浮遊霊ブラジル

著者 :
  • 文藝春秋
3.73
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本棚登録 : 583
レビュー : 92
  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905426

作品紹介・あらすじ

初の海外旅行を前に死んでしまった私。幽霊となって念願の地を目指すが、なぜかブラジルに到着し……。川端賞受賞作「給水塔と亀」を含む、会心の短篇集!【収録作】「給水塔と亀」…定年を迎え製麺所と海のある故郷に帰った男。静謐で新しい人生が始まる。〈2013年川端康成文学賞受賞作〉「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」…静けさのないうどん屋での、とある光景。「アイトール・ベラスコの新しい妻」…ウルグアイ人サッカー選手の再婚の思わぬ波紋。「地獄」…「物語消費しすぎ地獄」に落ちた女性小説家を待つ、世にも恐ろしい試練とは。「運命」…どんなに落ち込んでいても外国でも、必ず道を尋ねられてしまうのはなぜ?「個性」…もの静かな友人が突然、ドクロ侍のパーカーやトラ柄で夏期講習に現われて…「浮遊霊ブラジル」…海外旅行を前に急逝した私。幽霊となって念願の地をめざすが。

感想・レビュー・書評

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  • まったりのほほんとしていて、滑稽で、時にしみじみと味わい深くて…津村さんらしさが存分に味わえる短編集だ。大満足でした。
    ずっと読みたかった川端康成文学賞受賞の「給水塔と亀」。淡々とした文章から滲み出る慎ましい幸福感が、静かに心を満たす。この「純文学」な空気がたまらなく好きだ~と思った。
    「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」、喜怒哀楽が絶妙なバランスで詰まっている。お見事。
    「アイトール・ベラスコの新しい妻」、サッカー選手の再婚話かと思いきや…あんな話だとは全く想像できなかった…スクールカーストのエピソードがちょっと怖かった。「この世界こそはクラスだと綾は思う。(中略)ママ友の集まりはもちろんクラス、PTAだってクラスだ。クラスでないものなど世の中にはない、と断言していいぐらい。」とは、全くもってその通りと、軽い絶望を感じながら同意する。女性ならよくわかるだろう…このカーストから逃れられないんだよなぁ結局。色々な意味で印象に残る短編だった。
    「地獄」「運命」「個性」、シュールでコミカルな展開に人生の悲哀を感じさせるところがさすが。特に「運命」で描かれるトホホ感には大いに共感します。
    「浮遊霊ブラジル」、浮遊する霊だからロードノベルとは言わないだろうけど、憑りつく相手を替えながら、生前叶えられなかった旅行先・アラン諸島への上陸を目指す…という展開が斬新。私は津村文学の、いい意味でのみみっちさが大好きだ。褒め言葉ではないだろうけど、最終話ではそのよさが十二分に表現されているなと思った。ふわっとした空気感が心地よく、読了後はいつもほのかに幸せを感じる。

  • 大好きな津村さんの短編集の新刊だけど、死んで幽霊になって、っていう話が入っているときいて、うーんあんまり読みたくないかも、と思っていたのだけど、読んでみたら最高におもしろかった。津村さんやっぱり大好きだ。
    確かに、なぜだかこの短編集は、死後の世界とかの話がたくさん出てくるんだけれども、全然暗くないどころかむしろす本気で笑える話で。わたしも落ちるとしたら「地獄」の主人公と同じ、「物語消費しすぎ地獄」だろう、と強く思った。「飽食」ならぬ、「飽・物語」の罪で、ドラマや映画、小説、あとスポーツなど、架空の世界やドラマティックな世界にのめり込んだ罪。自分はまったく平穏地味な生活をしておいて、人のドラマを消費しすぎっていう。まさにそのとおり。
    あと、「給水塔の亀」では、「人間が家族や子供を必要とするのは、義務がなければあまりに人生を長く平たく感じるからだ」っていうのにこのうえなく深く深く深く深く深く共感。
    でも、そういう、自分はなにもしないでおいて人のドラマを消費する、地味な人生を送る、ことを、ダメと言われている気はしない。むしろ、それが人生、といわれているような気もして、なんだか安心するような。

    津村さんは発想がすごいな、と。どこかで読んだような話は全然なくて、どれもこれも斬新というか。それでいて妙にリアルで。わたしは、基本、ファンタジーめいた話とか奇想といわれるような小説が苦手なんだけれども、津村さんだと嫌じゃない、こんなこともありえそうだな、と思う。
    すごく笑えるんだけれども、ふざけているようでまじめというか、人の好さそうな笑いというか、この笑いのここちよさは津村さんの持ち味なんだろうな。人を貶めるところがないというか。

