かかし

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198616380

感想・レビュー・書評

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  • 海外児童文学作家で最も好きな作家、ウェストール。彼の名を初めて知った作品が、この「かかし」だった。ウェストールの骨太な作風に魅了され、彼の著作は殆ど読んできたが、代表作の本書だけはホラーテイストということに尻込みしてしまって、手にする機会を逃し続けてきた。
    今回ようやく読めたわけだが(それでも恐る恐るだったが)、しょっぱなからのめり込んだ!!母親の再婚に複雑な感情を抱くサイモン。ローティーンの危うさが見事に描かれ、彼の一挙手一投足から目が離せない。矛盾した思いを抱えつつも、引っ込みが突かなくて暴走せざるを得ない愚かさが、ちょっと切なくなる。
    個人的には、読めたのが50代の今でよかったと思っている。屈折しまくりのサイモンも、拗らせ兄を疎ましく思うこまっしゃくれの妹も、厄介な息子を時に受け止めきれない母も、歩み寄りたいのに激しすぎる拒絶をされ、なす術のない義父も…それぞれの気持ちがわかる(と同時に、どの人物もそれぞれに面倒臭いなとも思うのだが)。若い頃に読んだら、ここまでは寄り添えなかったかもしれない。
    そんな孤独なサイモンの受け皿となる、新居の近くにある朽ちた水車小屋。この存在が、サイモンと共鳴してまさかのホラー展開に。水車小屋の過去も絡み、着地点の読めない流れはハラハラなんてもんじゃない…!!
    猫、兵士、この世のものではない存在…ウェストール作品ではお馴染みのモチーフも多数登場。じっとりと湿った、無気味な雰囲気ではあるのだが、イギリス作品の湿り気が不思議と嫌いではない。そして改めて、ウェストールのストーリーテリング力に脱帽です。夢にかかしが出てきてうなされそうですけど。これは長く読み継がれてほしい、色々な意味で震える名作だ。

  • ウェストール、なんかいい。

  • 母親が最悪。新しい恋に夢中なのは解るが、もうちょっと息子の気持ちも考えてやれよ。母親が身勝手なせいで家庭がまとまらないんだろう。読んでてキャラクターにここまで腹を立てたことはあまりない。身近にいたら殴りたくなるレベル。

  • 「全寮制の学校に通う14歳のサイモンは、ママの再婚相手の家で夏休みを過ごすことになりますが、亡くなったパパを崇拝するサイモンは新しい生活にどうしても馴染めません。ママと再婚相手と妹のジェーン、すっかり家族になった3人にいら立つサイモンは、次第に孤立していきます。ある日、サイモンは家の近くに古い水車小屋を見つけます。サイモンの孤独は心は、かつて忌まわしい殺人事件があった水車小屋に巣食う邪悪な存在を目覚めさせてしまいます。サイモンが家族への憎悪を募らせる旅、不気味な「かかし」が家に向かって近づいてくるようになり・・。
    追い詰められていく少年の心理をホラータッチであざやかに描いています。」

  • 母と妹と、母が結婚を考える男性と、四人で夏休みを過ごさなければならない少年のストレス。非常に危うい張り詰めた緊張状態が痛々しい。
    少しずつ心を通わせつつあるところに、少年の心の負の部分に呼応する外部の邪悪が邪魔をしてくる。三体のカカシは、屋敷に少しずつ近づき、少年は分かっていてもどうしようもなく。そのストレスが、さらに家族との関係も悪化させる悪循環。
    少年の友人が、バランスをとってくれてすごくいいやつで不思議な役回りだ。唐突ではあるけれど。
    少年がカカシに立ち向かう選択をとることが、自分の感情を客観視して、事態の解決に向かうことになるが、本来ならば、男性と母に直接向かい合って解決できれば一番よかったのでしょうね。多感で攻撃的な時期、少年自身が破壊して乗り越える対象を外部に置くことでこそ対処できたのかもしれないですね。

  • ‘81年、カーネギー賞を受賞。イギリスの児童文学に与えられる賞だそうだ。

    他の方も書かれていたが、これが児童文学なのかと首をひねる部分もある。対象年齢は中学生からと記載されているが、日本の中学生はこれを理解するには、精神的に幼過ぎるのではないだろうか。
    いや、でもこれだけ色々な情報が容易く入ってくる今の時代の中学生なら、この本の真の意味を読み取ることができるのかな。

    寮生活を送っている13歳のサイモンは、学校の長期の休みを、再婚した母親が暮らす新しい家で過ごす。事故で亡くなった父親を忘れられないサイモンは、再婚相手で著名な画家のジョーに嫌悪感を抱き、そんな男と結婚した母親の裏切りに嘆き、ジョーに懐く妹を卑下する。彼だけが新しい環境を受け入れられず、孤立した状態になってしまう。
    彼らの新しい家の近くには広大なカブ畑があり、その向こうには古い水車小屋が見える。なぜかその小屋に呼ばれているように感じたサイモンは、ある日ひとりでその小屋を訪れるが、そこで彼を待っていたのは邪悪な「何か」だった。

