戦争と平和2 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (583ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334754259

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  • 2冊目のクライマックスは、フランスのナポレオンとロシアのアレクサンドル皇帝の調印式。

    ナポレオン皇帝は、フランス革命の産物。
    離島生まれで身分が低く、従来なら要職に登用されない彼が、フランス革命によって立身出世、さらには周辺国との戦争にも次々と勝利する。
    一方のアレクサンドル皇帝は、ロシアロマノフ王朝の血統。
    生まれながらに広大なロシアを治める統帥である。
    その二人が、同じ『皇帝』の称号で対等に顔を合わせる。

    そしてこのとき、ナポレオンもアレクサンドル皇帝も、それから100年余後にロシアで革命が起こることを知らない。
    それどころか、著者のトルストイさえもそれを知らずにこの物語を書いているということに、神がかり的なものを感じた。
    この物語は、革命前のロシアにおいて革命前の出来事について書かれているのだということを、改めて思わせられる場面であった。

    我々はもはや、革命後の時代、その社会と価値観の中にしか生きられない。
    過去は二度と来ない。
    革命が起こる前の時代に戻ることもなければ、革命を知らない時代を生きることも二度とない。
    トルストイが繊細な描写でしつこいほどに描く、皇帝の神々しさ、また皇帝への尊敬や愛情は、失われて二度と取り戻せないのだ。

  • (2023-08-18)(2023-09-15)(2023-10-13L)

  • 第1部第3編と第2部第1~2編を収録。戦場から戻ったアンドレイとニコライ、遺産相続後のピエールの苦悩。

    ボルコンスキー家における求婚騒動では、マリヤの下す決断に感動。美人の軽薄さと、不美人の美しい心根。人間、何が幸せなのかと考えさせられる。

    いっぽう兄のアンドレイはアウステルリッツの戦いで負傷する際、至高体験のような精神的な啓示を得る。戦争と死を目の当たりするなかで、見上げていたナポレオンを俯瞰するまでに至る心の変化に目を見張った。

    陰キャで目的観のない青年ピエールは、転がり込んできた金と権力で美女と結婚はするものの、うまくいかず結局すべてが行き詰まることに。自らの生き方を見出すべく根源的な問いに悶々とする姿は共感する人も多いだろう。やがて新たな世界に身を投じた彼はアンドレイと人生論で激論をかわすことになる。ここのやり取りが、宗教にハマった若者が現実を知っている年上の友人を勧誘しているようにしか見えなくて、ピエールがかなり痛い人に見えてしまった。しかし理想を語る彼の言葉は、安易な博愛精神に見えつつも、「戦場に横たわって見たあの高い永遠の空」という至高体験をアンドレイに思い出させ、内面世界を新たにする転機となる。これには驚いた。「現実を見ろ」で終わりそうなものが、やはりアンドレイにも純粋な精神性が眠っているがゆえに、生き様も状況も全く違うピエールと共鳴を始めたのだろうか。

    無意識的にも精神的価値を求めていくアンドレイ、ピエール、ニコライといった青年たちと、権力に取り入ってのし上がっていくボリスや、欲望と実利の追求に邁進するクラーギン公爵家の人々などとの対比が印象深い。正直、もっと難しい小説かと思っていたが、深遠なテーマをはらみつつも、人物への興味がつきず面白い。先は長いが、楽しんで読み進められそうだ。

  • アウステルリッツの戦いで挫折を味わい、奇跡的に帰還したアンドレイに待ち受けていた妻の悲劇。クラーギン公爵の娘と愛のない結婚をし、案の定奔放な妻がやらかした不義に怒りドーロホフに決闘を申し込み、あげくの果てにはフリーメイソンに入会してしまったピエール。そのドーロホフは求婚に失敗し、ニコライはドーロホフに賭博で大負けし・・・といった感じで、第二巻では登場人物たちがいよいよ本格的に動き出し始めた印象だ。彼らの中ではやはりドーロホフがヒール役ながらもどこか間抜けでカッコよく、魅力的に思えた。

  • 2022/01/01

  • ロシア貴族の優雅な生活や戦争シーンの他に、カード博打、決闘、フリーメイソンについてのシーンがあり、ロシア社会の当時の特徴的な一面を垣間見ることができた。登場人物の感情の動きの表現が巧み。

