中国の地下経済 (文春新書 771)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166607716

作品紹介・あらすじ

〇八年の金融危機後、低迷する日米欧を尻目に、再び急成長を回復した中国。その原動力となったのが「地下経済」だ。アングラマネーの域に留まらず、政府や中央企業とも密接にかかわるこの地下経済を知らずして、真の中国経済は語れない。その深奥部に切り込む、本邦初の画期的レポート。

感想・レビュー・書評

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  • 世界が不況の大波に翻弄される中、一人中国だけは、大きな危機に直面することなくやり過ごしてこられたのには、奥行きの深い地下経済が緩衝力として作用したと考えられている。地下経済は表のGDPの半分近くの経済規模を持っており、昨年、日本は中国に追い抜かれたと大騒ぎであったが、実質的には遥か前に既に凌駕されていたこととなる。異常に高い債権回収率の裏に潜む驚愕の換金術。官僚の形式的地位より遥かにものをいう含金量という尺度。雇用さえも支える潜在力。地下経済は今の中国に必要不可欠なものとなっているが、憂うべき病巣も同時に抱え込んでいる。子供を誘拐すれば死刑にもかかわらず、僅かな儲けのため犯罪に手を染め、貧しさの前では死刑さえ犯罪抑止に効果がないこと。メイドインチャイナは溢れているが、中国ブランドでなければならないという物がこの世にはないということ。どの国も高度成長の過程では、個人経済が経済発展に大きく貢献するのが一つのパターンとなっていたのが、中国の場合これがない。個人消費の弱さと伸び悩みは高い成長を続ける中国経済の深刻なアキレス腱となっている。結果、安価で手頃な労働力を利用することで潤ってきた中国も、逆にその労働者によって今、苛まれることとなるのである。また、巨額の財政出動が格差拡大という大きな副作用を社会にもたらす劇薬であるにもかかわらず、格差縮小という長期的問題よりも当面の痛みを消す弥縫策を選ばざるを得ず、経済刺激策を打てば打つほど格差が広がっていくという隘路に追い込まれている。さらに富の偏在がいずれ大きな社会の時限爆弾となるとの認識が共有されていても議論については何も進まない状況が今も続いている。中国も決して安泰とはいえないのである。中国地下経済の明暗を、地下に通じる細い糸を慎重にたぐるようにアプローチを試み、偶発的なアクシデントの隙間から少しずつ情報を積み上げ全貌を解明してゆこうというのが本書である。

  • 10年ほど前に書かれた中国地下経済に関するお話。10年も経っているので、おそらく”そのまま”ということはなく、色々と手を変え、品を変え、というかハイテク化して地下経済は残っているのだろう。著者が地下金融業者にコンタクトを取ってみたら、500万元ぐらいであれば数日で用意して貰えると言われたり、担保となるものが必ずしもわかりやすく換金できる物ではなく、当人の持つ権力だったりするのが興味深い・・というかそれだけまだ社会が捻れているのか・・。

    とはいえ表の経済と裏の経済は、日本人が思うほどの”黒い”だけではなく、複雑に絡み合い、特に庶民のセーフティネットとして機能しているということらしい。また中国経済が崩壊する崩壊すると言われながらも、なかなか崩壊しない理由の一つとしてGDPや表の数字に出てこない大きな地下経済が存在するからというのも、何やらそれらしく聞こえる。結局政府ですら把握できておらず、地域地域で別の地下経済圏が入り乱れて存在しているようなので、誰も本当のところはわからないのだろうと思う。

    本の最初の方にでてくる、金券を使った灰色収入・・同じようなノリでその場で話しかけてきたおばちゃんのクレジットカードか何かで購入してもらい、おばちゃんに直接現金を払ったことがあったな・・。自分もうっかり参加してたのか・・2015年の冬の北京での王府井の本屋にて・・と思った次第。

