DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962388

作品紹介・あらすじ

タイガー・ウッズも見舞われ、プリンス、トム・ペティ、そして大谷翔平投手のチームメイトのスキャッグス投手の命を奪った鎮痛薬の罠!
本書は今やアメリカ史上最悪の麻薬問題となっているオピオイド蔓延の実態を余すことなく描いたドキュメントだ。今や依存症者数が400万人、年間死者も4万人を超えるオピオイド依存症の震源地となったアパラチア地方で地元紙の記者を務めていたベス・メイシーは、「夢の鎮痛剤」として大々的に宣伝されていた処方薬のオキシコンチンが、地域の高校生から働き盛りのビジネスマン、主婦、そして高齢者にいたるまで、無差別に人々をオピオイドも魔力に引き込んでいく様を克明に記録し、5年間にわたる取材の成果をこの一冊にまとめた。
本書にはオピオイドによって生活を根底から破壊された人々やその家族のほか、問題解決の前に立ちはだかる数々の政治的な壁、依存症を引き起こすことが分かっていながら欺瞞に満ちた営業攻勢をかけ続けた欲深い製薬会社と堕落した医師の癒着した関係、問題を過小評価した結果、全てが後手後手に回った行政の不作為、そして多勢に無勢を覚悟で問題に立ち向かう被害者の遺族や地域のボランティアたちの姿が、いずれも等身大で描かれている。
アメリカは明らかにオピオイド問題への対応に失敗した結果、今まさにその大きなツケを払わされている。なぜアメリカはオピオイド依存症をこれほどまでに状況が悪化するまで放置したのか。そこから日本が学ぶべき教訓とは何か。薬物依存症の蔓延を対岸の火事としないための必読の書だ。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカで数万人もの死亡者を出し、先進国の中で平均寿命が低下するという異例の事態の原因ともいわれる鎮痛薬オピオイド中毒。アメリカの病理とも呼ぶべきこのオピオイド中毒はなぜここまでの問題になってしまったのか、その理由を徹底的に取材してまとめあげたノンフィクション。

    オピオイドとは強力な鎮痛効果を持つ薬剤の一般名称であり、その効果の高さ故に陶酔作用をもたらす。アメリカでは医療機関の処方薬としてこのオピオイドが一般に広く出回り、鎮痛用途を超えた濫用により、2017年には”オピオイド中毒は公衆衛生上の非常事態である”という宣言も出された。

    なぜ、オピオイド中毒がここまでの問題となったのか。それは、本書を読むと、アメリカの産業構造・経済的要因、社会保障制度の不良、自らの収益を最優先する製薬会社と過剰な医師接待、麻薬密売人の暗躍、という幾つもの要素が複合的に絡み合った結果であるということがよく理解できる。

    それは、単純化すれば、以下のような関係性となる。

    ■アメリカの産業構造・経済的要因
    トランプ支持者が多いようないわゆるラスト・ベルトのような地域では、地域の基幹産業であった製造業の工場が海外移転することで大量の失業者が発生し、低所得者が増加。
    (対照的に、農業地帯など産業構造がそこまで破壊されていない地域では、オピオイド中毒の問題は比較的小さい)
    かつ、もともと肉体労働の従事者も多く、兼ねてから鎮痛効果のあるオピオイドの処方量が多かったが、過剰服薬により徐々に中毒者が増加していく。

    ■社会保障制度の不良
    低所得者向けの社会保険制度によって、処方薬の自己負担は1割で済むため、低所得者は詐病によってオピオイドを安価に仕入れ、中毒者たちに売ることで生計を立てるようになる。

    ■自らの収益を最優先する製薬会社と過剰な医師接待
    アメリカの製薬会社、パーデュー・ファーマは中毒性の高いオピオイドのもたらす莫大な収益に着目し、医師への過剰な接待や、オピオイドは痛みに苦しむ人々を救うための薬剤であり中毒問題は瑣末な問題にすぎないというロビー活動、過剰な報奨金に基づく営業マンへのインセンティブ設計等により、オピオイドを広く蔓延させた
    (さらにマッキンゼーが、過剰なオピオイドを販売した医療機関等へのリベートプランなどをパーデュー・ファーマにコンサルティング提供し、州当局から訴訟を受けた結果、約600億円の和解金を支払った、というニュースも真新しい)

    ■麻薬密売人の暗躍
    オピオイド中毒者は、陶酔効果をもたらすために徐々にエスカレートし、より安価に高い陶酔効果をもたらすヘロインなどの薬物に手を出す。そこに麻薬密売人は着目し、オピオイド中毒者たちにヘロインを密売

    様々なズレが重なりあった結果、一般市民が薬物中毒に陥り地域社会が破滅に追い込まれていく姿は極めて恐ろしい。徐々にオピオイド中毒の問題は改善され、平均寿命もまたプラスに転じているようだが、薬物中毒の恐ろしさを知ると言う点でも非常に優れたノンフィクションであった。