    この小説のタイトルになっている『かかし』とは、小屋の前に立っている三体のかかしのことで、邪悪なものが宿っているとサイモンは思っている。かかしたちは徐々に彼に近づいてくるのだが、それがイメージではなく、現実的な距離として縮まってくる様が怖い。
    実はそれは怨霊や祟りなどではなく、サイモンの中にある思春期特有の鬱積した感情であり、それを乗り越えることで大人になっていく過程を描いたものであるのだろうが、彼があまりにも繊細で脆く傷つきやすいにも関わらず、軍人であった強い父親の思い出に異常なほど固執することで強くあろうとするそのギャップが生み出した出来事だったのだろうとわたしは理解した。

    家族と仲良くなりたいという願いと、それを拒絶するべきだという相反する思いが、サイモンの心の中でせめぎ合う。本当は前者を望んでいるはずなのに、素直になれないがために真逆なことをしてしまう。
    後半に遊びに来た友だちのクリスは、サイモンを良い方向に導こうとする。どこかでそれを望みながらも拒否してしまい、水車小屋自身がクリスを遠ざけるという描写が、サイモンの激しい葛藤と、自分のものでありながら思い通りにならない彼の心をうまく表していたと思う。

  • これが児童文学のカテゴリーなのか理解に苦しむ。Rレベルの表現が所々出て来る。

    サイコパス的で断片的な思い込みが続く語りは、病院生活を送っている主人公が過去を振り返っている様にすら感じる。

    映像化しやすい内容ではないかと思う。

  • カラスのニュースを見たのをキッカケに、中学生の頃に読んだのを思い出して再読。何故頭に浮かんだのか不思議だったが、タイトル(scarecrow )からか!と後で納得。
    今回は恐怖というより不気味さと主人公の心理的な切なさが沁みた。

    人は湧き上がる感情を思うがままにさせておくと、危険がやってくるのですね。思春期に関わらずそうだと思う。
    しっかし、母親が結婚を決めるくだりはサイモンにもっと気遣って欲しかった。自分の血は受け継がれていない、とか、言っちゃいけないことも多々言ってるなぁ。感情が高まって、というのはあるとしても、こんなこと経験して母親と普通に暮らせるだろうか。。

    底抜けに明るくて、陰の気を蹴散らすことができるトリスはカッコいい。これは前も感じたけど、今回はイジメ役のボードンも気になった。休暇に家に帰れない、という状況しか描かれてないけど、きっと家族との明るくない背景があり、それを何となく周りの少年達も感じているのも切ない。そして子供向けの小説っぽいけど、チョッカイ出す話題がえげつないのはさすが海外。

    サイモンに、お父さんのことは今後もリスペクトしたまま想ってていいんだよ、と誰か伝えて欲しい。忘れていくことに罪悪感を持ってると思うので。

  • ロバート・ウエストールを読もう週間にて

    読んでてかなりひりひりする。
    ちょうど自分の中学の時の日記を最近みつけて、
    どうしてこんなに孤独感あふれちゃうかなあっというほどの
    孤独感、暗黒度マックスで、13とか14とかそーゆー時期なのかなあっと思う。
    しかも、そーゆー時期に、あんま気に入らない男との母親の再婚とか、もう、心へのダメージ半端ないんじゃないかと・・・・。
    死んだ父親への子どもの憧憬を、女親がばっさり切っちゃうとことか残酷よねーっ。
    親と子の間での愛情(?)のバランスがとれてないと不幸だよなあっとしみじみ。

    猫への対応だとかで義父との関係の改善がみられるか、と思いきや、もう、最後らへんの少年の痛々しさといったらない。家族の中での孤立って、もうホンと、やめて欲しいと切に。
    特に自らを描かれて動揺しまくりのとことか、
    なんとゆーか、そこで気にしない、というほどの図太さはなくて、実のところ自分のやっていることの愚かさだとかをどこかで自分でも分かっているんだけど、
    どーしようもない、というとこが、
    ああ~~って感じ。
    友人の登場とともにちょっと明るさがみえてきて、
    お、これはなんかいろいろ解決?とか思ったら、もうひと展開あって、なるほどーっと。
    ちゃんと、自分で立ち向かって、出口を見つけることが
    大切なんだなあっと。

    猫が絶対水車小屋に入ろうとしないとことか、
    ホラー感ありありでよかった。

    暗黒度マックスの自分が読んでたらどう思ったのかなあ?

  • 全寮制の学校に通うサイモンは、ママが再婚した売れっ子画家ジョーの家で夏休みを過ごすはめになる。パパが死んだ今でも強い軍人だったパパのほうが絶対かっこいいと思っている。そこからがおもしろい!

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著者プロフィール

1929~1993.英国を代表する児童文学作家の一人。「かかし」(徳間書店)などでカーネギー賞を2回、「海辺の王国」(徳間書店)でカーネギー賞を受賞。

「2014年 『遠い日の呼び声 ウェストール短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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