おまえじゃなきゃだめなんだ (文春文庫 か 32-11)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167902759

作品紹介・あらすじ

「対岸の彼女」で直木賞を受賞した角田光代さんによる短編恋愛集です。
このおまえじゃなきゃだめなんだは24の短編から構成されていて、情景がうかぶ作品が多いです。1作品の量も本当に短いものから、続きがもう少しほしいものまであります。様々な恋愛にまつわるエピソードは共感をよぶものが見つかります。

感想・レビュー・書評

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  • “あなたの趣味はなんですか?”という質問に”読書”と答える人をどこか冷めて見ていた読書経験ゼロの一年前の私。

    そんな私がそれからの一年で300冊を超える小説を読むことになろうとは、まさか一年前の自分には想像もできないことでした。では、人は何のために小説を読むのでしょうか?人によって様々な回答があると思います。そんな中でもそこに”非現実”もしくは”非日常”を期待すると回答する方は多いのではないでしょうか。そんな小説にも様々なものがあり、それを読むことによって私たちの心も揺さぶられていきます。”イヤミス”と呼ばれる作品群があります。読後、”イヤな気分”になるというその作品群。お金を払って、時間を費やして、そして嫌な気分になることを期待する、というのはよくよく考えてみるととても不思議、もしくはとても贅沢な考え方だと思います。それは読者の心の余裕の表れと言えるかもしれません。しかし、日々生きていくということは大変です。そんな心の余裕をいつも持てるとも限りません。そんな時に小説を読むとしたら、やはり重要なのは読後感でしょう。苦悩を経て歓喜に至るという”第九”のように最後に幸福を感じる作品はやはり良いものです。しかし、単に読後が良くても物語自体の読み応えが付いてこなければやはり不満は残ります。”第九”もベートーヴェン作というお墨付きあってのものだと思います。

    さて、ここに一つの短編集があります。苦悩を経ても最後は必ず歓喜に至ることが約束されたこの作品。角田光代著という絶対的なお墨付きがついた、間違いのない読後感があなたを待つ物語です。
    
    24編もの短編から構成されたこの作品。『例えば、最初の5編はティファニーさんからの、このシリーズのジュエリーを登場させてほしいという希望をもとに書いています』と角田さんが語る通り、企業とのタイアップ作品を中心に構成されています。そんな角田さんの小説の魅力の一つは『私はもともと、人の汚い暗い気持ちを書くことが多い』とご本人が認識される通りの世界観にあると思います。しかしタイアップの場合、『読後感の良い、幸せなものを』という依頼テーマの制約がどうしても付き纏います。その中で『「自分らしさ」をうまく按配して書くのが難しかった』とおっしゃる角田さんが描く24の物語は、この按配の絶妙さに魅せられる好編揃いだと思いました。短編とは思わせない構成力で読ませる作品から、短い中にピリッと角田さんらしさを絡めた作品まで実に多種多様な24の短編。そんな中から三編をご紹介したいと思います。

