イスラームから見た「世界史」

  • 紀伊國屋書店
4.42
  • (49)
  • (34)
  • (10)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 624
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (685ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314010863

作品紹介・あらすじ

9・11-その時はじめて世界は"ミドルワールド"に目を向けた。西洋版の世界史の後景に追いやられてきたムスリムたちは自らの歴史をどう捉え、いかに語り伝えてきたのか。歴史への複眼的な視座を獲得するための、もうひとつの「世界史」。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • とても読みにくいけどめちゃくちゃ面白い。

  • かなり面白く読めました。特に、オスマン滅亡くらいまでは細かく丁寧に描いてくれます。なにが面白かったかというと、高校世界史ではさらっと流す箇所をきちんと書いてくれてかゆいところに手を届く感じをいだかせてくれているからです。例えば、正統カリフ4代の事績をきちんと書いてくれていたり、アフガニーが有したイスラーム世界に対する影響力を理解させてくれたり、オスマン滅亡後の目も当てられない時期のトルコでムスタファ=ケマルがなぜ国父とまで崇められたのかもきちんと知ることができる。それにイスラームと言うとイベリア半島からインドネシアまで広域のエリアを占めていますが、その時代に西のイスラム王朝と東のイスラム王朝の並立関係をきちんとわかるようにしてくれています。たとえば17世紀のオスマン・サファビー・ムガルとか。高校世界史でも図説を見ればわかったかと思いますが、ちゃんと記述して理解させてくれる点はいいですよね。著者さんはアメリカで世界史教科書記述の仕事をされているようですが、こんな教科書で学習したかったなとも思いました。

  • タイトルの名の通りイスラームから見た世界史を学べる本。自分がこれまで学んできた歴史は西洋に偏った歴史だけであり、見方や枠組みを変えると事実としてこういう歴史が存在していたことがわかった。
    イスラームにはイスラームの正義があり、そこに優劣をつけるのではなく、事実を正しく認識しお互いを尊重するのが良い。

  • これまで自分が学校等で学んだ世界史と言うものが、いかに西洋に偏った物の見方であったかがよく分かる本。西洋世界とイスラーム世界、枠組みがまるで異なっており、そうした前提条件の違いを理解せずには両者噛み合った議論は出来ず、今日の状況が生まれているのであろう。

  • 西洋的モノの見方を学んだアフガニスタン人が、ムスリムの立ち位置から世界史を記した本。
    まず、上記の通り二通りの視点を有することで、半分西洋的な見方を学んでいる我々日本人にも違和感のない語り口で、イスラームの見ている世界史を解説してくれている。今まで見たことのない世界をわかりやすく解説してくれているのだ。イスラーム関連史など、高校の世界史の授業で単語を学ぶレベルか、ダイジェストでサラっと浚うのが関の山であるが、ここまで細かいものはほぼないであろう。近世以前の歴史において、如何にイスラームが発達していたか、またイスラームが宗教だけでなく、文化であり、文明であり、社会制度であった(そして世俗権力と宗教的権威の対立の根深さ)ことがよくわかる。そして何よりも近現代において、本書の真骨頂となる。なぜいつまでたってもイスラームを旗印にする武装勢力がいなくならないのか、オイルマネーを武器にする中東諸国の内実とは何か、フセイン死後のイラクがなぜあんなにも混乱を続けるのか、また、本書執筆以降の話ではあるが、アフガン政権はなぜタリバーンに負けたのか、なぜチュニジアの春は失敗したのか。イスラーム世界内の対立を知ることで紐解ける。そして、現代のイスラームを知る上で避けては通れない西洋との関係。ここで我々は如何に自分が西洋的視点でしか見てこなかったか、ということを思い知らされる。そして、さらにイスラームと西洋の間だけでなく、改めて世界には全く異なる視点が存在すると言うことを改めて思い知らされる。昨今の世界情勢において、様々な視点があることを学び中立的観点から分析し、他者を理解することの重要性を改めて学ばせてくれる名著といえよう(ただし私は、分析は中立的に、決断は恣意的に行うべきであると考えていることをここに記す)。

  • 一ヶ月近くかかってようやく読み終わった…。「歴史への複眼的な視座を…」って、そもそも歴史の概要が全然頭に入ってない人間がいきなりイスラーム視点の世界史をインストールしてしまったんだけど、結果ユニークな形で俯瞰できた気はする。よく「歴史は現代から遡って学んだほうが良い!」みたいに言う人いるし自分もそんなふうに思ってたけど、これ読んでそういう学び方は不可能なんだなと思った。最も複雑化した状況から因果関係をたどるのは返って難しいわな…と当たり前のことを認識することができた。

  • 現在、世界人口の4分の1近くがムスリム(イスラム教徒)と言われていますが、日本にいると理解が難しく感じます。この本は、イスラム教の世界から見た世界通史です。厚めの本で、まだ通読できていないのにお勧めするのは気が引けますが、自分の知っている「世界史」を思い出しながら読んでいると「別の視点」の重い衝撃がじわじわと脳に響きます。日本では何となく自分たちの社会を西洋世界の一部のようにイメージしていて、イスラム教の社会を異質と感じがちですが、実際には、日本は、どちらから見ても辺境で異質です。

