好きにしてしまうところも同じ。

    津村さん、面白いっす。

  • 死後の世界を舞台にしたストーリーが3作、他にも死が関連するストーリーもあり、リアルから遠いのかなと思いきや、どの作品もとてもリアルだった。

    「地獄」「浮遊霊ブラジル」は、声を出しそうなくらい笑える痛快な短編。

    「個性」は、しみじみいいなというのがじんわりとくる短編。

    どの短編も何か心に残してくれるものがあり、ふと立ち止まって考えるいいきっかけを与えてくれるところがいいかなと。

  • niwatokoさんのレビューにひかれて読んだら、とても良かった。この著者の作品を、雑誌とかアンソロジーではなく単行本で読んだのは初めてだったが、なんだかすごくしっくりきた。

    独特の空気感が漂っている。おかしくて笑っちゃうんだけど、大笑いって感じではなく、ちょっと切ない。でも暗さや湿っぽさはなくて、ひょうひょうとしている。ちょっとほかにない感じ。やはり表題作が、そのユニークな雰囲気をよく伝える一作だと思う。タイトルからして、なんだかよくわからないムードだし。

    一番可笑しかったのは「地獄」。「私」が落ちる「物語消費しすぎ地獄」の描写がいちいちおもしろく、また思い当たる節があり、ひゃあ、勘弁してくれ~と思う。「2006年W杯のジダンになる」とか、おそろしすぎるわ。

    高野秀行さんがツイッターに「気楽に読めて、ところどころ笑えて、読後にそこはかとない充実感がある」と書いていた。ほんと、そういう小説ってなかなかないものだ。niwatokoさんが、津村さんの小説は「人を貶めるところがない」と書かれていたが、本当にそうだなあと思った。

    • niwatokoさん
      読んでくださってありがとうございます!
      そうなんです、ひょうひょうとしてる、っていう表現がぴったりですね。ほんと、ほかにない雰囲気だと思い...
      読んでくださってありがとうございます!
      そうなんです、ひょうひょうとしてる、っていう表現がぴったりですね。ほんと、ほかにない雰囲気だと思います。
      高野さんも好評価なんですね、うれしい。
      2016/11/16
    • たまもひさん
      こちらこそ、おかげでいい本に出会えました。こういうのって嬉しいですねえ。
      高野さんは、ちょっと気力が抜けているときに読む本がなかなかなかっ...
      こちらこそ、おかげでいい本に出会えました。こういうのって嬉しいですねえ。
      高野さんは、ちょっと気力が抜けているときに読む本がなかなかなかったけど、これはぴったりだったと書いてました。
      確かに、読む側に何かを要求したり、押しつけたりするところがないですよね。
      2016/11/16
  • タイトルの謎さに惹かれる。表紙の不思議な絵、実は収録されている短編にちょこっと出てくる「うどん」なのだと気づいた時に興奮した。お葱、かまぼこ。ちょっと変だけどあたたかなお話にぴったりの絵。
    初めて手に取る津村さん本、どれもとてもおもしろかった。謎タイトルの短編は読んでみたらばユーモアと優しさのあるお話で表題作にふさわしい。個人的特別お気に入りは、様々な物語を消費しすぎた小説家の地獄での暮らし。「列を担当している鬼の鼻毛がすごい」というたまらない文章…津村さんの頭の中、素敵です。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津村記久子の作品

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