    P.7
    高級デパートには二万円の値札がついたTシャツが当たり前のように並び、四万円もするスニーカーが無造作に陳列されている一方で、そのデパートを一歩出れば北京のタクシーの初乗りはわずか十元で乗ることができ、屋台で売られている茹でとうもろこしは、安ければたった一元で食べられるのである。
    こうした相反する事象やニュースは、「中国」のなかで共存し、外から中国を見る者を惑わせる。本来ならば二つの異なる国の事情であるべき両極の現実を一つの国につなぎとめているのも、実は「地下経済」の存在を抜きには説明できない。つまり、地下経済の要素を排した中国経済分析は、「画竜点睛と欠く」という以上に、根本的なあやまりにもつながりかねない危険がつきまとっているのだ。なぜなら地下経済は毛細血管のように中国人の暮らしの中に入り込み、日々の生活と切ってもきれない関係を築いてしまっているからだ。
    「およそ中国で暮らしている者であれば、地下経済とまったく関わりなく生きている者などいない」
    地下経済の取材を始めてから出会った専門家や識者、そして実際に地下に生きる者たち、旧来の友人・知人まで、彼らが共通して語ったのがこの言葉だった。

    P.54
    現在の中国の経済発展は、七八年の「改革開放政策」で扉が開き、九二年の鄧小平の「南巡講話」によって決定づけられたとされる。なかでも政治的な揺り戻しを恐れて、「経商の海」(ビジネスの世界)へと踏み出すことを躊躇っていた者が、みな「中国は二度と逆戻りはしない」と確信し一気に金儲けに邁進し始めた天気と位置付けられるのが九二年の「南巡講話」で、日本で見られる書物や記事でも、まず100%そう説明されている。だが、地下金融の世界では、すでにその一年前にはもう人々の企業熱はピークを迎え、資金需要が大爆発していたという。だとすれば、あの有名な鄧小平の「南巡講話」は、民間の経商熱の起点と位置付けられるのではなく、民間の経商熱を追認したに過ぎないことになる。

    P.61
    上海で頻繁に接触していた党の幹部から、(中略)官僚のポストにも表の役職とは別の”含金量”という基準が生じていることを教えられた。これは現在の地位やポストが「金額にしてどれくらいの価値があるか」を表現した言葉で、つまり地位を賄賂の額で測ろうとする考え方だ。(中略)
    財政部の課長補佐であれば、里帰りした地元の空港には必ずその土地のトップが出迎えに来て、運びきれないお土産が渡されるが、外交部の官僚は自分でタクシーを拾って帰るしかない。(中略)
    九〇年代を通じてこの国の経済発展を支えてきたのは、非国営の民営経済だった。官民のGDP比率で、民間が国営を上回っていく過程において、民間企業を資金面でサポートしたのは、表の銀行ではなく地下金融だったことは明らかだろう。(中略)
    日本の自動車メーカーの幹部も、私が〇九年に発表した地下経済に関する記事を読んだ後、「地下経済と呼ぶのは正確ではない。むしろ中国”第二経済”というべきではないか」
    と本質を突く指摘をしてくれた。中国で「地下」と表現されるのは「統計外」を意味しているのであって、その実際はまさしく「第二経済」と呼ぶにふさわしい規模でもあるのだ。

    P.102(中国の国有企業CEOの報酬が八億円程度であること、日本のCEOの報酬が一億円を超えると高額とみなされ、名前と金額が公表される制度ができたことを踏まえ)
    共産党の政権基盤の安定のためにも社会の安定が欠くことのできない重要なファクターである中国にとって、インセンティブを引き出すために格差を拡大させることは、それによって治安が揺らぎ社会不安が高まるというリスクと比べて、はたして採算性のある選択なのだろうか。安定を志向するのであれば矛盾が残る話さ。例えば、もし中国の巨大国有企業のトップたちが、みな日本人の感覚と同じくらいーー一億円程度の報酬ーーで満足し、その余剰分を人材雇用に回していたとすれば、現在、指導部を悩ませている大卒者の低い就職率という問題は、たちどころに改善されていたはずだからだ。
    過剰な収入の異常さに気付かず、それを積極的に社会に還元していく賢さを持てない社会は、最終的に自ら乗っている船そのものを沈めてしまうことで終焉を迎えるしかない。そのことは洋の東西を問わない真理だ。

