炎蛹 新装版: 新宿鮫5 (光文社文庫 お 21-20 新宿鮫 新装版 5)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334767648

感想・レビュー・書評

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  • いきなり私事ですが。
    過去2~4週間くらいか、ちょっと仕事がばたばたして、落ち着かない時期がありまして。
    合間の時間でも落ち着かないし、どこか脳みそが仕事を離れきれない。
    誰にでもそんな時期は、濃淡ともあれ、あると思うんです。
    そうなると、なんていうか...むつかしい本、読み応えのある本、を読み辛くなってしまうんですね。
    でも、一方で、そんな時期だからこそ、いつでもどこでも短時間でも、スマホさえあれば電子書籍で楽しめる「読書」というのは、大切な息抜きで、気分転換。
    「アタマ空っぽに、わくわく楽しめるような、男の子的な、娯楽小説を読みたいな」と。

    それで、
    「新宿鮫シリーズでも読むか!」。

    でも、という言葉は大変に失礼なんですが。
    これが、ハマりまして。

    仕事都合で、けっこう「待ち時間」があったり。
    そこは、ぼーっとしてても良かったりするので。
    そんな「合間」含めて、するする楽しめて。
    割と忙しい中でも、気分転換、日々のヨロコビでありました。
    感謝感謝。

    僕と同じような、時間を切り売りする会社員労働であれ。
    自営業とか、専業主婦、家事仕事であれ。

    カラダなり神経なりが、疲れて疲れて、やっと自分の時間が出来たときに。
    わずかな時間でも、お気に入りのタレントさんとかが出ている情報番組とか、
    お気に入りのチームが快勝したスポーツニュースとか、
    そういうのを楽しむ時間って、ものすごく貴重だなあ、と思うんですね。
    (そういう時間を、近くに居る人が尊重してくれないと、すごく腹が立ったりするぢゃないですか(笑))
    それと同じような感じですね。

    それはそれで、素晴らしい、読書の快楽。パチパチ。

    #

    大沢在昌さん、「新宿鮫シリーズ」第5作。「炎蛹」。1995年。

    今回は、「三つの事件が錯綜する」という、かなり変化球な手法が特色です。

    イラン人絡みの、組織的な集団窃盗団を追い詰める話。
    これは、組織はそれなりに潰したものの、首謀者の仙田というなんだか魅力的な中年男はとり逃す。

    それから、歌舞伎町の外国人娼婦連続殺害事件。
    これは、哀しい身の上の日本人のおっさんが犯人で、犯人側の心理も描かれる。

    それから、歌舞伎町などのラブホテルで起こる、連続放火事件。
    これは、家庭環境のせいか、女装しての放火行為に走る歪んだ若者の独白も入ります。

    それから、日本の稲作に壊滅的な打撃を与えかねない、外国から持ち込まれた害虫の蛹を抑える仕事。
    これは、甲屋、という名前の、防疫官が魅力的なゲストとして出てきて活躍する。

    割とパラレルに複数の事件を(基本的な関連がない事件を)描くというのは、犯罪捜査職業の人の現実はそうかもしれないけれど、
    物語としての「探偵もの」では、ほとんどタブーと言って良いものだと思うのだけど、そこそこ面白く描けています。

    なんだけど、大沢さんもこの方式は、この後のシリーズでは一度もやっていませんね。
    それに、正直、面白いのは、

    ●主人公と同じく、「公に奉仕する専門的なシゴト」に、プライドと喜びを持っている、甲屋という防疫官のおっさん。主人公との弥次喜多風の道中記。
    (同時に、消防の中の放火捜査官も描かれて、これも面白い)

    ●外国人犯罪組織に君臨する、ダース・ベーダー的な(パルパティーン的な、というべきか)仙田という男の存在感。

    ●いつもながら、違法行為に堕ちる可哀そうなヒトの独白的なエンターテイメント。今回は、娼婦に恨みを持つ、惨めな中年男...。女装しての放火に走る歪んだ青年...。
    (良く考えたら、「新宿鮫」シリーズを貫くこの手法って、煎じ詰めれば、ドストエフスキーさんの「地下室の手記」、なんですよね)

    という三点だと思います。

    それぞれの事件の解決への終盤戦は、それなりにドタバタと。
    並行して描かれる分だけ、良く考えたら雑なところもちょっとあります。
    まあでも、そこを突っ走れる中心線(ヒーロー)がいるから、出来る試みですね。
    それでも、ヒッチコックの映画「ロープ」が、彼の最高傑作ではないのと同じで、そんな素晴らしいってわけでもないと思います...。

    #

    前作「無間人形」では、主人公の恋人さん(ロック歌手さん)が、事件に巻き込まれて大いに関係しました。
    そこでもう、やりつくした感があったのか判りませんが、「炎蛹」では、それほど絡んできません。
    なんていうか、アクセント、というくらいですね。
    これはこれで、別段、恋人さんとのラブロマンスにはさほど嗜好の薄い、ハードボイルド志向のおっさん読者の僕としては、大歓迎でした(笑)。

