敗れざる者たち (文春文庫 さ 2-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167209025

感想・レビュー・書評

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  • ノンフィクション。

  • 敗者の「涙」ではなく、敗者の「生き様」がいい!きれいごとではなく、「人間臭さ」がある。

  • 一流に成り得る才能には恵まれながらあと一歩のところで立ち止まってしまうプロボクサー。長嶋茂雄と同時代に生まれ、同じ「背番号3」を背負った選手の悲劇。
     オリンピック後の環境の変化に順応出来ず、自ら命を絶ってしまうマラソンランナー。血統の良し悪しを超え期待されながらも勝ち切れなかったサラブレットとそれに関わってきた人間達。
     スポットライトには決して中らなかった、又その舞台から降りなければならなくなった人間の苦悩と足掻きが本編を通して痛い程伝わってきます。
     敗者の話を集めたノンフィクションでありながら、涙や隠された感動秘話を散りばめた作品とは一線を画しており、作者が取材対象に対してどこか突き放すような目線で書かれた文章に一読すると冷たい印象も受けるが、対象に対しての思い入れが強すぎるが故の、もどかしさや歯がゆさの裏返しである事が読み込んでいく中で感じとる事が出来ます。
     確かに、努力や人間性など色々なものがほんの少し欠如したが故に敗者と位置づけられた人間ではあるが、今の自分達はこの敗者程に努力し一生懸命に足掻いているだろうかと考えさせられる作品です。
    以前紹介された「深夜特急」より前の作品ですが、こちらも秀作です。

  • 野球・マラソン・競馬・格闘技…各界で名を馳せながらも、トップスターとして輝き続けはせずにそれぞれの道を歩んでいった選手たちの取材ルポ。結果が目に見えて残るシビアな世界で頂点に立ち続けることがどれだけ厳しいことか、ふと垣間見える気がします。 人間、ちょっと適当な部分があるくらいじゃないと何事も続かないのかな。

  • ひいきの沢木耕太郎。

    勝負の世界で一度は日の目を浴びるがその後敗れていったプロスポーツ選手にスポットを当てたノンフィクション。

    輪島功一以外知る由もなかったスポーツ選手たち。
    ボクはイシノヒカルの話が好きだ。

    とてもじゃないけど20代で書けるような話じゃない。
    目の付け所が違う。
    緻密な取材と勉強量。
    だから沢木はすごいんだ。

  • 一度栄光を手にしたものの、人生の荒波に揉まれて消えたり、細く細く生きることにスポーツ選手達の姿を描いている。
    抜群のボクシングセンスを持ちながら生来の優しさを殺せず、チャンピオンに届かず、燃え尽きることのできない人生を送り続けるカシアス内藤。
    東日本大学野球の雄から巨人の、球界の背番号3になった長島茂雄。しかし奇しくも長島と同じチームの、同じポジションであったがためにやむを得ず才能を開花させることなく散っていった選手達。
    そしてオリンピックマラソンで栄冠を手にしながらも、あまりにも細く繊細な神経を持ち合わせたが故に一直線に自ら散った円谷幸吉。
    不屈の努力家でバッティングを一つの道として自分の中に確立したが、そのあまりにストイックな態度と寡黙な性格から、静かに球界から消えた、いや消された榎本喜八。
    そしてこの本の中で唯一、自分の中のボクシングに最高の答えを出し、真っ白に燃え尽きることのできた輪島功一。
    この本に出てくるスポーツ選手は大きく2分される。