    • たまもひさん
      こんにちは。これおもしろそうですね。
      「物語消費しすぎ地獄」!! 私も間違いなくここだなあ。でもお仲間が多くてちょっと楽しいかも。
      こんにちは。これおもしろそうですね。
      「物語消費しすぎ地獄」!! 私も間違いなくここだなあ。でもお仲間が多くてちょっと楽しいかも。
      2016/10/24
    • niwatokoさん
      すごくおもしろかったです!
      この「地獄」は本当に笑えました。楽しいです。
      わたしがほかを知らないだけかもしれませんが、発想が斬新というか...
      すごくおもしろかったです!
      この「地獄」は本当に笑えました。楽しいです。
      わたしがほかを知らないだけかもしれませんが、発想が斬新というか、こんなタイプの話ってあんまり読んだことなくて感心しました。妄想だけど、そのなかに、会社生活とか、ものすごくリアルな細かい現実が描かれていて。自分の人生について考えさせられるような。
      2016/10/24
  • 初めて読む津村記久子作品。
    7つの短編が収められています。

    「地獄」の面白さにやられました。
    地味にストレスがたまりそうなぬるい地獄。
    主人公もご友人も、刑罰にやや苦しみつつも、生きてたときとそう変わらずに地獄の生活を送っているのがなんともシュール。
    鬼の不倫関係に一枚かんでみたりしているし。

    「給水塔と亀」の淡々とした感じ。
    「アイトール·ベラスコの新しい妻」に描かれた三者三様の人生に女性の怖さをにじませる感じ。
    「運命」の当人の半ば諦めも含んだやるせなさを、他人だからこそ味わえるユーモアにしてしまう感じ。
    どの作品もとても好みだったので、ほかの津村作品も読んでみたくなりました。

    最初は「何の絵だろう?」と不思議に思いながら眺めていた表紙が、読後にじわじわ効いてくるのも面白かったです。
    それぞれの短編のエッセンスが詰めこまれた、遊び心の感じられる絵にふくふくと楽しい気分になりました。

  • 半径5メートルの世界と、その外部とが溶け合う短編集。
    日常感覚で読むとなんとも空想的というか妄想的な話に感じるけど、日常感覚で語られてるせいか、これはこれで何かの現実かもしれないと思わされる。現実の裏側ではこういう空想的な世界が動いているのかもしれない…とか。

    それぞれの話が、日常とその裏(裏というか淵というか…日常と切り離せないけど日常とは異なる何か)を共通して描きつつ、どういう裏を切り取るかがそれぞれ異なっていて、しかもたぶんちょっとずつ広がってる感じがして面白い。時間的、空間的、心理的、空想的…日常の多様な裏が集められたと言ってもいいかな。ちなみに、裏と言っても影のイメージはあまりない。

    著者の本はこれが初めてだけど、他のも読んでみたくなりました。

  • 死後の世界を舞台にしたストーリーが3作、他にも死が関連するストーリーもあり、リアルから遠いのかなと思いきや、どの作品もとてもリアルだった。

    「地獄」「浮遊霊ブラジル」は、声を出しそうなくらい笑える痛快な短編。

    「個性」は、しみじみいいなというのがじんわりとくる短編。

    どの短編も何か心に残してくれるものがあり、ふと立ち止まって考えるいいきっかけを与えてくれるところがいいかなと。

  • niwatokoさんのレビューにひかれて読んだら、とても良かった。この著者の作品を、雑誌とかアンソロジーではなく単行本で読んだのは初めてだったが、なんだかすごくしっくりきた。

    独特の空気感が漂っている。おかしくて笑っちゃうんだけど、大笑いって感じではなく、ちょっと切ない。でも暗さや湿っぽさはなくて、ひょうひょうとしている。ちょっとほかにない感じ。やはり表題作が、そのユニークな雰囲気をよく伝える一作だと思う。タイトルからして、なんだかよくわからないムードだし。

    一番可笑しかったのは「地獄」。「私」が落ちる「物語消費しすぎ地獄」の描写がいちいちおもしろく、また思い当たる節があり、ひゃあ、勘弁してくれ~と思う。「2006年W杯のジダンになる」とか、おそろしすぎるわ。

    高野秀行さんがツイッターに「気楽に読めて、ところどころ笑えて、読後にそこはかとない充実感がある」と書いていた。ほんと、そういう小説ってなかなかないものだ。niwatokoさんが、津村さんの小説は「人を貶めるところがない」と書かれていたが、本当にそうだなあと思った。

