「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
- 文藝春秋 (2015年5月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166610242
作品紹介・あらすじ
冷戦終結と欧州統合が生み出した「ドイツ帝国」。EUとユーロは欧州諸国民を閉じ込め、ドイツが一人勝ちするシステムと化している。ウクライナ問題で緊張を高めているのもロシアではなくドイツだ。かつての悪夢が再び甦るのか?
感想・レビュー・書評
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こういう見方もあるのかと感心しました。
ドイツについて、EU内の位置、ロシア、そして、アメリカや、日本との対比を語っています。
ドイツは、すでに二度にわたってヨーロッパ大陸を決定的な危機に晒した国であり、人間の非合理性の集積地の一つだ。
ドイツというのは、計り知れないほどに巨大な文化だが、人間存在の複雑さを視野から失いがちで、アンバランスであるがゆえに、恐ろしい文化である。
ヨーロッパは、20世紀の初め以来、ドイツのリーダシップの下で定期的に自殺する大陸なのではないか。
ドイツはグローバリゼーションに対して、特殊なやり方で適応しました。部品製造を部分的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に安い労働力を利用したのです。
ユーロのせいで、スペイン、フランス、イタリア、その他のEU諸国は、平価切下げを構造的に妨げられ、ユーロ圏はどいつからの輸出だけが一方的に伸びる空間となりました。
ヨーロッパのリアルな問題は、ユーロ圏の内部の貿易赤字です。
エマニュアル・ドット氏は、ドイツが再びヨーロッパを自殺に追い込むのではないかと危惧をしているのです。
気になったことは、以下です。
・EUはもともと、ソ連に対抗して生まれた。ロシアというライバルなしでは済まないのだ。
・ごく単純に、紛争が起こっているのは昔からドイツとロシアが衝突してきたゾーンだということに気付く。
・ドイツが台頭してきたプロセスは驚異的だ。東西再統一の頃の経済的困難を克服し、そして、ここ五年間でヨーロッパ大陸のコントロール権を握った。
・ドイツが持つ組織力と経済的規律の途轍もない質の高さを、そしてそれにも劣らないくらいに、途轍もない政治的非合理のポテンシアルがドイツにはひそんでいることをわれわれは認めなければならない。
・もし、ロシアが崩れたら、あるいは譲歩しただけでも、ウクライナまで広がるドイツシステムとアメリカとの間の人口と産業の上での力の不均衡が拡大して、おそらく西洋世界の重心の大きな変更に、そしてアメリカシステムの崩壊に行き着くだろう。アメリカが最も恐れなければいけないのは、今日ロシアの崩壊なのである。
・果たして、ワシントンの連中は覚えているだろうか。1930年代のドイツが長い間、中国との同盟か、日本との同盟かで迷い、ヒットラーは蒋介石に軍備を与えて彼の軍隊を育成し始めた事があったということを。
・イギリス人は、ある種のフランス人とは違い、ドイツ人に従う習慣を持っていないのだ。「英語圏」つまり、アメリカや、カナダや旧イギリス植民地に属している。
・エネルギー的、軍事的観点から見て、日本にとって、ロシアとの接近はまったく論理的なのであって、安倍首相が選択した政治方針の重要な要素でもある。
・乳児死亡率の再上昇は、社会システムの一般的劣化の証拠なのです。ソビエト体制の崩壊が間近だという結論をひきだしたのです。人口学的データはきわめて捏造しにくいのです。
・ロシアでは、ソ連時代から、継承された高い教育水準が保たれていて、男子よりも女子のほうが多く大学に進学しています。また、人口流出よりも、流入のほうが多いことからも、ロシア社会とその文化が、周辺の国にとって魅力的なのだということが分かります。
・KGBとその現代版である、FSBはロシアのエリート育成機関なのです。
・日本社会とドイツ社会は元来の家族構造も似ており、経済面でも非常に類似しています。産業力が逞しく、貿易収支が黒字だということですね、差異もあります。この二国は、世界でも最も高齢化した人口の国です。人口構成の中央値が44歳なのです。
・ビスマルクに関して言えば、私はここで告白しておかなくちゃなりません。あれは実に見上げた人物だと思っているのです。いったんドイツ統一を成し遂げたとき彼はそこで止まりましたね。限定的な目標を達成して、そこで止まる器量のあった稀有の征服者です。
・EUの喫緊の問題は、ユーロではなく、債務危機です。明晰になろうではありませんか。主権国家の政府債務が返済されることは絶対にないのです。
・今日大陸全体にひろがる怒りのタネである単一通貨は、初めからヨーロッパなるものの否定だったのです。だから私は、はじめから単一通貨に反対でした。ユーロを救う必要が欧州レベルの保護主義を促すだろうと考えたのです。ですから、現段階で、私の選択は、ヨーロッパ保護主義によるユーロの救出ということになります。
・社会構造がすでに個人単位となり、いわば原子化sれているため、集団行動にブレーキがかかるのです。集団的な異議申し立ての持つパワーを私は信じません。
目次は次の通りです。
1.ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
自ら進んでドイツに隷属するようになったフランス
ウクライナ問題の原因はロシアでなくドイツ
ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
アメリカとEUの産業上の不均衡
アメリカと「ドイツ帝国」の衝突
2 ロシアを見くびってはいけない
3 ウクライナと戦争の誘惑
4 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
5 オランドよ、さらば! 銀行に支配されるフランス国家
6 ドイツとは何か
7 富裕層に仕える国家
8 ユーロが陥落する日
編集後記詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