    一つは円谷幸吉タイプ。正直で、上の立場の人間の言葉に素直に従う。しかし本人の神経は24時間ピンと張った細い糸のように張り詰めている。その極度の緊張感が彼をマラソンの世界で上へとひたすら押し上げる。彼の人生には本当にマラソンしかなかった。しかし彼にかかる負担が限界を超えた時、その糸は一瞬で切れてしまう。それが彼の場合自殺だった。榎本喜八も同じタイプである。バッティングの天才故に狂気と隣り合わせ。チームの責任、球団オーナーの思惑などが彼に降り懸かった時、榎本の精神は錯乱するのだ。彼の人生もまた、野球しかなかった。このような人々は昭和という時代でこそ生まれたといえる。
    そしてもうひとつは、燃え尽きことができない選手達。これは選手だけでなく、沢木耕太郎自身と、その世代にも大きく関係する。その世代なら
    「真っ白に燃え尽きる」
    この言葉を聞くと、グローブをつけ、うつむいて椅子に座ったまま決して動くことのないジョーの姿が脳裏に浮かぶはずだ。学生運動、ラブ&ピース。されどふりきれない憂鬱と胸の中のもやもや。そんな世代に対しジョーは、ボクシングという世界で見事真っ白に燃え尽きてみせた。
    彼の姿は学生運動家達の中でも、前衛演劇などでもジョーは目標とされた。しかし真っ白に燃え尽きることのできた人間はほとんどいなかった。
    ちなみに、本の表紙の折り込みを見たら、村上春樹と沢木耕太郎は2つ違いだった。なんとなく同じ匂いが漂うのも納得なのだ。
    「俺はこんなもんじゃない」「まだブンブン吹っ飛ぶわけにはいかないんだ」
    …じゃいつぶっ飛ぶんだい??と聞いてもいつまでも燃え尽きることのなかったカシアス内藤。
    スポーツに見られる時の運。それでも選手はそれに抗い、自分の中で一つの答えを出さなくてはならない。
    この本の中で唯一その答えを出したのが輪島功一。一度KOされチャンピオンベルトを奪われた相手に、再び挑む32歳の輪島には世間の遠慮なき辛辣な批評が降り懸かった。しかしそれを逆手にとり、わざと不調を装い、相手を油断させる輪島。しかしその行為は相手だけでなく、自分の不安な気持ちをも欺くためのものでもあった。全盛期とのギャップや相手の強さからくる気持ちに対して、「リングに上がればとたんに体は動き始める」と欺くこと、突き詰めれば自分を信じることで、彼は圧倒的不利と思われていた試合をゴングが鳴ると同時に手中にし、自分として最高のボクシングをしてチャンピオンを奪回するのだった。
    自分をどこまで欺けるか…この問いは凡人の僕らにとって一つの希望のライムになりうるものだ。
    僕らは円谷や榎本のように直線に生きることはできない。誘惑に負け、本質的には自分の感情をコントロールすることのできない人間だ。
    そんな僕らにもいつかやってやる!という意地はある。しかし、あすには檜になろうと思っていても結局はいつまでも檜になれないあすなろの木のように(井上靖「あすなろ物語」より。これも名作!! 読むべし!!)くすぶり続けているのが事実。
    それでも、自分のマイナス感情を欺く=自分の良い面を信じ、いつか自分の人生の大事な曲面で、心の奥のもやもやに強烈な右フックを叩き込むことができた時、平成に生きる僕らなりに、真っ白に燃え尽きることができるんじゃないだろうか。

  • 私の原点。

  • 2008/05/02 読了 ★★★
    2010/09/21 読了

  • 華やかなスポーツの世界において普通は取り上げられることのない影の部分、つまり「栄光」と紙一重に位置する「敗北」とその後。30年以上前の作品ながら、まったく色褪せない斬新さを持ち続けている、負けていく・消えていくものたちを鮮やかに捉えたスポーツ・ノンフィクションの草分け的存在です。

    クレイになれなかった男
    三人の三塁手
    長距離ランナーの遺書
    イシノヒカル、おまえは走った!
    さらば 宝石
    ドランカー<酔いどれ>

  • スポーツの舞台裏。スポーツ選手の苦悩…。やっぱり第一線で活躍する人たちのプレッシャーははかり知れないんだなぁ〜って思います。頂点にのぼりつめたその後の姿は切ないというには悲し過ぎる。
    それでも上を目指して日々努力する選手たちがいるから感動があるんだよなぁ。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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