    • niwatokoさん
      読んでくださってありがとうございます!
      そうなんです、ひょうひょうとしてる、っていう表現がぴったりですね。ほんと、ほかにない雰囲気だと思い...
      読んでくださってありがとうございます!
      そうなんです、ひょうひょうとしてる、っていう表現がぴったりですね。ほんと、ほかにない雰囲気だと思います。
      高野さんも好評価なんですね、うれしい。
      2016/11/16
    • たまもひさん
      こちらこそ、おかげでいい本に出会えました。こういうのって嬉しいですねえ。
      高野さんは、ちょっと気力が抜けているときに読む本がなかなかなかっ...
      こちらこそ、おかげでいい本に出会えました。こういうのって嬉しいですねえ。
      高野さんは、ちょっと気力が抜けているときに読む本がなかなかなかったけど、これはぴったりだったと書いてました。
      確かに、読む側に何かを要求したり、押しつけたりするところがないですよね。
      2016/11/16
  • 短編集。どれも面白かったけど、個人的に死後の話が好きみたいで、表題作と「地獄」が格別面白かった。

    「地獄」は、親友のかよちゃんと旅行中にバス事故で死んでしまった主人公(そこそこの年齢の女性で、作家だった)が、「物語消費しすぎ地獄」に堕ちて様々な苦難に耐え、一方かよちゃんは「おしゃべり下衆野郎地獄」に堕ちて、やはりさまざまな試練を与えられている。地獄も個人に合わせて色々考えてくれるらしく、あと指導員がマンツーマンでついてくれて、かよちゃん以上に饒舌な西園寺さん(※鬼の名前)だの、妻の健康のために異動になった権田さん(やはり鬼の名前)だの、鬼の間にもサラリーマンの悲哀や人間関係があり、つらい地獄の責め苦に合いながらもなんともユーモラス。物語消費しすぎ地獄は自分も堕ちそうで怖い。

    「浮遊霊ブラジル」は、72才でぽっくり死んでしまったお爺さんの幽霊が、町内会で行くはずだったアイルランドはアラン諸島への海外旅行が心残りで成仏できず彷徨う。幽霊は自分の徒歩圏内で移動することは可能だけれど、電車等乗り物はすり抜けてしまうので遠距離の移動はできず、女湯を覗くくらいしか楽しみがない。ある日、人間に憑りついていれば移動できることに気づき、なんとか人間を乗り換えてアラン諸島を目指すが、なんやかんやで憑りつく人間を間違えてしまいうっかりブラジルへ。移動にコツがいるけれど、地獄よりはこっちのほうが楽しそう。
     
    ※収録
    給水塔と亀/うどん屋のジェンダー、またはコルネさん/アイトール・ベラスコの新しい妻/地獄/運命/個性/浮遊霊ブラジル

  • *ただ生きてきた時間の中に溶けていくのは、なんて心地よいことなんだろう。卓抜なユーモアと鋭い人間観察、リズミカルな文章と意表を突く展開。川端賞受賞作「給水塔と亀」を含む、会心の短篇集!*

    この、ゆるゆるとした、儚げなのにパンチに効いた、たゆたう津村ワールドにどっぷり浸かれる幸せさよ。とても言葉には表せない、摩訶不思議な読後感。まだ読んでいない人が羨ましい。

  • 笑えるけど薄っぺらではなく、刺さるけど重苦しくなく、謙虚だけど自虐的ではなく、そして誠実。ああ心地よかった。ずっと読んでいたい。

    ◼️備忘メモ
    「給水塔と亀」初老男性の新生活。清々しい。
    「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」超ささやかな、こんなことできたらいいな、の絶妙なファンタジー度合い。
    「アイトール・ベラスコの新しい妻」スクールカースト。
    「地獄」一番笑えた。電車で読めないくらい。
    「運命」手塚治虫っぽい。
    「個性」これも最後笑った。深刻にも書けそうなところ、こういう風に落としてくるところが好きだ。
    「浮遊霊ブラジル」これも笑った。いろんな人のいろんな人生、みんなかわいく見える。

  • 津村さんのなんとも不思議な世界。

    「地獄」がなんとも面白かった。妙な説得力がある地獄観。
    「アイトールベラスコの新しい妻」世界観が恐い。


    「給水塔と亀」
    「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」
    「運命」
    「個性」
    「浮遊霊ブラジル」

    どれもこれもどんな話?
    と聞かれると本当に困る。
    津村さんのこの独特な視点が本当に病み付き。

    2016年10月 文藝春秋
    装画 北澤平裕
    装幀 大久保明子

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著者プロフィール

津村 記久子(つむら きくこ)
1978年、大阪府大阪市生まれ。大阪府立今宮高等学校、大谷大学文学部国際文化学科卒業。
2005年「マンイーター」(改題『君は永遠にそいつらより若い』)で太宰治賞を受賞し、小説家デビュー。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、2009年『ポトスライムの舟』で芥川龍之介賞、2011年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、2013年「給水塔と亀」で川端康成賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2017年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞、同年『アレグリアとは仕事はできない』で第13回酒飲み書店員大賞受賞をそれぞれ受賞。
近刊に、『ディス・イズ・ザ・デイ』がある。

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