    まずは表題作の〈おまえじゃなきゃだめなんだ〉という短編。『そのころの私の貞操観念の欠落には、いろんな外的・内的要因があったと思う』と振り返るのは主人公の『私』。『外的なものとしては、たとえば時代』と『ナンパも多かった。経済的にも潤っている人が大半だった』というその時代。『世のなかは好景気に沸き、何もかもがちゃらけたような雰囲気だった』というその時代。『内的要因の最たるものは、社会人デビュー』という『私』は『中学・高校と女子校』、『共学の大学では自意識をもてあまし、男性と交際はおろか、まともに口さえきけずに過ごした』という学生時代。しかし『大学を出て派遣社員として働きはじめてから、急に誘いを受けるようになった』というそれから。『二十代前半から半ばすぎまで』、『急速にいろんなものごとを学んでいった』という『私』は『求められるたびにその人たちと寝た』という日々を送ります。『一度寝てしまうと、私は相手に執着した。その執着こそが、恋愛なのだと』思う当時の『私』は『どのようにして知り合ったのかよく覚えていない』という芦川と付き合い出します。『デートをしたのは晴れた日曜日』、『車でやってきた』芦川と『道路標識が東京都から埼玉県に変わり』とドライブする『私』。その時でした。『あっ、こんなところに山田が!』とはしゃぐ芦川。『かかしのような絵の下に、山田うどん、と描かれていた』その看板のお店に入ることになった二人。『まるでお洒落ではない。色気がない。情緒がない』と店内に入って愕然とする『私』。『はい、メニュウ。セットがウリだけど、半端なく量が多いから気をつけてね』と言う芦川。『うどんと天丼。うどんとかつ丼。うどんとカレー…』というメニューに『なんどかどうでもよくなって、値段のいちばん高いうどんを頼んだ。高いといったって五百円前後だった』という展開。『この人は、私を恋愛相手として見なしていないばかりか、馬鹿にしている。見くびってる』と思い帰ろうとしますが『最寄り駅がどこだかわからない』と諦める『私』。運ばれてきたうどんを『やっぱり山田じゃなきゃだめなんだよなあ』と、ものすごい勢いですすりはじめた芦川。『三分の二ほど食べて』、『ささやかな抵抗』と残した『私』。そんな『私』は『嫌みを嫌みだとわかるように、嫌みっぽく』他の男性が連れていってくれた豪華な食事の話をしました。やがて、そんな若き日々も過ぎ去り『己の貞操観念の欠落を自覚したのは三十代に突入し数年たってから』という『私』は、『真人間になろうとようやく決意して』宗岡辰平と付き合い始めます。そして『こういうことが、ひとりの人と向き合うということなのか』と、初めて知った『私』のそれからが描かれていきます。

    バブルの絶頂から崩壊へと至る時代背景に重ねるように、青春が終わり一人の時間を感じ始めた『私』が、『やっぱり山田じゃなきゃだめなんだ』という芦川の言葉をしみじみと思い出す年代へと突入していく姿が描かれるこの作品。大きく変化する時代背景の上に、『私』の心の動きが、丁寧に描かれていく好編だと思いました。また象徴的に登場する『山田うどん』に無性に行きたくなる、”うどんとかつ丼一つ!”と注文したくなる、そんな作品でもありました。

    二編目は、〈さいごに咲く花〉という短編。『母の母、わたしにとっては祖母の頭に、それは大きな牡丹が咲いているのを』、『はっきりと見た』という『わたし』。『あんまりはっきり見えるものだから、一瞬、祖母はそういう髪飾りをしているのかと思った』と、病室を見舞う『わたし』。『にっこりとほほえみ、きてくれたの、ありがとう、と言って手招きを』する祖母。『夕方になってから病院にきた父と母と、夜、自動車に乗って帰』る途中、『ねえ、おばあちゃんの頭に、花が咲いていたの、見た?』と言う『わたし』に『「花?」と、怪訝な顔をしてふりかえる』母。『牡丹、だと思う。真っ赤で、花びらがたくさんあって…』と続ける『わたし』の前で『両手で顔を覆って泣きはじめた』母。先に降りたそんな母を見送り『悪いこと言ったのかな』と言う『わたし』に『そんなことないさ、かあさんはよろこんでいると思うよ』と返す父。そして『祖母が亡くなったのは次の月だった』というそれからが描かれていくこの短編。この作品中唯一のファンタジー世界が柔らかく描かれる中に『だれも彼も、男も女も、どんな人も、ひとつ、その人の花を持っている』という某グループの有名なあの歌の世界観とも重なる印象的な物語が展開します。とても短い作品ながら、大河小説の読後感にも似た大きな世界観が強く心に刻まれた印象深い作品でした。

    そして三編目は、”プラチナギルド”との提携で描かれた〈消えない光〉という短編。四章で構成され、『なぜ、自分たちは別れることになったんだろう。どこからうまくいかなくなったんだろう』と離婚を決意した夫婦と、『結婚が家と家のものだって考え方がおかしいの、個人と個人の問題でしょ?』と、結婚に対して形式を重視する両親と対峙していく二組のカップルが登場します。そんな二組のカップルがそれぞれの想いのもとに『プラチナリング』と向かい合う様が、絶妙にシンクロしながら展開していくこの作品。指輪というものを前にした二組のカップルの四人のそれぞれの心の内が、指輪を見やる言葉の中に絶妙に垣間見ることのできるとても印象深い作品でした。私は普段、結婚指輪をしませんが、読後に思わずそんな指輪を手にして、この指輪を選んだ時の事ごとを思い返してしまったこの作品。ただの金属を超えた何かを秘める指輪、そんなことを考えさせてくれたこの作品。角田さんの筆の力で、提携作品という商業的な感覚を超え、じんわりとした温かな感情を湧き起こしてくれた好編でした。

