世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (14歳の世渡り術)

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  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309617343

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  • 依存症が専門の精神科医 松本俊彦さんが14歳の読者に向けて書いた依存症のお話。

    「依存症」と言えばダメな人、弱い人、どうしようもない人というイメージで一蹴されがちだ。
    だから、「関係のないこと」。
    ちゃんとすれば、しっかりしていれば無縁と。

    だが子どものゲーム依存、スマホ普及によるSNS依存等、依存症と社会の関係はとても身近な話題だ。

    コンビニでも買えるエナジードリンク、市販の咳止め薬や鎮痛剤など、誰でも知っている薬物が子どもの依存というよすがになっていることはあまり知られていない。

    薬物・物質(ゲームやSNS、自傷、摂食等)依存全般について、メカニズムや具体的対処法がとても分かりやすく説明されている。

    私自身幼い頃から指先の皮膚をむしり、血が出ても甘皮を剝き続ける癖が続いた。実家を離れ、自立して止んだが今なお爪にいびつな跡が残る。これも自傷行為と。

    荒んだ家庭環境でいつも放っておかれ、本当はずっと寂しかったし、親には味方になってほしかった。居場所が欲しかったんだな。

    松本さんが最初に丁寧に説かれているよう、子ども時代に「自分が大切にされた」感覚や記憶の欠落は依存症の引き金になりうる。

    次第に「自分に価値がない」と思い込み、「周囲が求める自分」になろうともがき、自分の寂しさや哀しみは心の底に沈め蓋をしながら生きながらえる。
    「こうでなければならない自分」と今の「できない自分」の差に焦り、苦しみ、自分を責め続ける。

    寄る辺ない心もとなさに薬物や嗜癖に依存してしまう仕組みが自分の過去を振り返ってもよく分かった。
    まるで10代の自分が読んでいるような感覚だった。

    中でも脳の報酬系ドーパミン放出のメカニズムに関する説明は新たな知識だった。

    人間の脳は幼い頃から、信頼される人に褒められ喜び、苦節を乗り越えた先にある果実を手にしていく報酬系が機能するようになる。その経験の欠落が、手っ取り早い薬物によるドーパミン放出を求めるという仕組み。納得。

    「孤独」は愉しむべきものだが、「孤立」は危険という投げかけも心に響く。
    「自立とは依存先を増やすことである」P.191
    小児科医 熊谷晋一郎さんの言葉だが、成熟や自立は一人抱え込み、何でも自分で対処することではないことを示している。

    友達も100人いればよいのではなく、頼れる人を選ぶ目も大切という説明は重要。
    頼る先も公的機関が具体的に示され、同世代の同環境のひとばかりではない。頼り先の選別も大きな差となる。

    表面上に浮き出る依存行為の根っこにある、言語化しきれていない子ども時代の劣悪な経験の記憶、荒んだ家庭環境での極度の緊張感や絶望、自尊心を踏みにじられた屈辱感や、親きょうだいへの怒り等々、私の中にも解凍しきれていない感情がまだある。少しずつ言語化していきたい。

    • naonaonao16gさん
      ごはんさん

      こんばんは~
      お元気にされてますか??

      以前一緒に仕事をしていた方が、熊谷先生の「自立とは依存先を増やすことである」という言...
      ごはんさん

      こんばんは~
      お元気にされてますか??

      以前一緒に仕事をしていた方が、熊谷先生の「自立とは依存先を増やすことである」という言葉をすごく大切にしていたのを思い出しました。

      わたし自身は、「劣悪」というほど、家庭環境は悪くなかったように感じていて、ただ「大切にされていた」けれど「とても厳しかった」家庭でした。中学はまさに、「自尊心を踏みにじられた」生活を送っていました。
      複合的なんでしょうね。
      ドーパミンを求める仕組みが怖すぎました。
      わたしはずっと、ありたい自分と今の自分のギャップに苦しんで、自分を責めてきました。いや、今もちょっと責めてるか…

