赤い砂 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 150
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167915889

作品紹介・あらすじ

男が電車に飛び込んだ。現場検証を担当した鑑識係・工藤は、同僚の拳銃を奪い自らを撃った。電車の運転士も自殺。そして、拳銃を奪われた警察官も飛び降りる。工藤の親友の刑事・永瀬遼が事件の真相を追う中、大手製薬会社に脅迫状が届く。「赤い砂を償え」――自殺はなぜ連鎖するのか? 現代(いま)を映し出した書き下ろし傑作!

いきなり文庫!

『代償』50万部突破
『悪寒』30万部突破の著者が放つ
感染症×警察小説

国立疾病管理センター職員、鑑識係、電車の運転士、交通課の警察官
――4人の死の共通点は、
「突然錯乱し、場合によっては他者を傷つけ、最後は自殺する」こと。

彼らに何が起きたのか――?

感想・レビュー・書評

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  • 電車へ飛び込み自殺した男の遺体処理に携わった警察官や鉄道の運転士らが相次いで錯乱自殺。やがて大手製薬会社に「赤い砂を償え」との脅迫状が届く。同期の親友を亡くした刑事・永瀬が自殺の連鎖と親友の名誉を取り戻すために事件の真相を追うミステリ。

    最近読了した【祈り】から、伊岡瞬のミステリ作品が読みたくなり積読棚から引っ張り出した。

    なんと、本作は今般世界で蔓延中のコロナウイルスが流行するもっと前、しかも彼のデビュー作より前に執筆されていた事実を後書きで知った。今から約20年前にまるで予言書のようにウイルスによって人体が侵されていく恐ろしさが、既に伊岡瞬の脳内で組み立てられ描かれていたのだ。

    いやはや、やはり伊岡瞬のミステリは面白い。
    また警察小説ともあって、大好物の私としては贅沢な1冊であった。

    私的な見どころとしては警察内部の闇や天下り体質、企業の派閥争いにも臆することなく、熱血刑事の永瀬が勇猛果敢に挑み追求していくスリリングな展開と、製薬会社の担当が延々とウイルスについてうんちくを語るシーンだった。

    特に後者は非常に興味深かった。

    ウイルスは生物ではないから薬は効かないかこと。また、ワクチンと薬は全く別ものであること。

    数年前にも実際に西アフリカでエボラ出血熱が発生し、ニュースでも報じられていたことを思い出した。
    重篤な罹患者は最期に体じゅうの穴から出血して死に至り、その血に触れた人は感染すると。

    ワクチンとは、人間の体内でウイルスと対峙すべく免疫システムを補助するものであること。しかしながら、ウイルスによっては「変異」が頻繁に起こること。
    まさにコロナウイルスがタイムリーな変異株であろう。

    伊岡瞬も、まさかこんな時代が本当に訪れるとは思っていなかったであろう約20年前に、諸説も含め相当な情報収集を行ったそうだ。その姿勢に敬意と敬愛を。

    本作も伊岡瞬が得意とする「著者の想像に委ねる終い方」でエンディングを迎えるのだが、今回のラブロマンティックな終い方は個人的に好みではなかったのだけが少々残念だった。

    しかし、やはり安心と信頼の伊岡瞬品質は本作でもしっかり発揮されており満足のいく作品であった。

    • himahimaoさん
      いいねありがとうございます
      いいねありがとうございます
      2022/07/24
    • akodamさん
      himahimaoさん、こんにちは!
      コメントいただき嬉しいです(´∀`*)
      今後ともよろしくお願いします^ ^
      himahimaoさん、こんにちは!
      コメントいただき嬉しいです(´∀`*)
      今後ともよろしくお願いします^ ^
      2022/07/24
    • himahimaoさん
      akodamさん、こんにちは!
      こちらこそよろしくお願いします^ ^
      akodamさん、こんにちは!
      こちらこそよろしくお願いします^ ^
      2022/07/25
  • まだページ数残ってるな、と思って読んでいたら残りはあとがきだった。
    ここで終わり?と思ってしまったが、その後じわじわと、こういう終わり方結構好きだな、と。
    しばらく余韻に浸った。

