文豪はみんな、うつ (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344431423

作品紹介・あらすじ

文学史上に残る10人の文豪――漱石、有島、芥川、島清、賢治、中也、藤村、太宰、谷崎、川端。漱石は、うつ病による幻覚を幾多のシーンで描写し、藤村は、自分の父をモデルに座敷牢に幽閉された主人公を描くなど、彼らは、才能への不安、女性問題、近親者の死、自身や肉親の精神疾患の苦悩を、作品に刻んだ。精神科医によるスキャンダラスな作家論。

感想・レビュー・書評

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  • 電子書籍の割引期間の最終日が来て、何か選ばなくちゃいけないような脅迫観念に駆られて、ついコレを選んでしまった。私は「期間限定お買い得」に極めて弱い。いっときは財布がパンパンになるほどにクーポンを入れていたのだけど、最近はアプリの中にクーポンが無数に入っている。このクーポンを使うために1日の予定をやりくりすることも多い。私はクーポンを買い物に利用しているのか、クーポンのために買い物をしているのか。依存症の典型的な症状。コレ病気かも。まぁ、生活を脅かすほどじゃないからまだ医師にかかるつもりはない(←「私は依存症ではない」と言うのは依存症初期の典型)。

    まぁどちらにせよ、自殺や心中に至るような「うつ病」と比べたら、かわいいもんである。〆切間際にならないとスマホのメモアプリに向かい合うことがどうしても出来ない困ったちゃん(←私か)も、かわいいもんである。いかん、なかなか本題に入らない。

    本書は、文学者ではなく立派な精神科医の岩波明さんが、文豪たちの精神病の診察を、巷に言われている診察に意義を唱えながら分析したものである。

    夏目漱石のうつ病は有名だ。しかし巷では幻覚を伴うことから統合失調症(精神分裂症)と言われてきたが、岩波明さんは幻覚や妄想を伴う「精神性うつ病」と診断する。漱石の凄いのは、病気がひどくなっても名作を次々と書いていたところだろう。

    愛人と心中した有島武郎も、恋愛は心中の原因ではなく自殺のキッカケだったろうと診断する。有島武郎は、自らを否定する典型的なうつ病だった。「生まれずる悩み」の高潔な人格からどうして心中に至るのか不思議だったけど、納得した気分になった。

    芥川龍之介の自殺は、長いこと私の謎だった。時代に殺されたのか?しかし、昭和の閉塞感が始まるずっと以前から彼は長いこと病気だった。岩波明さんは適切な薬を処方していれば、この稀代の文学者は生き残ったのではないかと言う。一般的に言われている芥川統合失調症説は説得力ある根拠で否定する。一部に言われている青酸カリ自殺も否定する。彼はうつ病だった。身近なトラブルが彼を追い込んだにせよ、時代が殺したわけではない。後に彼の文学を読むときの参考になりそうだ。

    宮沢賢治を躁うつ病で分析しているのは、大きな間違いではないとは思うが、あまり参考にならなかった。確かに若い頃の短歌や詩に幻想或いはホラーの描写はあるが、それは病気が描かせたとは誰も思わないだろう。死因も明らかに病死である。

    太宰治が心中を繰り返したのは、明らかに時代のせいだった。この頃毎年数百人規模の情死(心中事件)が起きていた。その中で、太宰治も死ぬ理由をそこに見つける。ある批評家は太宰治を境界例(境界性人格障害)と決めつけているようだが、太宰は社会的適応能力は十分にあった。文豪だからこそ、遺した文章は多岐に渡り、関係者の証言も多い。それを精神科医の権威(東大教授)が診断するだから、間違いないだろうと思える。当時不治の病だった結核にかかり、実生活でもストレスが溜まった上での疲はい性うつ病で心中自殺をしたというのが、太宰治の場合の真実だったのだろう。

