- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344039834
作品紹介・あらすじ
日本の現代美術史上、最大の問題作、「犬」は、なぜ描かれたのか?作者自らによる全解説。これは「ほぼ遺書」である。「もちろん分かっている――美術作品の解説なんて作者本人はしない方がいいことは。だからこんな悪趣味は一生にこれ一度きりとする。本来無言の佇まいが良しとされる美術作品に言葉を喋らせたら――いったんそれを許可してしまったら――たった一作でもこれくらい饒舌になるという、最悪のサンプルをお見せしよう。ついてこれる人だけついてきてくれればいい。」(本文より)日本を代表する現代美術家会田誠の23歳の作品「犬」は、2012年の森美術館展覧会での撤去抗議はじめ、これまでさまざまに波紋を呼んできた。その存在の理由を自らの言葉で率直に綴る。人間と表現をめぐる真摯な問い。
感想・レビュー・書評
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どういう経緯で『犬』という作品を制作したかという「 Ⅰ 芸術 『犬』全解説」 と、性的な表現に対する著者の考えが記された「 Ⅱ 性 「色ざんげ」が書けなくて」の二部構成。著者の芸術に対する揺るぎない考えが、きちんと説明されている、と思った。モノの捉え方は人それぞれだし、それが許されている日本は、とても平和な国だと思う。
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露悪的というのか、偽悪的なのか、過剰過ぎるのか、丁寧過ぎるのか、真面目過ぎる(不真面目を真面目にする、優等生的不真面目)のか、正直過ぎるのか、頭良過ぎるのか、作品(写真でだけど)も文章も私にはしんどくて、ゆっくりしか読めなかった。頭悪いし、知識もないしで、全然ついていけてなくて、反論したいのか、丸め込まれているのかさえわからない。
今まで知らなかった芸術家や漫画家の名前や作品、業績を知ることができたのは単純に良かった。 -
美術家会田誠による初期作品『犬』の解説。描かれた当時の美術業界事情、西洋美術における裸体画の意味などにも触れながら制作意図が説明されている。
SNSで『犬』に向けてある特定の批判が繰り返し投稿されるらしい。「『犬』は永井豪が『バイオレンス・ジャック』で描いた人犬のパクリである」。この批判に、『犬』制作時には『バイオレンス・ジャック』を読んではいなかった。また、女性の四肢の切断には漢の戚夫人や80年代に流布した都市伝説の例もあり一般的なものであると、批判に応えている。
正直に言うと、もやもやしたものが残った。ネットのひとがなぜ『犬』を批判するかへの考察が間違えているではないか。『犬』への批判は、アニメや漫画のイメージを現代美術に持ち込んで成功した村上隆への批判と同種のもの、あるいは「のまネコ」騒動にもつながる、「嫌儲」と呼ばれる感情に近いのではないか。別この言葉でいうと「金の匂い」が感じられるからではないか、と思う。 -
一部の女性からとても嫌われている絵画「犬」の制作過程を作者自らが解説した一冊。
あの作品は本当に一部の女性に非常に嫌悪されているようで、実際そんな人に出会ったことがある。そりゃ趣味のいい絵画ではないけど、何がそこまで一部の女性の心に悪い意味で刺さるのだろう。うっすらと分かる気もするが言語化できてない気もする。所詮作り物だし。これに怒っていたら一部のAVやらエロ漫画はどうなのか?とも思うが、単に目に触れていないだけなんだろうか。芸術ということになってるからイカンのだろうか。
そんなことを思いながら読んでみたが、思いの他おもしろかった。冒頭で著者が言うように、作者自ら解説するって野暮だなとは思う。一言で言えば「低俗な変態的画題を、風雅な日本画調で描こうとしました」ということなんだろう。そこまでは素人の、美術の門外漢でもわかる。しかし読んでみると、作品からはまったく想像できなかったいくつもの伏線があり、その交錯点に「犬」という作品があることがよくわかった。謎解きというか、種明かしをしているような面白さがある。
しかし、こういう美術的文脈ってある程度勉強しないとわからない訳で、そういう作品を素人の前にポンと提示する現代美術ってなんなのか?とも思う。そもそも素人は相手にしてないのか?目利きの人はあの作品からあんなこんなを読み取れるのだろうか。まさか三島由紀夫とか川端康成が出てくるとは思わなかった。
そんなわけでおもしろく読んだのだけど、一点引っかかったところがある。それは、日本の「可愛い文化、ロリコン文化」の隆盛は、日本の太平洋戦争敗戦に伴う父性の弱体化に遡ると書いている箇所だ。そうなのかなあ?今ひとつ説得力を感じない。未熟なもの、か弱きもの、小さきものを愛でる文化は、もっと根が深く日本の底流に流れているような気がする。それはこの本の中でも、日本画では背景や木の幹はざっくり描くのに花の一輪一輪を細密に描く、と書いた箇所で触れられていることだ。
ただこの一連の記述を読むと「犬」の見方も変わってくる。「犬」という言葉にはネガティブなニュアンスもある。戦うための手足を切断されて、媚びた目で飼い主を見上げる未成熟なメス犬。それは日本そのものではないのか?という怒気を含んだ保守サイドからの見方もできる。
それにしても、写実的で美しい絵を描いてれば良かった時代から、ずいぶん遠くへ来たものだ。
二章の『「色ざんげ」が書けなくて』も面白く読んだ。価値観が急速に変わる現代社会と性の軋轢について書いている。割と同意できる内容だと思った。特に印象に残ったのはオナニーする男性の心理描写。こういう妄想のような部分は確かにあるし、読んでいてキモチワルイ。自分がキモチワルイ。それが今もあまり変わってない気がして、更にキモチワルイ。しかしここまでそのキモチワルサを言葉化できるのは流石と言うべきか。日本のオナニー・スピリットの伝播で世界平和を夢想するところは笑った。 -
徹底した言語化ができる人だと思う。いやあの作品を作り続けているからこそ、徹底した言語化をせざるを得ない状態になったのかもしれない。本人にもどちらが鶏か卵かはよくわからないのだろう。
真っ当なプロフェッショナルであるとともに、市井の人の下世話さもわかる稀有なアーティスト。 -
<目次>
第1章 芸術~『犬』全解説
第2章 性~「色ざんげ」が書けなくて
<内容>
中二病のままかな?こじれたまま…。 -
物議を醸し続ける初期作『犬』を、なぜ描いたのか? それを振り返る形で書かれた6万字超・書き下ろしの「『犬』全解説」がメインの一冊。
自作解題でありつつ、芸術家としての核をさらけ出した力強いマニフェストでもある。
会田誠の著書を読んだのは初めてだが、文章がたいへんよい。論理的で明晰だし、読者を楽しませるサービス精神にも富んでいる。美術家であると同時に「言葉の人」なのだな。
ただ、併録された「『色ざんげ』が書けなくて」は、茶化した感じの雑な書き方がされていて、感心しなかった(それで☆一つマイナス)。
「『犬』全解説」は、今後会田誠の作品を論じようとする人は、絶対に避けて通れない文章になるだろう。
彼のファンはもちろん、「犬」その他の性的な作品を蛇蝎のごとく嫌っている人であっても、一読の価値がある。「性と芸術」について考察するためのよきテキストとなるだろう。