夢見る帝国図書館 (文春文庫 な 68-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167918729

作品紹介・あらすじ

「図書館を愛した」喜和子さんと、「図書館が愛した」人々の物語

上野公園のベンチで偶然、出会った喜和子さんは、
作家のわたしに「図書館が主人公の小説」を書いてほしいと持ち掛けてきた。

ふたりの穏やかな交流が始まり、
やがて喜和子さんは
終戦直後の幼かった日々を上野で過ごした記憶が語るのだが……。

日本で初めての国立図書館の物語と、戦後を生きた女性の物語が
共鳴しながら紡がれる、紫式部文学賞受賞作。

解説・京極夏彦

感想・レビュー・書評

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  • 15年ほど前、わたしは上野公園のベンチで、とても魅力的な白髪女性の喜和子さんと出会った。
    約束もせずに別れたけれど、上野の図書館で私たちは再会し、わたしは喜和子さんに上野の図書館が主人公の小説を書いてほしいと頼まれる。
    お題は『夢見る帝国図書館』。

    福沢諭吉が発した「ビブリオテーキ!」という言葉とともに建てられたこの図書館には、多くの文豪や著名人たちが熱心に通い詰めていました。
    名前を次々と改め、震災や戦争を乗り越えていく図書館の歴史が、中島京子さん独特のユーモアを交えて分かりやすく語られていきます。
    けれど、これは単なる図書館の歴史をたどる小説ではありませんでした。

    木造の小さな家で暮らす喜和子さんの、終戦直後の上野での思い出話に取りつかれたわたしは、喜和子さんが亡くなってからも、彼女の交友関係や幼い頃の曖昧な記憶をたどって真実を突き止めようとします。

    「戦災で家を失くした人たちによって自然発生的に作られたバラック集落」であり、「上野はいつだって行き場のない人たちを受け入れてきた」
    そんな時代を越えて、建物はいつもここにあり、人よりもずっと長生きするのです。

    図書館を愛した喜和子さんの人生が尊く、儚く、そしてわたしと喜和子さんの偶然の出会いがまさに夢のようにも思える優しい物語でした。

    • aoi-soraさん
      m.cafeさん、こんばんは。
      つい先日、上野の国際子ども図書館を訪れたばかりで、興奮してしまいました(笑)
      娘と美術展を観たあとで、時...
      m.cafeさん、こんばんは。
      つい先日、上野の国際子ども図書館を訪れたばかりで、興奮してしまいました(笑)
      娘と美術展を観たあとで、時間もなかったので、ゆっくり出来なかったのですが。
      建築物としても興味深く、素敵な空間でした。

      この本、読んでみたいです!
      2022/08/13
    • m.cafeさん
      aoi-soraさん、こんにちは。
      国際子ども図書館に行かれたのですね!
      この本の興奮がまだ冷めきっていなくて、ほんとに羨ましいです。私も行...
      aoi-soraさん、こんにちは。
      国際子ども図書館に行かれたのですね!
      この本の興奮がまだ冷めきっていなくて、ほんとに羨ましいです。私も行ってみたい!

      この本のおかげで中島京子さんがますます好きになりました。歴史にも興味が湧いてきました。
      aoi-soraさんも、ぜひぜひ読んでみてくださいね♪
      2022/08/14
  • 作家の「わたし」は、上野公園で知り合った喜和子さんに図書館が主人公の小説を書くように頼まれる。自由な雰囲気の喜和子さんだったが、実は幼少期から戦後の混乱や古いしきたりの家族に縛られており、そこから脱出したのは、娘が18歳になってからだった。

    帝国図書館の歴史と喜和子さんを巡るストーリーが交差しながら描かれる、なんだか不思議な物語。戦争や男尊女卑がまかりとおる社会、その時代の人たちの幸せって何だろうなど、いろいろ考えさせられた。
    喜和子さんの最期の希望どおり、東京湾に散骨してもらえてよかったと思わずにはいられない。

  • 帝国図書館にまつわる話と主人公の半生を織り交ぜながら描いている。著名な文豪も数多く出てきて面白いのだが、私には理解できない内容も多かった。あー、無知な自分が恥ずかしい…。現代の小説に慣れすぎているせいか、本作品は読むのにはとても苦労した。