    文豪の自殺や心中は、多くはうつ病が引き起こすものだった。適切な治療を施せば防げたものなのかも知れない。文豪は、しかしうつ病をも作品制作のエネルギーにしていた。痛し痒しではある。昨今のSNSに追い詰められた芸能人の自殺も、時代に追い詰められたのではなく病気だったし、適切な治療を施せば防げたのかもしれない。でもだからこそ素晴らしい演技が遺せたのだとも言えるかも知れない。本人は不本意だろうけど、それでも精神科にかかる勇気を持ってもらいたい。アメリカではとっくにそうなっている。

    まぁ軽度アスペルガーの症状である「追い詰められると固まってしまう(〆切を守れない)」私が偉そーに言えることではない。因みに、先週発病した〆切守れない病は、この場で「お休み宣言」することで追い込んで最悪の場面は回避することができた。皆様のご協力有難うございました。しかし、「この手」はもう次回使えないだろう。果たしてどうするか?

  • 「文学者として生き、人生を放蕩する生き方を世間が尊重していた」…尊重と言うより求めていたのでは?って気もするけど暗澹とした、時折ほぼ人間失格な生き方が受け入れられていた事に早々から驚かされた。
    著者はれっきとした精神科医。直接見たことも話したこともない相手をここまで分析されたところに舌を巻いた。

    有名どころはやっぱり夏目漱石。(予想通りトップバッター) ロンドンで神経衰弱を病んだ経緯を知って、よく2年も持ち堪えられたなと感心してしまった。とんでもない被害妄想狂に、ちょっとの失敗で瓦解しちゃうくらい打たれ弱いのか。

    有島武郎は現代にもいそうな患者の一人。筆者によるカルテ曰く生真面目で仕事熱心、周りからも慕われていた。心の底から残念でならない。

    谷崎潤一郎もだったのか。原因ではないけど「悪魔主義」とか容赦ない言われようだと引っかかった。創作意欲を絶やさず、作家らしい晩年を送れたことにようやく本当の幸福が訪れたのかなと頬が緩んだ。

    「若い君達なら短命だった彼らの苦悩を少しは汲み取れるだろう」と言わんばかりに彼らの文学作品は若い世代に奨励されている。自分には彼らの作品に触れることイコール彼らに付きまとう負のエネルギーを進んで吸収する行為に思えていた。彼らの苦悩は時代どころかレベルも違うから、自分が理解しようとするにはヘビーすぎる。個人と作品を切り離すどころかほぼ投影しちゃってるから、作品自体楽しめない。という完全な偏見…

    そんな偏見の源流を辿るべく手にした本書だったが読了してもそれがくすぶっていて、彼らの作品を手に取る勇気も依然ない。この調子だと彼らと相見えるのは3-40年後くらいになってしまう…考えてみれば三島由紀夫の『金閣寺』で早々にまいってしまったから、自分も相当脆弱だったりして。

  • 夏目漱石、宮沢賢治、太宰治、芥川龍之介、などなど10人の文豪たちの生い立ちや生活、作品を検証して精神科医として著者が精神状態などを考察する。
    淡々としてわかりやすい文章でさくさく読める。
    文豪の小説はちょっとしか読んでないけど、やっぱり普通の人とはちょっと違う人たちなんだなぁ。
    紹介されてる作品は読みたくなった。

  • 病跡学パトグラフィー。
    四半世紀前は、憧れていたジャンルだなぁ……。
    各章ごとに読み応えがあるのは勿論だが、なんと巻末解説を島田荘司が書いているのが、面白ポイント。
    御大いつもの日本人論をぶつが、後輩ミステリ作家にもとばっちりをかけて、堂々たる名(迷)解説で、読み甲斐あり。



