その誕生から今日まで CIA秘録 上 (文春文庫 ワ 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167651763

作品紹介・あらすじ

諜報によって第二の真珠湾攻撃を防ぐべく創設されたアメリカ中央情報局=CIA。だが、その60年に及ぶ歴史は、失敗と欺瞞の連続だった。トルーマンからクリントン、ブッシュJr.の時代まで、超大国の諜報機関がいかに転落の道を歩んだか、5万点を越す機密解除文書、300人以上の証言など、すべて実名の情報で明らかにする驚愕の書。全米図書賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • ハンチントンやビル・エモットの著作と違い、翻訳された日本語が理解しにくく、なかなか読み進められない。訳の誤りも見受けられ、せっかくの作品が台無しになっているのではないか。
    内容自体は、興味深い。

  • 戦後CIAが選んだのはA級戦として巣鴨拘置所に収監されていた岸信介だった。東条英機ら7名のA級戦犯の死刑執行の翌日、岸は児玉誉士夫らと釈放される。7年後岸は首相へ変身した。岸が舵を取る自民党は民主主義でなく帝国日本右派の封建的指導者をメンバーとした。岸は米軍基地を日本に維持し核兵器を配備する代わりに米国からの政治的支援を求めた。CIAから自民党への秘密献金は少なくとも15年続き、日本での自民党一党支配を強化した。CIAのホーレス・フェルドマンは「我々はマッカーサーとは別のやり方でやった」と言った。

  • 原題はLEGACY of ASHES、負の遺産を残したのは誰か。

    ルーズベルトの死後大統領職をついだトルーマンは戦時中の諜報組織OSSを解散する命令を出しアメリカのスパイ組織は廃止された。しかし、統合作戦本部、陸軍、海軍そしてFBIが自前の諜報組織を持ちたがり、軍事担当首席補佐官の進言もありCIAを立ち上げた。しかし初代長官はトルーマンが何を望んでいるかわからず、トルーマン自身もわかっていなかった。

    当初からCIA内では将来的な対立の種が生まれていた。一方は情報収集を重視したが、もう一方は隠密な破壊活動を重視した。そして法律的な根拠なしに特別工作室には1千万ドルの資金が与えられた。資金の出元は欧州復興支援のマーシャル・プランで、援助を受けた国は自国通貨で同額を準備せねばならず、この資金の5%がCIAに流されたのだ。冷戦を計画したジョージ・ケナンのプランに第4代長官となったアレン・ダレスや秘密工作を指揮したフランク・ウィズナーがこの計画に乗り大統領やCIA長官にも無断で秘密工作を取り仕切った。

    ウィズナーが責任者になった秘密工作部門はCIAの他の部門を合わせたより大きくなり20年以上その地位を守り続けた。ウィズナーがリクルートし政府を転覆させるために送り込んだスパイのほとんどは敵に見つかり殺されるか、投獄されるかした。また徴用したスパイの中には二重スパイが紛れ込み信頼できる情報は得られなかった。朝鮮戦争では詐欺師のゴミ情報に金を注ぎ込み中国の参戦を見抜けなかった。

    第3代長官のベデル・スミスはCIAを専門的な諜報機関に変えようとウィズナーを抑えられる人物としてアレン・ダレスを副長官にすえた。だがむしろダレスは秘密工作を拡大させていった。CIAの組織の基礎を作り上げたスミスだがCIAを専門的な諜報機関にはしなかった。

    大統領戦に勝ったアイゼンハワーはダレスを長官にした。そしてアイクの外交顧問でもあり、アレンの兄であり日米安保の生みの親でもあるフォスターとアレンの口車にのったアイゼンハワーが世界中で秘密工作を展開したのだ。しかし共産主義政権の誕生を防ぐために計画したクーデターはほとんど機能しなかった。やったことは事実上反政府側に金をばら撒いただけだ。唯一の成功と言えるイランのシャーのクーデターもCIA神話を生み工作はさらに泥沼化していく。

    アイクの遺産を受け継いだJFKにCIAは秘密工作の報告をしなかった。「8年にわたって、アレン・ダレスはCIAを変えようとする外部からのあらゆる努力をかわしてきた。CIAと自分自身の名声を守らねばならなかった。秘密工作の失敗を隠し通すために、すべてを否定し、何も非を認めず、真実を明かさなかったのである。」ピッグズ湾事件の失敗を受けJFKはCIAを破壊したいと思ったが、結局は弟のロバートに任せ二人は秘密工作にのめり込んだ。アイクの8年間の工作が170なのにケネディ兄弟は3年で163の工作を展開した。しかし諜報活動は機能せず新長官のジョン・マコーンがソ連がキューバにミサイルを配備する可能性を指摘したのに誰一人賛同しなかった。ケネディは自国民に対するスパイを行なったのにソ連へのスパイはことごとく失敗しキューバ危機を見抜けなかったのだ。そして自分達がトルコに配備したミサイルのことは棚上げにして、核の打ち合いを避けるためには先制攻撃しかないと。そしてフルシチョフがアメリカがキューバに侵攻せず、トルコのミサイルを撤去すれば、キューバから攻撃兵器を引き上げると提案してきたが、最初はJFKとマコーン以外はその話に乗ろうとしなかった。まさに危機一髪。

