我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか
- 文藝春秋 (2022年10月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163916118
作品紹介・あらすじ
ホモ・サピエンス誕生からトランプ登場までの全人類史を「家族」という視点から書き換える革命の書!
人類は、「産業革命」よりも「新石器革命」に匹敵する「人類学的な革命」の時代を生きている。「通常の人類学」は、「途上国」を対象とするが、「トッド人類学」は「先進国」を対象としている。世界史の趨勢を決定づけているのは、米国、欧州、日本という「トリアード(三極)」であり、「現在の世界的危機」と「我々の生きづらさ」の正体は、政治学、経済学ではなく、人類学によってこそ捉えられるからだ。
上巻では、これまで「最も新しい」と思われてきた「核家族」が、実は「最も原始的」であり、そうした「原始的な核家族」こそ「近代国家」との親和性をもつことが明らかにされ、そこから「アングロサクソンがなぜ世界の覇権を握ったか」という世界史最大の謎が解き明かされる。
感想・レビュー・書評
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歴史人口学、家族人類学者のトッドらしい着眼点で、さまざまな国・地域の家族構成から、宗教や人々の経済基盤、ヒエラルキー、識字率などの統計を引きつつ、歴史をひもといていく。
上巻前半はかなり学術的で、人類学素人の私にとっては、多少”体力”の要る読書になったが、後半は宗教改革から、プロテスタンティズムや印刷技術の普及による変化、都市文明と核家族化の関係、18世紀までさかのぼっても北欧の女性の識字率が高かったことなど、従来の身近な知識で読み進められる話になってくる。
全体として、父系社会は、農耕が始まり定住して財産を蓄えるようになり、相続という行為が必要になって生まれてきたもので、実は核家族よりも新しい形態で、今我々が新しいと考えている核家族や男女平等というのは、むしろ原始的なものだったかもしれないという“反転“理論が背骨になっている。
ちょっと面白いのは、「いったいなぜアメリカなるものがわれわれの眼に、モダンであると同時に未開の自然のように映るのか、われわれの未来の姿を先取りして示してくれるほど進んでいるのに、なぜ習俗においてあれほど洗練度が低く、あれほど非文化的に見えるのか」という著者の問題設定。読み進む原動力になる、フランス人らしい視点かもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今なお世界を政治経済や軍事、テクノロジーで牽引するアメリカ。でもそれは原始的な人類に通じる点があるという……なるほど!という視点を得られた。
エマニュエル・トッドらしい人口社会学を駆使しながら歴史、地理を縦横無尽に論じた本であり、少々いやかなり肩は凝る。途中から読みやすくなってきて、論旨も理解できてきた。
トッドの世界は毎回知的な刺激を得られるのでとても充実したひと時を過ごすことができる。一方でフランス知識人らしい独自の視座というかバイアスというかもあるのでそこも勘案しながら読むとよいのかもしれない。 -
ホモエコノミクスに還元されないそれぞれの地域が持つ特性を、主にそれぞれの地域の伝統的な家族構成によって描く名著だと思う。
原著執筆から5年が経ち、社会情勢が大きく変化している中でも全くそれを感じさせない内容だった。 -
(下巻へ)
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2階書架 : 362/TOD/(1) : https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410168959
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362||To||1
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●ドイツによる東欧人の簒奪、人口流出によるウクライナの破綻国家化、ロシアとウクライナの家族構成の違い、西洋に蔓延する非合理的なロシアの恐怖症など、現在ウクライナで起きている戦争を理解するために重要なポイントが盛り込まれている。
●貿易赤字の国は、伝統的に個人主義的で、各家族社会で、より双系的で、女性のステータスが比較的高いと言う特徴。貿易黒字の国は、全体として権威主義的で、直系家族、または共同体家族で、より父系的で、女性のステータスが比較的低いと言う特徴。消費に特化した国と生産に特化した国。
●中国は、中長期的に見て、出生率の異常な低さからして、世界にとって脅威になる事はあり得ません。
●経済制裁は、一見平和的に見えても、その目的は「相手国の破滅」かなり暴力的な手段。 -
本書は「家族システムの世界史」と言える。
社会の最小単位とも言える「家族」の体系は、その地域特性の影響を受けながら「核家族」に始まり、「直系家族」に移行し、さらに「外婚制共同体家族(結婚は共同体家族の外の人間とする)」、「内婚制共同体家族(いとこ婚などを推奨する閉鎖的な形態)」に移行していくという。
つまり本書では「(いろいろなところで生まれ育ってきた)我々は(この順序に沿って)どこから来て、今どこにいて、そしてどこへ向かうのか?」について考察されている。日本人だけでなく、米国、欧州、アフリカ、ユーラシアの人々の家族体系の歴史を解説し、各地域で根を張る家族体系の特徴を土台にして経済や紛争まで語ってしまうトッドさんの想像力と説得力にいつも脱帽する。「家族システム」の歴史を紐解いたところで社会学や比較文化論の域を出ないが、弁の立つトッドさんはこのやり方でソ連崩壊やトランプ現象、ブレグジットを言い当てたことは有名だし、そのわかりやすさがトッドさんを学者の枠を超えた別格の論客に押し上げている。
そんなトッドさんは、ロシアによるウクライナ侵攻を「第三次世界大戦」と捉えてこの本で語っている。
https://booklog.jp/users/kuwataka/archives/1/4166613677 -
・日本語訳がこなれていなくて、読みにくい。
・家族構成で、すべての説明が出来るものなのか?
・「集団の一体性は、他の集団への敵意に依存する。内部での道徳性と外部への暴力性は機能的に結合している。したがって、外部への暴力性のあらゆる低下は、最終的には、集団内で道徳性と一体性を脅かす。平和は、社会的に問題なのである。」
・「ホモ・サピエンスという種において、集団のアイデンティティはつねに相対的である。」
・「頭のいい子は読むことを覚えるのが早い。」
・人体組織の成長の決定的場面では、識字化によって頭の構造が変わるといってもよいくらいだ。」
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