    伊岡作品は5冊目。
    またしても男臭い男性と、私があまり好きではない感じの女性が出てきた。
    やっぱり男性に好まれる作品なのかな、という感想。

  • 一匹狼で他人に心の内を見せず本音で語ろうとしない孤高で厚い皮。一方、同僚の自殺に違和感を覚え自身を顧みず強い信念で事件を追う熱い魂を持った永瀬氏に「小籠包系男子」の異名を授ける。

    異次元さの無い、今にドンピシャで当てはまる「赤い砂」のおぞましさに釘付けだ。何かのためにリスクの高い何かを、善良の心と邪悪の心で使い方が180度変わる様は現代のどこにでも当て嵌る永遠のテーマなのだろう。
    いやぁ、実は自分って凄い暇人なのかも、と悲しくなる程空き時間を貪欲に確保にかかる1.5日だった。

    無と錯乱。このイコールで繋がらない感情の融合がなんとも薄気味悪く、連鎖を偶然にしたい組織と、その組織に反する小籠包デカに直接的ではなくともずっと手を添えてくれていたパパ籠包。
    ストーリーは勿論、リアルな制御具合 裏切りまでいかない打算、見事に人の血が通ったキャラクター達に魅力しか感じずページをめくる手が止まらない。誰か助けて下さい。ワクワクすると体が揺れる謎体質の私の挙動不審度は最高潮です。

    彼の走り抜けたこの500ページの終着は、私の大きく高鳴った心臓をキュッと掴まれた。恐らく人に奨めまくるであろう個人的大傑作品だ。お昼は小籠包を食べに行きたいと思います。

  • そのウィルスに感染すると、まずは風邪の症状が出て、二週間ほど経った後、突然錯乱し、場合によっては他者を傷つけ、最後は自殺してしまう。

    男が電車に飛び込むところから物語の幕が上がる。
    現場検証をした鑑識係、工藤は同僚の拳銃を奪い、自らを撃った。その拳銃を奪われた警察官も飛び降り自殺をする。

    友人の工藤が不可解な行動に及んだことで、刑事の長瀬遼はこの一連の自殺に疑問を持ち、独自で捜索を始める。


    まず調べてしまったのが、この作品がいつ書かれたのかだ。
    コロナ禍の中、執筆されたのか?
    否だった。それよりずっと以前、インフルエンザの薬、タミフルで異常行動するというニュースのもっと前だというから凄い。

    伊岡先生にしてはパンチが弱い気もしたが、それでもあっという間に読めてしまうのは、やっぱり面白いからなんだろう。

    先生のお名前で、期待し過ぎてしまった為、評価は★3.4くらいでm(_ _)m

  • 感染すると自殺するウイルス…恐ろしい。しかも乾燥させて粉末状にすれば長期保存できて、水に溶かすと感染力が復活するって…そんなウイルスが存在することが果たして現実的なのかはわからないけれど、もしあったとしたら本当に犯罪にはもってこいの悪魔のウイルスだと思った。

    同僚であり友人でもあった工藤の拳銃自殺に疑問を持ち、たった一人で捜査をする永瀬。一方、エイズウイルスの特効薬をいち早く完成させるために違法にウイルスを持ち込み、しかも盗み出されてしまったことを隠蔽しようとする大企業と警察組織。
    少しずつ謎の糸口は見えながらもなかなか全容を見せない展開が面白かった。

    エンディングは、ちょっとモヤモヤ。永瀬は感染していたのか…発症した暢彦は助かったのか…
    結末は読者に委ねます。という結末はあまり好きではないので、もっと最後まで描ききって欲しかった。これはあくまでもその人その人の好みなんですけどね。