    このCIAが日本でやった工作も紹介されている。児玉誉士夫を通じ金をばら撒きCIAが世界の有力国の中で将来の指導者を最初に選んだ国が日本だった。選ばれたのは岸信介、CIAと二人三脚で日米安保をまとめていった。CIAは岸および自民党との隠密の関係を公式に認めたことはない。

  • 上巻では第二次世界大戦後、CIAの起こりから
    ベトナム戦争にアメリカが強く介入し始めるトンキン湾事件までを描く。
    CIAによる諜報活動が機能せず、
    謀略のみが先行していたというのが一貫した主張。
    他の冷戦関連の書籍でも感じていたことだが
    アメリカのソ連に対する情報不足の原因を垣間見たように思う。
    ピッグス湾事件の背景からキューバ危機にいたるまでの流れが
    分かりやすく、興味深かった。

  • CIAの無能さについて。情報収集を主な任務とするはずが、秘密工作に夢中になってしまう、CIAの姿。

  • 米国ってもう少し戦略的かと思っていたけれど、少なくともCIAの活動に関してはかなり無謀で行き当たりばったりでびっくりした。読んだのは上巻のみだが、いっそCIAを無くしてオープンな情報の分析活動に特化した方がよほど効率良さそう。
    「われわれはOSSの足跡を追いかけていた」とグレッグは言う。「しかしわれわれの対抗しようとした相手のほうが完全に状況を把握していた。われわれは自分たちが何をしているのか、分かっていなかった。上司に任務は何かと尋ねたが、答えは無かった。彼らも任務が何か知らなかったのだ。最悪の種類の空いばりだった。朝鮮人や中国人、そのほかたくさんのおかしな人たちを訓練し、朝鮮人を北朝鮮に落とし、中国人を北朝鮮との国境のすぐ北側の中国領に落としていた。落とし続けたけれど、彼らから連絡はなかった」

  • 海外旅行に行く途上で読もうと、1冊1,000円オーバーの文庫は高いと思いながらやっと購入。

    映画である様な、謀略・秘密工作が緻密に練られたものかというのは、全く無く。
    組織の創世記・先の読めない冷戦期だからという言い訳では、全く通用しないぐらいに、人命軽視・無駄金・事前準備不足の秘密工作の数々。

    こんなにもダメな行政機関が今も続く理由は何処にあるんだ!と下巻に続く。

    緻密な取材、資料引用数から反論を許さない著述に付、文句なし。
    サクッと読めない苦痛はあるがアメリカの広い意味での外交史を網羅し、良書。
    JFK暗殺とカストロ暗殺の章だけでも読めば、すぐに作者の賢さを理解出来る。

  • CIA創設から60年の姿を記した歴史書。フィクションのような話ばかりだが、機密解除文書や、元長官を含む関係者へのインタビューを元に書かれており、概ね史実に基づくのか。
    CIAの秘密工作がいかに失敗を重ねてきたのかを、丹念に追っている。上巻は創設からケネディー大統領の時代までだが、近年のイラクを巡る情勢と錯覚するぐらい、CIA のやり方は変わっていないようだ。
    映画やドラマでしか知らない遠くの組織だが、自民党への資金援助の章を読み、日本との関係も浅からぬことを感じる。

  • CIA=ドジっ子(しかも天然)

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著者プロフィール

1956年、ニューヨーク州で生まれ、コロンビア大学と大学院で歴史とジャーナリズムを専攻し、《ソーホー・ニュース》紙で記者としての第一歩を踏みだした。《フィラデルフィア・インクワイアラー》紙に移籍後の1988年、国防総省とCIAの秘密予算にかんする調査報道でピュリツァー賞を受賞する1993年から2009年までは《ニューヨーク・タイムズ》で記者をつとめ、1994年には、CIAが50~60年代に日本で自民党に数百万ドルの資金を提供していた事実を暴露した。2007年に刊行した『CIA秘録 その誕生から今日まで』は《ニューヨーク・タイムズ》のベストセラー・リストに名をつらね、全米図書賞を受賞した。2012年には姉妹篇の『FBI秘録 その誕生から今日まで』を上梓、《ウォールストリート・ジャーナル》から、「スパイ事件について書かれた最高の本」と称賛された。本書は6冊目の著書(共著もふくむ)で最新作にあたる。また、プリンストン大学とコロンビア大学で歴史と文章術を教えたこともある。本書は、辛口で知られる老舗書評専門誌《カーカス・レヴュー》の2020年度のベスト・ノンフィクションに選ばれた。

「2022年 『米露諜報秘録1945-2020』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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