- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167919054
作品紹介・あらすじ
親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会った――。男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。 解説・石内都
感想・レビュー・書評
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なんと描写がリアルで生々しく食欲、性欲といった人間の濃い欲望に圧倒された物語だった!
最初は歳の差が離れすぎてえっ?!って思ったけど、最後はむしゃむしゃと喰って喰われて依存しあう二人の世界が美しいと思ってしまうほどに。
たったひと夏の間を共に過ごした全さんは藤子にとって男を教えてくれたことだけではなく生きた証をもしっかり刻んでいったし、彼に恋をして愛していた瞬間が生涯写真集という形で永遠に残されると思うと彼の執念深さを感じさせられた。
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美しい表現と、濃密で情熱的な物語。
女にしてくれた彼は、この先も彼女の中で、神様として揺るがない存在で居続けるのだろう。 -
千早さんの作品2冊目です。
もがきながら、必死に生きる
男女の生き様にとても惹かれていっきに
読んでしまいました。
年齢差があるからこその純愛を感じ
心の奥にある感情にふるえました。
友達の里見君とのやりとりがとても
温かく優しい気持ちになり
こんな友達がいたらいいなぁと思いました。
ふじこの食べっぷりが気持ちよく
生きることの難しさと同時にたくましさを
感じエネルギーをたくさんもらいました。 -
父が死んでひとりぼっちになり、停滞していた藤子の時間を動かしてくれたのは、近所の写真館の息子で30歳ぐらい年上のカメラマンの全さんとの出会いでした、なんて。しかも年上の余裕と、危なっかしさをあわせもっていたら恋に落ちてしまいますよね。残された藤子の方が辛いかもしれないけど、全さんが最後に「死期が近づいたら味覚が変わるとか、世界が違って見えるとか、言うけどそれって死にたくないくらい大切なものがある奴だけなんだろうな」、「なんかわかったわ」と言うぐらい大切に思われていたんだなということを、誇りに思って進んでいってくれればいいなと思いました。
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いただき本
写真家のオヤジとプリミティブなふじこ。
限りなく生々しく、生きている感溢れる関係性だが、その根っこは純愛だと思う。
身体の関係に目が向きがちだけど、まっすぐな思いとか、使命とか、そういうのって心のことだよね。
読みやすく、沁みた一冊。 -
普通の恋愛小説、、ではなく歪な恋愛小説。
それは恋なのか愛なのかそれとも執着なのか依存なのか、あるいは呪いなのか。
人の愛を、人の心を、求めてしまう感情はきっと誰にでもあって。承認欲求も性的欲求も全て自分以外の人間からしか満たして貰えない。なんて醜い生き物だろう。なんて傲慢な生き物を神様は作ったのだろうと思ってしまう小説だった。
「みんな自分だけは綺麗な恋愛をしている」と思っているんだろうなと共感した。
思い通りにいかない恋ほど恋らしい恋はない。恋に狂わされていても狂わされているその瞬間がいちばん幸せで相手を神様だと思ってしまう恋愛感情は、ある意味宗教的だなと感じた。
千早茜さんの描く官能的な小説、人間味のある小説が大好きだから今作も出逢えてよかったの気持ち。
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千早茜の薄暗い感情を通してこっちの隠していた部分をひん剥かれるような、この感じはなんなのだろう。
どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。だから、僕はあなたの話を聞きたかった。
このセリフが刺さったな。同じ時間を過ごしても見ている方向や思っていることは違うのだから、今どう思っているのかをずっと知りたい。
みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ、て言うのもそう。どんなに間違っているように見えても、それぞれの正義があるのよ。 -
読み終わってすぐに『どうして装丁が"りんご"なのだろう』と不思議に思った。
物語の鍵になるのは、同じ果物でもりんごではなく桃なのに、何故?と。
神様とりんごといえば連想されるのは禁断の果実。
食べることを禁じられていたのに、口にしてしまったアダムとイブ。その結果、ふたりは知恵をつけ、神によりエデンの園を追放されてしまう。
一度口にしてしまえば、口にする前には戻れない。
藤子も似たようなことを語っている。
「誰かと関わると、もう出会う前の自分には戻れなくなってしまう」と。
全さんと出会い、彼が世界のすべてと思うほどの恋を知ってしまった藤子。
残り僅かの命であるのに、命の塊のような藤子と出会い、その生命力に魅入られ、嫉妬し、執着心を覚えてしまった全さん。
関わってしまったことで、以前の自分たちには戻れなくなったふたり。ふたりは各々にとって禁断の果実だったのかもしれない。
こんなにも烈しい恋愛なんて、もうできないし、したくないなぁ。