死体の博物誌 (幻冬舎アウトロー文庫 O 55-3)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344403871

感想・レビュー・書評

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  •  以前、記事として書いた『中国残酷物語』と同作家による作品。じつは、この『死体の博物誌』も『中国残酷物語』も、職場の同僚の所有する本だったのだが、「気持ち悪くて読めないし、お肉が食べれなくなりそう」と泣き付かれて、表面的には仕方なく、内心では(しめしめ)と思いながら引き取った本なのであった。念のため断っておくが、私は決して「ネクロフィリア」ではない。あくまで「ビブリオフィリア」としての(しめしめ)である。

     人間の亡くなり方には、様々な原因とそこから死に至るまでの経過があるわけだが、その色んなケースについて、著者は詳細な、しかし単に観察記録的なだけではなく、物語的に、あるいは劇場的に一人の生きていた人間が死体となっていく過程を記している。

     本文中には、数々の死体の写真や解剖図なども併せて掲載されているので、そういったものが苦手な方は要注意だ。特に、ベルリンの美貌の男娼が痴情のもつれから殺害され、頭部を切断された上に、顔面の皮膚を剥ぎ取られたという事件について書かれた項があるのだが、皮膚を剥がされた頭蓋骨と、縫い合わされた男娼の顔の皮膚が、あたかもゴムマスク(眼球は失われてしまい、ポッカリと空いた真っ黒い空洞が無気味)のように写っている頁があり、パラパラと不用意に繰っていくと、心臓が止まりそうになってしまうと思う。

     そのほか、阿片中毒になった人間がどのようにやせ衰え、精神に異常をきたし、結果死亡するかということも事細かに書かれている。骨と皮だけになった死体の写真と共に淡々と解説が進むのが、かえって薬物による快楽に陰にかくれて、死が密やかに、しかし、着実にやってくるのを感じさせるようでもある。今、芸能人の薬物問題が取沙汰されているけれども、覚醒剤にしろ、阿片にしろ、薬物に手を出すということがどういう末期をもたらすのかということを、目で確認するには非常に効果的かもしれない。

     現代においては、死体を目にするという機会は、そうそうあるものではない。せいぜい、家族が亡くなった時くらいのもので、赤の他人の死体を見るなどということは、医療従事者や葬儀関係者、遺体修復士(エンバーマー)でもない限り、殆ど無いのではあるまいか。けれども、人一人が生まれて生きるということは、いつか必ず死を迎えるということであり、我々の生は、常に死とワンセットの生なのである。私も確実に死ぬし、あなたも確実に死ぬということだ。死を迎えることによって、一人の人間の人生が初めて完成する。どんなに表面上、死体などを見ずに済む、整然として見た目の綺麗な世の中になっていたとしても、常に地球の総人口分の死が、もともと内包されているのが、我々の住むこの世界なのである。我々、生きとし生ける者たちは、死に向かって懸命に生き、それがゆえにダンス・マカブル(死の舞踏)を常に舞わされているのである。

     時には汚穢(おわい)に満ち、見るのも恐ろしく、肉親であれば殊のほか悲しく、逃れたくとも逃れられない死、そして死体という現象。しかし、それをいたずらに忌み嫌う者は、真に生を生きていることにはならない。死によって初めて、人生の始めと終わりが明瞭となり、個人個人の人生が完成するのだ。死や死体というものを、受け入れようとしない者は、ただ、だらだらと続く未完の人生を浪費しているに過ぎない。

  • 第二次世界大戦までの主に海外の猟奇犯罪、解剖学の話、中世の拷問史といった内容。惨殺死体写真多数。正直この手の本はもうお腹いっぱい。

  • 案外死後の体がどう変わっていくかなんて知らないものだよね?
    わかります

  • 怖い・・・だって絵入りなんだもん。すごく残酷な殺され方した人の遺体とかがいっぱい掲載されてます。

  • 徹底して解剖学的な視点が好きです。

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著者プロフィール

1931年、東京・神田三崎町生まれ。作家、画家、チェリスト。著書『闇の博物誌』『ドラッグストア』『ブリミアーナ』(いずれも青弓社)、『ロベルトは今夜』『雪香ものがたり』『ナージャとミエーレ』『恋寝刃地獄聞書』(いずれもトレヴィル)、『夜想30 枕絵』(ペヨトル工房)、『リラの門』(太田出版)ほか。

「1993年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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