ムッシュ-・アンチピリンの宣言: ダダ宣言集 (光文社古典新訳文庫 Bツ 1-1)
- 光文社 (2010年8月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334752095
作品紹介・あらすじ
1916年、第一次世界大戦を避け、チューリッヒに集まった若者たち。彼らは社会への嫌悪感、未来への不安を共有しつつ、新たな生を模索しようとした。その一人トリスタン・ツァラはダダ運動を創始。世界中に飛び火し、今日まで人々を震撼させてきた。そのエッセンスを抜粋。
感想・レビュー・書評
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歴史上最も破壊的でアナーキーで危険な匂いのするダダイスム。一昔前のロックにもパンクにもダダの延長にあるといえる。
ダダは何も意味しないからこそ歴史的文脈押し当てられることなく、ある種の永遠性や普遍性があり常に新鮮である。
しかしダダは単にニヒリズムではなく、そこにはダイナミズムが存在している。
ちなみにその後シュルレアリスムに吸収されたように紹介されることが多々あるが、ダダイスムは無意味であるからこその固有性がある。
具体的な違いはシュルレアリスムは特にその偶然性に着目し、偶然とは無意識下での潜在的な本質であり、それらを引き出そうとしたフロイトの精神分析に傾倒したもの。
その点ダダは意味が無いということに尽きる。
ツァラは作者の作品、言葉と意味を徹底的に切断してきた。
正直自分はダダ宣言集やダダ詩集目当てというより、塚原史の解説のダダの解説を読みたくて購入した。これから読む人はまず解説を読んで本編を読むことをおすすめする。
反アート、反システムなど現代でこのようなワードを聞くと、煙たがられるだろう。しかしここまで究極につきつめていると、もはや美しく感じる。
自分たちの心の奥底には、常に革命的な光の眩しさへの憧れがあるのかもしれない。 -
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なるほど~。鋭く尖っていたその時の心に響く内容なのですね。確かに、その時にしか響かないものってありますものね。
熱さが消えたときの、熱かっ...なるほど~。鋭く尖っていたその時の心に響く内容なのですね。確かに、その時にしか響かないものってありますものね。
熱さが消えたときの、熱かったと思えるのって、それを乗り越えたからなのでしょうか。
時間を作って読んでみたいと思います。2022/06/08
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トリスタン・ツァラによる「ダダ宣言」などを収めた本。
ダダ宣言自体は昔読んだことがあるが、この本は評論なども載っている。いつのまにかこういう文庫本が出ていたらしい。
第一次世界大戦下、1916年以降順次出された「ダダ宣言」は、「DADAは俺たちの強烈さだ」「DADAは何も意味しない」と、激しい革命的意志をもって表明される。
既製のアカデミックな芸術観を否定しようというこの激しい「若さ」は、ヨーロッパが直面した世界大戦という危機とシンクロしているが、現在でもパンクとか、ノイズミュージック、ハードコアとか、そういう音楽に集っている若者たちの感性と通底していると思う。
DADAはこのように普遍であり、「何も意味しない」行為を意図することによって、明確な意味を持つのであるから、それは決して本当に無意味なのではない。意味を無意味へと変換してしまう終末的カタストロフィーの衝撃的快感を求め、そこに意味を見いだしているわけだ。
ここに収められたツァラの文章や詩にも、語句の選択に一定の方向性が見える。真に意味を排除していけば、方向性のないカオス状態になるはずだが、ここではそうならない。まだ若く、エネルギーが躍動している。
モダニズムである。それは、何かの始まりでもあった。
芸術を志す人は一度読んでおいて損はない。 -
ツァラはチューリッヒで華々しくダダ宣言をして、パリに移ってからまたちょっとダダをこねて、こねくりまわして、それで終わっちゃったみたいに思われている節もあるけど、どっこい1963年のクリスマスまで生きて詩作をつづけていたわけだから、ケネディ暗殺をたぶん知っていたはず。
ほんのちょっとの期間だけれど、ツァラと同時代を共有していたなんて、なんだか感慨深い。そんなこと言ったら高橋新吉とはかなりの期間を共有してたわけだけれど、それはまた・・・別の機会に。
ツァラが亡くなった翌年、The Whoが結成され、“それ”は預言になった。ピート・タウンゼントはステージで楽器を壊した(おそらく)最初のミュージシャンだ。ピートは詩や小説を書くひとだけど、ツァラを読んでいたかどうかは知らない。
ツァラの詩を読むとThe Whoが聴きたくなる。
・The Who--My Generation, Monterey Pop Festival 1967
http://www.youtube.com/watch?v=kUseoWDXqvg&feature=related
追記:
ちなみにジミヘンのギターを燃やすパフォーマンスはこのあとなんですけど、なんかダダのあとにシュールレアリスムがうまれたみたいな流れですね。デュシャンの『泉』と“Wild Thing”が意味するものはじつはヒジョーに近いのかもしれませぬ。
Jimi Hendrix - Wild Thing, Monterey Pop Festival 1967
http://www.youtube.com/watch?v=gPvehX2aWb8 -
◇ダダの創始者トリスタン・ツァラによる「ダダ宣言」集ならびに詩集。破壊の中に光る美。
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本書冒頭にも、訳者もふれているが、ダダと聞くと真っ先にウルトラマンの怪獣を思い浮かべる。その次に私とダダとの接点になるのは、パンク・ロックがある程度収まってきた頃に、ラフ・トレードというレコード・レーベルから「キャバレー・ヴォルテール」というバンドが「ナグ・ナグ・ナグ」というシングルを出したのを聞いた時だ。その後、きっかけは覚えていないが、シュルレアリスムに興味を持ち、関連の展覧会にも足を運んだ。ブルトンとの絡みで、ツァラはなんとなくシュルレアリスムのもとを作った人ではあるが、その後、たもとを分かち、あまり展開もなく、しぼんでいったように感じていた。ダダの末期は寂しいものだが、本書を読むと、創成期の「強烈さ」は伝わってくる。あらためて、ダダはパンクだったんだなと感じた。
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「ムッシュー・アンチピリンの宣言」読了。ダダによる言語に意味はない。それは新聞紙を切り刻み詩を作成する、それがツァラのダダの作品の1系統だ。ツァラは多岐にわたる著名人と交友を深め、本を作り上げる。それが後にシュルレアリスムに吸収されたとしても、ツァラの名はいつまでも残るだろう。
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