ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫 Aハ 4-1)

  • 光文社
3.79
  • (13)
  • (22)
  • (17)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 228
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752101

作品紹介・あらすじ

賭博師ボーモントは友人の実業家であり市政の黒幕・マドヴィッグに、次の選挙で地元の上院議員を後押しすると打ち明けられる。その矢先、上院議員の息子が殺され、マドヴィッグの犯行を匂わせる手紙が関係者に届けられる。友人を窮地から救うためボーモントは事件の解明に乗り出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • びっくらこいた!

    ハードボイルドの始祖と言われるダシール・ハミットの『マルタの鷹』と並ぶ代表作『ガラスの鍵』です
    そして訳者は ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズでお馴染みの池田真紀子さん
    うーんこれを古典新訳シリーズのラインアップに加えてくるなんざなかなかいい仕事するじゃないの光文社、このこの(すっかり光文社の手先)

    さて本編ですが、もうすごい!のひと言
    最初の100ページくらいで完全に魅了されちゃいました

    もう、何も教えてくれないのw
    人物の心情とか背景とか人間関係とかにまつわる描写は一切なし
    ただ場面場面で目に見えることや聞こえる言葉等の表面的なことが三人称視点で記述されるのみ
    要するに五感で感じられることしか書いてくれないのよ
    裏側のことは全然教えてくれることなく淡々と素っ気なく物語はどんどん進んで行くんですが、これがけっこう気持ちいいんだけど、なにしろ分かりづらい
    だって主人公ボーモントを突き動かしてるのは何か一切教えてくれないんだもの

    何考えてるかぜんぜんわかんないけどすごい惹きつけられるんよね
    やっぱ男は行動で示すのみよ

    何も教えてくれない文章=ハードボイルドは一方で読み手の想像力で何倍にもふくらむ増えるワカメなのですよ!
    最初にして 最高のハードボイルド

    これを読まずにハードボイルドをかたるな!痛みに負けルナ!(高畑充希!)

  • 賭博師ネド・ボーモンが、殺人の嫌疑をかけられたポールを救うために、時間の真相を追いかける。市政、選挙、暗黒街…さまざまな人の思惑が入り乱れ。

    ハメットの長編第4作。賭博師が探偵をする、というハードボイルドならでは。そして、本職ではないため、かなり危ない橋を渡る。

    解説にもあるとおり「謎解き」の要素は少ない。でも、別にドンパチのヤクザ小説でもない。まさにハメットらしい一作。ラストが秀逸。

    ちなみに、読んだのは創元推理文庫版、大久保康雄訳です。

  • 本の片づけをしている中ふと手に取った『読まずに死ねるか!』を読んでいたら出てきたので、改めて読み始めてみた。(もともと買ってあって途中まで読んでた)
    読み終えて結果はまぁそれなりに意外で面白かった。「ザ・ハードボイルド」ですね。

  • 読み終わってシンプルさに驚く。死人が出たが近々選挙があるため隠蔽される。

    ひとくちにハードボイルドって表すとなんだろ。この主人公は全く人間味がなく人としての感情や弱点がない分、臭みもなくサイボーグか殺し屋みたい。権力持ってる人間が力を維持するために、そっとして欲しい所をほじくるのが探偵という仕事。庶民からしてみたらヒーローのようにも写るし、明日殺されるかもしれない位の危険な瀬戸際で生きてる。「やってられない」と感じる倦怠感が「クールだわ」と錯覚するのだろうか。

  • なるほどぉ〜。

  • ハメット凄い!
    この作品の主人公はクールな探偵ではない。正義感に燃える警官でも、人情にあついヤクザ者でもない。
    賭博師であり、市制を牛耳るギャングの右腕。探偵という役割からくるハードボイルドな生き方すらできない。ただの人なのだから。何をモチベーションにしていくのか問いかけられる究極のハードボイルド小説。
    感情移入すら難しいけれど、引き込まれてしまうこの小説の魅力はいったいなんだろう。

    解説の通り、この作品は存在そのものがハードボイルドなのだ!

  • 点描的作品。主人公の息遣いが感じられる。

  • この本には諏訪部浩一さんによるひじょうに立派な解説がついている。
    解説かくあるべしと言いたくなる大変すばらしいもので17ページにも及ぶ。
    この解説を読むだけでハメットについていろいろ知ったかぶりができるだろう。
    (そんなことしてなんの得があるのか、というのはさておき)
    諏訪部さんはまずハメットの小説がハードボイルドという分野を開拓し、ミステリの外からも古典と呼ばれるようになったことを説明する。
    次に、しかしハードボイルドの古典として読むと、主人公がヒーローとは言いがたい、つかみどころのない人間なので違和感を覚えるだろう、と言う。
    そして、最近の研究ではこの小説が大戦間に書かれたことを重視し、ノワール小説の先駆として読むことが多くなっていると指摘する。

