炯眼に候

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909684

作品紹介・あらすじ

異次元の「眼」を持つ男。その名は、織田信長。村木砦、桶狭間、長篠……信長の勝利の裏側には常に、恐ろしいまでの合理的思考があった。鉄砲をどう運用すべきか。毛利水軍に勝てる船とは何か。どうすれば、天候を予測できるか。天下統一までの道にちりばめられた謎を、信長だけが解き明かしていく。この時代、もっとも先を見据えていた男が最後に導き出したのは――自らの死後、明智を破るための秘策だった。史実を踏まえつつ、独自の着眼でこれまでの信長像を大きく飛躍させる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 家臣等身近な人物による「織田信長像」をまとめた連作短編集。
    炯眼=物事をはっきりと見抜く力、鋭い眼力のある信長。
    確かにこれ程世の行く末を見極めた武将はなかなかいない。

    炯眼によりテッペンまであと少しの所まで登り詰め、家来からの信頼も厚かった信長。
    けれど一方で、炯眼であったが故に敵も多かったこともまた事実。
    男の嫉妬は表に出しづらいため、知らず知らずの内に根深くなっていくものだ、と改めて知る。
    あの時代であると吐き出す場もなかっただろう。
    男達の悲哀…普段強がっているだけに一層哀れに思う。

    けれどラストの描き方はしてやったり、とちょっといい気分。
    未だに謎めいた信長の最期も、こういう結末だといいのだけれど。
    『弾丸』『首級』が良かった。

  • 炯眼に候。

    織田信長って帯にでかでかと書いてあるが、
    周辺から見た織田信長という感じ。

    だから面白いのか。
    歴史は全然詳しくないが、
    そんな私でも楽しめた。

    水鏡はいまいちぴんとこなかったが、
    偽首あたりでかなり面白くなり、
    そこからはほとんど一気読みだ。

    今週は仕事上でいろいろ立て込んでいたこともあり
    読書タイムが決して多かったわけではない。
    その中で、この本を読むことが
    かなり癒しタイムになった。
    感謝。

    信長の首のありかは諸説あるようだが、
    この切り口はまた斬新で、
    前後の話と整合性をとれるように
    してあるのもさすがだなあ。

    自分の歴史に対する浅はかな知識のために
    この本のよさを充分に語れないのが残念。

  • 信長家臣太田牛一の著した『信長公記』の一節を手掛かりに、著者の想像力と創造力で信長の「炯眼」を描き出した連作短編集。
    どこまでが史実で、どこからがフィクションなのか、考えるのも楽しい。
    「運ハ天二在リ、死ハ定メ」と兜に前立をつけた武者、合戦で奪った大将首で左右される手柄、鉄砲の威力を知らしめる秘策等々、信長の近辺の人物の動向を描写することにより、信長の炯眼を表出させる。
    最終章『首級』では、黒人奴隷を主役に本能寺の変を語り、信長の首の謎を解き明かしている。
    光秀の謀反も、彼が信長に仕える前からの宿願と捉えていて、「本能寺の変」の新しい解釈かと。
    信長については、つい最近、垣根涼介著『信長の原理』を読んだばかりだが、宮本昌孝著の文庫本も刊行されたようなので、読み比べてみよう。

  • 「宇喜多の捨て嫁」でファンになった木下さんの作品。
    仏罰すら恐れない信長にまつわる、様々なエピソードを木下流に合理的に読み解くとこうなる、という連作集。

    己の姿が映らねば三年以内に死ぬという言い伝えのある井戸の水鏡
    今川義元の首を巡る、服部兄弟と毛利兄弟の争い
    信長を狙撃した罪で自らは惨殺されたものの、なぜか妻子は許されたその理由
    ”呪われた一族”である山中の猿を軍師にまで重用した信長の思惑とは
    浮くはずのない鉄甲船を海戦で使う木下藤吉郎の秘策とは
    武田軍を次々と撃破した鉄砲運用の仕方
    そして信長最大の謎、本能寺の変で消えた信長の首級の行方

    当時の人々からすれば不思議であったり、この世の理とは離れた、それこそ宗教的神秘的なものと思われるような事柄であっても、或いはとても人間業では成し遂げられないという事柄であっても、信長の『炯眼』にかかってはこの通り、見事その真相を解き明かし、その先を読むことが出来るという内容。
    現代の観点からすれば素人でも納得出来る内容だけに興味深い。ただところどころ強引な理由づけかなと思われるものもある。それもご愛嬌というところか。

