イスラームから見た「世界史」

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (685ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314010863

感想・レビュー・書評

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  • (要チラ見!)

  • いわゆる中世、西ローマ帝国滅亡後からルネサンスまでの間、西洋史の中心は東ローマ帝国とイスラムの勃興であった。しかし西洋中心の歴史観ではおそろしくイスラムに関する記載は少ない。十字軍は西洋からの視点で描かれ、せいぜい東方ではイスラム帝国、オスマン・トルコなどが勢力を伸ばしたとだけでそこで何が起こっていたかは描かれていない。

    イスラムの特徴はキリスト教が個人の救済に重点を置いているのに対し、ウンマと言う共同体が中心になっている点だ。よく使われるジハードは元々聖戦と言う意味はなく、イスラムの大義のために奮闘努力(struggle)することであり、例えばウンマに対する攻撃に対し剣を持って戦うことはジハードに含まれる。またイスラムの教えでは勝利はイスラムの真理を確証し、逆に負ければイスラムの教えを実践していなかったと見なされる。ここに新しい解釈をつけたのがホメイニやテロ集団が言うジハードだろう。後に平和なイスラムの領域とその周りを取り巻く戦争の領域と言う二元論が取り入れられ(何となくゾロアスター教っぽい)これもイスラムの領域を広げるための手段は問われないという考えにつながった。ジハードについてイスラムの主流の解釈ではないのだが。

    宗派も色々有るが、ムハンマドの跡をついでウンマを率いたのがカリフなのだが、第4代のアリーのあと、シリア総督のムアーウィヤと争い交渉後ムアーウィヤがシリアとエジプトを収めることになり、これが後のウマイヤ朝につながる。ウマイヤ家は当初ムハンマドを攻撃し後にイスラムに改宗後は有力者の家系であった。交渉したアリーはカリフの資格が無いと見なされついには暗殺された。世俗的なウマイヤ朝では無く正統なカリフはアリーの後継者だと言うのがアリー派で、後のシーア派に成り、アラブ世界での反主流派であったペルシャで勢力を保った。現代でもシーア派の拠点はペルシャの大国イランである。

    その後中央アジアから傭兵として雇われたトルコ人がセルジュク朝、オスマン・トルコなどの大帝国を建てるが、次第に西洋列強植民地支配が強化されて行く。例えばインドを支配するイギリスと南下するロシアの間に設けられた緩衝地帯がアフガニスタンになり、インドからムスリム国家が別れたのがパキスタンとバングラデシュになった。

    アラビアのロレンスがオスマン帝国に対抗するために協力を求めたのがアリーの家系であるハーシム家でその褒章として与えられたのが旧オスマン帝国のイラクとヨルダンだ。フランスは統治領をシリアとキリスト教徒が住むレバノンに分けた。サウード王家が勢力を拡げる際にアメリカの兵力を利用し、サウジアラビアと米軍の協力は今につながる。一方でサウード王家はムハンマドの教えを忠実に守り新たな解釈を付け加えないとするワッハーブ派と結びついてもいた。サウジは敬虔なイスラム教国であるとともにワッハーブ派の中からは過激派が生まれビン・ラディンにつながる。

    1917年イギリスの外相バルフォアはロスチャイルド卿にパレスチナにユダヤ人の国ができることに賛成し、努力すると書簡を送った。イギリスはハーシム家、サウード家、ヨーロッパのシオニストに同じ土地を与えると約束し、一方でフランスとの間でその領土全てを分割支配すると秘密裏に合意していた。

    西洋の植民地化に対するイスラムの潮流は3つ有り西洋流の価値観を進んで受け入れる、原初のイスラムの教えに戻る、そしてイスラムの価値観に進んだ西洋の技術を取り入れるだった。さらにはナショナリズムや汎アラブ主義なども生まれていく。

    イスラムの歴史は一筋縄ではいかないし、これからもそうだろう。しかし、ムハンマドの言行録を厳密に守ると言うのは無理なのではないか。イスラムの歴史では世の中に合わせるように新しい解釈を加えたのは普通に良くあることだったように見える。しかし、新しい解釈を着けることそのものが異端とするものが正統派を名乗るのは困ったもんだ。

  • 歴史の趨勢や筆者がキーと思っている要素を端的に語ることで、大きな流れに乗ったように出来事を見ていくことができる。
    その分細かい点で誤解されるような表現になっていたりするが、そこは訳註がかなりフォローしている。
    700ページぎっしり詰まっているので、読み切るのに時間もかかるが、始終面白く読める。

  • 全660㌻超の大作。西洋中心主義になりがちな世界史をイスラーム側から描いた作品。イスラーム入門、世界史入門にピッタリの作品。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、3階開架 請求記号:227//A49

