リアル・シンデレラ (光文社文庫 ひ 18-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334764296

感想・レビュー・書評

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  • 本読みの友より「姫野カオルコの『リアル・シンデレラ』読んでー!」と便りが届く。姫野本はけっこう読んでるつもりだったが、これは読んでなかった。図書館には単行本しかなかったし、読んだあとは誰かにまわそうという算段で、本屋で文庫本を買ってきて読む。

    姫野カオルコには、いろんな芸風の作品があるが、これは『昭和の犬』系だと思った。周りの人を描くことで、主人公の泉(せん)ちゃんという人が浮かび上がってくるかんじ。

    友は「シンデレラ」というタイトルから、主人公の泉(せん)ちゃんを、どういうふうにシアワセにしていくのだろう?と思っていたそうだ。「シンデレラ」というタイトルの意味も考えてしまったという。読んでいるうちに、自分の想像をあちこちひっくりかえされて、「うぉー!こうきたか!の連続だった」と便りには書いてあった。

    私は、すでに読んでて、けっこう好もしいと思う作家の場合、その名前だけで本を選んだりもするので、タイトルがどうのとはあまり考えないなーと思った。(『昭和の犬』は、表紙に犬がうつっていたので「この犬の話か?」とは思ったが)

    「シンデレラ」というタイトルに読者が縛られてしまうことによる誤解のようなものについて、姫野自身が文庫のうしろのあとがきで書いている。

    ▼『リアル・シンデレラ』はアレゴリーです。…(略)…「シンデレラ」は「幸福」の寓意として扱いました。ところが〈童話シンデレラ〉のストーリーに頑ななまでにこだわる(固執する)直木賞選評があり、かかる固執を予想だにしなかった私は、正直言ってびっくりしました。無粋ながらくりかえします。『リアル・シンデレラ』の「シンデレラ」は、幸福や善や美や豊かさの寓意です。(p.429)

    私が「シンデレラ」のことを考えていたのは、小説の冒頭で、矢作さんが「筆者」に、幸せっていうのは泉(せん)ちゃんみたいな人生だと思う…云々というあたりだけで、あとは「シンデレラ」がどうのとは全く考えずに読んでいた。でも、友の便りを読んで、「シンデレラ」とは、姫野自身もそこまでと思っていなかったほど、聞いた人の考えに「こうだ」と枠をはめる強い言葉なんやなーと思った。

    矢作さんは、「シンデレラ」というのが女性の幸せとか成功という意味になっている("現代のシンデレラ"みたいなコピーも、そういえばある)ことに、違うんじゃね?だってこの人幸せになりそうにないよと思っていた。そこがたぶんタイトルに関係あるのだろう。

    ほんとうに幸せなもの、善きもの、それは、継母や姉妹と張り合うような価値観ではなくて、ぜんぜん違うんじゃないの? 泉(せん)ちゃんみたいなのが幸せで豊かなんじゃないの? こっちこそがホンマのシンデレラだろう、というのが、姫野のいう寓意なのだろう。

    小説は、"豊かさと幸福"をテーマに、泉(せん)ちゃんの取材をして、「筆者」が長編ノンフィクションを書いた、という体裁になっている。

    前半は、泉(せん)ちゃんと一つ違いの妹・深芳(みよし)の話に、みょうに近しさを感じ、子どものころの妹との関係をいろいろ思い出したりした。「ふつうは、こう考えるでしょ、こうするでしょ」という人物像とは、まったく違う反応をする泉(せん)ちゃんに、私はそこはかとなく親近感をおぼえ、それは私が子どもの頃からしょっちゅう「変」「おかしい」「変わってる」と言われてきたからかなと思った。そして、泉(せん)ちゃんの周りの人の言動を読みながら、人のことを「変わってる」と言う人のきもちが、ちょっと分かった気がした。

    「人生なんて、後になればみんな、なるほどねえってものだけれど、そのさなかには先のことなんかわかりゃしないでしょう」(p.45)と、泉(せん)ちゃんのことを思い出して語る人が言う。

    泉(せん)ちゃんは、《自分の周りにいる自分じゃない人にいいことがあったら、自分もうれしくなれるようにしてください》(p.422)と願った。人の幸せを、わがことのように感じられるよう、喜べるようにと願った。その祈りが、私のことも照らしてくれたらと思う。