  • なぜアメリカで麻薬依存者が多いのか

    ①依存性の高いオピオイドやフェンタニルの処方がされやすい
    そのため手に入りやすい

    ②地方の経済的に貧しい地域での日々の憂鬱を紛らわせる使い方
    他に何も楽しいことない

    ③ブラックマーケットなどの流通網の充実

    ④誤った治療法
    投薬維持治療でなく断薬治療

  • SDGs|目標3 すべての人に健康と福祉を|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765096

  • ●今回の表彰には、単にゴルファーとしての成功を称える以上の重要な意味が込められていた。タイガーウッズの復活が、今アメリカ社会を根底から揺るがしているオピオイド依存を克服してのものだったから。
    ●プリンスやフィリップ・シーモア・ホフマンなども。

  • これは新自由主義による社会問題の一面もあると思う

  • Dr.Houseのドラマやタイガー・ウッズの転落など、アメリカでオピオイドが問題になっていることはなんとなく聞いていたけれど、本書(特に前半部分。後半はこれらオピオイド系鎮痛剤の依存者がより安価なヘロインに流れていった結果の麻薬戦争の話が中心)でその現実が十分に描かれている。

    若年層の依存者のほとんどは児童期にADHDの治療薬を服用しており、大学生ではリタリンとアデロールの使用が多かったという。米国では1991年から2010年の間、精神刺激剤の処方はすべての年齢層で10倍になっており、麻薬依存の予備軍を作り続けていることについても警鐘が鳴らされている。

    ・パデュー製薬は1984年に終末医療用の鎮痛剤MSコンチンを発売し、年間売上1億7千万ドルに達した。このパテントが切れたため1995末にオキシコンチンを
    開発、これは対象が癌などの終末期に限定されず、一般市場向けに発売された。家庭医を対象にプロモーションを行うことで爆発的に売れた。

    ・オキシコンチンは徐放性で依存にならないとされていたが、錠剤を口に含んで徐放性の源となっているコーティングを剥がし、水に溶かして注射やスニッフィングで乱用されるようになった。

    ・2001年にはFDAによるブラックボックス警告がついたが、これもパデューは「デザイン上の変更にすぎない」といい、非合法的な使用者によって本来の合法的使用の患者が犠牲になっていると主張していた。

    ・医師に「これは疑似依存症だ。オピオイドを求めるのは薬物依存の用に見えるが実際は痛みから開放されたいだけなのだ」などと語らせ、更に販売を拡大していた。

    ・2007年に和解が成立し、パデューらは1996から2001にあげた利益の90%にあたる700億円の罰金を支払うことになった。これは製薬会社が支払った11番目に大きな罰金であったという。

    2001年まで、ということになったのは、この年、徐放性なので乱用の危険がない、という注意書きを外したからだという。しかしパデューはその後も年間6億ドルの利益を得ており、パデュー社オーナーのサクラー家は140億ドルの純資産を有している。日本でもオキシコンチンはシオノギから販売されているが適応は癌性疼痛に限定されている。

    ・パデュー社はその後、オリジナルのオキシコンチンを回収し、分子構造自体に徐放性をもたせた新バージョンのオキシコンチンの出荷を始めているが、これは単にオリジナルのオキシコンチンの特許が切れたためだという

    ・パーコセット(オキシコンチンとアセトアミノフェンなどの合剤)

  • アメリカのオピオイドクライシスに関する取材記録をまとめた本。かなりボリューミーで読みづらさはあるが、登場人物の人生や個々の見解が詳細に記されていて、リアリティを持って事態の深刻さを知ることができる。

    オピオイドクライシスはヘルスリテラシーの欠如として片付けられるような簡単なものではないし、いくら警察やDEAが取り締まったところでモグラ叩きにしか過ぎない。アメリカにおける医療制度や製薬会社の腐敗した構造、政治や刑事司法の不十分な対応、雇用や経済の問題、大麻合法化の動き等々、様々な要因が絡んでいて、本当にカオスだと思う。元々社会の基盤がしっかりしていない状態だったところに外的な力が働いたことで、雪だるま式に事態が進展してしまったんだろうなぁ。読んでいてなんだか悲しくなってしまった。有志の人々による地道な運動が行われていることには希望を感じるものの、top-downの抜本的な改革が早期に行われないことには、問題の解決は難しいように感じる。

  • 原書で読む。

  • 20年前から現代までが書かれている。問題の理解には不要なのだが、時系列が直線的ではないうえに、人物が登場して消えて再登場するので、混乱するところがある。
    話としては やや冗長であり 眠くなることが多かったが 問題をとらえるのにいい本であった。それにしてもアメリカの製薬業界、医学会は資本主義に過ぎると思う。

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著者プロフィール

バージニア州ロアノークに拠点を置き、30年にわたり取材活動をしているアメリカのジャーナリスト。著書の『Factory Man』(2014)、『Truevine』(2016)は高い評価を得、ベストセラーとなった。ハーバード大学のジャーナリストのための特別研究員『ニーマン・フェローシップ』を含む12を超える全米での賞を受賞。本書はロサンゼルス・タイムズ書籍賞を受賞し、カーネギー賞の候補となった。

「2020年 『DOPESICK 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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