極夜行 (文春文庫 か 67-3)

著者 :
  • 文藝春秋
4.21
  • (55)
  • (42)
  • (17)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 657
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167917722

作品紹介・あらすじ

ノンフィクション界のトップランナーによる最高傑作。

ヤフーニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞、W受賞!



探検家にとっていまや、世界中どこを探しても”未知の空間“を見つけることは難しい。大学時代から、様々な未知の空間を追い求めて旅をしてきた角幡唯介は、この数年冬になると北極に出かけていた。そこには、極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間があるからだ。極夜――「それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い漆黒の夜である。そして、その漆黒の夜は場所によっては3カ月から4カ月、極端な場所では半年も続くところもある」(本文より)。彼は、そこに行って、太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのかを知りたかった。その行為はまだ誰も成し遂げていない”未知“の探検といってよかった。

シオラパルクという世界最北の小さな村に暮らす人々と交流し、力を貸してもらい、氷が張るとひとりで数十キロの橇を引いて探検に出た。相棒となる犬を一匹連れて。本番の「極夜の探検」をするには周到な準備が必要だった。それに3年を費やした。この文明の時代に、GPSを持たないと決めた探検家は、六分儀という天測により自分の位置を計る道具を用いたため、その実験や犬と自分の食料をあらかじめ数カ所に運んでおくデポ作業など、一年ずつ準備を積み上げていく必要があった。そしていよいよ迎えた本番。2016年~2017年の冬。ひたすら暗闇の中、ブリザードと戦い、食料が不足し、迷子になり……、アクシデントは続いた。果たして4カ月後、極夜が明けた時、彼はひとり太陽を目にして何を感じたのか。足かけ4年にわたるプロジェクトはどういう結末を迎えたのか。
読む者も暗闇世界に引き込まれ、太陽を渇望するような不思議な体験ができるのは、ノンフィクション界のトップランナーである筆者だからこそのなせる業である。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 探検ノンフィクションの快作。

    あなたはまったく光のない暗黒世界で4ヶ月間過ごせるだろうか。しかも氷点下30度以下の極寒の地で、たったひとり。

    本書はそんな探検の話だ。2016-17年の冬、グリーンランドの極夜期間に単独で(お供に犬が一匹)ソリを引き、北極点を目指す。

    この探検にあたり著者の角幡さんは3年をかけて入念に準備している。それでも、この旅には試練しか訪れない。残酷なほどに。

    心身に不調をきたす<極夜病>。猛り狂うブリザード。極夜の女王<月>にすがり、騙され、食料を失い….。

    著者は言う。探検・冒険とはシステムの外側の領域に飛び出し、未知なる混沌の中を旅する行為なのだと。
    この探検でのシステムの領域外とは<根源的未知>である極夜だ。過酷な暗黒世界で死にかけたあとに見る太陽は果たして彼に何をもたらすのか。

    この恐ろしくも美しい探検を是非読んでみてください。

  • 探検家である著者角幡唯介氏は、とってもクレイジーな人間であることが良くわかりました。(悪口ではありません)

    最近、この歳になって気付きました。常人ではできないことを平然とやってのける人、その人の生きざまを知ることが楽しくて仕方ない。

    犬一匹と脱システムで、人生に勝負をかけた旅「極夜行」に挑んだ彼は、まさしく常人ではありませんでした。
    未知の領域を教えてくれる冒険紀行です。

    自然には抗えない。陽が昇る日常に感謝。

  • 極夜(日の昇らない暗闇の季節)の中、グリーンランド北西部シオラパルクからさらに超極北を目指した単独行。お供は橇引き犬ウヤミリックのみ。2016年12月6日~2017年2月23日まで80日の過酷な道中を綴った探検譚。

