海外児童文学作家で最も好きな作家、ウェストール。彼の名を初めて知った作品が、この「かかし」だった。ウェストールの骨太な作風に魅了され、彼の著作は殆ど読んできたが、代表作の本書だけはホラーテイストということに尻込みしてしまって、手にする機会を逃し続けてきた。
今回ようやく読めたわけだが(それでも恐る恐るだったが)、しょっぱなからのめり込んだ!!母親の再婚に複雑な感情を抱くサイモン。ローティーンの危うさが見事に描かれ、彼の一挙手一投足から目が離せない。矛盾した思いを抱えつつも、引っ込みが突かなくて暴走せざるを得ない愚かさが、ちょっと切なくなる。
個人的には、読めたのが50代の今でよかったと思っている。屈折しまくりのサイモンも、拗らせ兄を疎ましく思うこまっしゃくれの妹も、厄介な息子を時に受け止めきれない母も、歩み寄りたいのに激しすぎる拒絶をされ、なす術のない義父も…それぞれの気持ちがわかる(と同時に、どの人物もそれぞれに面倒臭いなとも思うのだが)。若い頃に読んだら、ここまでは寄り添えなかったかもしれない。
そんな孤独なサイモンの受け皿となる、新居の近くにある朽ちた水車小屋。この存在が、サイモンと共鳴してまさかのホラー展開に。水車小屋の過去も絡み、着地点の読めない流れはハラハラなんてもんじゃない…!!
猫、兵士、この世のものではない存在…ウェストール作品ではお馴染みのモチーフも多数登場。じっとりと湿った、無気味な雰囲気ではあるのだが、イギリス作品の湿り気が不思議と嫌いではない。そして改めて、ウェストールのストーリーテリング力に脱帽です。夢にかかしが出てきてうなされそうですけど。これは長く読み継がれてほしい、色々な意味で震える名作だ。
- 感想投稿日 : 2023年10月8日
- 読了日 : 2023年10月8日
- 本棚登録日 : 2023年5月18日
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