平成くん、さようなら (文春文庫 ふ 48-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167916886

作品紹介・あらすじ

社会学者・古市憲寿、初小説。
安楽死が合法化された現代日本のパラレルワールドを舞台に、平成という時代と、いまを生きることの意味を問い直す、意欲作!


平成を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送る「平成くん」は合理的でクール、性的な接触を好まない。だがある日突然、平成の終わりと共に安楽死をしたいと恋人の愛に告げる。
愛はそれを受け入れられないまま、二人は日常の営みを通して、いまの時代に生きていること、死ぬことの意味を問い直していく。
なぜ平成くんは死にたいと思ったのか。そして、時代の終わりと共に、平成くんが出した答えとは――。
『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』などで若者の視点から現代日本について考えてきた著者が、軽やかに、鋭く「平成」を抉る!

感想・レビュー・書評

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  • 卒業式があったり、映画に夢中になっていたり…
    気が付けばレビューがすっかり遅くなってしまいました。
    『流れる季節の真ん中で、ふと日の長さを感じます』
    3月9日ですね。

    あの子も、安楽死の合法化を夢見ていた。
    いつも難しい哲学書を読んでいて、わたしとはいつも、本の話をしていた。
    そんな彼に、わたしはまだ読んだこともないシオランを勧めた。
    読んだこともない本を勧めるなんて、無責任だっただろうか。
    彼は独自の理論を展開するから、所謂「普通の」世界にいる子どもからは、遠巻きに見られがちだった。
    いつも死のことを考えている彼の将来が、進路が、心配だった。
    でも、本人も思ってなかったくらいレベルの高い、記念受験だった大学に受かり、あからさまに表情がよくなった。
    そこには、生きることへの絶望ではなく、希望があった。
    あれから一年と少し。
    彼は今、何を考えているのだろう。
    今でもまだ、安楽死を望んでいるのだろうか。

    ここに描かれているのは、「安楽死」が合法化された世界。
    しかし、だれでも安楽死を選択できるわけではなく、カウンセラーや医師との面接等、条件が必要だ。
    物語の中では、日本は世界で最も安楽死をしやすい国として描かれている。
    そして、実際にある作品や事件(秋葉原通り魔事件など)を描きながら、物語の世界観が作り上げられていく。

    都会の街並み、最先端のサービス、高価なブランド服、豪華な外食、テレビ出演、執筆活動…
    こんなの、わたしはどこかで狂いそう。
    主人公の恋人・平成(ひとなり)くんは、そういう世界で、淡々と暮らしている。
    元号が「平成」になった日に産まれたことで、「平成(ひとなり)」と名付けられた。
    彼がある日突然、安楽死を考えていると、恋人に打ち明ける。
    恋人は帯にある言葉を尋ねる:「ねぇ平成くん、なんで死にたいと思ったの?」

    とても失礼な言い草だとわかってはいるけれど、なぜこの作品が芥川賞候補になったのか、少し謎が残る。
    最近『この世の喜びよ』を読んだせいか、描写に幅の少なさ(=詳細に描き過ぎている)を感じてしまう。
    現実世界に一段付け加えるような形で作り上げた世界なので、とても分かりやすく伝わってくる部分もあれば、それが逆に大衆文学のようになってしまって、どうにも芥川賞候補としてはチャラすぎるような印象がぬぐえない。

    たぶん、この作品においては、「描写を減らして想像を広げてゆく」楽しみ方ではなく、描写を多くして現代を生きる人たちをわかりやすく描いた上で、一番根っこにある「生きるとは、死ぬとは」という、根源的な部分を問うているのだと思う。
    村田沙耶香さんの芥川賞受賞作品『コンビニ人間』も同様に読みやすく、そこには「普通とは」という根源的な問いがずっと横たわっていた。
    それと同じような感覚なのかもしれない。

