- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198637279
作品紹介・あらすじ
リジーは、母親と弟のカーリとドイツ東部の町ドレスデンに暮らしていた。父親はロシア戦線に送られ、母が動物園の飼育係として働きはじめた。動物園の猛獣は、町が爆撃を受けたら、射殺されてしまうと聞き、母はかわいがっている子ゾウのマレーネを守るため、夜間はうちの庭につれて帰り、世話をすることにした。ある夜、近所の犬におびえて逃げ出したマレーネのあとを家族三人で追いかけていると、空襲警報が響き渡り、激しい空襲が始まった。燃えあがる町を背に、リジーたちはマレーネを連れ、安全な場所を求めて歩き始める。しかし、たどりついた農場には敵兵が…?凍えながら歩く道、弟の病気、敵兵との恋、迫り来るソ連軍…戦争の冬、ゾウを連れ、ドイツ東部から西へと向かった十六歳の少女リジーとその家族の旅を綴った物語。数々の賞を受賞し、イギリスで第三代「子どものためのローリエット(子どもの本の優れた作家に授与される称号)」をつとめた児童文学作家マイケル・モーパーゴの感動作。小学校高学年から。
感想・レビュー・書評
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泣きました。寒さと飢えに耐えながらの逃避行。道々で手を差し伸べてくれる善意ある人たち。家族を守るため優しくも逞しいムティ。愛らしいマレーネとカーリ。そして誠実なペーター。お話の途中、窓の外から教会のやさしい鐘の音がきこえてきたのが印象的でした。パピが捕虜を解かれて帰宅し、リジーとペーターがちゃんと結ばれる。生き別れになっていたマレーネとの再開。すべてを語り終えたリジーは、最後に「でもね、幸せだった。すばらしい人生だった。」と締め括ります。「こういう人生があったって、若い人たちに知ってほしいの。」いまもウクライナをはじめ世界各地で戦争や紛争が続いていますが、戦火にさらされている人たち一人ひとりに、それぞれの人生と幸せになる権利があることを忘れてはいけないと思いました
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老人養護施設にいる老女リジーは「むかし庭にゾウがいたのよ」と語るが、誰からも相手にされない。しかしその話に耳を傾けた親子に、リジーは過去の思い出を語り始めるのだった。
ドイツのドレスデンに暮らす16歳のエリーザベト(後のリジー)は、母(ムティ)と病弱な弟のカーリと暮らしていた。父(パピ)は戦争に取られて帰ってこない。ムティは動物園で働き始めた。
ドイツの大きな都市であるケルンもベルリンもハンブルクも爆撃を受けていた。ドレスデンにも近いうちにかならず来るだろう。そうなったら動物園の猛獣たちは殺されることになっていた。ムティの世話している赤ちゃんゾウのマレーネも。
ムティは、マレーネを守るために自宅の裏庭に連れて帰る許可を得た。そしてある夜の散歩で、走り出したマレーネを追いかけるムティ、エリーザベト、カーリの背後で大きな爆音がする。自分たちがいた家、自分たちの住むドレスデンが空襲されたのだ。
帰る場所をなくした三人は、親戚の農場を頼ってひたすら前に進む。
たどり着いた農場だが、親戚は避難したあとで、納屋には連合国航空兵でカナダ人のペーターが隠れていた。
敵味方の憎しみを超えて、ペーターとリジーたちはともにアメリカ兵に保護を求めるために合流することにする。
こうして冬の森に、ゾウを連れたドイツ人家族と敵兵との旅が始まった。
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戦争と動物園というと『かわいそうなゾウ』『ゾウ列車がやってくる』を思う。空襲の都市で猛獣を殺すというのは世界的で行われていた…(´・ω・`)
同じドイツ人でも政治思考や愛国の方向が違いから仲違いしすることもあるし、敵兵でも守ってくれる人もいる。国と国ではなく、人と人でわかり合えることもある。