    『依頼されなければ書かなかったタイプの小説』を中心に24の短編が収録されたこの作品。人によって小説に求めるものは異なります。何を目的に、何を期待して、そして何を見たくて小説を読むのかというそれぞれの読者の思い。私も気分によっては、心にグサッと突き刺さるような、『人の汚い暗い気持ち』が綴られる、そんな物語を読もうという気持ちになる時もあります。でも一方で、気持ちが弱っている時にそのような内容は、弱った読者の心にとどめを刺すことにもなりかねません。世の中綺麗事だけで回らないのも事実です。しかし、現実がそうであるなら、”非現実”もしくは”非日常”な小説の世界に、正反対なものを求めたくなる時もあるはずです。そう、この作品は、そんな弱ったあなたにの心に寄り添う物語。そう、角田さんの筆の力で心安らかな読後感が保証された物語。

    角田さんの短編の魅力を再認識した、誰もが前向きになれる、そんな作品でした。

    • アールグレイさん
      さてさてさん、こんにちは。私も以前は角田光代さん、読んでいたのですが・・・・おまえじゃなきゃだめなんだ・・・
      読みたくなりました。
      早速登録...
      さてさてさん、こんにちは。私も以前は角田光代さん、読んでいたのですが・・・・おまえじゃなきゃだめなんだ・・・
      読みたくなりました。
      早速登録します。
      2021/03/05
    • さてさてさん
      ゆうママさん、コメントありがとうございました。角田さんの作品はなんともやるせない気持ちの読後感のものも多いですが、この作品は間違いないです。...
      ゆうママさん、コメントありがとうございました。角田さんの作品はなんともやるせない気持ちの読後感のものも多いですが、この作品は間違いないです。角田クオリティが保証された上での安心の読後感。
      今後ともよろしくお願いします!
      2021/03/05
    • アールグレイさん
      こちらこそ、よろしく
      こちらこそ、よろしく
      2021/03/05
  • さてさてさんのレビューを見て購入!
    昨日読み終わりました。

    この本の良さはさてさてさんのレビューを読めばわかると思います…笑

    自分もさてさてさんと同じ3作品が印象に残りました。

    特に最後の「消えない光」
    こんな清々しい別れ方があるのかと気持ちが良かったです。
    角田光代を一度読むと角田光代作品ばっかり読んでしまう

    • アールグレイさん
      先程は失礼致しました。
      sinsekaiさんよりいいねを頂き、~あれ?この方の名前タイムラインで見たなぁ゙と失礼ながら本棚を拝見し、おまえ・...
      先程は失礼致しました。
      sinsekaiさんよりいいねを頂き、~あれ?この方の名前タイムラインで見たなぁ゙と失礼ながら本棚を拝見し、おまえ・・・を見つけた次第です。
      改めまして、フォローを頂きありがとうございます!
      happy!(*^_^*)
      まず、訂正をさせて頂きます。息子はもう、ちびっこ怪獣ではないのです。ゆうママという何とも安易な名にしてしまいました。でも、言い訳をさせて頂くと、ブクログ設定の時、息子に手伝わせたのですが、ニックネームに迷っていると「ゆうママでいいんじゃな~い」と息子に・・・もうママなんて呼びません。ヒゲも濃くなってきたようです。
      私が読んでいる本を息子も読み、本の内容を言い合うのです。邪魔な時もあるのですが。
      角田光代作品でお薦めがあると、先程言っていましたね!私は「紙の月」が強く印象に残っています。最近は他の作家さんに目移りし、角田光代さんは御無沙汰です。何かありませんか?
      コメント好きな私、
      どうぞよろしくお願い致します!
      m(._.)m
      2021/06/01
    • sinsekaiさん
      ゆうママさん、すみませんこちらの勘違いでちびっ子怪獣だと思ってしまいました…
      同じ本を読んで意見を言い合える息子さんなんて!素晴らしい関係で...
      ゆうママさん、すみませんこちらの勘違いでちびっ子怪獣だと思ってしまいました…
      同じ本を読んで意見を言い合える息子さんなんて!素晴らしい関係で良いですね!
      角田光代のオススメだとたくさんあるのですが、最近読んで素晴らしかったのが「薄闇シルエット」です!
      この本もさてさてさんのレビューを見て読んだ本です。
      読む前でも読んだ後でもさてさてさんのレビューは是非読んで下さい。
      こちらもフォローしていただきありがとうございます♪
      拙いレビューしか書いてませんが、たまに遊びに来てみて下さい。よろしくお願いします。
      2021/06/01
    • アールグレイさん
      薄闇シルエット、ですね。ありがとうございます。
      まだ、当分読めそうにありません。図書館から予約本の連絡がありました。予約本が切れて読む本がな...
      薄闇シルエット、ですね。ありがとうございます。
      まだ、当分読めそうにありません。図書館から予約本の連絡がありました。予約本が切れて読む本がなくなった時にと思います。これもスマホにメモです。
      ありがとうo(^-^)o
      そろそろお米を研がなくては・・・・
      (@_@)
      2021/06/01
  • どんな激しい恋愛が描かれているのだろうかと息せききって読んだ表題作。
    なんと・・・、そう来たか(笑)
    まさかね、角田さんが山田うどんを語るなんてね。
    いやーまいった、まいった。

