- Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309461427
感想・レビュー・書評
-
『シャベール大佐』1832年・・・風俗研究(私生活情景)
代訴人デルヴィルの事務所に、貧相な身なりの老人が尋ねて来た。
デルヴィルが事情を聞いたところ、自分は「シャベール大佐」だと名乗り、自分が生存していることを証明し、財産などを取り戻したいと訴える。
「シャベール大佐」とは、
その名を知らないものはパリにはいないくらい有名な軍人だった。
ナポレオンの軍旗の下で武勲をあげ、軍を勝利に導き、アイラウの会戦で戦死した勇敢な人物なのだ。
戦死したはずの大佐が現れ、デルヴィルは驚愕したが、
大佐の話によると、サーベルの一撃を頭部に受け、昏倒している間に戦死しているものとされ、共同墓穴に投げ込まれた。
正気にかえった大佐は墓穴の死体からなんとか伸び上がり助けを求め生還を果たすが、記憶が戻り自分の名を名乗っても狂人扱いされるだけで誰も相手にしてくれない。
ナポレオン皇帝なら自分がシャベールだということを証明してくれるが、皇帝は流刑の身にあり、偶然見つけた部下も戦死してしまう。
シャベールが、数々の辛酸を舐めつつパリにたどり着くまでの数年間で、状況は大きく変化していた。
夫人のローズは、夫の戦死の報せを受け取り、財産を相続し、新しい夫、フェロー伯爵の妻になり二児さえもうけている。
デルヴィルはフェロー伯爵夫人の代訴人も務めており、そのことも了解済でシャベールはデルヴィルを尋ねていた。
デルヴィルは、このシャベールと名乗る老人の言葉を信じ彼に手を貸す覚悟をする。
フェロー伯爵夫人は、戦死した部下が出した手紙により夫が生きていることを知ったが、保身のため無視を決め込んでいた。デルヴィルの仲介で和解をしようとするものの話し合いは決裂してしまう。
すると、手のひらを返したように夫人は優しく接し、シャベールは骨抜きにされてしまう。
しかし、その夫人の態度は、シャベールへの愛からではなく、自分に有利に事を運ぶための芝居だったことを知り、深い絶望感に見舞われ、すべてを放棄していなくなる。
数年後、デルヴィルはシャベールを養老院の前で偶然見かけて声をかけるが、老人はシャベールではなくイアサントで人間ではないと答える。
運命の悪戯で、戦死したと報告され、街娼から大佐夫人にしてやったローズに、命からがら帰ってきたパリで奈落の底に突き落とされたシャベール大佐は、厭人病になってしまい、シャベールという名を持った人間を自ら放棄する。
その悲しみの深さははかりしれず、読者の心に、過去の人間という不運なレッテルとは何かを考えさせるような気がする。
バルザックの小説を読むということは、人間の奧底に誰もが共通して持つ冷酷さや欲、甘えなど真実の凝視することを避けている闇の深淵をバルザックと共に覗き込むという作業なのだ。
---------------------------------------------------------------------------------
■小説89篇と総序を加えた90篇が「人間喜劇」の著作とされる。
■分類
・風俗研究
(私生活情景、地方生活情景、パリ生活情景、政治生活情景、軍隊生活情景、田園生活情景)
・哲学的研究
・分析的研究
■真白読了
『ふくろう党』+『ゴリオ爺さん』+『谷間の百合』+『ウジェニー・グランデ』+『Z・マルカス』+『知られざる傑作』+『砂漠の灼熱』+『エル・ヴェルデュゴ』+『恐怖政治の一挿話』+『ことづて』+『柘榴屋敷』+『セザール・ビロトー』+『戦をやめたメルモット(神と和解したメルモス)』+『偽りの愛人』+『シャベール大佐』+『総序』 計16篇詳細をみるコメント0件をすべて表示