      来年、精神保健福祉士を取ることにしたんですけど、その勉強も含め、自分を掘り下げてみようかなと思いました。ちょっとしんどそうだけど…

      ありがとうございましたー!
      2022/02/05
    • ごはんさん
      naonaonao16gさん こんにちは。
      メッセージをありがとうございます。おかげさまで、元気に過ごしています。

      naonaonao16...
      naonaonao16gさん こんにちは。
      メッセージをありがとうございます。おかげさまで、元気に過ごしています。

      naonaonao16gさん、精神保健福祉士を目指していらっしゃるのですね!
      新しいことへの挑戦によって、知識だけではなく、見えてくる風景も違うと思います。何より「やってみたい」というそのお気持ちを応援していますね。

      熊谷先生の言葉「自立とは依存先を増やすこと」をご存じだったのですね。
      「1人で何でもできること」を自立や成熟だと思い込んでいましたが、目から鱗が落ちました。まだまだ新たな風景を見せてくれる言葉や出来事などの出逢いはありそうです。

      松本さんの著作は何冊読んでも「こんなんじゃダメだ!」という視野狭窄に陥った自分の視界を広げてくださる気がします。
      ドーパミンのことも、マウスの依存の実験についても平易な言葉で説明が尽くされています。機会があればぜひ。

      いいときも悪いときも山あり谷ありの人生なので、みっともなくても日々懸命に生きる自分を少しだけ大事にしたいですね。
      どうぞ健やかに毎日をお過ごしください!



      2022/02/06
    • naonaonao16gさん
      ごはんさん

      お元気に過ごされているようで、よかったです!

      精神保健福祉士、今入学の出願に向けて動いています。
      これまでも興味はあったので...
      ごはんさん

      お元気に過ごされているようで、よかったです!

      精神保健福祉士、今入学の出願に向けて動いています。
      これまでも興味はあったのですが、「今じゃない」ということが続いており、年末くらいに急に「今だ!」となりました。
      ありがとうございます!取得目指して頑張ります!!

      そうなんですよね、日本の自立って、なんだか極端なんですよね。一般的に言う自立(働いてお金を稼ぐ)にしても、家族の有無とかで得られるものが違いすぎて、「それなりの自立」くらいだと「すげー自立」に振り落とされて、誰かがいないと生きていけない状況になってしまう。(うまく伝わってないかも…)

      最近、自分なりの「自立」を掴みつつあって、過去を振り返ると、あれはなんだったんだろうな~なんて思っちゃうこともありますが、そんなものを抱えつつ、正解なんて分からないけど、生きていかないとですね。

      お互い、心身ともに大事に過ごしていきましょうね^^
      久々に話せてとても嬉しかったです!
      また遊びに来ますね~
      2022/02/06
  • 本書はゲーム・市販薬・エナジードリンク・薬物・自傷行為などの依存症になった学生の実際の事例が書かれている。
    依存症は人に依存できない病。と言う言葉が印象に残った。
    依存症の根っこには歪んだ人間関係があり、何かしらの悩みや苦しみを抱えて困っている。しかし、人に頼ろうとせずモノや行為に頼る事を選んでしまう。それは、自分を大切に思う気持ち、人を信じる気持ちを失っているから。だから人に頼れないまま、一人でもがいている。
    そう言う人たちに必要なのは人とのつながりを取り戻すことである。もし身近にそう言う人と関わる事があれば、否定するでも距離を置くでもなく、いつも通りに接する事。その人が何か悩みを抱えていないか親身に寄り添ってあげたいと思えた。

    依存症について偏見を持つ人が減り、依存症になった背景を理解しようとする人が増えて欲しいと強く思う。

  • わかりやすかった。こういうのは難易度の設定が大事なんだな。

  • ゲーム依存だなって思って買ったこの本。
    自分のゲーム依存に対してもそうだけど、それ以上に自分以外の依存症に対する人への目線が変わった。

    依存症になる人って、心が弱い人なのかなってそう思ったけどそうじゃないんだって分かった。そりゃあそうか。
    「困った子は困っている子」本書に書かれていた言葉ですごく好きな言葉。