  • イスラームから見た「世界史」
    (和書)2011年10月16日 19:12
    タミム・アンサーリー 紀伊國屋書店 2011年8月29日


    柄谷行人さんの書評をみて図書館で検索してみたらなんとあるではないか。凄くラッキーな感じで早速図書館まで急行しました。書評掲載日に図書館で借りられるなんて最高に気分が良い。

    かなり錯綜しているがどういうものなのか今まで疑問を感じていたところや疑問にすら思っていなかったことがその関係性の中におかれ根気強く描かれている。

    とても参考になる。

  • 隣の違う人を叩くのは、もうお終いにしなきゃ、、、

    紀伊國屋書店のPR
    9・11―その時はじめて世界は“ミドルワールド”に目を向けた。西洋版の世界史の後景に追いやられてきたムスリムたちは自らの歴史をどう捉え、いかに語り伝えてきたのか。歴史への複眼的な視座を獲得するための、もうひとつの「世界史」。
    https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314010863

  • 「アラブの春」が巻き起こった2011年に発刊された本だが、世界がイスラム国による猛威に曝されている今こそ読まれるべき一冊と思う。

    著者はアフガニスタン出身、米国在住の著述家、米国で世界史の教科書編纂にも携わった経歴があるという。
    日本の世界史教科書においても、古代の記述はメソポタミアなど中東地域を中心に書かれていても、ギリシャ・ローマ以降はヨーロッパの歴史を辿ることが主軸となる。
    後は、もう1つの軸が中国史、残りの地域は数百年分がまとめられて記述が散在するという形式にどうしてもなってしまう。
    本書は、日本語タイトルの通り、そうした欧米中心の世界史像を脱構築し、中東のムスリム社会を中心軸に据えて世界史の流れを追っていくことにより、新たな世界史観を見出すとともに、ムスリム社会への見方を変えることを試みている力作である。
    ちなみに「中東」と書いたが、本書では中東だけでなく、東はインド・アフガニスタン・ペルシアから西は北アフリカまでのムスリム世界を「ミドルワールド」と呼び、その世界を中心にして歴史観を再構築している。
    600ページを超える大著だが、読みづらさは感じない。

    まず何より、かつてミドルワールドは、ユーラシア大陸のど真ん中、文字通り世界の中心であった、ということを実感させられる。
    もっとも繁栄し、文化・文明が進んだ地域で、それに比べるとヨーロッパなどローマ帝国分裂以降は貧しい辺境の地に落ちぶれていた。
    十字軍の遠征にしても、確かにミドルワールドのムスリム世界に惨禍をもたらしたものの、ムスリムからは「キリスト教との文明の対決」という位置付けには見えておらず、単に侵略を受けたとしか受け止められていない、と(結果的に十字軍遠征は失敗に終わっているし)。
    むしろ、その後のモンゴル族の侵入の方が、ムスリム世界に壊滅的な打撃をもたらした(モンゴル族が彼の地で酷い大虐殺をしていたとは、個人的には本書を読んで初めて認識した…)が、最終的にはそのモンゴル族もムスリム化することになる。
    さらにオスマン・トルコがビザンツ帝国を滅ぼし、ペルシャのサファヴィー朝、インドのムガル帝国との「三大帝国」の時代となる。
    この時代まで、ミドルワールドのムスリム世界は、まさに世界の中心であった。

    ところが、大航海時代以降、ヨーロッパの各国がミドルワールドに次第に勢力を拡大してくることになる。
    19世紀以降、産業革命で富と軍事力を高めたヨーロッパの列強はさらにミドルワールドに進入し、ムスリム世界も立憲主義やナショナリズムの波を受けて揺さぶられてゆく。
    第一次大戦でオスマン帝国が終焉を迎え、石油の時代の到来とともに英仏米露の列強の手により、ミドルワールドはズタズタにされていき、そしてイスラエル建国という大きな波乱の種が植え付けられる。
    その延長線上に、紛争と抗争の耐えない現在の中東情勢があるのである。

    そして、イスラームに対する理解もこの一冊を読むことでかなり高まった。
    というか、これまでがあまりに何も知らなすぎたのだけれど。
    イスラームは宗教・思想のみに留まらず、社会事業なのである。
    個人の救済に焦点を当てるキリスト教・仏教など他の宗教とは趣きが異なる。
    ヨーロッパ的な発想の民主主義や国民国家といった概念が根底のところで受け容れられない要因はそこにある。
    現代に至っても中東情勢の対立軸となっているスンナ派とシーア派の対立にしても、ムハンマドの死直後の正統カリフの時代における後継争いに端を発しているもので、単なる宗派対立として捉えてしまうと本質を理解できない。

    それにしても十字軍やモンゴル族による大虐殺だけでなく、オスマン・トルコによるアルメニア人虐殺などを含め、この地域では歴史上ジェノサイドが繰り返されてきたことを否応なく思い知らされる。
    ISの残虐な振る舞いもその延長上に見る必要があると感じた。

全46件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

アフガニスタン出身、サンフランシスコ在住の作家。アメリカにおける複数の世界史教科書の主要執筆者でもある。著書『イスラームから見た「世界史」』は邦訳もされ、世界的ベストセラ-となった。

「2021年 『世界史の発明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

タミム・アンサーリーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×