    常人なら、超極寒の地を暗闇の中旅しようとは思わないわな。考えただけでも気が狂いそう。一体何のために? 「極夜の世界に行けば、真の闇を経験し、本物の太陽を見られるのではないか」、「極夜の果てに昇る最初の太陽を見たとき、人は何を思うのか」知りたい、ということらしい。また、旅の終盤で著者は「出生行為を追体験したいという無意識の願望の表れ」、「深層心理に眠る出生の記憶が、私をこの極夜の旅に向かわせた」などとも書いているが…。(思いついちゃったってことなんだろうけど)これはさすがにこじつけっぽいでしょう。要は前人未到の領域に一番乗りしたかったってことでしょ。

    傑作だったのは、「犬全般に当てはまることだが、彼らは基本的に人糞が大好物である。…犬は…いつも脱糞口のあたりに駆けよって…豚のようにばふばふとがっついていた。犬が旨そうに糞を喰らう様子を、私は毎日、その食いっぷりに惚れ惚れとしながら眺めていた」、そしてついには「犬が突然、私の背後に近づいたかと思うと、まだ完全にブツを出し切っていない私の肛門に鼻面を近づけ、もうたまらないといった様子で穴から出てくる糞をばくばくと食い出した」! 思わず怖気が。いやいや、食べ物の好き好きは生き物それぞれですから(笑)。それにしても、糞に栄養あるのかな。

    4年越しの計画、最初から最後まで不運というかトラブル続き。著者はその都度不運を嘆いているが、準備を抜かっていたというか、リスクを甘く見ていたというか…。死の恐怖に怯え、自然を呪いまくったかと思うと、状況が改善すると途端に過酷な状況にもっと身を置きたかったなどと冒険家的豪語も。感情の起伏が激しく、生への執着の強さも半端ない著者。

    それはそれでいいのだが、橇引き犬の扱いには読んでいてさすがに腹が立った。餌も十分用意せず生死を賭けた過酷な探検に勝手に連れ出しておいて、橇引きでこき使い、きちんと引かなければ時に殴る蹴るの暴行を加えた挙げ句、食料が減ってきたら殺して食べることを真剣に考える。そして人間と犬との欺瞞なしの「原始融合状態」を味わえた、「はからずも犬の肉を食って生き延びようとすることで、私もまたむき出しの生と死のモラルの一端に触れることとなった」等と一人悦に入っている。この態度はどうなのよ。食料分けあって最後は一緒に死のうくらいの覚悟がなくてどうする(笑)。

    「現代システム」の外に飛び出して古代の人々のように自然を直接感じたい、そのために文明の利器は使わない、と豪語しながら「家族システムに搦めとられ」て衛星電話を持ち込んだ著者(この矛盾は著者も自覚はしている)。さすがに衛星電話で奥さんと赤ちゃん言葉で会話してたのには苦笑した。

    死と隣り合わせの冒険を敢行すること自体自業自得なんだし、家族や関係者に迷惑をかけているであろうことや、いざとなったら唯一の同士でもある橇引き犬を食べようと考えていたことなどを思うと、著者を応援する気にはなれなかった。

  • グリーンランドから月の明かりもなくなる期間があると言う「極夜」を探検したノンフィクション。
    犬と橇を引き旅をする。ツンドラの果ての果て氷と一瞬にして豪風の世界。
    どんな旅にしようと計画しても、天気には逆らえない多くの変更を経てたどり着く。
    何を考えどう行動したか、最悪の事態をシミュレーションしながら旅は終わる。

    星野道夫、椎名誠、いくつかの極地の旅を読んではきたが、角幡唯介さんの旅も違う世界の扉を開きパズルのピースをもらった気分。
    この著書の前に、極夜行前と言うものがあると言うのでこちらもこれから入手したいと思う。

  • 極夜という日本ではイメージ出来ない旅を、臨場感ある文章で表現され、恐怖や畏怖の有り様もよく感じられた。
    パートナーである犬を食さねばならないのか…?の自問自答の下りは、非日常における葛藤として、とても鮮明に残った。無事で良かった…。

