ぼくの心の闇の声

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198606596

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  • 1940年代後半、アメリカマサチューセッツ州。
    家族の期待の星だった兄を事故で亡くした11歳のヘンリー。悲しみのあまり父は引きこもり、母は生活のためにレストランのウェイトレスをしている。金を稼ぐため、ヘンリーも食料品店でアルバイトをしている。食料品店の店主ヘアストンは客の前では愛想がいいが、客がいなくなった途端その客の民族(客は白人だけだが、ポーランド系、イタリア系、アイルランド系、ユダヤ系など様々)の悪口を言う差別主義者であり、妻や娘に暴力を振るう男である。もう、この設定だけでかなり重い。
    その上、ヘンリーの家の隣の精神病院にはホロコーストで家族全員を失ったユダヤ人男性がおり、この男性とヘンリーとの交流が、ヘアストンの悪意を増幅させるのだ。
    終わりは希望があるものの、かなり苦い後味。
    ヘアストンがナチスの残党とかではなく、単なるレイシストというところが、実際にありそうで不快。主人公はフレンチカナダ系(フランスからカナダに移住し、その後アメリカに移住した人々)で、現在では白人同士が先祖の出自で差別しあう風潮はあまりないと思うが、この頃はまだ濃厚にあったようだ。だからアジア人とか黒人はもう、人間ですらないって感じだっただろうね。
    最初に出版されたのが1992年だが、あからさまな差別は減っていても、差別意識はなくなりはしない。最近の日本もひどいもので、設定を変えれば日本を舞台でリライトできる物語。
    短いので、若い人にも読んでほしい。

    欲を言えば、ヘアストンがわかりやすい「悪者」であるより、家族を大事にする社会人としてちゃんとした男にした方が良かったのではないかと思う。ナチス幹部にもそういう人いたし。善悪がきっちり分けられるとは限らない。

  • 大変な時代には、大人でも心を塞いでしまわないと生きていけなくなってしまう人もいて、視野を(わざと?)狭くして自分のすべき事だけ見るという人もいるだろう。また、醜い事をしながら生きていく人もいて、そんな中で主人公の少年は、周りを客観視する目を持ち、自分の頭で考え動こうとする。酷い事、人に出会った時、自分ならどうするのか?考えさせられる一冊。

  • 悪いこととわかっていることをしなくてはいけない、という取引を大人から持ちかけられる。
    そんな大人は現実の世界にもいるが、重苦しい。

  •  私にとって、ナチスドイツのユダヤ人迫害はとてもわけが分からない悪事だった。いや、迫害にいたった歴史的背景はなんとなく聞き知っているが、それでもなぜそんなことになったのか、理解に苦しむところがある。

     おじいさんの作った木彫りの村を破壊せよ――そんなヘアストンさんの命令は、ヘンリーにとってもまったくわけが分からない悪の囁きだっただろう。ただモノを破壊するだけ、ではすまない。木彫りの村はナチスの迫害に遭う前の平穏な生活を再現した村なのだから、それを破壊することは、ナチスの所業を再現することにほかならない。なぜ、ヘアストンさんはそんなことをヘンリーに命じたのだろう。
     ヘンリーは、ヘアストンさんのことを「弱い人」だと言った。ヘアストンさんを悪事に駆り立てたのは、弱さだと彼はいう。
     ただ、弱いことが悪そのものだといっているわけではないだろう。食料品店を営み、普段はお客さん相手に常に愛想よくしていなければならないヘアストンさんにとって、従業員のヘンリーは自分の思うままに操ることができる唯一の存在だ。誰かを自分に完全に従わせることができる立場というのは、そうそう手に入るものじゃない。それは非常に魅力的だけど、危険な麻薬のようなものだ。ヘアストンさんは、その魅力に負けたんじゃないだろうか。もしかしたら、ヒトラーを狂わせたのも、似たようなものかもしれない。

     邦題は『ぼくの心の闇の声』だが、原題を直訳すると「熊を踊らせる曲」みたいな感じ。これはエピグラフにあったフローベールの言葉から来ている(引用参照)。出典は『ボヴァリー夫人』らしい。そちらも読んでみたいな~。こうして、読みたい本が次々と増えていくのだった……。


    原題:TUNES FOR BEARS TO DANCE TO

  • 「チョコレート戦争」で出会ったコーミアなので、彼の本を読む時はいつも身構えてしまう。でもこの本はそれほど救いのない終わり方はしないし、肯定的なメッセージを強く感じる。

  • ヘンリー、いい子なんだよな。
    でもそれゆえに悪意の中に引きずり込まれていくのが恐ろしい。疑うことを知らないからなのか。

    最後に重たいものをしょったままになってしまったけれど、それを抱えていくだけの強さを手に入れたと思いたい。

    そして、著者あと書きのこの言葉。
    「書き進めている最中に、一部のひとたちが、ホロコーストなどそもそもなかったのだ、と言いだしたことを知り、わたしは、この小説にもうひとつの、さらに重要な意味を持たせたいと考えました。本当にあったことをみなさんの記憶にとどめてもらうための作品にしたい、と」

    この物語の舞台は戦後すぐのアメリカで、直接ホロコーストが行われた土地ではないけれど、だからこそ作者はそれが人ごとではないといいたかったのだろうし、一見ふつうの暮らしをしている市井の人の心にも、ホロコーストをなした人たちと同じ悪が潜んでいること、脅しや恐怖のために、心ならずも悪の手先になってしまうことは簡単に起こりうるということを書きたかったのだろう。

    短いけどしんどさの凝縮された…みごとな物語。
    悪意が静かにはびこり出した時代にこそ読まれるべき物語だと思う。

  • ヘンリーの葛藤と、村を破壊してしまった時の後悔…読んでいて辛くなった。

  • 最小の言葉で最大の効果を発揮させている。

  • 兄さんが事故で死んで塞ぎ込み仕事をしなくなった父親、懸命に働き疲れている母親。11歳の優しいヘンリーはなんとか力になろうと、食料品店で働いている。ヘンリーはユダヤ人のおじいさんと仲良くなるが、それを知った食料品店のヘアストンが恐ろしいことを企む。ヘンリーが悩みながらも、優しい心を強くし立ち向かうところがオススメ。

  • 以外な結末。悪意のなかに人の弱さが見える。結末に救いはないけれど、その分考えさせられる物語。

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