    #

    仙田、という魅力的な犯罪者を作って、
    捕まらずにこの作品を終えているんですね。
    完全に、「シリーズもの」ということを意識した世界観の作り方。
    こういうのは、好きです。楽しめますねー。

  • J様後追い第5弾
    何度同じ事を書けば良いのか。
    シリーズを読み進めるたびに、前作より面白さが増している。
    今回は正に新宿、東京を舞台にして、しかもいくつもの事件が絡まりあって非常に面白かった!
    またネタバレになるけど、重要人物で死人が出ないことも読後感が良くて良かった。

    また次の作品が楽しみで睡眠時間が削られそう。

  • はまり小説第五段!毎回切り口が変わるのが新宿鮫の魅力ですが、今回は更に趣向を変わり、ちょっと博識な気持ちになれます。(あくまで個人差があります)直木賞を考えるとややGooです。

  • 新宿鮫シリーズ第五弾。今回は外国人娼婦殺人事件、ラブホテル放火事件、南米からの害虫『火の蛹』持ち込み事件と盛りだくさん。単独捜査を常とする鮫島に思わぬ相棒が…珍しく警察内部での抗争は描かれず、鮫島と相棒による捜査を中心に描かれる。

    新宿鮫の面白さは、警察組織の秘密を握ったキャリア刑事の鮫島が孤軍奮闘で悪と闘う姿と本当に良いタイミングで鮫島の危機を救う鮫島の上司・桃井の存在にある。

    今回の鮫島は、二人の相棒と複数の事件を捜査するのだが、少しいつもとは様子が違い、物足りなさを感じた。それでも、面白さは相変わらずである。

  • このシリーズは、「訳アリ」な新宿署の鮫島警部が、各作中での様々な事件に向き合って奮戦するという内容だ。シリーズの各作品で各々の味わいが在る。「各々の味わい」としたが、鮫島と一部の劇中人物達が共通する「各々の雰囲気が在る」のが好いのだ。
    シリーズ各作品は、基本的に鮫島の目線で綴られるが、事件関係者等の目線で綴られる部分が適宜入り込んで切り替わりながら展開している。何処か「クールな映像作品」にでも触れているような気分になる場合も在る。
    本作の題の『炎蛹』であるが、作中に登場する(架空)の害虫の名を和訳した字を宛てている。害虫の件が鍵にはなるが、次々と起こる様々な出来事がスピーディーに、複雑に絡み合いながら進む。続きが気になって、頁を繰る手が停められなくなってしまう。
    物語は、深夜の道路でハンドルを握る鮫島が或る車を密かに追っている場面から起こる。“尾行”をしながら様子を観ているのだ。
    鮫島が追っているのは、大規模な窃盗と盗品売買を展開するイラン人グループであった。新宿周辺で、多くの家電製品等が密かに多数売られている様子が見受けられた。そういう様子を内偵し、やがて窃盗と故買に携わるグループ関係者と見受けられる者達を見出した。彼らを追い、盗品を保管する倉庫のような場所を割り出そうというのである。
    やがて鮫島が追う車は東京都の境を越えて埼玉県内に入り込んだ。そして倉庫と見受けられる場所に到着した。鮫島は慎重に様子を伺った。
    そんな頃、新宿では複数の事件が殆ど同時に発生してしまっていた。路上で外国人娼婦が刺殺され、ほぼ同時にラブホテルが火災に見舞われた。ラブホテルの火災は放火と見受けられた。
    新宿の様子を知らない鮫島が倉庫を注視していれば、そこに別な一団が乱入した。イラン人グループと対立していた中国人グループと見受けられた。後者が前者を襲撃したのだ。双方に死傷者が生じる大混乱となってしまっていた。
    娼婦の刺殺の件と、窃盗と故買のグループの件に彼らが絡む抗争の件、放火の件と様々な事案の狭間で鮫島は活動しようとする。
    そうしていると、今度は管轄内のアパートで別な外国人娼婦が刺殺されてしまった。殺害されたのは、アパートの部屋の住人ではなく、自身のアパートに入る迄の間に身を寄せていたという女性で、玄関扉の前の通路で遺体が見付かったのだった。部屋の住人は、警察への通報をするのでもなく姿を消した。そして姿を消した女性はイラン人男性と交際していると見受けられた。
    深夜の出来事であった。翌朝からの捜査に備えるという段に至り、鮫島はもう1件の娼婦刺殺や、イラン人グループの件等に想いを巡らせながら現場を見詰めていた。そうしていると、現場保存の意図で警備に立っていた署員と何者かが言い争う声がした。
    深夜が寧ろ早朝になって行く時間帯に、見慣れないやや年配の男が、警備に立つ署員と押し問答し、アパートの部屋の中を見せろと強く主張していた。鮫島は押し問答に割って入り、男の話しに耳を傾けた。
    男は甲屋(かぶとや)と名乗った。植物防疫所の技官であるという。アルゼンチンの研究機関に問い合わせた結果、深刻な農業被害をもたらす危惧が在ることの判明した害虫の繭が付着したモノが持ち込まれているという。その情報を得て、直ちにと現場に飛んで来たのだと甲屋は説いた。
    殺害されてしまった外国人娼婦の妹が少し遅れて来日していた。コカインの所持が見付かり、拘束され、強制送還ということになっていたのだという。その外国人娼婦の妹が、植物防疫の規則で持込が厳しく禁じられている稲の藁で出来た民芸品を持っていた。それには赤く小さなモノが多数付着していた。それが未だ日本国内に入っていない種類のゾウムシの繭だった。そして甲屋は「出身地の縁起物なので、先に日本に入国した(殺害されてしまっていた)姉が同じモノを持っている筈」だと聴いたというのだ。
    鮫島は甲屋の話しを聴き、一緒にアパートの部屋を調べたが、該当するモノは見当たらなかった。姿を消した住人の女性が、殺害された女性が妹と住もうと用意したアパートにでも持って行ってしまったと推測された。しかし、その場所の情報は無い。更に、その姿を消した女性は、鮫島が追うグループに関わるイラン人と行動を共にしている可能性も在る。
    結局、甲屋は鮫島に同行し、捜査活動の中で問題のモノを何とか回収して、植物防疫所で処分することを目指すということにしたのだった。
    こうして鮫島と甲屋という、異色な臨時コンビが登場した。2件の殺人、放火の件、窃盗と故買の件、外国人グループが抗争状態のようになっている件、加えて害虫の件と、様々な出来事が錯綜しながら展開する。明らかになるような、同時に謎が深まるようなという展開である。
    異色な臨時コンビは、日頃の活動分野も違い、経歴も年代も各々に異なる訳だが、共に「護るべきモノを護るために力を尽くす」という生き方を択んでいるような一面が在る。そういう共通項の故に、互いに気持ちを開いて、難しい事件の中で力を合わせる様子が凄く面白い。また本作は、御馴染の桃井課長や鑑識係の藪の他、消防庁の吾妻、機動捜査隊の野本というような人達、加えて鮫島の交際相手の晶(しょう)という面々に甲屋が絡んで、被疑者が何者が推論を重ねるような場面も在って、それも凄く愉しい。
    大都市では、同じ日の殆ど同じ時間帯に、一つの警察署の管轄区域で複数の事件が起ってしまう場合も在るであろう。そういう状態で展開するスピーディーで重厚な本作はかなり面白い。