    旅以上の冒険というジャンルの書籍が初めてだったので、よい読書体験ができた。

    • Tomoyukiさん
      『極夜行前』もとても面白かったです(^^)
      良ければ読んでみてください
      『極夜行前』もとても面白かったです(^^)
      良ければ読んでみてください
      2024/04/04
  • 北極に近い北半球の高緯度地方では、夏の間、太陽が沈まない白夜が続く一方で、冬には何か月も太陽が昇らない極夜という状態が続く。本書は、2016年12月から2017年2月にかけての極夜の時期にグリーンランドを犬と一緒に橇を使って旅をした筆者の冒険の記録である。
    本書に描かれている冒険は、ひとつ間違えれば簡単に命を落としてしまう危険と隣り合わせの、想像を絶するような体験だ。その体験を筆者は人生における大きな勝負の一つであると表現したり、また、極夜時期が開けて初めて上った太陽の光を人間が誕生して初めて見るこの世の光に模したり、また、それを妻の出産体験に重ねたりといった具合に、筆者自身の人生と重ね合わせての解釈を本書中で語っている。冒険談も面白いが、この語りの部分も面白い。

    しかし、筆者が時々かます「おやじギャグ」的な表現やエピソード(かなり多い)は、好みが分かれるのではないか。私自身は、ない方が良いと思いながら読んでいた。

  • 角幡唯介『極夜行』文春文庫。

    ヤフーニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞のW受賞の北極での極夜の探検を描いたノンフィクション。

    非常に興味深い内容だった。地図上の空白地帯が無くなった現代に於いては、もはや未知の状況下で過酷な自然に挑むしか探検を行う術は無い。まるで厳冬期のエベレストで無酸素単独登頂に挑むような過酷で無謀な探検の様子が詳細に描かれる。

    残念なのは著者の計算とは真逆に、俗っぽい話を挿入したことが反って、過酷な探検に創作の匂いを感じさせてしまうことだ。探検というのはわざと過酷な状況に身を置いてこそ価値が出る訳で、その状況を作り出すのが創作と言えば、創作なのだろう。また、あとがきにも商業的な香りがするが、探検家を生業にする以上はそれも仕方無いのか。

    著者は足掛け4年の準備期間を費やし、太陽が地平線に沈んだままの漆黒の闇の世界を4ヶ月間に亘り北極圏を探検する。相棒は犬一匹。GPSを持たず、頼みの六分儀も失い、地図とコンパスを頼りに氷の上を橇を引いて移動する。ブリザードに見舞われ、デポを白熊に破壊されて食糧不足に陥り、暗闇の中で迷子になるなどアクシデントが続く中、4ヶ月後に再び太陽の下に立った著者の思いは……

    本体価格800円
    ★★★★★

  • 飼い犬に肛門を舐められて喜ぶ40歳の探検記。極寒の地グリーンランドにて太陽の光がまったく差さない極夜の中を、40日以上にわたり一匹の犬と進んで行く。「GPSなどの現代的なシステムには頼らず、人間が持つ本来の野生の力を最大限使いたい」と言う割には衛星電話を極秘に携帯していた。それはいいのかと思わずツッコんでしまう。暗闇と極寒の中での狩りや、嵐を耐え忍ぶシーンでは多少ドキドキしたが、「エンデュアランス号漂流(船が氷に砕かれ沈没し、氷海の中で遭難するノンフィクション・1915年)」を過去に読んでしまっているため、申し訳ないがどうしてもそちらと比べてしまう。本書では防寒具やコンロ、猟銃、GPSなど現代のテクノロジーを駆使した生きるための準備が万端。そのため著者の探検は「家族の待つあたたかな日常生活から離れて刺激を求め、自ら厳しい境地へおもむいて苦しむという貴族の道楽」としか思えず、一歩引いた気持ちで読んでしまった。内容的に通常の感覚では理解しがたい点も多い。しかし、一般人の枠からはみ出すような人でないと、そもそもこのような探検には繰り出さないだろう。犬を食べずにすんでよかったことが唯一の幸い。