  • これはなかなかに面白かった。
    ふだん軽めの話ばかり読んでいるので、久し振りにしっかりした話を読んだ印象。

    語り手であるフリーライターの〈わたし〉が、仕事で国際子ども図書館を訪れた帰りに上野公園のベンチでたまたま隣に座った女性・喜和子さんと言葉を交わしたところから始まる物語。
    かつては図書館に「半分住んでいたみたいなもの」だという喜和子さんが〈わたし〉に、上野の図書館の小説を書かないかと持ち掛けて…。

    二人のつかず離れずの交流が始まるのだが、二人の話の間に挟まる、日本で初めての国立図書館にまつわる「夢見る帝国図書館」と題された数々の話が、まず抜群に面白い。
    図書館の創設前夜から始まり、樋口一葉から宮沢賢治や林芙美子、和辻哲郎に谷崎潤一郎その他多くの文士たちとの関わり、お隣の動物園の黒豹や象の花子の逸話、果ては蔵書たちの嘆息まで、時代の波に翻弄された図書館を取り巻く喜怒哀楽が色んな手際で語られて、こちらの好奇心も刺激される。
    占領下の図書館にジープで乗りつけたアメリカ軍人の若い女性が、新しい憲法の草案のまっさきに「この国の女は男とまったく平等だ」と書いておかなければと誓うシーンのなんと眩しいことか。

    喜和子さんと〈わたし〉に加え、喜和子さんの元愛人だという大学教授、元下宿人の藝大生、行きつけの古本屋などが絡んで語られる話は、現在の話とそれぞれの記憶の中の昔の話がないまぜになり、『どこかで時間を止めてしまったような風情が漂う』上野界隈の情景も相俟って、時空を超えて縦横無尽に展開し、その不思議な雰囲気に飽くことがない。

    喜和子さんが亡くなってからは、喜和子さんが探していた絵本や彼女宛の葉書に書かれていた数字の謎を軸に、喜和子さんの生涯を辿っていくちょっと謎解きっぽい話になるが、どこまでは真実でどこまでが虚構か、いつの話をしているのか、まかれた伏線が次々と覆されるように色んな喜和子さんが現れる。
    数奇な生涯、とりわけ戦後の荒波を生き抜く中で『記憶の断片をたどって、自分が自分であるために必要な物語を、作ろうとした』喜和子さんの深い内面世界が浮かび上がり、その心情が切ない。

    「夢見る帝国図書館」の最後のエピソードの中には、図書館の前で復員兵と出会う幼い女の子。喜和子さんの生涯もこの図書館の歴史の一部であったことが知れ、とても感動的な幕切れだった。

  • ゆったりとした気分で読了。視点人物はもちろん、出てくる人々が皆「普通」の感覚を持ち合わせているので、読んでいて安心感があります。
    途中途中に挿入される「帝国図書館史」的なエピソードは、フィクション部分も含めて、とても興味深く読みました。個人的には吉屋信子に纏わるエピソードが、このような小説に描かれているのを初めて目にしたと思います。
    "繰り返し再読しても新たな発見がありそうな小説"に久しぶりに出会えた感じがして、とても満足です。お薦めです。

  • 喜和子さんの人生と夢見る帝国図書館の2つの物語が進みゆく

    物語の中で目にする名だたる文豪達の名前が登場
    史実を元にしているのだとは思うが、その辺は私は無知なので物語の1つとして楽しんでいた
    なんというか普通に、あっ!知ってる名前発見!!的な感じで…笑
    もしかしたら、文豪たちや帝国図書館の歴史について詳しい人なら私とは違う楽しみ方をできるのかな?と思ったり

    喜和子さんの人生は温かく寂しく悲しく楽しく1人の人生の歩みを覗き見る
    彼女はどんな気持ちだったのだろう
    彼女は幸せだったのだろうかと
    きっと語り部の「わたし」も色々な想いになったことだろう
    喜和子さんと「わたし」の不思議な関係性を、私は羨ましいなと感じられる
    物語で出会った喜和子さんに関わる人々を通し、彼女がどんな女性で彼らにとってどのような存在なのかを見ると、本当に感じ方は人それぞれ

    実際の歴史を全くもって私は知らないので想像するしかないのだが、本が貴重な時代の中では学ぶために帝国図書館へ多くの者が足を運んだことだろう
    そして帝国図書館に彼らは愛されていたことだろう
    喜和子さんも、帝国図書館に愛された1人なのかもしれない

