弟の戦争

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198603991

感想・レビュー・書評

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  • 「きみの弟はあまりにも正気だったんだ。だれもが自分と同じ人間だ、っていう思いが強すぎたんだよ。狂っているのはまわりの世界の方さ。」

    主人公トムはイギリス人の少年。弟であるフィギスことアンディのことが大好きだ。
    けれど人一倍感受性が強く、優しすぎる弟は時折突拍子もないことをし、第一次湾岸戦争が始まった頃、寝ている間まるで人が変わったような行動を取るようになる。そのことに責任の一端を感じたトムはその行動の意味するところの最後までを見届けようとする。

    すごくあらすじを書くのが難しい。
    けれど作中でも言っていたように、これだけは言える。良い戦争なんてものはない。こうも言い換えられる。正義のある戦争なんてない。
    日本ではいよいよ戦争の恐ろしさや悲惨さを忘れて久しい。来月にはまた終戦記念日が訪れるが、無関心な人の方が多いのではなかろうか。ロシアが戦争を仕掛け始めて一年をとうにすぎ、日本もまた、戦争へと刻々と近づいているのではないかと恐ろしくてならない。
    世界中、私たちは同じ人間で、苦しむのはいつも普通の人たちだ。…つまり私たちのような人間だ。
    そのことを忘れてはいけない。
    万が一戦争の熱に浮かされそうになった時は、戦争により苦しむのは、消えて無くなるのは私たちだと自認していなければならない。
    忘れてはいけない。
    他にも家族の在り方、人生における仕事とは、人種差別などなど多くのメッセージが込められた本作だが、そう思わせてくれた。
    児童文学ではあるが、老若男女分け隔てなく読んでほしい一冊だ。
    この作品が評価され続ける世界であってほしい。

  •  誰か、何かに感情移入するのは、「弟」にとって当たり前なんだろうな、と思います。「弟」は感性が鋭いキャラクターとして描かれていると感じました。
     でも、感情移入しやすいというのは、両刃の剣なのかもしれません。
     相手が苦しい、怖いと感じると、自分もそう感じる。相手に寄り添いやすいというのは、いいこと。だけど、自分も傷ついて苦しくなってしまうのかな、と読みながら考えていました。

  • どんな命も、誰も命も同じだと、大切に思える少年の優しすぎる心が戦地へ飛んでいき、現地の少年の目を通して悲惨な戦争を目撃、体験する。

    つらい思いをするのはいつだって普通の人たちなのです。
    どんな戦争でも人が死に、それを悲しむ者がいる。(訳者あとがき)

  • 何十回も読み返してる

  • イギリスで子どもの選ぶ賞複数受賞 
    「ぼくの弟は心の優しい子だった。弱いものを見ると、とりつかれたみたいになって「助けてやってよ」って言う。人の気持ちを読み取る不思議な力も持っている。そんな弟が、ある時「自分はイラク軍の少年兵だ」と言い出した。湾岸戦争が始まった夏のことだった…。人と人の心の絆の不思議さが胸に迫る話題作。
    「弟のアンディは、夢の中で別の人間になってしまいました。かれは、イラクの少年兵で、湾岸戦争の前線にいるのです。」

  • 第一次湾岸戦争時の物語。「誰もが同じ人間だ」と思えないと、悪いやつが治める国の国民はどうなっても仕方がない、と思いかねない?!その反面「誰もが同じ人間なんだから、同じような考えを持っていて当り前」と思ってしまうと他者への想像が難しくなる…そんなことを考えさせられたセリフ、「誰もが自分と同じ人間だ、っていう思いが強すぎる。狂ってるのは世界の方だ…」という文章が印象に残った。

  • 兄弟や親子、家族のつながりって、国によって違うよなぁと思う。もちろん人によってもかなり違うけど。
    自分の兄弟をとても愛し、その兄弟が特異な体質を持っていたとして、自分一人で抱えられるだろうか。
    最初は面白半分だとしても、説明のつかないことがどんどん出てきて、明らかにおかしい、狂っているのではなく「普通ではない」と思って、それでも寄り添えるだろうか。
    戦争に関する報道は、まったく身近にはない。いったことのない国の、世界地図でしか認識していない場所での戦争。
    それは他人事であり、そのニュースすらも熱心に追いかけることはない。過去に起こった大戦には興味を持っても、現在おこっている戦争には頓着しない。
    誰かの利害があって、でもその人は当事者ではなく、自分みたいな一般市民がある日突然戦う。人を殺す。より多くの人を殺してから死にたい、と思ってしまう。
    自分に何がどうできるかはわからないけど、すべての人が自分や自分の大切な人のために平和に過ごせることを願うし、そのようになればいいと思うし、ならなければならないと思う。
    でも、何ができるだろうか。

  • 本当に夢なのか。
    遠くにいる誰かの夢を見るフィギス。
    遠くにいる誰かになってしまうフィギス。
    アンディは忘れてしまうけど、兄のトムは覚えている。

    いい家族なんだろうけど、フィギスの居場所はなくて、真剣に受け止めてくれる人も少なくて、それを今の世の中に例えて考えたら怖くなった。
    YA向けの本らしいけど、突き詰めると現代ニュースとか社会問題をすごく反映させて、それに無関心な私たちを描いているのかな、と勝手に深読みしてしまいました。

  • ウェストール晩年の傑作。
    重いです。あくまで不思議で非現実的な構想なのだけど、結末がとても重い。
    戦争で怯えながら死んでしまった無名の少年兵と、やはりある意味死んでしまった繊細な弟の一部。ウェストールは物語が上手いなと思う。

  • 本書は、弟・フィギスの“他人の気持ちを感じることの出来る不思議な力”によって起こる事件を「ぼく」が語っていくというスタイルで描かれる。フィギスが他人になりきってしまう(フィギスの中にいろんな人の気持ちが入ってきてしまう)ことで、さまざまな事件が起こる。ある時、フィギスの中に入り込んでしまったのは、湾岸戦争真っ最中のイラク軍の少年兵だった。物語の舞台は、1990年。原題のGulfが示すとおり湾岸戦争が起こった年である。戦争だけではなく、人種問題、家族問題、良心の問題、さまざまなテーマが投げかけられている。


    ラストにこんな言葉がある。
    みんな忘れるのに一生懸命だ。ちょうど世界が忘れるのに一生懸命なように。
    私が今、快適な場所でパソコン画面に向かっている地球の裏側では大量虐殺が行われている。
    多くの人間が餓死で死んでいる。生きていくのも苦しいほどの不幸を味わっている。
    しかし、そのことをずっと考えているとどうなるのか。きっと私の頭はおかしくなってしまうだろう。
    だから、「一生懸命」その事実を「忘れる」のだ。理解できないフリをするのだ。
    自分を守るために、他人に深く踏み込まないようにするのだ。
    戦争にしろ、何にしろ、人を傷つける行為は結局、その「忘れる」という行為からきているのではないか。


    ”忘れなければ私自身がおかしくなってしまう”だが、いろんなことを”忘れすぎている世界はおかしい。”
    私の人生はどっちつかずで、フラフラしながら一本の細い縄を綱渡りしているようだ。
    私はどんな風に世界を捉えていけば良いのか。この本を初めて読んだころから、ずっとそのことを悩み続けている。
    児童文学の古典と呼ばれているけれど、子供だけじゃなく大人も読むべき本。

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著者プロフィール

1929~1993.英国を代表する児童文学作家の一人。「かかし」(徳間書店)などでカーネギー賞を2回、「海辺の王国」(徳間書店)でカーネギー賞を受賞。

「2014年 『遠い日の呼び声 ウェストール短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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