    「自分の好きな人間以外、俺にはどうだっていいんだから。好きな人間のことは命がけで大事にするが、他の連中は、もしも行く手を遮るようなら構わず踏みつぶしてやるさ」p340

  • 思った以上にじわじわ系

  • 『戦争と平和2』のあらすじ

    【平和】2⃣
    ■ベズーホフ伯爵の死によりその莫大な遺産は、彼の庶子であるピエールひとりが相続することになる(伯爵に血のつながりのある姪のエカテリーナやオリガにはいくらも渡らなかった)。ピエールはそもそも、大柄な体形のどこか頓馬なサエないやつ。しかし彼がこうしてベズーホフ伯爵となった瞬間、突然周囲が色めき立つ。クラーギン公爵はそんなピエールにさっそく食らいつき、万人が認める美女、娘のエレーヌを露骨に押し売りする。この女の造形と彼女の発散するフェロモンに抗いきれず、ピエールは降参。本人も知らない間に縁談はしっかりと成立してしまっていた。
    ■クラーギン公爵はエレーヌに次いで、品行は悪いが男前の息子アナトールをも片付けようとする。相手は厳格にもホドがある変人ボルコンスキー公爵の、箱入り娘マリア。さっそく”禿山”にあるボルコンスキー公爵邸に押しかけて”ちからわざ”で縁談をまとめようとする。しかしアナトールは家人の眼を盗んでマリアの侍女で美人のマドモアゼル・ブリエンヌに懸想する。それに気づいたお人よしのマリアはアナトールからのプロポーズを断り、アナトールとマドモアゼル・ブリエンヌとの結婚を心から願うのだった。

    【戦争】2⃣
    ■オルミュッツにて、クトゥーゾフ率いるロシア軍はオーストリア軍と合流する。さらにロシア軍にはアレキサンドル皇帝が、オーストリア軍にはフランツ皇帝が駆けつけて士気を鼓舞する。アレキサンドル皇帝を間近で見たアンドレイはテンション・マックス。今すぐ皇帝のために命を投げ出したいとさえ思う。
    ■ロシア・オーストリア連合軍にナポレオンから手紙が届く。それによるとナポレオンは決戦を回避したがっているらしいのだ。ナポレオン臆したと見た連合軍はこれを機に一気に攻め込むべきと決断する。そこでオーストリア軍のワイローターが作戦計画を起草するのだが、そこには敵の配置が明確にされておらず、アンドレイによる見立てでは大いに不満が残るものであった。クトゥーゾフはワイローターの作戦では負け戦になるとさえ言った。アンドレイは自身の死を覚悟しながら翌日の決戦に備える。
    ■12月2日早朝。アウステルリッツの戦い――。
    ナポレオン軍の右翼が手薄と見た連合軍は、濃霧の中、自軍の左翼を進軍させる。しかしまだまだ先にいるものと思っていた敵軍がいきなり霧の中から現れて大混乱。隊列は乱れに乱れ、結果部隊は壊滅する。この戦いの中でアンドレイは頭に衝撃を受けて倒れ、青く高い空を仰ぎ見ながら気を失う。右翼から連絡に駆けつけたニコライは惨状を目の当たりにし、また沈みこんだ面持ちのアレクサンドル皇帝を目撃する。ドーロホフも手を負傷し、死に物狂いで敗走する。夕方にはあらゆる地点でロシア連合軍の敗北となっていた。
    ■やっと薄目を開けることができたアンドレイは、自分を見下ろし手当てをするよう指示するナポレオンがその視界に入る。そしてまた気絶する。野戦病院で再び目を覚ましたアンドレイはナポレオンに話しかけられるがひと言も返せず、あの時の空の大きさを思い出しながらナポレオンの小ささに失望する。また脳裡では生と死、偉大さと無などについてとりとめのない夢想がふくらんでいくが、肉体は静かに死の淵に沈みゆこうとする。