    わたしは最後まで読んだけれど、やはり「安楽死」というものに全面的に賛成はできなかった。
    だけど、たとえば大切な人が病気で、どんな治療を施したとしてもあと数時間とか数日しか生きられず、自分の目の前で苦しんでいて、その苦しみが死ぬまで続くものだとしたら。
    治療が確立していない病気で、心身ともに、自分だけでなく周りも巻き込みながら、日常生活を送り続けないといけないとしたら。
    わたしは専門家としては、彼らを案じ、支え、生きてほしいと願う。
    でも、それが自分のこととなったら、そのときどういう判断をするだろう。
    大切な人が安らかに亡くなってほしいと思う瞬間があると思う。
    自分もこの人も、一緒に死んだら一緒に楽になれる、と思う瞬間があると思う。
    「安楽死」は、その時自分の味方になってくれる手段の一つにはなってくれるだろう。
    だけど。

    平成くんの「死にたい」理由はちょっと別のところにある。
    わたしはそれを、100%は理解できてない、というのが正直なところ。
    でも、今の時代の「死にたい」ってやっぱり、究極の「生きたい助けて」だと思う。
    ずっと頭の中で”自分ならどうやって平成くんを説得するか”を考えてしまってあんまり集中できずに読了。
    あと、読みながらどうしても平成くんが古市さんの実写となってしまったことも集中できず…

    用語解説が付いているのを知ったのは最後、物語を読み終えてからだった。
    もっと事前に知りたかったけれど、読んだところで自分の教養のなさにぶち当たるだけだった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      > 「自死」と変わらないですよね。
      そう思いますし、
      ギリギリで思い止まっていた人へ圧力掛けたりも出来る...
      naonaonao16gさん
      > 「自死」と変わらないですよね。
      そう思いますし、
      ギリギリで思い止まっていた人へ圧力掛けたりも出来るでしょう。
      意思疎通の難しい人に、無理矢理同意させるコトも出来るでしょう。
      「安楽死・尊厳死」の中に「自死・自殺」「嘱託殺人」等が組み込まれて増えるかも。。。

      身体の自由が失われたら死ぬ。と言う人は、不自由の中で生きている方々に対して非常に失礼。
      莫迦な法案が実現すれば
      「周りが私に楽になれ。と仄めかす。」と要らぬ心配をする人が、、、
      2023/03/10
    • naonaonao16gさん
      にゃんこさん

      ほんとに仰る通り過ぎて…
      「あるものがなくなった」時のしんどさは尋常じゃないと思うし、その程度が大きければやはりしんどさも強...
      にゃんこさん

      ほんとに仰る通り過ぎて…
      「あるものがなくなった」時のしんどさは尋常じゃないと思うし、その程度が大きければやはりしんどさも強くなるとは思います。

      安易に「生きててほしい」なんて言えないけれど、やはり制度が死への背中を押す可能性がある、というのがなんとも。

      でもこの国には、窮地に追い込まれた人をキャッチする法律がない部分もあると思うんです。
      そういう時に「じゃあ死ねってこと?」って思う時があります。
      (知識不足かもしれないけど)

      そんな時、この制度があることの怖さ。
      話を深めれば深めるほど怖くなってきます。
      2023/03/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      > 安易に「生きててほしい」なんて言えないけれど
      猫は言葉足りずで何度も失敗していますが、、、懲りる予定無し。...
      naonaonao16gさん
      > 安易に「生きててほしい」なんて言えないけれど
      猫は言葉足りずで何度も失敗していますが、、、懲りる予定無し。。。