父親が戦地から帰らない家庭、激しい空襲、空腹で食べ物を漁る様子など容赦ない現実と、家庭の庭にゾウがいた、ゾウと一緒に冬の森を旅する、という非日常の描写とが融合して、戦争の悲哀と人間の強さやユーモア、絆が書かれている。
しずかな語りを終えたリジーはいう。「こういう人生があったって、若い人たちに知ってほしいの。」 -
「象」と「戦争」というキーワードを聞くと真っ先に「かわいそうなぞう」を思い出す。
子供の頃はなんと酷いことを思ったが、戦時中における猛獣殺処分はなにも日本に限ったことではなかったらしい。
この作品では、主人公・リジーの母親が、勤務先の動物園の子象・マレーネを守りつつ戦火の中を家族とともに逃げていく。
児童書でありフィクションでもあるというのに、その爆撃の描写は凄まじく、その後の生死をかけた逃避行でもそれは続いていく。
人の死でわざと恐怖感をあおったり、悲劇的な演出をすることもなく描いているので、よくある戦争物のような反戦思想を押しつけられる印象もない。
第二次大戦下のドイツの地方都市ドレスデン。
ここは1945年2月13日に無差別爆撃を受けている。
そのドレスデン爆撃が重要なキーポイントで、この日からリジー家族運命は激変していく。
子象のマレーネを守りながら、空腹と恐怖と寒さとの戦い、弟の病気、敵兵との恋、迫りくるソ連軍。ドイツ東部から西へ西へと逃れていくリジーたちに、安住の地はあるのか。
面白いのは、カナダの老人介護施設に入っているリジーというおばあさんが、看護師とその息子に戦争時の思い出を語るという出だしであること。
映画のようにドラマチックなのはむしろこのスタートの部分で、ここから読み手は一気にリジーの回想の旅へと誘われていくのだ。
食べ物に困って盗みを働いたり嘘をつき通したり、戦時下というのはとてもヒューマニズムどころではないのだという場面も随所に登場する。
また、主人公たちと出会う警察や捕虜の捜索隊、西から撤退する兵士たちも出てくるが、決して単なる悪人としては描かれていない。
都合の良い描き方を排したところも好印象だ。
どんな状況下でも生きることを投げ出さない主人公たちの姿は、読んだ後の深い満足感に繋がる。
語り手のリジーに疲れが見えて(笑)終盤は急いだ感があるが、戦時下で行方知れずになってしまったマレーネと再会する場面はこみ上げるものがある。
我が家の猫たちでさえ、何年も会わない家族をちゃんと記憶していて目いっぱい歓迎するもの。
象にこういうことがあっても、驚かないよ、うん、そうだろうとも。
マイケル・モーパーゴはこれで5作品読んだことになる。もういいかなと納得の一冊。
人により好みはあるかもしれないが、これはおすすめ。 -
第二次世界大戦末期のドイツ、ブリスベン。爆撃を受けて逃げる親子と、象。
敵兵の青年との出会いと、過酷な逃亡の日々。伯爵夫人との出会い。
戦争は、敵味方関係なく、悲劇しか生まないことや、絶望の中にも希望はあることなど、施設に入った老婦人から身の上話を聞くという形ですんなり自分の中に入ってくる。
著者モーパーゴさんの作品らしく、いたましさに胸を痛めながらも、安心して読み進められるのは嬉しい。
若い人たちに伝えたいこと、伝えていかなければいけないことがある。
読めてよかった作品の一つ。 -
戦時中のドイツ・ドレスデンでかつて起きた出来事を語る、子どものための本です。
看護師の「わたし」はお年寄りの介護施設で働いています。そこで知り合った82歳のリジーは、少し気むずかしいところもありますが、「わたし」とはどこか気が合う、凛としたおばあさんです。
「わたし」は、週末、息子のカールの預け先が見つからず、職場である施設に連れてくることになります。リジーはカールをとても気に入り、昔、「庭でゾウを飼っていた」話をしてくれると言います。
リジーが呆けておかしなことを言っていると思っていた「わたし」ですが、カールはリジーを信じます。徐々に、二人の真剣さにつられ、「わたし」はリジーの話を信じ始めます。
そしてリジーは、「あの頃」のことを語り始めるのです。
