- Amazon.co.jp ・本 (79ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309016214
作品紹介・あらすじ
こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音立てて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばをもうわたしたちはわすれてしまったのでしょうか-ただ一つのこされたちいさな物語。
感想・レビュー・書評
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本書は、1960年12月、『どんぐりのたわごと』第7号で初出された、須賀敦子さんの文に、酒井駒子さんが画を付けた作品で、四季折々の様々な場所に現れる、「こうちゃん」という、ほんの小さな子どもでも、何か惹き付けられる存在感と、おそらく、こうちゃんを待ち続けている、どこか不安そうな、「わたし」や「わたしたち」の存在感とを、照らし合わせて、描いているように感じられました。
こうちゃんの居るところは様々で、それらの描写はまるで、これまでわたしたちが知らなかった、素敵な場所を教えてくれるようでもあり、哀しくやり切れない場所に、佇んでいるようでもあり、わたしたちの心を、ポッと明るく灯してくれるようでもあり、彼(彼女)が何かを求めたがっているようでもあって、読んでいく内に、わたしたちが日常を生きていく中で、見えるか見えないか分からないけれど、その存在感を意識することによって、世界の見え方が、ちょっと変わることを教えてくれてるのかなと、感じました。
しかし、終盤に訪れる、あるモノローグによって、また違う思いも浮かんできて、これを読むと、最初に書かれていた、こうちゃんが太い鉄のくさりをひきずって歩いて行く、描写が、別の意味にも感じられてきて、もしかしたら、教えてあげてるのかな、なんて。
ただ、色々書きましたが、私の中では、未だ霧の中を彷徨っている感覚もありまして、何か、不思議なんですよね。単に、楽しいとか、哀しいとか、綺麗だとか、愛おしいとかではない、もっと複雑で繊細で大切なものが、潜んでいるような気もしてきて。
そんな感覚にさせるのも、須賀さんの、見えない部分に訴えかけてくるような、柔らかい文と、酒井駒子さんの、渋めで少し抑えた色合いに、どこか儚さや心細さを感じ、思わず胸が締め付けられるような、繊細で美しい画が、見事に合っているからだと思い(酒井さんの背景に重ねて書かれた、須賀さんの文章も印象深い)、私がこれまで見てきた、酒井さんの画の中では、いちばん好きな画風でしたし、須賀さんの他の作品も、読みたくなりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
遠すぎず近すぎず、気にかける人の存在を感じるという安心感、あるいは自分に寄り添う人の存在を感じるという安心感、そんな感覚だろうか、酒井駒子さんの優しいイラストもあって気がつけば心洗われる読後感…
何度も読みたい本です。
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突然現れては、忘れていたこと、本質的なこと、ささやかなことにふれて、またいなくなる不思議な存在「こうちゃん」。無邪気さも淋しさもすべての子供の心の代表でもあるようで、人を超越した自然がヒトのかたちになったようでもあります。酒井駒子さんの味わいのある絵、とくに見開きの雪空や青空にははっとさせられました。
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須賀敦子さん(1929~1998)、初読み作家さんです。酒井駒子さんとのコラボ「こうちゃん」(2004.3)を読みました。「こうちゃん」、不思議な物語です。童話でしょうか、随筆、はたまた哲学書でしょうか・・・? 「あなたはこうちゃんにあったことがありますか。」瞼を閉じ耳を澄ませば、心に浮かぶのかもしれませんね。人間の心、喜怒哀楽、孤独、夢と希望、そして故郷(幼年・少年時代)を想起させてくれます。
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酒井駒子さんの挿絵がいっぱい。29ページの絵が一番好き。須賀敦子さんの文章もふんわり優しくて素敵だった。不思議なこうちゃん。
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こうちゃんってなんだろう?酒井駒子さんの絵は柔らかくてやさしくて,文章に溶け込んでいる.無くしたものを探すような,失ってしまった大切なものが甦ってくるような,そんな味わいのある世界でした.
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不気味な存在のこうちゃん。酒井駒子の挿絵とあやうくて儚いこうちゃんがマッチしてる。