  • ある人物が、自殺する場面に居合わせると、その二週間後に錯乱状態になり、無言のまま自殺する。
    「赤い砂を償え」-自殺はなぜ連鎖するのか…。

    一体どういう話なのか、凄く興味をひかれました。

    そして若き刑事の永瀬の同僚の工藤も幼い息子を遺し、同様の症状で死んでいます。
    永瀬は工藤の為に事件を追い、第一の犠牲者の阿久津と同じ会社に勤めていた有沢美由紀が秘密を握っているのに気が付きます。
    そして、美由紀がそのあと失踪してしまいます。
    これには「赤い砂」と呼ばれる、西寺製薬によるウイルスサンプルが絡んでいることがわかります。

    そして、狂った犯人の「赤い砂」を使った犯行はとても恐ろしいものでした。
    陰惨な事件だと思いました。
    犯人の魔の手が真相を突き止めた永瀬にも伸びてきます。
    そして美由紀は助かるのか…。

    友人のために命がけで奔走する若き刑事の物語です。

    • くるたんさん
      まことさん♪こちらでもこんにちは♪

      タイムリーなテーマでしたよね。こんなに簡単に…感染の仕方も怖かったです。
      デビュー前に描かれていたのも...
      まことさん♪こちらでもこんにちは♪

      タイムリーなテーマでしたよね。こんなに簡単に…感染の仕方も怖かったです。
      デビュー前に描かれていたのも驚きでした。

      ラストシーンもその後はどうなるのか…余韻が残りますね。
      2020/12/25
    • まことさん
      くるたんさん。
      タイムリーなテーマでしたね。
      エボラ出血熱から、ヒントを得て書かれたとか。
      ラストは、てっきりハッピーエンドだと思って...
      くるたんさん。
      タイムリーなテーマでしたね。
      エボラ出血熱から、ヒントを得て書かれたとか。
      ラストは、てっきりハッピーエンドだと思っていたのですが。
      絶対に助かって欲しいです。
      2020/12/25
  • 一人の男性の電車への飛び込み自殺。その死に関わった人達の自殺の連鎖。自殺者の一人、同僚の刑事の死に疑念を抱く刑事。解決されぬまま、3年が過ぎ、新たな自殺者の身辺から「赤い砂」と呼ばれるウィルスの存在が明るみに出てくる。そして、製薬会社の許されぬ思惑が見えてくる。
    ウィルスによるパンデミックの恐怖そのものを描くのではない様ですね。もちろん感染の恐怖や感染経路などウィルスの性質等は書かれています。テーマは、ウィルスのワクチン製造による製薬会社の求める利益、それを巡る水面下の交渉、警察をも含む組織的な隠蔽といった、社会構造への反抗に重きが置かれているようです。
    事件を追う刑事も、ウィルスを追うというより、同僚の無念を晴らしたい、気になる女性を助けたいといった行動の様です。
    20年以上前に書かれた未発表作品ということには驚きます。作品に登場するウィルス感染に関する知識等もまさにコロナ禍であるから面白さがましてきます。ストーリーはそれほどひねりはありません。
    小松左京の「復活の日」が読みたくなりました。

  • デビューより前に作った作品みたい。
    エボラとか、映画「アウトブレイク」とかが注目された頃かな?
    それが、コロナのご時世で復活やな。
    かなり修正は入ったとは言え、デビュー前にこれやから、やっぱ凄い!