現在のドイツについてこの視点はなかった。政治・経済の優等生で、いちはやく脱原発に向かう、国民の意識の高さと民主主義。EUの経済を牽引する勤勉さとその成果。おしなべて良いイメージを持っていた。
しかし人口学者エマニュエル・トッドの見方は違う。
ソ連の崩壊の予測を人口の推移データから的中させ、グローバリズムをアメリカニズムと切り捨ててその帝国の衰退を予言するフランス人の彼が見るドイツは、EUを事実上牛耳り、新たな経済圏を東へと拡張してロシアに迫らんとしている、無邪気にして尊大な帝国の復活である。
ウクライナ問題にしても、西側の報道には現れない、別の側面が存在する。EUが肩入れする現政権がナチスに親しい極右勢力であることも、今は問題視されていない。
あまりに強大になったその力を押さえる勢力はもはやEU内には存在しない。その脅威を論じる人間は少ないようだ。
物事には必ずカウンターとなる意見があり、それを丁寧に読むことはきっと大切なことなのだと思う。 -
フランスの知識人にドイツ嫌いが多い理由がよくわかった。彼の主張にももっともな部分はある。日本人向けに書いたという点も多少割り引いた方がよいかと。
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トッド氏が、最近インタビューで述べた言説をまとめたもの。
内容は、フランス民主主義の崩壊、ドイツの覇権の浮上、ロシアとの紛争の激化などです。
歴史家、人類学者、人口学者の立場で、ヨーロッパ社会の過去、現在、未来を論じており、ところどころで、日本のことにも触れている。
内容ですが、
1 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
自ら進んでドイツに隷属するようになったフランス
ウクライナ問題の原因はロシアではなくドイツ
ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
アメリカとEUの産業上の不均衡
アメリカと「ドイツ帝国」の衝突
2 ロシアを見くびってはいけない
3 ウクライナと戦争の誘惑
4 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
5 オランドよ、さらば!――銀行に支配される
フランス国家
6 ドイツとは何か?
7 富裕層に仕える国家
8 ユーロが陥落する日
この本が出てから、イギリスのEU離脱があり、オランドの再選不出馬表明があったり、トッド氏の未来予測はとっても興味深いものであります。 -
翻訳がたどたどしくていらいらした。訳者はフランス語が得意でも日本語が苦手なのではないか。
それはさておき、ヨーロッパの情勢を多様な統計から知ることができて面白かった。不謹慎かもしれないけど、戦後のドイツは、アメリカやソ連に軍事力を奪われていわば去勢されたからこそ、現在の力を持ち得たのだということが興味深い。それで、結果、ふたたびドイツはヨーロッパを支配することに成功したわけだけれど、するとナチス時代のようにまた、ヨーロッパの他国に不平等を強いても冷徹でいられるというところが、歴史は繰り返すのだなと思いたくなるところ。いわばこの現状は、ドイツによる無意識的な復讐の形か。ドイツにとっては、今もなお、ヒトラーは例外的存在ではないのではないか。そのような存在が生まれくる土壌は、いつも準備されているような気がする。そしてそれは日本にも多かれ少なかれ似ているからこわい。 -
ちょっとトリッキーに喋り過ぎて、暴論ぶちまけた感がある。寡頭金融支配層が世の中を都合良く動かしている現状を打破するには、輪転機を回すこと。つまり、国家の負債先は金持ちであり、血税が金持ちに回るメカニズムが出来上がっている。それを直すには、政府債務のデフォルトなのだろうか。
金持ちが世の中を支配する構図は、我々誰しもが気付いている。いや、我々が金に支配されていて、その金が自動的に与えられる階級が存在するという事実がある、と言うべきか。お金の暴走を防ぐために、一応の法律が設けられてはいる。そのため、我々は、完全にお金の奴隷になるわけではない。お金があっても、今すぐ人を立ち退かせたり、その人の妻を奪う事は許されない。あくまでも、法律上は。
しかし、この限界を超える方法がある。政治に介入し、法律を変えたり、軍事介入、国家間バランスの操作…。民間の生きやすさの指標は、人口統計しかないのか?ドイツという国を通じ、考えさせられる一冊である。 -
普段とは畑の異なる本をと思い、買い求めましたが、あまりにも畑が違いすぎました。
書いてあることがさっぱりわからない。
しかしながら、決して著者にも非はありません。
単に私の理解力不足によるものです。
以上の理由から、評価の星はつけることはいたしません。
己の教養のなさを痛感する2015年最後の読書でございました。
付箋はわずか二枚のみつきました。 -
筆者はフランスの歴史人口学者、家族人類学者さん。
プーチンのロシアをすごく評価しているように感じた。ドイツという国、国民をとても警戒していて、そして母国フランスの理念(私は「自由と平等」を重んじてるのだなと感じた)を実行できずにいる政府へ失望している。
家族人類学者というだけあって、話題の中で家長父制についても言及してる。ドイツと日本にあてはまると。
人口学的なデータは他のデータよりも捏造しにくいという話は興味深かった。 -
正直、ユーロ巡る問題でドイツは嫌いだけどドイツの有権者が意図してるわけでも
ドイツ国民自体がドイツ拡大の恩恵をさほど受けてはいない点は勉強になった -
EUの中心で勢力を拡大するドイツ。過去を反省し補償を厭わないことで、日本もドイツに学べと息巻く向きも多いようだが、勤勉さや家族体系に共通点はあっても、日本とドイツはやはり異なる国家なのだと改めて感じた。著者はフランス人であり、ヨーロッパ大陸の中央から世界を見ている。ロシアは戦争の機会を狙っているのか。アメリカは強さを取り戻せるのか。そしてフランスはドイツの独走を止めることができるのか。歴史人口学者の穏やかだが確固とした言葉に、物事を別の視点から見ることの大切さを感じた。