    何を隠そう山田うどんは地元の味ですが、「山田じゃなきゃだめなんだ」なんて熱い思いは全くない。
    人によりけり?
    最近昔よりずいぶん美味しくなったなぁとは思いますが・・・。

    企業コラボでお題ありきの小説でもそれなりに読ませてしまう角田さんはさすが。ティファニーの話もうまいし。
    でもやはりどこか物足りない。
    職業作家としてというか、頼まれた仕事は断らないという角田さんの姿勢もあり、まあ仕方がないのだろうけどやっぱり本来の角田さんの良さがつまった作品が読みたいなぁ。

    その中でも、「それぞれのウィーン」が良かった。
    過去と現在を交差する不思議な出会いの話。
    人の温かさがじんわりと伝わってきて優しい気持ちになれる。

    なんだかんだ言ってもやっぱり角田さん、好きだなぁ(笑)

  • 恋愛、結婚の短編集。
    上手くいっても、いかなくても、その理由は確かではなかったり。
    ぱっとしない感じや意味不明な行動をする登場人物に、惹かれるものが無いような気になるけれども何処か安心感を持てるのは日常はそんな物だと思うからなのかな。
    消えない光の短編は互いに知らない相手を羨ましく思うけれども実際には違っていたり。
    現実はそうだよね。

  • 短編恋愛ストーリー…それぞれの主人公がそれぞれの短い恋愛ストーリーの中でリアルに生きている。
    そんな印象を受けた。

    恋愛ストーリーは人それぞれ。幸せでウキウキもあるけど時にカッコよくないし時に情けなくもあって。たまにストーリーが交錯して。
    ほのぼのとした気持ちになった。

    山田うどん…食べてみたい。

  • 最初は、まるで金平糖の詰め合わせのような短編集だと思いました。少し甘くて、トゲトゲしていて、美しい物語たち。

    途中から短編の雰囲気がすこし変わったな、と思ったら、最初の6篇はティファニーとのタイアップ、その他は山田うどんであったり、プラチナギルド・インターナショナルであったり、タイアップ先が異なるからなんですね。

    恋って、愛って、結婚って、なんだっけ・・・
    いろんな人に出会いながら模索して、時には幼かった過去を振り返りながら私たちは進んでいくけれど、そんな中で忘れられない鍵となる物や場所が存在する。
    それらを思い出させてくれるような、物語たちです。

    昔は私も婚約指輪や結婚指輪なんて…と思っていたりもしましたが、わくわくしながら選んだあの時間は、私にとって時に立ち返れる大事なものです。
    どのお話も素敵ですが、表題作がいちばん好き。