    京極夏彦先生の解説を読み、少し感じ方を変えるのもまた一興だなと

  • 小柄でちょっと風変わりの、高齢だがどことなく少女チックな喜和子さん。ちょうど私の母と同じくらいなのか。駆け出しの小説家の私とある日めぐり逢い、帝国図書館のことを書いてくれという。戦後の混乱期、日々なんとか食いつないでいくしかなかった苦労人が山ほどいたことだろう。喜和子さんも義兄に嫁いだ母に捨てられたような感じ、結婚後も夫や姑から虐げられて、そこから逃げ出してきた。安定などなかった。図書館も存亡の危機を繰り返していた。

    タイトルにある、夢見る図書館。

    私たちが夢に見る図書館なのか、図書館が夢を見るのか。そのどちらでもあり。

    樋口一葉のことをきっと図書館は恋してしまう。
    そんな素敵な擬人化が出てくる。
    肩こりで近眼の一葉は、本にぐっと顔を近づけて読んだ。
    帝国図書館と樋口一葉、相思相愛。

    文豪たちが通いつめ、そして戦禍に呑み込まれた帝国図書館。現在の国立図書館となるまでの数々のエピソードが読める。それと交互して、喜和子さんというひとりの女性の来し方が、彼女の死後、それこそページを繰るように少しずつ詳らかになっていく。たしかに波乱万丈ではあれ、なんでもありの戦後においては珍しくはなかったであろう境遇、その中で誰をも拒まず受容する上野という土地、そして図書館は、ひとりの女性の心の拠り所だったし、きっと他の多くの人にとって安らぎの場であっただろう。

    豊かで優しいお話。
    私も国立図書館の椅子に座り、想像するしかない百年の過去に思いを馳せつつひとときを過ごしくたく思う。

  • 国際子ども図書館はなじみの図書館なので今に至るまでの歴史を物語の中で感じることができ新鮮でした。
    2重構造になっていることで時代を追う描写に奥行きが生まれ、ぐっと入り込む感覚、時代に翻弄されたのは人だけではなく本も同じであり、もし、彼らに命が吹き込まれていたならば私たち人間が語ることができないほど様々な情景を目にしてきたことであろうと思いました。


    みなさんは国立国会図書館に行ったことはありますか。国会図書館は日本で出版されたあらゆる書物を閲覧することができる国家施設です。では、国会図書館はいつからあるのでしょうか。その創設の歴史を描いた物語が、中島京子さんの『夢見る帝国図書館』(913.6-ナ 文藝春秋)です。明治時代、日本は西洋諸国にならい、近代国家への道を歩み始めます。力を持つ国の多くは国内に大きな図書館を持ち、そこにその国のすべてが集まっていました。書物は国の宝。本作は国の宝を守るべき城・国会図書館を主人公とした小説を書きたいという夢を託される主人公の物語部に、主人公による国会図書館とそこに通う人びとの交流を描いた小説が入れ子型になった作品です。国会図書館が帝国図書館として上野にあった時代、足繁く通う樋口一葉に図書館があわい恋心を抱いていたとか、戦時中に、上野動物園の動物たちによる叫びを聞いていたとか、図書館が口を持っていれば私たちに何を語ってくれるのか想像しながら読むととても興味深かったです。

  • 私には些か入り込むには知識が足りませんでした。

  • 上野にある国際子ども図書館を前に、女性二人が出会うお話。
    喜和子さんの口からは帝国図書館だった時代の話が語られ、『夢見る帝国図書館』という小説を書いて欲しいと「わたし」に持ちかける。

    結構、東京の歴史的な建物の小説は読んだけど、そういえば帝国図書館は初めてかも?
    博物館みたいに施設に入ることにお金がかかるわけではなし、その上、本は「貸す」ものなんだから、確かにお金はかかる一方よな……。

    作中では、帝国図書館と喜和子さんの関わりが解き明かされていくのだけど。
    中島京子さんの描く「おばあちゃん」って、茶目っ気があって、楽しいなー。
    けれど、自由に憧れる女性って、本当に生きにくかったというか、どこかに歪みを残したままのところがある。

    いや、それは男性だって変わらないのかな。

    喜和子さんを楽しく読みながら、ちょっとだけ寂しくなるのは、なぜなんだろう。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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