    特に山中の猿の能力を把握した上での戦い方、信長のいくつかの戦で無謀とも言えるやり方が成功したのは、実はこういうことがあったのかもとも思える。

    仏罰神罰など恐れない、己の目で見て確かめたものでなければ信じない、合理的な信長の『炯眼』は確かに素晴らしいけれど、『天下布武のためならば命を種銭にすることも厭わない』というその徹底した論理が早すぎる死を呼び込んだのかも知れない。

  • 『信長公記』のエピソードを、独自の観点で描いた連作短編集。
    既成概念から外れた言動が、神がかったように思われがちな、織田信長。
    その根底にある、合理性、科学的視点が一貫して光る。

    人のいい毛利新介と、養子になった夜叉丸をえがいた「偽首」は、ぐっときた。
    本能寺の変をえがいた「首級」は、弥助視点がめずらしかった。

  • 史書の記述をもとに独自の解釈で織田信長を描いた連作短編集。彼が登場する場面は少ないが、恐ろしいまでに先を見通す存在感がすごい。
    戦国時代に関しては高校の歴史で習ったくらいの知識しかないが、それでも十分面白かった。
    毛利水軍を迎え撃つ鉄船の話「鉄船」、明智光秀視点で長篠の戦いを描いた「鉄砲」、そしてラストの本能寺の変「首級」がベスト。

  • これぞ、木下昌輝の真骨頂。
    読み進める度に震えが止まらなくなる。
    『敵の名は、宮本武蔵』と同じように、織田信長を周囲の者たちの目線で描く。
    『宇喜多の捨て嫁』を初めて読んだときのような高揚感。
    木下昌輝が新たな名作を生み出した。

  • 信長礼讚!とは少し異なるように感じた。
    さまざまな状況で現れる信長が、印象深い言動を周囲の心に刻んでいく。

    耳にしたことのあるエピソードの裏に、こんなドラマが?
    おもわず声を上げたり、文字どおり息をのんだり。

    いちばんの衝撃は、最後の『首級』。
    必読!

  • 人を見る鋭い目つき、物事をはっきりと見極める力「炯眼」の持ち主信長を周囲の人たちに絡めた短編で描く。「共感」や「情」に過剰に重きを置く日々の雰囲気だからこそ、時代を変え、本来人間の持つ、否定しがたい一面である狂気や残酷さをさらりと描く木下さんの筆は、時折たまらなく読みたくなる。「宇喜多の捨て嫁」「絵金…」もよかったなあ。

    食うか、食われるか、生きるために殺す時代、裏切りや謀略に足をすくわれぬよう、登場人物たちの心のピンと張りつめた糸が目に見えるよう。天下人にならんと、味方と敵を入れ替えながら、前に進んでいった信長のみならず、周囲の人々も戦々恐々と生き残りをかけて、修羅場に巻き込まれていく様子は疾走感かあり、仕掛けも加わり、のめり込んで読んだ。集団狂気と、背景にある不安が表裏一体で、張りつめた冷たい空気を満喫できた。

  • 梟雄、謀将などの悪名を欲しいままにした男の内に潜む穏やかな側面を見事に炙り出した「宇喜多の捨て嫁」失礼ながらこのクラスの武将ですらここまでら鮮やかに人間性を描き出すのだからそのペン先がスーパーヒーロー織田信長に向くとなれば小説としての破壊力は凄まじいものになるのだろう。
    反面これまで書き尽くされてきた人物故の難しさもあるのだが連作のなかで信長を見詰める従者たちのマニアックな人選はもとより史実ばかりに拘る先生が目くじらを立てて怒りそうな大胆な発想で見事な歴史ファンタジーに仕立てている。
    謎多き戦国浪漫、答えは読む者それぞれの心の中にあって良い。

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著者プロフィール

1974年奈良県生まれ。2015年デビュー作『宇喜多の捨て嫁』で高校生直木賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞、舟橋聖一文学賞、19年『天下一の軽口男』で大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で野村胡堂文学賞、20年『まむし三代記』で日本歴史時代作家協会賞作品賞、中山義秀文学賞、’22年『孤剣の涯て』で本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。近著に『応仁悪童伝』がある。

「2023年 『風雲 戦国アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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