    P.123
    高い成長率が注目されて以降、中国経済はずっと「投資と貿易が二本柱」だと説明されてきた。たとえていえば、中国は投資と貿易という双発エンジンを持つ飛行機だったのだが、離陸しようとして滑走路を走りはじめたはいいが、いざ翼が浮力を得ようとした途端に、貿易という一方のエンジンがトラブルに見舞われてしまったようなものだ。
    中国がテイクオフ後に目指していたのは、本当の意味での経済先進国の仲間入りだった。その金持ちクラブ入りに向けて、中国は二つのエンジンが健在であったうちに成し遂げておきたかったことが、少なくとも二つあった。
    一つは、世界に冠たる”中国ブランド”を世界市場に送り出すこと。そしてもう一つは、国内の個人消費に火を点けることだった。

    P.135(真冬の上海で洪水が起きた時、労働者がサラリーマンを5元で背負って濡れないところまで運んだことを踏まえて)
    仮に同じようなニーズが生じたとしても、一回わずか五元で大人を背負って真冬の水たまりを渡す仕事をする労働者は日本ではまず見つからないだろう。つまり中国のように消費水準のまったく異なる世界を同じ国内に抱えていなければ成立しない話なのだ。
    結局、中国社会がリストラという痛みを吸収できているのは、政府の経済改革のためではなく、構造的に中国が二重経済構造になっていて、その二つをつなぐ仕組みがあることが最も大きな緩衝要素となっているのだ。これは言い換えれば、政府が「自ら活路を開く」中国人気質に甘え、生活費をとことん低く抑えられる経済圏が在ることにあぐらをかいているという意味でもあるのだ。

    P.139
    その中国に必要なのは、社会にくすぶる不満を爆発させないための有効打だが、現状では根治療法は望むべくもない。社会の治安対策を強化したり、メディアコントロールにより世論を誘導する対処療法でしのぐしかないが、これに費やされる労力や財力は年々重みを増すばかりだ。国内ではこれを”維穏的成本”(安定維持のコスト)と呼んでいる。維穏的成本は、「不満解消のコスト」と訳しても良いかもしれない。日本では、国防予算の増大ばかりがクローズアップされるが、実は中国ではむしろこの警察予算の膨張のスピードに人々の注目が集まっている。

    P.143
    中国における地下経済の存在は、そのマイナスイメージとは裏腹に、現状でもすでに社会の安定に大きく貢献しているとの側面が強い。家族、親戚から遠い血縁まで、さらに出身地のコミュニティーというよるに中国では何層にもわたって築かれた相互扶助のネットワークが広がっている。この自然に中国に築かれた緩衝帯は、実は中国社会が聞きに直面した際に大きな強みとなって発揮されてきた。
    それを失うリスクを考えたとき、はたして地下を”表化”する意味はあるのだろうか。そんな疑問が湧き上がってくる。第一、中国政府が地下経済を本当にコントロールできるのか。その点も実は疑わしいのである。

    P.151
    山寨携帯が急速に普及したといっても、その結果として正規品の市場が大きく浸食されたわけではない。(中略)もともと正規のメーカーが歯牙にもかけなかった購買層を相手に売り上げを伸ばした二他ならない。つまり驚くべきコスト削減により、従来はマーケットのなかったところに、新たなマーケットを作り出したわけだ。(中略)中国の銀行が中小企業を端から相手にしないのと同じように、大きなメーカーは最初からそういした人々をターゲットとして想定していない。こう考えたとき、日本人が中国の将来を有望視するときに語る”一三億の市場”という言葉が、いかに虚しいものかがわかるのだが、中国ではその両者はくっきりと区別されている。
    正規品の十分の一の価格で携帯端末を作るのは、地下経済ならではの業だ。彼らはもちろんボランティアでそんなことをやっているわけではないが、自らマーケットを広げたことで雇用も創出し、結果的にそのことが携帯電話の普及率や通信インフラの拡大に大きく貢献することにつながっていく。実態として地下経済がこうした”正”の働きをしていると考えられる現象は、実は中国では珍しくないのだ。