    【平和】3⃣
    ■ニコライが休暇のため帰省、たちまち人気者となる。父親のロストフ伯爵はバグラチオン将軍を迎えての豪勢な夜会を開催する。出席者たちのもっぱらの話題といえば、「アウステルリッツの敗戦の原因とは?(クトゥーゾフ将軍の評判は地に落ちてしまっている)」、あるいはひそひそ話で、「新婚のベズーホフ伯爵(ピエール)とエレーヌのこれからは?(帰省してきたドーロホフが彼女を寝取ったらしい)、……しかしアンドレイの早すぎる死については誰の口の端にも昇らなかった……。
    ■夜会の晩餐の席でピエールはドーロホフの正面に座らされる。妻の不貞(相手はそのドーロホフ)についてドルベツコイ公爵夫人からほのめかされた直後のピエールは心ここにあらず。もんもんとしてドーロホフに対する猜疑心をひたすら募らせる。そして衝動的にドーロホフに向かって決闘を要求する(ピエールは銃など手にしたこともない/他方ドーロホフは名うての決闘マニア)。明朝。ニコライら友人たちによる仲直りの説得も聞かばこそ、かつては悪友同士であったふたりの決闘が現実のものとなる。そして濃霧のなか轟く一発の銃声。案に相違して、苦悶の表情で大地に崩れ落ちたのはドーロホフの方であった。死にゆくドーロホフを介抱するニコライ。彼はドーロホフの最後の言葉から、家で彼を待つ老いた母親とクル病の妹にとって、彼がいかにやさしい息子であり兄であったかを初めて知ることとなる(のちにわかるのだがドーロホフは一命をとりとめていた)。
    ■決闘のあと帰宅したピエールは現状を厳しく見つめなおし、自分はそもそも妻を愛してなどいなかったこと、すなわち結婚という重大な過ちを犯してしまったことを素直に認める。そしてその場に厚かましく彼を責め立てに来た妻に面と向かって一喝! 離婚を言い渡して、ひとりペテルブルクへと去って行く。
    ■”禿山”で暮らす変人のボルコンスキー老侯爵とマリアのもとに、アンドレイ公爵戦死の知らせが届く(ただし遺体は見つかっていないとのこと)。しかしそのことはお産を控えるリーザ夫人には堅く秘密にしておいた。そして産気づくリーザ夫人。その深夜。屋敷の外に足音を聞きつけ何事かと暗闇に目を凝らしたマリアが見たものは………無事帰還したアンドレイの姿であった。アンドレイはそのまま分娩室に駆け込みむ。そして難産に苦しむ妻にはじめて優しい言葉をかける。がしかし、リーザ夫人は男子を出産してから息絶える。その死に顔には彼女を救えなかったアンドレイを厳しく非難する表情が張り付いていた……。
    ■決闘事件以降、より仲が良くなったニコライとドーロホフ。大胆な行動とは裏腹にドーロホフはロマンチストとしての一面があり、”いつか「天使のような」本当に素晴らしい女性にめぐりあう”という夢を抱いている。そしてドーロホフが放蕩の末ついに行き着いたのが、あろうことかまだ幼かった時とはいえニコライと将来を誓い合ったソーニャであった。ソーニャにとってドーロホフからのプロポーズは名誉なことであった。が、丁重にその申し出に断りを入れる。そしてこの件を機にニコライとソーニャは再び愛を確かめ合った。
    ■大失恋のあと、軍務に復帰するというドーロホフ主催の”お別れ会”にニコライが招待される。が、会場に来てみるとそのまま、金を賭けてのトランプゲーム(例の”銀行”というやつ)に引きずり込まれる。軽い遊びのつもりで始めたニコライだったが、あれよあれよという間に負けはかさみ、最終的にその負債は4万3千ルーブリ(現代の日本円でおそらく1億くらい! ……ちなみに『スペードの女王』のゲルマンが最後の勝負で負けた額は9万4千ルーブリ!!)にまで達する。これは完全にドーロホフが仕掛けてきた罠だったのだ。「いいかいロストフ君。こういうことわざを知っているだろう。恋愛運のいい者はカード運には恵まれないってね。君の従妹(ソーニャ)は君に惚れている。俺には分かったよ」。金は結局ニコライの父親のロストフ伯爵がなんとか用立てることができた。しかしニコライは、家族全員に多大な迷惑をかけてしまったこと、とりわけ父の顔に泥を塗ってしまったことによる激しい自己嫌悪に苛まれ、そんな暗い心持のまま現在はポーランドにいる自分の部隊へと戻ることになった。一方デニーソフはナターシャ(15)にプロポーズするのだがこちらは彼女があまりにも若いということで断られ、彼もまた傷心を抱えながら戦場へ向けて重い足を運ぶのだった。
    ■ピエールはペテルブルクに向かう途中の駅でひとりの老人(バズデーエフ)と偶然出会う。老人はピエールの抱える苦悩をたちまち見抜き、煩悩から解脱するためにはといってフリーメイソンに勧誘する。ペテルブルクに着いたばかりのピエールはさっそくフリーメイソンからの使者に訪われ、彼に導かれるまま支部(ロッジ)にてイニシエーションを受けることとなる。
    ■ボリスは戦場の経験を通して、うまいこと立ち回って出世をめざす俗物に成り下がっていた(すなわち夜会では評判がいい)。ピエールに捨てられたエレーナは夜会を通してそんなボリスにさっそく照準を合わせた。
    ■フリーメイソンの薫陶を受けたピエールは、キエフにある自分の領地を訪れて労働環境の抜本的な見直しに乗り出す。それは大変急進的でリベラルな改革ではあったが、労働の実状を毫ほども知らない”ベズーホフ伯爵”の思いつきなど所詮は見かけだおしの付け焼刃にすぎず、悦に入って満足しているのはピエールただひとりだった。いい気になったピエールはその足でアンドレイをはるばる訪ねる。久闊の友との会話は思ったようには弾まなかったが、ピエールは自分の人間的な成長と、キエフでの働きぶりとその成果とを自画自賛する。一方アンドレイは、戦場では生死の境をさまよい、妻はなすすべなく死なせてしまった苦い経験を経て完全無欠のリヒリストとなっており、ピエールの自慢話やフリーメイソンの友愛精神などほとんど寝言に等しいものであった。
    ………しかしアンドレイは議論の最中にふとあの時の高い空を思い出し、ピエールのバカっぽいが一生懸命な話ぶりに動かされ、その閉ざされた精神に少し変化のきざしが現れる。また、”禿山”に居住するアンドレイの妹のマリア、それにあの変人のボルコンスキー老侯爵さえもなぜだか、この機会に再会したピエールが大好きになる。ピエールの方も、一見とっつきにくそうに思えていたこのボルコンスキー家の全員をまるで旧友のように懐かしく思うようになった。

