精選女性随筆集 第一巻 幸田文

著者 :
制作 : 川上 弘美 
  • 文藝春秋
3.96
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本棚登録 : 163
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166402106

作品紹介・あらすじ

娘時代の想い出から、父・露伴を看取るまで。折々の身辺雑記に、動植物への親しみ。いまこそ新しく立ち現れる稀代の名文家の多面的な魅力。

感想・レビュー・書評

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  • 森鴎外は娘茉莉を溺愛し、茉莉も鴎外のことを恋人のように愛していましたが、幸田露伴は娘文に対してはとても厳しく躾を行い、まるで2人は師匠と弟子のようだと思いました。掃除の仕方などの家事全般は露伴が実際にやって見せ、性教育から恋の出入なども全て彼自身が教えこみます。

    文は、元気のいいおてんばな少女でしたが、聡明な姉と一人息子として大切にされていた弟に挟まれ、「愛されざる子」「不肖の子」だという劣等感を持っていました。
    そんな彼女でしたが、いつも怒りっぽくて口の悪い露伴が最期に文に向けた穏やかな目と右腕にかけられた冷たい手、そして別れの言葉に父に対する長年のこだわりは溶けていきます。この最期の2人の会話は、死への恐れや悲しさを通り越したとても切なく美しいものでした。もうこの場面では胸がいっぱいになります。それは作られた物語では決して出会うことがないだろう、この父娘だからこその愛に溢れるものでした。

    背筋がピンと伸びるようなきりりとした印象を強く持っていた文ですが、彼女の育ってきた道のりを知ることで「みそっかす」だとコンプレックスを抱えていた少女の面影を垣間見ることもありました。そして、そのコンプレックスを乗り越えた文の強さの中にある優しさやユーモアさに改めて気づくことが出来ました。

  • 作家・幸田文の随筆を、作家・川上弘美が選んで一冊の本にまとめた随筆集。

    幸田文さんは「知ってるつもり?!」や「グレーテルのかまど」で観て興味はあったものの、実際読むのは初めて。
    幸田露伴の娘、ということも知ってはいたけど、幸田露伴の著書も読んだことはなく(笑)
    なのであまり強いイメージはないまま読みました。
    エッセイを読む場合は、何のイメージもないまっさらな状態のほうが楽しめるような気がする。

    父・露伴とのエピソードが半分くらいを占め、あとは学生時代のことや、日々の様々なことを少し冷めた皮肉的な視点で綴る随筆など。 最後にあるお悩み相談集?みたいなのもおもしろかった。

    このシリーズ何冊かあったから他の作家さんのも読んでみたい。
    その人を知れるというのもあるし、どういう文章を書くのかもわかるから、エッセイっていいと思う。

  • 流れるようなとても美しい文章。稀代の名文家という表現もしっくりくる感じ。読んでいるとリズムが良くまるで音楽のような文章なのに、時折のぞく現在では漢文や古典でしか見られなくなったような言葉がぴりりと効いていて、なんともいえないバランスの取れたしゃんとした文章。書いてある内容も謙虚で飾らず正直で、とても好感の持てる美しい女性だと思いました。幸田露伴の娘という紹介をされることが多いですが、そういったレッテル張りではなく、ひとりの文章家としてとてもとても好き。背筋のしゃんと伸びる、美しい生き方をしたいと感じた。

  • 珠玉の数々。昔、幸田文はいいよ、と言った人がいたが、私には…(カンケイナイ)、と思っていた。いや、大いなる誤解だ。しみじみ「いい」。
    特に、娘時代の回想。父との思い出。まさに宝石のようなエピソード。流麗な文体の心地よさに、目が、心が吸い寄せられた。そして、染みこんで、離れない。

  • 4/145
    『父・露伴に家事を仕込まれた娘時代からその父を看取るまで、身近な人間観察や、自然の持つ力への畏敬など。随筆の真髄を知る1冊』
    (「文藝春秋BOOKS」サイトより▽)
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166402106

    『精選女性随筆集 第一巻 幸田文』
    著者:幸田 文
    編集:川上 弘美
    出版社 ‏: ‎文藝春秋
    単行本 ‏: ‎256ページ

  • ふむ

  • たぶん、学生時代の国語の授業以来読んだ幸田文。私も選者の川上さんと同じで著者に対し先入観を持っていた。家事能力が完璧で、着物への造詣の深さは折り紙付き、典型的な大和撫子のような人だと思っていたが、このアンソロジーを読んで、著者の新たな面を見ることができた。流麗で品よく、教養に裏付けられた文章の中に、時折ピリッと皮肉が効いていたり、頑固な面を覗かせていたり。揺れ動く心情が繊細に綴ってある娘時代の回想も良かったが、露伴の最期を看取った際のエピソードは壮絶で一番印象に残った。

  • 柔和で女性らしいが、しなやかな強さがある。「あしおと」「ふじ」「午後」「知らない顔」「捨てた男のよさ」「週刊日記」あたりが好み。

  • 川上弘美の言う「ぶっ飛んだかっこよさ」って何?と思い、どんだけ無頼派なのだろうと期待したのが、偉大なる父の教育を受けたメンタリティーは感じるものの、この程度の内容で「柔軟。闊達。自由自在」とは女ってずいぶん抑圧されてるんだなという気がした。むしろ、著者は父を始めとする数々の男に束縛・抑圧されてずいぶん不自由だなあと感じたぐらいだ。時代性もあるのだろうけど(「家庭の女が男性批判の作文を書くなどは思ってもみない」なんて台詞は隔世の感がある)。そもそも、女性作家のエッセーって女性向けに書くものであって、男が読むものではないのかもしれないが。
    有名人の2世、3世って生き難い部分もあるんだろうが、同じ世界で生きてる限りでは七光りの恩恵もあるわけで、比較されるのが嫌なら違う世界でひっそりと生きる事はいくらでも可能なのに、その選択をしないというのは、ある意味強かではあるなとは思う。結局は利用しているわけだし。著者に才能がないとは言わないが。

  • 内弟子時代を髣髴としながら
    読みました。露伴は我師匠のよう。
    当時は、何でこんなに怒られるんだろう、と
    理解出来ず、カミナリが過ぎるのを
    じーっと待っていましたが
    今は、有難い、と手を合わせています。
    カミナリ親爺はやっぱり、好いもんだ。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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