  • 今回も面白かった。キャラクターを生かすのが本当に上手い。晶との関係が前巻からどうなるのか、不安だったけど大丈夫だった。

  • 新宿鮫シリーズで一番おもしろいかもしれない(毎回書いてる気がするが)
    昆虫や海外から来た娼婦が絡む、ちょっぴりグローバルな新宿鮫。おもしろい。今回は、農林水産省のお役人が良い味を出していてよかった。

  • 新宿鮫シリーズ第5作。

    南米から日本に持ち込まれた「火の蛹」をめぐり、鮫島と植物防疫官の甲屋がコンビを組んで事件を追いかける。

    単独捜査が基本の鮫島と組むパートナーのおじさん・甲屋がいい味を出しているが、これまでの作品のような緊迫感はやや薄め。

    複雑に絡み合う事件や人間関係に重点を置いた作品というイメージ。

  • 再読。たまきさんはうっすら思い出せた。また出てくるか?甲屋さんは無事でよかった。なぜか記憶の中では虫が見つけられなかった展開が浮かんでいた。

  • キャリア警察官僚ながら、新宿署生活安全課ではぐれ状態で活動する鮫島警部を主人公とする「新宿鮫」シリーズの第5弾。
    「新宿鮫」シリーズを通読しているわけではなかったが、本作は、公務員が読んで面白く、ためになるという話を聞き、閲読した。
    刑事小説としても、三つの異なった事件が絡まり合いながら、最後に一つにつながる構成で、とても面白く読み進めた。
    公務員として読んで面白い部分というのは、今回の相棒的登場人物である農林水産省植物防疫官の甲山の存在である。非常に独特であるが愛すべきキャラクターであり、彼の任務にかける誇りや思いを感じるとともに、公務員らしからぬパワフル(?)な言動にちょっとしたあこがれを覚えた。

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著者プロフィール

1956年愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学中退。1979年に小説推理新人賞を「感傷の街角」で受賞しデビュー。1986年「深夜曲馬団」で日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞、1991年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞長編部門受賞。1994年には『無間人形 新宿鮫IV』直木賞を受賞した。2001年『心では重すぎる』で日本冒険小説協会大賞、2002年『闇先案内人』で日本冒険小説協会大賞を連続受賞。2004年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞受賞。2010年には日本ミステリー文学大賞受賞。2014年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞、2022年には紫綬褒章を受章した。


「2023年 『悪魔には悪魔を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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