    こういうウィルスは、怖がってても、研究しないといけない。しかし、近くに、そんな施設あったら怖い。更にこんなにセキュリティ甘いのが…

    ウィルスの恐怖はうたってるけど、あくまでも警察小説。
    同僚であり友人の不審死を解明の為に、あの手この手を使って頑張る永瀬刑事。
    調べていくうちに、友人以外にも同時期に、不審な自殺者が…
    こんなウィルス安易に扱うなよ〜
    半分、金持ちの道楽やんけ〜

    やはり、この刑事も組織人とは一線を画す。こういう人好きです〜

    ラストは、ええ感じのような、これからどうなるねんって感じのような…

    まだまだ、コロナ禍の余波が続いている昨今には同調しまくります〜

  • ある日、疾病管理センター職員の、阿久津久史が、JRの駅ホームから落ち、即死した。
    二週間後、その事故を担当した、鑑識係の工藤巡査部長が、同僚の拳銃を奪い、発砲し、重傷を負わせ、自分を撃って死亡した。
    同日、阿久津を轢いてしまった、JRの運転手、早山郁雄が、車にはねられ死亡。
    更に、二週間後、工藤巡査部長に撃たれ、重症を負った、山崎巡査も、病室から飛び降り、自殺。

    どう考えても、偶然とは思えない。
    工藤の大学の同窓生であり、親友の永瀬遼刑事が、事件の真相を追う。

    その頃、大手製薬会社に「赤い砂を償え」と書かれた脅迫状が届く。

    赤い砂とは何か。
    四人の自殺者と、大手製薬会社との関係は…

    初作家さんだったが、とても読みやすく、分かりやすい作風だった。
    他の作品も読んでみたい。

  • 初めてコロナが発生した時ってこんな感じだったんだろうなあ、と思える作品。

    ある男がホームに来た電車に飛び込んで自殺する、という衝撃的な場面から物語が始まる。その処理に関わった人間も連鎖的に自殺してしまう。自殺した人間に共通点はあるけど、はっきりした事は言えない。同僚の自殺に納得がいかなかった刑事の永瀬は、真相を探ろうとする。そして、題名にもなっている"赤い砂"と呼ばれているウイルスが関係してるのではないのか?と考える。このウイルスがとても恐い。ウイルス全般怖いんだけど、"赤い砂"は最後は自殺するっていうのが恐い。読んでて思い出したのが同僚との会話。コロナ禍初期ぐらいの時に、「ウイルスに色がついてればいいのにね。そうすれば対策が出来るのに。」という話をしてたな。それが出来てたら、こんなにみんな困ってないんだけど。フィクションなんだけど、今の世の中、実際あるのでは?と思ってしまう。
    そしてもっと恐いのがやっぱり犯人。サイコパスっていう事なんだろうけど、考え、行動がどうしても理解できない。そう思うと人間が一番恐いかな。

    このウイルス関係で製薬会社が出てくるんだけど、これにイラッとする。身勝手な利権争いや責任の押し付け合い。あとは警察庁と警視庁。(私はこの二つの組織の違いがよく分からない)この二つの組織も隠蔽だの派閥争いだので、またまたイラッとする。こういう上の人たちの身勝手な考えのせいで、一般人がいつも犠牲になるんだよね。

    私は本庁から来た刑事、長谷川が好き。永瀬の相棒なんだけど、いい人だと思ってたけどなかなかの人だった。野心あり、おいしいところは持っていってしまうしたたかな刑事。それでも私はなぜか好き。

    最後、永瀬と事件の関係者、有沢美由紀がどうなるのか?気になる終わり方で、そこがモヤっとしてしまう。どうかハッピーエンドでありますように。

    伊岡瞬さん。私にとってハードルがあまりにも高くて今まで手が伸びなかった。でもこの作品は、レビューを読んでどうしても読みたくて思い切って伊岡瞬の世界へ飛び込んでみました。結果は飛び込んで良かった。面白かったです。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。2005年『いつか、虹の向こうへ』(『約束』を改題)で、第25回「横溝正史ミステリ大賞」と「テレビ東京賞」をW受賞し、作家デビュー。16年『代償』で「啓文堂書店文庫大賞」を受賞し、50万部超えのベストセラーとなった。19年『悪寒』で、またも「啓文堂書店文庫大賞」を受賞し、30万部超えのベストセラーとなる。その他著書に、『奔流の海』『仮面』『朽ちゆく庭』『白い闇の獣』『残像』等がある。

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