    何かに依存しないとやっていけないくらい、現実が苦しい。それは孤立してしまっている現状なんだと。自分のことを誰も分かってくれなくて、誰も理解してくれないことからくる孤独感が、依存へと繋がっているんだと知った。

    僕は僕で、ゲームをやり過ぎてしまうことを重く受け止めすぎるのではなく、気軽に向き合っていこうと思うし、大事な人には素直に話していこうと思う。

    そして周りで何かに依存していて、それに悩んでいる人には、支えになってあげたい。その依存を否定するのではなく、受け入れてそして、少しずつ前を向けるようになるまで、一緒に歩んでいける人でありたいと思った。

  • 依存症のおおまかな仕組みは聞いたことがあったものの、
    きちんと本を読んだのは初めてかも。
    専門的な本を読むのもいいが、
    小中学生向きの本を読むのも、概要を手早く知ることができるので良いと思った。


    依存症は誰でもなり得ると思った。
    依存症とは、
    タバコ、アルコール、薬物、摂食障害(過食や虚飾)
    ゲーム、ネットなど、現代社会にはあらゆる依存性が潜んでいる。


    【気づき】
    第3章依存症の仕組みと歴史

    ・依存症とは、脳がハイジャックされた状態


    ・脳の報酬系の回路を直接刺激して、
    快感をもたらす。

    前段階にあるはずのもどかしさやしんどさを
    飛ばしていていきなり快感もたらしてしまう。

    苦労なしに得られた快感はインパクトがあるから、
    その薬物を使った人は、
    再び同じ快感を得ようとする。

    次第に薬物による快感に慣れてしまう。
    なりきってしまうと、
    今度はその薬物のない状態に耐えられなくなる。


    ・依存症になりやすい人、なりにくい人
    これまでの人生で天然のドーパミンの心地よさたくさん体験した人は、薬物によるドーパミンを体験してもそれほどその快感に魅力を感じない人がいる。
    薬物の快感よりも、

    しかるべき苦労のプロセスを経て人から認められたほうがいいなと思える。

    しかし、
    人から褒められたり
    認められたりする機会があまりなく、
    何を言ってもダメ出しされてきた人は、
    天然のドーパミンの心地よさを
    十分に体験していない。
    そうすると、
    薬物によって得られた場合の衝撃に屈しやすくなる。


    ・アルコホリックス・アノニマスの誕生

    1930年ごろ
    アメリカでは、
    アルコールの乱用を医学的に治療できないか試みていた。
    その時に、
    ビジネスマンのビルと外科医のボブは出会った。

    2人は、
    お酒を止められず、情けない過去を暴露しあった。
    すると、
    その晩お酒なしで朝を迎えることができた。
    語り合うことでお酒を遠ざけることができ、
    とうとう2人とも断酒に成功。

    1935年。
    アルコホリック・アノニマス(直訳するとな名もなきアルコール依存症たち)が誕生。
    これらの特徴は
    自助グループ。
    自助グループとは、当事者が乗り越えあって、問題を乗り越えていこうとする集まりのこと。

    依存症の有効な治療法の1つとして活用されている。




    ・日本の薬物対策は、主に戦後から。
    戦時中は、
    日本軍の兵士の士気を高めたり、軍需工場の人々に夜通し労働するために覚せい剤を利用していたこともある。