    (3/12了)

  • お気に入りの作家ですし、作品の6割方読んでると思うんですが、未読でしたので読了。
    久々の姫野ワールドを堪能、読後感もしっとりと落ち着いていて、大満足の逸品でした。
    この凝った構成はなんなんだろう?と思いながら読み進めるうちに納得。ヒト/コトの多面性を表現するにはとても有効ですね。タイトルの「・」も気になってたんですが、これからして意味がありました。リアルシンデレラじゃあ、このような小説にはなりませんよね。
    主人公はある意味作者の分身でしょうね。独特の価値観や容姿も妙にかぶります。ジャージ姿で直木賞授賞式に現れた作者と農婦のような泉、

  • 久しぶりに読んでとてもよかったと、もっと早く読んでおけば良かったと感じる本でした。こういう幸せが感じれる人間でありたいと、他者から語られる純朴な主人公を想像しながら思いました。一人でも、誰かとでも、兎に角うまいご飯とビールが飲みたいという気分です。

  • 直木賞で話題になったので手にとってみた。
    最初に出てくる、シンデレラの解釈が面白くて読んでみよう!となり購入。

    人の幸せや生き甲斐について、
    価値観が違う人同士の共存について、
    考えさせられた。

    「シンデレラ」は一般的にはわかりやすいサクセスストーリーで、誰もが羨むものを手にしたってされているけれど、
    その彼女自身の価値観はどこでできたのか。

    なんのために生きるのか、本当に人それぞれで
    他の人の価値観に左右されないそれを見つけられた人こそ
    本当に幸せといえるのだろう。

  • 読んでみて、いや、読み始めてすぐに
    「これは好きな感じ」と夢中になりました
    泉(セン)ちゃんの小さな頃の不遇には
    いたたまれない思いをしたりしながらも
    その考え方、受け止め方に、心が震えました
    そして、ずっと心を震わせ、静かに読み終えました
    がっかりすることは、正直に生きている者には
    必ずあるから、そのときは、気配を消せばいい
    泉(セン)ちゃんの周りにいた人たちの
    告白を元に作られた小説ですが
    周りの人たちの、傲慢さも優しさもみんなみんな
    一生懸命に生きているからだと思える
    ただ、どうしても泉(セン)ちゃんがいじらしくて
    仕方がない気持ちを捨てきれないわたしは傲慢だ
    だって、泉(セン)ちゃんは、とても幸せなんだから
    いまは、何をしているのだろう
    どこかで静かに笑っている筈だと信じている
    すごく思い入れてしまう小説に出会ってしまいました

  • 泉という、女性の人生を回りのひとのインタビューで浮き彫りにしていく。誰からも否定されることはなくても、誰からも心底もとめられることがなかった。泉が感じる幸せのかたちは? 母との確執は女なら何かしら持っているものの気がする。が、泉の人格の核となる、その人生を縛ってしまう理不尽な存在。祈りの言葉をみると悲しく切ない幕切れ。後書きの葉書に救われた。

  • 大好きな本。
    泉ちゃんは、周りから見ればかわいそうかもしれない。でも、あんなにキラキラして幸せそうで。自分の周りの人にいいことがあったら、自分も嬉しくなるようにしてください、と願った泉ちゃん。
    本当の幸せは何か?幸せは、自分で決めるのだということ、泉ちゃんのような生き方をしたいと思った。

    大好きな本。本当に、大好き!
    何回も読みたくなる一冊。

  • 泉はどこへ行ったのか?心の美しい人に、泉は美しく残っている。表紙の人が誰なのか、よく分かりました。

  •  久しぶりに一気読みした。
     え、なんでシンデレラなんだろう……と思いつつ読み進むと、泉はまさにシンデレラである。どこが?と問われれば、彼女は天からギフトを受け取った人間だから。
     泉は幸せであるだろう。そしてまぶしいほど美しい。

     私には彼女の周りに居る卑近な人間たちの気持の方が共感できる。それが切ない。

  • 母に猛プッシュされて読んだけどぴんとこず……。色んなところに話とびすぎてて、結局シンデレラとはなんだったのか、そしてなぜシンデレラ扱いなのかわからずじまい。奈美とかに近い気分かな、謎すぎて不気味なまま終わったって感じ。

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著者プロフィール

作家

「2016年 『純喫茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

姫野カオルコの作品

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