    P.215(湖北省で起きた鄭玉嬌事件:地方税務局幹部がマッサージ師に卑猥なサービスを強要した際、マッサージ師が刺殺したが、同情した人々が公安を取り囲み社会問題化すると、当局は手続きを無視して無罪放免した事件を踏まえ)
    共産党独裁が民主独裁に代っただけのことで、法治の概念など権力にも民衆にもないということを証明したようなものだ。(中略)
    バブル崩壊後の日本が銀行への公的資金導入が経済再建に不可欠と分かっていても納税者の怒りを買うのを恐れて政治が決断できなかったり、消費税の導入議論がなかなかすすまないといった民主主義のコストを切り捨てた姿に他ならない。つまり強弱の差こそあれ、多くの発展途上国がたどった開発独裁と「チャイナモデル」はそれほど変わらないのだ。(中略)
    国に対する富の集中が強まる反面、政権を担う共産党は、世代交代の度にその正当性と正統性に疑問符をつけられることは避けられない。そのため民意の動向に敏感にならざるを得ず、強いリーダー湿布を発揮した従来とは違い、ダブルバインドの利害調整に苦しむことになっていくだろう。
    政治的に見ても、中国は選挙という民主化の装置をもたないまま(中略)気まぐれで兇暴な民意に振り回される場面が目立ち始めている。
    不満を募らせる民意をなだめるには、本来ならば経済的な潤いが必要だが、国有経済に富が偏ることを避けられない中国は、世論誘導や治安維持にかけるコストの膨らみに苦しみ始めている。(中略)
    中国経済頼みの日本は民主主義のコストに苦しみ、日本から羨ましがられる中国は安定維持のコストに苦しんでいるというわけだ。

  • ジャーナリスティックで中身の薄い本だが、新しい知識は得られた。現在の中国経済の中心は、民間ではなく国営企業とか、中産階級の表裏含めた平均収入が5000万超など。ただし著者の得意分野である地下金融に紙面を割きすぎておりバイアスも感じられる。

  • 怪しげな世界の話かと思ったら、実は表のGDPの半分の約200兆円、日本のGDPの1.5倍に及ぶと言われる民間金融が発達しているという話だった。著者は週刊文春などで活躍するフリージャーナリスト。文章が読みやすい。もっと読みたい。

  • 最近流行のシャドーバンキングって何だろうと思って本書を手に取った。今裁判を受けている薄熙来も重慶の掃黒作戦の指揮を執った人物として登場。中々興味深かった。
    習近平政権がシャドーバンキング撲滅に乗り出したなんていう記事をみるが、本書を読むと簡単に撲滅できるようなものではないことがわかるし、単に不正を正すといった単純な話でないこともわかる。

  • 『アンダーグラウンド』と簡単に言い切れない表に出ない中国のシステムが垣間見れた。
    表と密接に絡み合い、権力と衝突をしたり繋がったり、人々の生活と切り離せない程傍にある世界。

    この国は今後どう進んで行くのかますます分からなくなった。

  • 中国の実態がよく分かりました。

    中国でビジネスを行う上では必読の一冊ですね。

  • 中国は沿岸と内陸の二重構造だと思っていたが、今や表と裏の二重構造らしい。どちらにせよその大きさゆえにまもなく自身を支えられない時が来ると思う。

  • 知人の推薦書。法に従って商売が出来る、これがどんなけ限られた世界でだけできることか思い知らされる。予測可能性がゼロの社会。

  • 09年春―.(冒頭の一文)


    中国の経済躍進を支える,統計外の経済を紹介する本.


    GDPの半分ぐらいの規模(200兆円)の地下経済がある.P69のこの言葉以外に地下経済全体を俯瞰する指標は何一つない.そして,本の内容の半分以上は,地下経済に関する内容か?と疑ってしまうほど,表の世界の話.まぁ政界の中枢まで地下経済が入り込んでいると言えばそうなのだろうが,イマイチな内容だった.

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著者プロフィール

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系に留学した後、
週刊誌記者などを経てフリージャーナリストに。
94年『「龍の伝人」たち』(小学館)で、21世紀国際ノンフィクション大賞
(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。
新聞・雑誌への執筆、テレビコメンテーターとしても活躍。
2014年より拓殖大学海外事情研究所教授。
『反中亡国論』『中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由』
『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難』(以上、ビジネス社)、
『感情的になる前に知らないと恥ずかしい中国・韓国・北朝鮮Q&A』(講談社)、
『トランプVS習近平 そして激変を勝ち抜く日本』『風水師が食い尽くす中国共産党』(以上、KADOKAWA)など著書多数。

「2023年 『それでも習近平政権が崩壊しない4つの理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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