      > 窮地に追い込まれた人をキャッチする法律が
      法律を改悪するのは好きだけど、必要としている人が多い(その原因を作ったのも彼等ですが)コトには関心がない。そんなのしか選ばなかった我々の責任だから、少しでも出来るコトはする!
      2023/03/11
  • やたら固有名詞が多くて、君津ファンタジーキャッスルとか、若者の主張とか、思わず調べてしまった。安楽死も認められたのかとつい勘違いしてしまうほどに妙にリアルだった。
    それを狙っての固有名詞の連発だったのか?
    なんだか金持ちの生活をチラリと見せつけてられただけのような気もするけど、きちんと「安楽死」というテーマに目を向けると、切なく苦しい。
    大事な好きな人からGoogleホームのようなスピーカーをもらい、相手が生きてるか死んでるのかもわからない状態とはかなりキツい。
    でもある意味、見たくないことに背を向けて希望に縋ることもできる。
    どちらにしろ、残酷なことだと私は思った。

  • 婆さんにはついて行けない本だった
    友人にプレゼントされたのだけど
    TV見ないし著者も分からない

    平成
    超高級な洗練された暮らし
    そして、安楽死
    AI

    ああ、分からない
    お手上げです

    ≪ 平成は 昭和のつけが さようなら ≫

  • #読了 2021.10.27

    平成が残り半年になった頃に刊行された本書(の単行本)。ずっと気になっていたので、文庫になったタイミングで手に取った次第。初小説ということだけど、とても読みやすい文章だった。

    「平成くん」は作者に似てるのかな?理論的で一見ドライだけど、案外本人自身はニュートラルというか。元々人と感覚の違う平成くんが、最後まで飄々と掴みどころがなく、それでいていわゆる人間らしい感覚を愛ちゃんと一緒に理解していって、それまでの想いも愛ちゃんに伝えていくかんじがよかった。

    古市さんが書く恋愛ってのがまた違和感があっていい。古市さんもジェラートピケとか知ってるんだぁ!って(笑)
    でもやっぱ愛ちゃんの感情を古市さんが持っているというより、こういう感情になるんでしょ?って書いてるかんじがして愛ちゃんに感情移入できるほどの文章ではなかったけど、全体として愛ちゃんの切なさは伝わってきて良かった。特に、理論的な平成くんが、愛ちゃんと無駄話をする時間が大事だったって気付いて、それをちゃんと愛ちゃんに伝えてたのが良かったし、切なかったなぁ。

    平成が終わる時、ちゃんとセックスしてる!セックストイ片付けようとしてる!ってちょっと嬉しくなったのも束の間、「愛ちゃん」じゃなくて「愛」って呼んだときに、あ今いる相手は平成くんじゃないのかって気付いたときの寂しさと、でも恋愛の傷は恋愛で癒すのが1番いいし!って思ったり。そこも切なくて良かった。

    ネコの部分は、もうほんとに愛ちゃんと一緒に心がグーッてなった。今年春に実家のネコ14歳が亡くなったばかりだったので。

    安楽死がある世界という点では、社会学者がどのように表現するのかワクワク!…と期待が大きすぎたかちょっと物足りなかったです。「百年法」や「消滅世界」のような感じを期待してしまったからかなぁ。もっと大衆心理とか安楽死があることで変わることと変わらないことを、自分たちが関わるところだけじゃなく、もっともっとふんだんに欲しかった。例えば、テレビCMや保険プラン、会社の休暇制度とか、SNSの投稿内容や若者に起きやすい犯罪とか、安楽死が存在することで今とは違う部分が出てくるはず。当たり前にあるものが若干違うような「へぇ!なるほどそんな感じなのね!」ってのがたくさんあると「あ、そこはうちらの世界と変わらないのかぁ」ってのも活きてくるし。社会学者だからこその視点&妄想爆発のリアルなパラレルワールドをもっと見たかったなぁ。



    ◆内容(BOOK データベースより)
    平成を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送る「平成くん」は合理的でクール、性的な接触を好まない。だがある日突然、平成の終わりと共に安楽死をしたいと恋人の愛に告げる。愛はそれを受け入れられないまま、二人は日常の営みを通して、いまの時代に生きていること、死ぬことの意味を問い直していく。なぜ平成くんは死にたいと思ったのか。そして、時代の終わりと共に、平成くんが出した答えとは―。『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』などで若者の視点から現代日本について考えてきた著者が、軽やかに、鋭く「平成」を抉る!