  • 角田さんの本は久々に読みました。

    短編というか、ショートショートというか、とても短い。
    その短い中に、ぎゅっと詰まってるという感じ?
    楽しみました。

  • 企業とのタイアップ小説を中心に集めた短編、全24編。さすが角田さん、安定感あるクォリティ。一方で、安定感ありすぎて意外性を感じないかなというところもあるけれど。全体的に若かりし頃の恋愛を振り返る内容が多く、バブル時代の描写が懐かしかった。そうだよな、当時の若い男女って、高級なレストランだの高価な贈り物だので、互いの気を引くのに必死だったよなと。中でも好きなのが、「最後のキス」/「幼い恋」。彼目線と彼女目線で描かれた対の作品だが、若さゆえすれ違ってしまった恋の終わりが切ない。最後まで大人ぶって、突っ張ってしまうところが尚更。短い作品ながら、角田さんの巧さが光る。
    そして、表題作「おまえじゃなきゃだめなんだ」。埼玉を拠点とし、関東でチェーン展開する山田うどんが描かれているが、かつて埼玉に暮らしていた私は山田うどんが恋しくって!ある女性の恋愛の軌跡に山田うどんを絡めてきたところが角田さんらしいな。
    今回の文庫発売で、個人的に最大の収穫と思っているのが、メタローグ「recoreco」に連載していた「不完全なわたしたち」(『不完全な天体』を改題)が収録されていること。2002~3年発表の角田作品で、まだ本になっていないものがあったなんて!心にぽっかり穴が開いた感じ、今自分はどこにいるんだろうという心もとなさ、いい加減で飽きっぽくて、そのくせつまらないことに執着して…2000年代初め頃の角田作品が醸し出す、胸がざわざわするような空気が大好きなので、この作品はそんな空虚感に満ちていて、懐かしくて嬉しかった。シリーズ中「共栄ハイツ305」だけは他のアンソロジーで既読だったが、今回改めてシリーズの中の一作品として読むと、読後感が変わってくる。
    最終話「消えない光」も胸にずしっとくる。登場する若いカップル同様、恋愛や結婚において指輪を重要視しないという価値観を私も持っていた。だけど、型にはまるということの意味がこの年になって少しはわかる。高価なものはやっぱり苦手だけども、人生におけるジュエリーの存在について、ちょっと考えさせられたかも。
    帯文句「ずっと幸せなカップルなんていない」、本書をうまく言い表しているなと読み終えて実感。角田さんは力作長編もいいけど、短編もさすが巧いなと今回つくづく思った。24作品分、様々な人生を様々な角度から見つめることが出来る、そういう意味ではお得感あるかも。

  • 作品によってこれは女性が書いたものなのか?男性が書いたものなのか?わからない場合が多いのは事実です、私には。でも、宮部みゆきさんや原田マハさんのような場合は、読んでいると表現の繊細な部分が何となく、宮部さんの表現だな!とか、原田さんの表現だな!と感じ入ってしまう。やはり性別と言うよりも個性という感じがする。

    普通は性別ではなく、作家さん個人の書く内容によって、個性によって、その描写やストーリーによって面白いか?とか、感動するか?ということを感じています。

    しかし、角田さんの文章を読むと、その中に確かな女性の感性が滲んでいるような気がする。

    まだ、角田さんの作品は賞を取ったような代表作は手付かずなのですが、この短編集は凄かった。

    キラキラした作品から村上春樹さんの作品のテイストがする作品まで(私が言うのもおこがましいですが。角田さん、村上さんごめんなさい)。

    自分には無い女性の感性を、感じ方や考え方を教わるような気がするのです。

    この作品もジュエリーや久しぶりに思い出す同級生、結婚に対する考え方、特にバブルを過ごした後の表題作「おまえじゃなきゃだめなんだ」等々のストーリーを通じて、ものの見方が一段深くなったような気がします。

  • 一度は言われてみたいと思えるタイトルに惹かれ手に取りました。
    全24編が収録された恋愛短編集です。

    どの短編も派手さはなく誰もが経験する様な日常のひとこまを切り取った様な作品です。

    それぞれの主人公が体験する恋愛の喜びやトキメキ、苦しみや別れ… 。

    等身大の恋人たちがそこに存在していて感情移入出来る作品でした。

    角田さんの長編に時折見られる毒の部分は一切なくソフトで優しい短編集で読後感も爽やかでしたがショートショート的な作品が多く全体としては物足りなさも残りました。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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