「雑」の思想 : 世界の複雑さを愛するために

  • 大月書店
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272431021

作品紹介・あらすじ

雑談・雑音・雑学・雑種・雑用・複雑・煩雑・粗雑……現代社会が否定してきた「雑」の中に、多様性や民主主義の根があり、市場主義や「生産性」に代わる価値観の手がかりがある。“雑"なる対話から広がる魅力的な世界。

感想・レビュー・書評

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  • 「弱さの思想」に続き読了。これも良かった。
    私たちは、摩擦の無い、快適な、効率的な世界を求めるあまりに、いつの間にか均質的で、味気のない、貧しい日常を過ごすようになってしまったのではないか。効率化や均質化はグローバリゼーションによる「強さ」の産物であり一種の「還元主義」とも言えるが、本書ではそのオルタナティブとしての「雑」を探しながら対談が進んでいく。相模原事件と社会の洗脳、神社合祀による管理・合理化とエコロジー、自由闊達な寺子屋と紋切り型の現代教育、代議制民主主義と思考停止、都市化・行動主義の進行と名目上の地方創生、ファシリテーションと余白の消失、デザインと自治、定量化された個体と名前をもつ一人ひとりの人生、系譜的なアートとマージナルなアート、近視眼的な効率性とサステナブルな非効率など、今回も複眼的な観点によって議論が進む。いや、これらは便宜的な切り口にすぎず、そもそも二項対立で括れる議論では無い。このなんだかよくわからない世界と現実を「雑」をありのままに受け止めるネガティヴ・ケイパビリティが重要なのだ。色即是空、空即是色...?
    ポランニーが警鐘を鳴らしたように、過度な「市場交換」の加速に歯止めをかけるには「再分配」と「互酬性」に再び光を当てる必要がある。一方で、それはマルセル・モース的な「贈与」じゃなくても良く、時には自発的に、時には「イヤイヤ」だけれども何かをシェアする、そんな態度で良いと言われると肩の力が抜けてほっとする。『うしろめたさの人類学』にそのヒントがあるのは興味深い。『チョンキンマンションのボスは知っている』でも似た読後感を覚えたが、私たちは森ばかりを──いや、ビルや画面ばかりを──見ていて、目の前の木の名前も知らずに、家族のことも、自分自身でさえも見失っているのかもしれない。

  • 「雑」ってこんなにも奥深いものだったのか。

    雑、というとあまり良くないイメージ。適当な…と言いかけて、いやまてよ「適当」も本来はそんなに悪いイメージじゃなかったはず、と思い直す。

    雑、は効率を追い求めすぎた末に削り落としてきてしまった大切なものなのではないかと思った。
    雑多ないろいろなものを包摂した素敵なもの、カラフルだったり、バラバラでない丸ごと、混ぜこぜ、generalとかtotalじゃなくてwhole。
    民主主義って、みんなの意見が違うことをそのまま受け入れること、スパッと結論を出すんじゃなくて、そういう意見もあるよねーとずっとうだうだ喋って、その喋っている状態を続けるというか、その過程で生まれるものを大切にするというか、なるべく「決めない」。これもあれだ、宮本常一の本に出てきた村の寄り合いみたいなものじゃないのかな。
    雑、はいいなあ。
    ちょっと「昭和残俠伝」も思い出したり。

  • 対談形式。よく使われる「雑用」という言葉。その本質に興味があり、手に取った一冊。視野が狭い状態で捉えた「雑」に、負の感情を抱いてしまいがちなのだろうか。国という単位に縛られず、大地から宇宙まで広がりを持った視野で見る「雑」はひじょうに奥が深い。(覚書:弱さ/民主主義/vs.還元主義/江戸/教育/コミュニティ/シェア/親鸞/南方熊楠/宮沢賢治/ローカル/限界芸術/ホリスティック/うしろめたさ)