  • Uber、アンダーズ東京、マークジェイコブス、フィオレンティーナのケーキ、性的な描写も出てくるものも(お金持ちではあるが)意図的に執拗に上流の平成らしい価値観を書いているように思う。リメンバーミーや君の名は。がサラッと会話の中で前提として出てくるあたりがリアリティがある。一方で安楽死が合法化された未来、平成くんの最後などが日本で実現可能になりそうな科学技術でSFチックで、平成のリアリティさとうまく融合して書いているなと思った。よくも悪くも著者をテレビでよく知っているからわざとらしさが目についてしまうけど、現代社会批判に偏ることなく、口先では理路整然と言ってても結局は自分の五感で感覚的に生きてる素直でずぼらな平成くんの描かれ方よくて、読後感も悪くない、読んでよかったなと思った。

  • 平成くんはその名の通り、平成生まれ。
    平成が終わろうとしているとき、同棲している恋人の愛に、安楽死しようと思うと伝える。

     安楽死が認められるようになり、制限はあるものの自分で死ぬ権利も持てるようになった世の中。
     苦しみの中で、生を断ち切りたいと思う人がいる一方、死へと周囲からの圧で追いやられる人もいて。

     本当に死を求めているのか、一時的な考えから死にたいのか、その線引きの難しさを思う。
     いつか日本も、安楽死が認められる日が来るのだろうか。

  • 悲しくて愛しくて涙がどんどん溢れた
    誰かは違う気持ちを持つかもしれないけど、私にとってこの物語はずっと心に残る作品だと思う。
    平成くん、愛ちゃん、ミライ、またあの39階でずっとそのまま。またね


  • 平成生まれのヒトナリ(平成)くんは
    メディアに出る時代の人。
    一緒に暮らす愛は、彼から突然
    安楽死をすると告げられる。

    平成の時代の終わりとともに、自分の時間も
    終わると言う平成くんの安楽死をなんとか
    止めようと愛は必死になる。

    愛の気持ち、平成くんの理由
    二人は反発と尊重の両端で揺れる。


    大事な人から安楽死をすると告げられたら、
    一体どう思うだろう。
    どれだけ打ちのめされるだろう。
    どうして安楽死を希望するのか、
    理由を知ることはできるだろうか。
    建前の理由ではなく本音を聞いた時
    それを受け入れられるだろうか。

    テーマは安楽死でもあるし、
    何をもって生きてるというか。
    もう一度読めば、作者の意図に少しは
    近づけるだろうか、、、。

  • 本屋さんで、なんとなくタイトルを聞いたことがあるなと思い、手に取った。
    冒頭が刺激的過ぎて、ちょっと動揺。
    え、どういう話なの、これ。
    しかもたまにTVで見かける古市さんじゃないか。
    小説書いてたの?
    しかも芥川賞候補作??
    というわけで色々気になり、購入に至った本。

    読み終わった感想は、色んな感情が残ったけど、やっぱり面白かった!というのが一番かな。
    設定も面白い。安楽死が認められているパラレルワールドの日本。変な言い方だけど、現実的っぽくて面白い。
    文章も新しいと思う。形容詞が少なく、固有名詞だらけ。人によっては拒否反応を示す人もいると思うけど、テスト的に敢えて使ってみたんじゃないかな、古市さん。私は新鮮に感じて、逆に光景がまざまざと頭に浮かんで、まるでドラマを見ているような感覚で、とても面白い手法だと思った。

    結局、平成くんは、終わった人間になりたくなかったというよりは、愛ちゃんの永遠になりたかったのかもしれない。
    生きてるんだか、死んでるんだかわからないなんて、私なら一生気になって忘れられない人になると思う。

    古市さん、面白かったですよ!
    次作も楽しみにしてます!

  • いつもTVで見ている古市さんぽい。
    ※実際はわからないけど。

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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