- Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336033963
感想・レビュー・書評
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<捉えどころのない夢の横顔>
アルゼンチンの作家・詩人、ホルヘ・ルイス・ボルヘスが編集した、古今東西の「夢」に関する断章である。途中にボルヘス自身の夢に関する考察や小品が数編入っている。
自宅の書庫や図書館で長い時間を過ごし、膨大な読書体験を持つというボルヘスが選び取った挿話の数々。まるで切れ切れの夢を見ているような、不思議な感覚に読者を誘う。
くっきりとした輪郭で描き出そうとすると手からするりと逃れてしまいそうな「夢」というものの横顔をぼんやりとしかし確実に写し取ったものともいえる。
夢と詩は似ているのかも知れない。
意識下の想念を、片や画像に、片や言葉にする営みとして。
漠としたものをつかみ取る試みとして。
曼荼羅を思い出させる東洋的な装幀である。
内のページは星図様のもので縁取りされている。
本文と併せて、迷宮に誘い込むような企みを感じさせる。
荘子の胡蝶の夢。『鏡の国のアリス』の「王の夢」。現実と夢は鏡の表と裏なのだ。
紅楼夢の宝玉の夢。螺旋階段を永遠に上り続け、その果ても見えない。
死に関する夢。
何らかの啓示となる夢。
人は古来、数多くの夢を見てきた。
にんべんに夢で「はかない」と読ませる。
覚醒すれば消えてしまうその「夢」を、人はしかし、無視することができない。
*『皺』(パコ・ロカ)収録の「灯台」が本書中の「夢を見たふたりの男の物語」から着想を得たというところから本書を知る。読んでみたら、ずいぶんひねった翻案だった。
「夢を見たふたりの男の物語」だと、『イギリスとアイルランドの昔話』の「スワファムの行商人」がよく似ている(日本の民話にも似たような話がありそうだけど、ちょっと具体的に思い出せない)。時代と場所が異なっても、似たような発想があるというのもおもしろい。
*『鏡の国のアリス』といえば、むしろ、巻末の、頭を取るとアリス・リデルになる詩の方が思い出される。「いのちとは夢でなければなんなのだろう」
*夢の話というのとは別にして、おもしろかったもの。
1つは「職業に貴賤なし」(ラビ・ニシム『イエスのすばらしいお話』)。肉屋が職業として下に見られていることも、この話に出てくる肉屋の高潔さも、何だか印象に残った。何というか、世の中、いろんな常識があるんだなぁと思う。
ヘロドトス『歴史』第一巻にあるという「アスデュアゲス王の話」もおもしろい話だ。『歴史』を読み通す自信はまったくないが、実はすごくおもしろいのかなぁ・・・? -
扉が二重(表題紙と呼ぶのかも知れません)になっていて、最初がオーカー、次が黒地とうつつから夢に入るイメージ。全ページ、薄く枠のように地模様が入っていて、「濃そうだ」と期待感が高まります。
もう、目次だけでくらくら。
「神、ヤコブの息子ヨセフの運命を、また、彼を媒として、イスラエル一族の運命を定める」、「モルデカイの夢」、「幻想詩『夜のガスパール』第三の書」、「最後の審判、もしくはされこうべの夢」、こんなのが、百数十も並んでるところをご想像ください。
1つずつは短く、アンソロジーのようですが、ボルヘスは編者でなく著者となっています。長い作品からある部分を切り取るのは創作の1つの手法であるという宣言なのだとしたら、これは楽しみだとまず思わされます。
こういう本は、ささっと読み終えたくなくて本棚での熟成を待つことになりがちなのですが、そんなことを言ってると、読まないまま「棺に入れてください」になりかねないので、せめてカバーが変色しないうちに読むべきだと思い、思い通りに堪能、次の目標ができました。この本を案内者として、元本への侵攻です。いったい何冊が可能でしょうか。 -
アルゼンチンの作家ボルヘスが夢に関する記述を集めたアンソロジー。ギルガメッシュ叙事詩から20世紀アルゼンチンの作家にいたるまで。不思議な神秘的な雰囲気をたたえた美しい本。
コメントありがとうございます。
ページを繰ると異世界、という感じで、不思議な味わいがある本ですね。
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コメントありがとうございます。
ページを繰ると異世界、という感じで、不思議な味わいがある本ですね。
今回は図書館で借りたのですが、手元において時々めくると、そのたびごとに新しい出会いがありそうな本です。