  • 某所読書会課題図書.気になった語句をリストする.p20: ぼくたちがいま問われている多くの問題は、じつは「雑」を消去して単純な何かに還元する、一種の還元主義(リダクショニズム)から生まれているかもしれない.複雑なものを複雑なものとしてつかもうとすることが大事だ.p22: 意味が「ある」「ない」と言っているのは、その社会特有の意味の体系の中に位置を占めて「いる」か「いない」かということなんですね.p24: 結局、生きる価値とは何かというと、自己肯定だと思うんです.p32: 鶴見俊輔がカナダの大学で客員教授として講義していた時のテーマが「転向」.彼はこれをredirectionと訳していた.ぼくは、これを聞いて自分の中にさわやかな風が吹き抜けるの感じた.p42: ぼくたちは「民主主義」を「代議制民主主義」とほとんど同じ意味で使っている.古代アテナイの民主主義のエートス(精神)から考えると、代議制民主主義は反民主主義なんです.p51: 「雑」というのは、近代的合理主義や還元主義に対する異議申し立てという意味を持つ.単一性、画一性、効率性なとへと縮減(リデュース)する思想に対する批判.そして計測可能性(メジャラビリテイ)という原理への抵抗.要するに「個体」に戻すということだと思う.p54: 宮沢賢治は動植物をはじめ、無生物も含めた者たちからなるコミュニティや社会を考えていた.いまから思えばすごくラジカルなエコロジー思想だ.インドのヴァンダナ・シヴァは「アース・デモクラシー」と呼んでいる.p63: 江戸時代の寺子屋は一人ひとり違う学習者に合わせた「アダプテッド・ラーニング」を実践していた.江戸時代は雑然としているようで循環型社会が成立していた.田中優子.p83: こぢゃ倶楽部.p93: 教育の三つのH ヘッド(Head)、ハート(Heart)、ハンズ(Hands).三つのバランスが大切だ.ヘッドに偏っている.p95: 「雑」という言葉に含まれた「効率的でない」という意味が現れている.短い「スパン」で考えれば「雑」のほうが非効率で時間もかかる.でも結局のところ、長い目で見れば雑のほうが効率的だったりもする.p98: 贈与経済(ギフト・エコノミー).新自由主義経済の市場交換と全く別の論理を持つ.歴史的には互酬性(receprocity)が基本で「お互いにモノやサービスをやりとりする」社会が長かった.利他主義的なきれいなシェアでなくて、「いやいやながらのシェア」を考えたい.p104: シェアの質の変化、いやいやながら→自己紹介→積極的な関係.p105: 「雑」にはいろんな価値があることを知った.p108: マインドフルネス、心に留める/留意する.p113,179: 幼児洗礼.カール・バルト「意思なき人間と神が契約するというのは、キリスト教にとって最大の汚点である.」 オスカー・クルマン「幼児洗礼は神からの純粋贈与なのだ.あらゆる洗礼がそうであるように、まず神からの愛の純粋贈与がある.これは純粋贈与だから、拒否することも無視することも、止めることも不可能だ.子どもたちはまず愛される.幼児洗礼にそれ以上の意味はないのである.」p115: キリスト教の信仰と資本主義はなぜか相性がいい.p116: 親鸞/浄土真宗、称名念仏、南無阿弥陀仏.p114: 聖道の慈悲/浄土の慈悲.p124: カール・ボランニー 経済の全体像は「互酬性」「再配分」「市場交換」. p126: 南方熊楠.p130: ヒルデガルド・フォン・ビンゲン.p137: ル=グウィン 「左ききの卒業式祝辞」.p155: 鶴見俊輔『限界芸術論』marginal 柳田國男、柳宗悦、宮沢賢治.純粋芸術、大衆芸術.p161: 中西進 万葉集 「雑」の巻から始まる.p164: 萃点(すいてん).p165: holistic 全体論的 p168 レイジーマン 怠け者 物くさ太郎 うしろめたさ

  • 作品「雑」の思想/世界の複雑さを愛するために
    気がつきませんでしたこの本を読むまでは、

  • 弱さが持つ強さを研究した『弱さの思想』の続編。
    全体性と多様性を融合するのが「雑」。単純化や抽象化で捨てられてしまうものの中に共同体を強くする素がある。意味があるないは相対的で個別的なこと。
    南方熊楠や宮沢賢治のはなしは、グローバリズムによる均質化と真逆の世界観で面白かった。ローカルと世界の間にある「国」を取っ払った世界観。

  • 東2法経図・6F開架:914.6A/Ta33z//K

  • 【『雑』な大人になろう】

    グローバルよりローカル
    強さより弱さ
    専門的より非専門的
    そしてジェネラル(全体にかかわる)
    さらに一歩進んだホリスティック(バラバラではない丸ごと)

    『雑』とはこんな感覚と捉えました。
    私が目指している社会福祉士に大きな影響を与える書に出会いました。

    ローカルな場面で、ホリスティックに、弱さを持つ人を、専門家に繋ぐ社会福祉士になります。

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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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