    戦後、
    日本の薬物依存対策は、
    規制で解決してきた。

    しかし、
    本当に必要なのは、
    治療と支援。

    日本は治療と支援がまだまだ不十分。





    第4章僕が僕であるために 行為への依存①


    ・スマホの画面に見入っていれば、自分の部屋に閉じこもっていると同じ気分になれる。


    ・ゲーム依存症になってしまうのは、リアルな人間関係につまずいている子


    ・リアルな生活のほうの風向きが変わると、自然と行為依存から手放していく場合もある。



    ・インターネットのデメリット

    ①ネットの情報を何も考えず
    そのまま受け入れてしまうリスク

    人間関係から孤立していて、
    なおかつ発達障害の傾向を持つ子は、
    人の心の内を想像するのが苦手。

    リアルはリアル、ゲームゲームと
    切り分けられるなら心配ないが、

    ゲームのリアリティが現実をしのぎ
    人を傷つけることに抵抗感が
    下がってしまう可能性は否定できない。


    ②情報の速さ




    第6章依存症の根っこにあるもの

    依存症とは人に依存できない病

    悩みや苦しみ、あるいは思い込みがあることで、
    人と人との関係に端を発している。

    依存症の根っこには、
    必ず歪んで人間関係がある。

    こうした歪んだ人間関係は、
    否定される関係、支配される関係、本当のことを言えない関係の3つのタイプがある。

    何をやってもダメ出しをされる否定される関係は人の心を傷つける。
    否定される関係や支配される関係は人を嘘つきにする。
    結果、本当のこと言えない関係になる。

    依存症になる人の多くは、
    日々こうした環境の中に身を置き、
    自分を大切にする気持ちを失ってしまう。


    つまり、依存症とは人に依存できない病

  • とても解りやすい。

    むちゃ食い症(過食性障害)について詳しい本を探しているのだけど、それに特化したものはなかなかない。自分は、むちゃ食いは依存症なんだろうと感じていたのでこちらで読んでみた。

    摂食障害に触れている箇所はそんなにないけど、依存症全体を理解することで、むちゃ食い症を考えるのにも参考になると思った。

    中学生に向けて書かれたものだけど、子供も大人も、当事者も当事者でない人も、依存症の入門書としておすすめしたい。なんかわかんないけど生きづらい社会だなと感じている人にもいいかも。

  • 中学生を想定して書かれているという本書。

    「こんな大人であれたら」という姿を思い描きながら読みました。

    物質依存、行為依存、どちらについても事例も用いながら紹介されています。
    困っている子どもさんの姿が浮かび、内側で起きている苦しさも伝わってくるようです。

    誰かを罰するのではなく、叱責するのでもなく、その苦しさに思いを馳せ、寄り添うこと。

    そのことの大切さが伝わってくる一冊でした。

  • 依存症という言葉に引っ掛かりがあるなら、まず手に取るべき書籍。
    動機としては自分自身依存していると自覚のある行為をやめたいモチベーションがあって、依存症について調べたかったのがきっかけ。

    結局依存は治療するものではなく、いかに上手に人生のパートナーとして付き合っていくかということに尽きるなと思った。
    一つの答えとして「別のものに依存する」こと。語弊があるかもしれないが、シンプルに言うとそういうことだと思った。
    社会生活を営むのに支障が出るような依存には、医療の力を借りながら周囲の人間がチームで向き合っていくしかない。ゆえに孤独は一つ大きな障害になるのだなと思った。

  • 読み始めてから子供向け(14歳の世渡り術シリーズ)と気づく。でも大人こそ読んだ方が良い。
    後半泣けてきた。10代の1割がなんらかの自傷経験があるという。

  • 『14歳の世渡り術シリーズ』

    ほんと自分が14歳のときに出会いたかった本。笑

    とても読みやすく分かりやすい!
    依存症について理解したい中高生はもちろん、身近な支援者の方にすすめたい本。

    きっと依存症へのイメージがかわると思う。

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著者プロフィール

医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所依存症研究部長。
主な著作に『自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント』二〇一五年、講談社。『誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論』二〇二一年、みすず書房。『世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (一四 歳の世渡り術)』二〇二一年、河出書房新社。『依存症と人類―われわれはアルコール・薬物と共存できるのか』C・E・フィッシャー著、翻訳、二〇二三年、みすず書房。ほか。

「2023年 『弱さの情報公開―つなぐー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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