  • イスラームが生まれてから今に至るまでのもう一つの世界史。教科書で読んで知ってたような事実も丁寧に語られててイメージも湧くし、実態はどんなだったかなってのがわかる。だから頭にも大まかに流れが残るし。
    これを読めば初期のイスラーム、拡大の背景、モンゴルや西洋との接触、スンニ派とシーア派、アラブの国民国家、王制と共和制、イスラーム思想史と大事なことを一通り把握できる超優良な本。

  • マルチサイトのゲームをプレイする感覚を、実世界の、しかも悠久の世界史の流れを漂いながら感じることができるとは。
    600P超のボリュームも読み飛ばしを許さない、随所で感じる「あの時こちらの登場人物はこうだったのか」という鳥瞰の快感。
    別の視点の歴史がある、という真理は日本人には受け入れやすいというか自明。
    片側の言い分しか聞いてこなかった不明を恥じ、その上で中道を進みたい。

  • 著者はパシュトゥーン族のアフガニスタン人の父とフィンランド系アメリカ人の母の間に生まれ、アメリカの高校に留学するまでアフガニスタンで人生を過ごしました。
    その為、イスラームと西欧の2つの考えに通じている人物です。

    この様な著者によって執筆された本書。
    題名からも分かる様に西欧視点で語られる事が圧倒的に多い世界史を、イスラームの視点から見つめ直してみる一冊で、本書を読む事によりイスラームの歴史を鳥瞰的に見ることが出来、またそれによってサウジアラビアとワッハーブ派の関係、トルコとアルメニア人の対立、イランとその他アラブ諸国との対立等、様々な諸問題の根源を知る事が出来ます。
    またそれ以外にも、イランはなぜシーア派の国になったのか、ナショナリズムがイスラームに与えた影響、スンニ派(本書ではスンナ派と記述)とシーア派の誕生の経緯等、十字軍がイスラームに与えた影響等、はるかな過去と現代との繋がりが理解出来る内容でもあります。

    取り上げている歴史は、本文中ではメソポタミア文明から9.11までであり、邦書版である本書ではその後、著者が2011年5月に書いた日本の読者向けの解説でアラブの春についても解説が行われています。
    加えて上記で記した他に、イスラーム教の各宗派がそれぞれどの様な経緯で誕生したのか、イスラームの様々な用語が持つ意味とその言葉が指し示す概念や出来事、存在がどの様な経緯で起きたのか、誕生したのかと言った歴史も解説がなされています。

    とにかく、内容が盛り沢山であり、イスラームについて知りたければ(少なくとも邦書において現時点では)本書を越えるものは無いのではないでしょうか。
    イスラーム入門書としては間違いなしの一押しです。


    (本書を読んだ後では誰であれ)ニュースやNHKスペシャルと言ったテレビ番組で目にする表層的な(本書を読んだ今となってはこの言葉すら適切か否か、疑問を感じていますが・・・)イスラーム解説などでは、一時的に分かった様な気持ちになりこそすれ、全く分かっていないのだと言う事は間違いなく理解できる内容でした。

    イスラームについて理解したければ必読の一冊。
    興味をお感じになられれば一読されては如何でしょうか。

  • ミドルワールド
    ヒジュラ
    カリフ制の誕生
    分裂
    ウマイヤ朝
    アッバース朝の時代
    学者・哲学者・スーフィー
    トルコ系王朝の出現
    災厄
    再生
    ヨーロッパの状況
    西ヨーロッパの東方進出
    改革運動
    産業・憲法・ナショナリズム
    世俗的近代主義の隆盛
    近代化の危機
    潮流の変化

  • イスラームの歴史の物語です。イスラームの誕生から、興隆・分裂・発展、ヨーロッパ世界との出会い、そして近代へと大きなスケールでストーリーが語られます。学校で習った世界史とは異なる世界史が展開されていきます。例えば、イスラーム世界へ与えた影響は十字軍よりもモンゴル軍の方が大きかったとか。
    普段あまりなじみのないイスラームを知ることができます。イスラームとは、宗教であると同時に、正しい共同体を築くための社会事業でした。現在アラブ諸国で起きていることについて複眼的な見方ができるようになったと思います。
    イスラームの世界史観に触れることで、自分の世界史観や文化観を見直すきっかけに使えます。

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著者プロフィール

アフガニスタン出身、サンフランシスコ在住の作家。アメリカにおける複数の世界史教科書の主要執筆者でもある。著書『イスラームから見た「世界史」』は邦訳もされ、世界的ベストセラ-となった。

「2021年 『世界史の発明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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