    【戦争】3⃣
    ■部隊に戻ってデニーソフと再会したニコライは、戦場にまるでふるさとのような居心地の良さを感じ、博打の大敗で受けた心の傷もいくぶん癒されるのであった。
    しかしニコライの部隊では配給される食料の量が日に日に少なくなり、ついにはこのままでは餓死者がでるようなありさまとなる。業を煮やした正義感過剰のデニーソフは別の部隊から食料を強奪してきて同じ部隊の仲間たちに勝手にふるまう。当然デニーソフは軍規違反者として訴えられるがつゆ悪びれる色もなく、逆に、呼びつけられた司令部では、因縁浅からぬ某出納官に鉄拳制裁をお見舞いしてますます窮地に陥る。が、ニコライの懸命な説得によりついに観念。反省の弁と特赦の嘆願を手紙に書いてニコライに託す。ニコライはそれを皇帝に直接手渡そうとティルジットに向かうのだが、当地では今まさにアレクサンドル皇帝とナポレオン皇帝との間で講和が成立しようとしているのであった。

  • ついにアウステルリッツの戦いへ。フランス軍とロシア・オーストリア連合軍との大きな戦い…とはいえロシア軍の動きはゆるく、戦いも上手に進められていない様子が書かれる。アンドレイはこの戦いで負傷、領地に戻ると妻が亡くなるなど踏んだり蹴ったり。ほかの登場人物も負債を背負ったり、浮気があったりと苦難の道を進んでいる。

  • 様々な愛憎劇と時代のうねりとがまじりあって物語が展開していく。シリアスな場面も多いが、視点がどんどん切り替わっていくので、全巻添うように、ノートを取りながらの読書です。

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著者プロフィール

一八二八年生まれ。一九一〇年没。一九世紀ロシア文学を代表する作家。「戦争と平和」「アンナ=カレーニナ」等の長編小説を発表。道徳的人道主義を説き、日本文学にも武者小路実らを通して多大な影響を与える。

「2004年 『新版 人生論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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