  • 第15回本屋大賞ノンフィクション部門大賞受賞、大佛二郎賞受賞作品。

    角幡唯介氏を知ったのは、YouTubeチャンネル『日経テレ東大学』でした。そこで自身の探検について語る内容に興味を惹かれて、本書を購入してみました。

    本書は、グリーンランドのシオラパルクから北極点へ向かう最中での『極夜』にスポットを当てた探検記でした。
    『極夜』とは、南極圏や北極圏で起こる太陽が昇らない現象で、三〜四ヶ月から六ヶ月間は闇に包まれます。極夜の反対は白夜といいます。

    角幡氏を極夜へと駆り立てたのは、イヌイットの言い伝えで「お前は太陽から来たのか。月から来たのか」と、今から二百年前、初めて部族以外の人間に出会ったイヌイットが発した言葉だったと。この一言が著者自身の心の琴線に触れたそうで「極夜の世界に行けば、真の闇を経験し、本物の太陽を見られるのではないか」との想いから、犬と共に橇を引いて望む『単独行での探検』の実現に至ったとのことでした。

    この探検の中では、著者自身の人生観や死生観、探検を共にした犬『ウヤミリック』との物語、更には極夜が明け『本物の太陽』が登った時に悟った、この探検の本当の意味付けが描かれており、展開が進むにつれて、僕自身のページを捲る指を加速させていきました。

    著者は他にも探検記を出しており、僕ももう一冊別の探検記買ったので、またそのうち読み進めようかと思います。

  • 白夜行……じゃなくてその反対、極夜行。
    日が昇らない暗黒の極北を冒険するお話。

    面白い!
    とにかく面白かった!!

    熱量のある文章、緊迫したシーンでも平然と挟まれる冗談描写、なのに話の張りつめた緊張感は損なわない、というとても危ういバランスの上で奇跡のように成り立っている作品。
    なんだこれ、最高すぎる。
    文庫版あとがきにある『カオスをいかに文章で表現するか』が大成功していると思う。

    この本が発行されているということは無事生還しているという、存在自体がネタバレになっている作品なのに、そういったシーンを読んでドキドキソワソワが止まらなかった。
    無事生還できるか以外にも、そもそもの旅の目的である「極夜明けの太陽を見る」や「犬との関係の行く末」など見どころがたくさんなので、飽きることなく……というか、胃もたれするくらいの楽しさがあった(笑

    あと犬可愛い。これ。
    ウヤミリック可愛い。

    ひとつ不満を言わせてもらうなら、写真がいくつか欲しかった!
    描写と想像で楽しむのも本の面白さなんだけど、それはそれとしてノンフィクション作品なら写真があってもいいかなーって。
    使っているテントの大きさってどれくらいなの?とか、ウヤミリックってどんな感じの犬なの?とか、引いてる橇ってどんなサイズ感なの?とか、そのあたりの情報は写真があると嬉しかったなぁ。

全55件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
 1976(昭和51)年北海道生まれ。早稲田大学卒業。同大探検部OB。新聞記者を経て探検家・作家に。
 チベット奥地にあるツアンポー峡谷を探検した記録『空白の五マイル』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞。その後、北極で全滅した英国フランクリン探検隊の足跡を追った『アグルーカの行方』や、行方不明になった沖縄のマグロ漁船を追った『漂流』など、自身の冒険旅行と取材調査を融合した作品を発表する。2018年には、太陽が昇らない北極の極夜を探検した『極夜行』でYahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞を受賞し話題となった。翌年、『極夜行』の準備活動をつづった『極夜行前』を刊行。2019年1月からグリーンランド最北の村シオラパルクで犬橇を開始し、毎年二カ月近くの長期旅行を継続している。

「2021年 『狩りの思考法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

角幡唯介の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
劉 慈欣
川越 宗一
宇佐見りん
馳 星周
小野寺史宜
ミヒャエル・エン...
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×