戦争に行ってしまったパピ(父親)、動物園で飼育係として働くムティ(母親)、足が悪く、喘息持ちの弟、カーリ、そして当時はエリーザベトと呼ばれていたリジーは、ドレスデンに暮らす家族でした。
ムティは、担当する子ゾウのマレーネをとても可愛がっていました。ある日、ムティは、夜になると怯えるマレーネを家に連れ帰るようになります。
1945年2月13日、リジーの街、ドレスデンは恐ろしい運命を迎えます。街から逃げ出した一家は、子ゾウを連れて、長く苦しい逃避行を行うことになります。その途で出会ったペーターは、撃ち落とされた敵軍爆撃機の兵士でした。一度はペーターを殺そうとしたムティでしたが、不注意のために死にかけたカーリが、ペーターに命を救われたことから、彼に心を開いていきます。結局は皆は、ペーターの方位磁石を頼りに、ともに旅を続けることになります。
リジーは、ハイティーンで難しい年頃です。世の中に苛立ち、母ムティともぶつかります。家族や親戚も欠点がまったくない人々であるようには描かれません。ムティと姉妹のロッティ叔母さんとの間で、国の方針について激しい議論が行われたりもします。
逃避行の中で、いがみ合う人も助け合う人もいます。同国人でも敵対することもあれば、敵国人と助け合うこともあります。
作者のモーパーゴは、そうしたさまを思春期の女の子のみずみずしい感性を通して描いていきます。
全編を通じて浮かび上がってくるのは、戦争の中で、一方を悪者に仕立て上げるのではなく、戦争そのものが「悪」であるとする作者の姿勢です。
かわいい子ゾウ・マレーネは、お話の中で、子どもたちを和ませ、人と人との垣根を取り払います。そしてまた、お話を読む人にとっても、優れた導き手として、物語の最後まで連れて行ってくれるのです。
後半以降の展開はいささか「うまく」行き過ぎているようにも感じます。このお話を、どこか、おとぎ話めいたものにしてしまったようにも感じます。
しかし、これはある意味、作者が子どもたちに捧げる「祈り」のようなものなのかもしれません。
私たちは、互いの衝突を克服できるはずだ。私たちの心の中には、ペーターが持っていた方位磁石のように、正しい方向へと導くものがあるはずだ、と。
イギリスの作家として、英米軍がドイツを爆撃したエピソードを「敢えて」選んだ作者が、子どもたちに託す「希望」、それがこの明るい結末なのだとも思えてきます。
リジーは最後に、カールに方位磁石を託します。
この物語もまた、作者から子どもたちに贈られた、方位磁石であるのでしょう。
*対ドイツ空爆については、いずれまた別の本(ノンフィクション)を読んでみたいと思っています。
*動物園のゾウに関しては、モデルがいたようです。(*リンク先、英語です)
http://www.belfasttelegraph.co.uk/life/books/baby-elephant-kept-in-belfast-backyard-is-inspiration-for-book-28543013.html
ドレスデンではなく、ベルファストですが、戦時中、動物園で飼育を担当していたゾウを毎夜、自分の家に連れ帰っていた女性飼育員がいたとのこと。この話を知った作者は強いインスピレーションを得たようです。 -
1945年ドイツ・ドレスデンは英国軍の空襲で焼けおちてしまった。16歳のリジーは、動物園で飼育係をしている母と弟のカーリとともに、母ゾウが死んだために夜だけ自宅に(!)連れ帰っていた子ゾウのマレーネと田舎の親戚の農場を目指す。
物語は、老人施設に暮す年老いたリジーが施設の看護師の息子・カールにゾウとの逃避行を語って聞かせる形で始まる。
荒唐無稽な設定と思えるが、読んでいて違和感はなかった。ゾウがいることで、周りから受け入れられるという事も自然に思えた。 -
第二次対戦中、ドレスデンに母と弟と住んでいたリジー。大空襲に遭い、侵攻してくるソ連軍から逃れるため母、弟そして動物園での射殺から救い出された子象と共に、夜毎歩き続ける旅をします。厳しい冬の夜に歩き続けなければならない親子の救いは穏やかな子象の存在。道中、心通わせられる人と出会えるのが良かった。