    目次
    第1章 夏目漱石―一八六七~一九一六(享年四十九)
    第2章 有島武郎―一八七八~一九二三(享年四十五)
    第3章 芥川龍之介―一八九二~一九二七(享年三十五)
    第4章 島田清次郎―一八九九~一九三〇(享年三十一)
    第5章 宮沢賢治―一八九六~一九三三(享年三十七)
    第6章 中原中也―一九〇七~一九三七(享年三十)
    第7章 島崎藤村―一八七二~一九四三(享年七十一)
    第8章 太宰治―一九〇九~一九四八(享年三十九)
    第9章 谷崎潤一郎―一八八六~一九六五(享年七十九)
    第10章 川端康成―一八九九~一九七二(享年七十二)
    おわりに
    文庫版あとがき
    解説 島田荘司

  • 日本文学史上に残る10人の文豪たち(夏目漱石49、有島武郎45、芥川龍之介35、島田清次郎31、宮沢賢治37、中原中也30、島崎藤村71、太宰治39、谷崎潤一郎79、川端康成72)が、のうつ病、精神疾患を患い、心中や自殺によって悲劇的な最後を遂げた人も少なくない。 明治、大正、昭和初期の動乱の時代を生き、文豪としての名声を得た作家の苦悩の人生を、精神科医の岩波 明先生が解き明かしたドキュメント人間像。

  • この視点、この視点が読みたかった!こうしてまとめてくださった作者様に尊敬の念。
    そう、みんなうつで死に近いところにいるんだよ。
    夏目漱石、太宰治、宮沢賢治
    簡単に名前を出し「憧れる」と口にする人の知識量と心理を知りたい

  • 病跡学には興味があるので、最後までずっと面白く読んだ。
    ここに取り上げられていた作家たちの中に、一般的な評価に少し違和感を感じていた作家もいたので、この本の解説で納得できた。
    ただ、逆にもう少し深掘りしてほしかった作家もいるし、岩波先生の見解ではなくこれまでの説の方が妥当ではと思われる作家もあった。作家本人に直接会ったり行動を観察しているわけではなく、残された作品や資料から判断するしかないから、何をどう評価するかに幅が出るのは仕方ないと思うので、どの先生の説なら納得できるかは、読むこちらが何に重きを置いているのかにもよるのだろう。
    今回収録されていなかった作家についても読んでみたいと思った。続編が出たら読みます。

  • 文豪が現代に生きてたらどうだったんだろうと何度も考えたことがあるけど、
    この時代背景、精神疾患に対する理解の浅さや治療、療養方法の未発達さがあったからこそ文豪作品は生まれたのかもしれないと改めて感じさせられる。
    現代にも素晴らしい作品はたくさんあるけど、この時代特有の切羽詰まったような人間の心情はこの時を生きたこの人たちにしか書けなかっただろう。。

    私の大好きな夏目漱石は胃潰瘍とか内臓系の病で苦しんでたのかなと思ってたから、子どもに手を上げたりだのなんだの意外だった。
    個人的にエグかったのは島田清次郎と有島武郎のエピソードでした、、、

  • 日本の文豪10人が患ってた精神の病気について述べた本。
    偉大な作家は精神的に追い詰められてたんだな、と改めてわかった。なんとなく知識としては知ってたけど、専門のお医者さんである筆者が分析しながら語ると説得力が違う。表紙が結構かわいいので、かるーい本かと思ったらちゃんと分析してある本で、読み始めはびっくり。
    宮沢賢治は、仏教に傾倒していて、童話も書いて、農業の発展に尽力してっていう、穏やかな人ってイメージがあったので、躁うつ病で奇行もあったと知って、一番印象に残った。

  • 宮沢賢治って、自分と同じ病気だったの?と衝撃を受けて手にとった本。偉大な作品を残している作家って、心の病を患っていた人が多いんだな。自分だけじゃないんだと思わしてくれた。有島武郎と中原中也の話が面白かったな。大正時代らへんは、不倫って犯罪だったのか!

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著者プロフィール

昭和大学医学部精神医学講座主任教授

「2023年 『これ一冊で大人の発達障害がわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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