- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464978
感想・レビュー・書評
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さまざまな事物のパロディ短編集。文体練習・・・というにはあまりにも知的遊戯。正直元ネタが全くわからないものもあったので自分の知的レベルの低さが呪わしかったけど、わかりやすい幾つかは十分に楽しめました。
まずは一番わかりやすいところで「ノニータ」はご存知ナボコフ『ロリータ』の、少女ならぬ老女萌えパロディ。語り手はハンバート・ハンバートならぬウンベルト・ウンベルト(笑)
アミーチスの『クオーレ』を嫌われ者脇役フランティ側から解いた「フランティ礼賛」には共感。恥ずかしながら『クオーレ』は読んでないけれど、勧善懲悪清廉潔白な主人公側が偽善的すぎて反発を覚えることは他作品でもあるので、主人公の正しさを強調するために汚れ役を押し付けられた悪役キャラ全般には同情してしまう。
「あなたも映画を作ってみませんか」は、ビデオの時代ながら誰でも簡単に映画が撮れるようになったという設定でいくつかの監督「風」マニュアルが紹介されているのだけど、つまりその監督の作風というかパターン、癖のようなものを上手く捉えた上で茶化してあって思わずニヤリ。ミケランジェロ・アントニオーニ、ゴダール、ヴィスコンティ、エルマンノ・オルミなど、個性的な監督がネタにされている。これパロディとしてだけでなく、実際に現代ならアプリとかでこういうの可能になりそうなところも面白い。
「涙ながらの却下」では編集者の駄目出しのテイで古今の名作をディスりまくり。聖書、オデュッセイア、神曲に始まり、プルーストからカフカまで。なるほど、有名作家の代表作と思えばこそ難解でもそのまま受け入れてしまいがちですが、新人賞の応募作だと思って読めばいくらでも駄目出しできちゃうかも。
楽しかったのは「かくれん本」古今東西の名作のあらすじを独自に要約、あえてミスリードを誘うようなタイトルを付けつつ、さて正解は誰のどの作品でしょう?というクイズになっている。既読のものだけいくつか正解できた。わからなかったものも解答を知ればなるほど!と。これ自分でもやってみたいなあ。センス問われるけど。
※収録
ノニータ/新入り猫の素描/もうひとつの至高天/物体/芸術家マンゾーニの肖像の再浮上による反復行為の散策のための彼の虚構化をめぐる小生の分析/ポー川流域社会における工業と性的抑圧/フランティ礼讃/息子への手紙/変則書評三篇/アメリカ発見/あなたも映画を作ってみませんか/涙ながらの却下
帝国の地図(縮尺1/1)/編集チェック/かくれん本/定量分析批評概要/調子はいかが?/聖バウドリーノの奇蹟/教官公募/取扱い説明書詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ずいぶん前に新潮文庫で品切となっていたものが、このたび河出文庫にお引越し+増補改訂ということで読んでみた。
エーコ先生の文体模倣による軽めのパスティーシュ、論評集といってもいいのだろう。「文体練習」ものとしてはクノー『文体練習』があるが、こちらはもっと小説・映画寄り。
内容は正直な話、以前SNSでバズった「文豪カップ焼きそば」本と何ら変わるところはないので、本質的にはぱらぱらめくって「面白かった!」でいい本だと思う。でもそこがエーコ先生というかイタリア文学というか、全編が「落ちぶれたりとはいえ、我こそはローマ帝国、ひいては欧州文明の正統な継承者なり」という、イタリア文学に共通してみられる重たいプライドに彩られており、一般読者として読むのはちょっとしんどいところが多いような気がする。すみからすみまで愉しむには、読み手の努力も結構必要。
私は最近、小説を読むための努力が続かなくなってきたので、この中でも楽しいと思って読んだものとそうでないものの落差が激しいのだけれど、個人的には、著名人のリアクションが延々と続く「調子はいかが?」が好み。 -
新潮文庫から出ていたものの復刊(増補があるので旧版を持っていても楽しめる)。
かのエーコのパスティーシュ集という、なんとも贅沢な文庫。『ロリータ』のパスティーシュは笑いを堪えるのが大変だった(しかし〝ロリータ〟自体、冷静に考えるとかなり滑稽ではある)。 -
買ってきた! 初日本語訳は1992年(新潮社)。
【書誌情報】
『ウンベルト・エーコの文体練習[完全版]』
原題:Diario Minimo (1963)
著者:Umberto Eco (1932-2016)
訳者:和田忠彦
河出文庫 文庫 ● 336ページ
ISBN:978-4-309-46497-8 ● Cコード:0198
発売日:2019.06.06
定価1,296円(本体1,200円)
〈http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464978/〉