    引用したくなる文章が多い。

    「このようにして、『ガラスの鍵』という小説においては、主人公に「共感」するためには読者が相応の努力を払わなくてはならない」

    「しかし、ハメットがこうした「わかりにくさ」をほとんど「ぶっきらぼう」なほどに――「ハードボイルド」に――出すことを可能にしているのが、彼の読者に対する、あるいは文学に対する信頼と呼ぶべきものであることは強調しておきたい」

    「虚しさばかりが残る小説を読むことが、虚しさばかりが残る体験であるわけではない。それは虚しさを見つめた主人公と作者を、追体験する営みに他ならないからである」

    解説でも池田真紀子さんの訳者あとがきでも共感しにくいと評されていたが、私は最初から共感しようとせず行動と会話のみを追ってならず者たちの抗争を楽しんだ。ちょうど「仁義なき戦い」のように。

    この本には8ページにわたる年譜がついているが、次の記述にはちょっと仰天してしまった。

    「一九一七年 二十三歳
    ピンカートン探偵社から、銅山会社の労働組合が行っていたストライキの「スト破り」を命じられる。さらに銅山会社から組合の幹部を暗殺するよう依頼されるが、ハメットはこれを拒否する。しかし後に、この幹部の死体が鉄道の踏切で発見される。ハメットはこの事件に大きな衝撃を受ける」

    以下は余談になるが(といってもこの文章はすべて余談なのだが)解説の中に、ハメットの主要作品は「永遠に活字として残し、広く読者の手に届くようにする」プロジェクトである「ライブラリー・オブ・アメリカ」に収められている、という一文があった。

    このライブラリー・オブ・アメリカとはなんだろうか。

    まずカタカナで検索してみたが、「クライム・ノヴェルを毎日読もう」というブログ以外は文学と直接関係ない事柄しか出てこない。件のサイトによると、古典から現代までアメリカ文学の主要な作家を集めた叢書であるという。
    そこで今度はアルファベットで検索してみると、公式サイトが見つかった。
    想像以上の充実ぶりで、アメリカ文学の富が一同に会したかのようだ。すっかり興奮してしまった。スーザン・ソンタグやカート・ヴォネガットまで入っている。著者別だけでなく、「映画批評」「野球」「ロサンゼルス」「ベトナム戦記」といったテーマ別のアンソロジーもある。
    思うのだが、岩波文庫はここと提携してライブラリー・オブ・アメリカの本をどんどん翻訳して見てはどうだろう。(もうしているのかもしれないが)解説も本国版と日本版の二本立てでいく。著作権の切れている本などやりやすいのではないだろうか。
    話は戻るが、『マルタの鷹』は1934年にシリアスな文学叢書「モダン・ライブラリー」に加えられたという。これはどのようなものだったのだろう。アメリカの文学叢書の歴史というのも面白そうだ。

  • ハードボイルドってやっぱり苦手かも知れない。あんまり頭に入らなくて眠くなっちゃった。解説の“「わかりにくさ」に耐え、そこから目をそむけない読者だけがネッド・バーモンドの苦境を実感できる”というのを読んで、私には我慢が足りなかったと思わされた。先に解説を読んでから読み始めれば良かった。ハメットがいたからこそチャンドラーが出てきたというのはなかなかに考えさせられる。2012/190

  • ハードボイルド小説の特徴や魅力は心理描写が極力排除され、人物の心情をその仕草や振る舞いから読み取らなければならない不親切にも思えるぶっきらぼうなところだと考えています。主人公と読者の同調を拒むかのように突き放しつつも、人物と雰囲気で読ませる高倉健的魅力。そういう面ではこの作品は満足でした。ただ個人的には、ネッド・ボーモントという人物は少しタフガイすぎるかも? という印象です。よく読むと頻繁に動揺したりするのですが、もう少し強がりというか、やせ我慢というか、そういった表情をもっと見せて欲しかったかな。と。

全25件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1894 年アメリカ生まれ。1961 年没。親はポーランド系の移民で農家。フィラデルフィアとボルチモアで育つ。貧しかったので13 歳ぐらいから職を転々としたあと、とくに有名なピンカートン探偵社につとめ後年の推理作家の基盤を作った。両大戦への軍役、1920 年代の「ブラックマスク」への寄稿から始まる人気作家への道、共産主義に共鳴したことによる服役、後年は過度の飲酒や病気等で創作活動が途絶える。推理小説の世界にハードボイルドスタイルを確立した先駆者にして代表的な作家。『血の収穫』『マルタの鷹』他多数。

「2015年 『チューリップ ダシール・ハメット中短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ダシール・ハメットの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×