ハックルベリー・フィンの冒けん

  • 研究社
4.25
  • (22)
  • (20)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 406
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (558ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784327492014

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 浮浪者ハックの冒けん物語です。

    『トム・ソーヤの冒険』で、トムとハックはカネもちになり、ダグラス未ぼう人がハックを息子として引き取ることになります。ハックは“はじめは学校がイヤだったけど、そのうちにガマンできるように”なり、“未ぼう人のやりかたにもすこしずつなれてきて”、“あたらしいくらしもすこしは好きになって”(p34)きます。

    私はハックの自由な生活に憧れていたので、これを読んで、ハックも普通の生活に馴染んでいってしまうのかと、悲しくなりました。けれど、その後色々とあり、ハックはジムと一緒にいかだの旅に出ることになります。ハックは何か事件があってもなんとかいかだに戻ってきて、“いかだの上は、すごく自由で、気ラクで、いごこちがいいのだ。(p211)”と感じます。私の憧れていた、自由なハックが戻ってきて嬉しかったです。

    物語の後半で、都合よくトムも登場してきます。トムは、ジムを救うため、“いろんなこんなん、ぜんぶこっちがつくらなきゃなんないんだから。(p432)”と言い、簡単なことをわざわざ難しくしています。それは、“冒けんしたかったから(p522)”でした。

    解説で、ヘミングウェイのようにこの茶番劇は読まなくていいという意見まであると書かれています。けれど、私はこの茶番劇が大好きです。トムはどんなことを考えてどんなことをするのだろう、とわくわくしながらおもしろく読みました。トムのような考え方をしていれば、色んなことが楽しくなりそうです。

    ハックは浮浪者で、ジムは黒人で、身分としては高くないのかもしれません。でも、二人とも物語全体を通して人柄の良さが表れていて、大好きになりました。

  • ハリエット・アンジェイコブズの『ある奴隷少女に起こった出来事』を読み終わった時、「そういえば、ハックルベリ―も同じ頃に書かれた小説じゃなかったっけ? あっちはどんな風に奴隷が描かれていたんだっけ」とふと疑問に思いました。ハックルベリーを読んだのは大昔のことで、ほとんど内容を覚えてないし、もう一度読み返してみようかな~、と思っていたところ、ブクログからのメルマガに「柴田元幸さん新訳版ハックルベリー」の記事が!
    柴田さんの訳は大好きなので、うれしビックリ。
    最近、こんな風に、本の方から私のところにやってきてくれることが多くて驚きます。

    ハックは、夫と出会って間もないころに、夫が「好きな本」ということで岩波版(たぶん)を貸してくれて読みました。
    でも、当時の私は全然おもしろいと思えなくて「トム・ソーヤーの方が好きかも」と思ったのを記憶しているだけで、内容については全然覚えておらず。
    今回読んでみて、すごくおもしろいと思ったけれど、このおもしろさは当時の私には分からなかっただろうなぁ、とも思いました。理由はうまく説明できないけれど。

    よく、ハックは「自由」という言葉と同時に語られることが多くて、以前読んだ時は、「えー社会の枠から外れているというだけで自由ってことになるかなぁ?」とピンとこなかったのですが、今読むと、ああ、確かに自由だなぁと思いました。
    でもハックが自由なのは、もちろん、浮浪児で時間などに縛られていないから、ということではないと思った。
    たとえば、既成の善悪の概念と、自分の心の奥の奥が本当に望むこととが対立した時。ハックはかなり悩むんだけれど、結局自分の心の方を信頼して任せていきます。結果とか自分の保身とかまったく顧みず、心に従うってなかなかすごい。
    社会通念って、けっこう体にしみこんでいるもので、人はなかなかハックみたいに自由にはなれないよなぁ、と思います。
    さらに、考え方の違う他人に対しても自分の考えを押し付けないで、無理のない程度で適当に話を合わせてあげたりするところも素敵でした。自分自身にすらとらわれていなくて、お、本当に自由でいい男なんだなぁ~と思います。

    逃亡奴隷のジムとは、最初はお互いの必要に迫られて、たまたま一緒に旅をするはめになるのだけれど、実は2人は同じ価値観を共有していて、すごく馬が合うんだってことが、物語が進むにつれ、ゆっくりじわじわと分かってきます。2人とも、お互いの良さをちゃんと理解している。そういう友情の部分も素敵でした。

    ところで、読む前に気になっていた奴隷制度と奴隷についての描かれ方ですが、執筆された時期はハックの方が遅くて、『ある奴隷少女に起こった出来事』発表よりも20年くらい後。
    でも、まあ、ほぼ同時代のものと言ってもいいのかな。
    奴隷少女が書かれたであろう時期とハックが書かれるまでの間には、奴隷解放宣言や奴隷の市民権などを認める憲法修正14・15条(=1870年あたり)という歴史的大事件が挟まれていて、その前(=奴隷少女執筆時)と後(=ハック執筆時)とでは黒人たちの意識はかなり違っただろうとは思いますが、社会全体としては(特に白人の意識は)そんなに変わらずだったと思われるので、そういう意味で、ほぼ同時代かと。
    ということで、時代設定はどちらも1830~40年代とされているので、その頃の白人から見た奴隷制と、黒人側から見た奴隷制って感じで、両者の視点の違いとか立場の差をあくまでも娯楽として読み比べました。双方に黒人コミュニティについての描写がありますが、視点が裏と表、という感じで(あるいは中からと外からの視点)、とても興味深かったです。
    そして、ああやっぱり同じことについて、程度の差はあれ、同じように不当だと訴えているんだなぁ、という印象を持ちました。
    特に、所有者の状況が変われば簡単に夫婦や親子が引き裂かれてしまうという制度の非情な側面について、片方は自身の体験として、もう片方は架空の少年の冒険譚として、両者ともそれぞれのやり方で、かなり力を入れて強く思うところを訴えているように思いました。

全25件中 21 - 25件を表示

著者プロフィール

Mark Twain 1835年-1910年.
邦訳された自伝に、
時系列順に並べられている
『マーク・トウェイン自伝 〈上・下〉 ちくま文庫 』
(マーク トウェイン 著、勝浦吉雄 訳、筑摩書房、1989年)
や、トウェインの意図どおり、執筆順に配置され、
自伝のために書かれた全ての原稿が収録されている
『マーク・トウェイン 完全なる自伝 Volume 1〜3 』
(マーク トウェイン 著、
カリフォルニア大学マークトウェインプロジェクト 編、
和栗了・山本祐子 訳、[Vo.2]渡邊眞理子 訳、
[Vo.1]市川博彬、永原誠、浜本隆三 訳、
柏書房、2013年、2015年、2018年)などがある。



「2020年 『〈連載版〉マーク・トウェイン自伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マーク・トウェインの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×