明治維新とは何だったのか 世界史から考える

  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396616489

感想・レビュー・書評

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  • 半藤一利氏は昭和5年(1930年)生まれ、方や出口治明氏は昭和23年(1948年)生まれ、と18歳もの年齢差がある。半藤氏は、自称「歴史探偵」で、「幕末史」という分厚い本も上梓されており、この対談では出口氏が、半藤氏の胸を借りる形で、対談が進んでいくんだろうなと予想していたが、実際にはまったくそうではなく、まさに「がっぷり四つ」の対談だったように思う。

    半藤氏はもちろんだが、出口氏の博識はすごい! 現代における歴史の頂点対談の一つだろう。そして、そういうお二人の扱うテーマが、「明治維新とは何だったのか」だから、これは面白くないということはありえないだろう。

    むしろ半藤氏のほうが、「自分の弱点である経済的な観点が、びっくりするほど完備している方」と、出口氏に尊敬の念をもって対談しているくらいだ。

    この言葉どおり、対談のところどころで、当時の各国のGDPの統計データなど経済データを出しながら歴史を語る出口氏の凄さを体験することができる。出口氏は、ふだんから「タテヨコ(歴史と世界)」の視点を重視されている。

    対談冒頭、この「本書のタイトル」となっている「明治維新」という言葉に、半藤氏がモノ申す。改元前後に、「明治維新」なんて言葉はなかったんだと。せいぜい「御一新」という言葉があったくらいで、「明治維新」なんて言葉は後付けだと。その理由も後の対談の中で説明されていくが、さすが探偵の歴史へのコダワリに、思わず「来ましたねー」とにやついてしまった。

    一方、出口氏はやはり腰低く、謙虚に対談に入っていかれましたが、それはほんの始めだけで、「どんな球でも必ず打ち返しますよ」的な余裕さえ感じられる対談を展開していかれます。

    第3章の「幕末の志士たちは何を見ていたのか」では、当時の主要な人物についてのお互いの人物談義が交わされている。「幕末の志士たちは何を見ていたか」というより、「対談のご両人は、志士たちをどう見ていたか」というのが実質的なタイトルでしょう。

    そして、けっこうな点で、両者の意見は一致していたかと思う。幕末というと、維新の三傑、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允についての評価が高く、坂本龍馬や吉田松陰など小説の影響もあり、英雄的に語られることが多いが、二人の意見の一致で見ると、阿部正弘を維新のグランドデザインを描いた一番の功労者とし、そのデザインを踏襲し近代化を実質的に推し進めた、大久保利通を第二の功労者とし、半藤氏が思い入れが最も強い勝海舟の功績についても、出口氏も認めるところで、これがベスト3だったのではないか。

    一方、二人そろって西郷評は思わしくなく、吉田松陰に至っては酷評でしかない。もちろん、それぞれの人物の偉大な点は認めたうえでであるが。

    岩倉具視は、この時代最大の陰謀家(ワル)で認識が一致し、維新三傑亡きあと権力を握った山縣有朋についても厳しい評価だが、これらは一般の視点と一致するところかもしれない。

    本書が「世界史から考える」と副題されているように、「鎖国で後れをとった世界の中の日本」という視点でとらえたときに、その後の日本再構築において、誰の功績がもっとも大きかったのかという視点からこの結論に達しているのではないかと思う。

    巻末に、両著者オススメの関係書籍が紹介されている。
    半藤氏15冊、出口氏20冊。これらもそうだが、両著者の他の本にも興味が湧いてくる。

  • 今年は明治維新150年。
    私も感じていたのですが、ここ2、3年は「反薩長史観」的な本がやたらと大宣伝で売られだし、いまや反薩長は一種のブームとなっているかのよう。
    半藤一利さんはそのずっと前から反薩長の本を出していた作家です。
    なので、彼のもとにその手の本をだした若い作家との対談の企画がいくつももちこまれました。
    あっさりお断りされたそうです。うーん、ちょっと残念。

    でも出口さんとの対談のお話には二つ返事でOK。
    そうしてできたこの本、とても面白くて、たびたび笑いました!
    ちょっと悪口多くて、特定の人のファンにはカチンとくることもあるかも。

  • 明治維新は薩長土肥による暴力革命というのはその通りですが、軍事政権が発足したわけではありません。新生日本は虎視眈々とした列強と折り合いながら、グランドデザインである近代国家の形成に取り組んでいます。対談で残念だったのは、日本の近代を世界史の観点で位置付けるという視点が希薄なことです。歴史を人ベースで語るのが好きな日本人ですが、それでは読み物としては面白いけど、床屋の隠居談義になってしまいます。

  • 奇跡の人材登用が生んだ日本の近代化

    〜開国→富国→強兵のグランドデザインと武士階級の自己改革〜

    ■概要
    作家の半藤さんとライフネット生命創業者の出口治明さんの対談。薩長栄光の歴史とされる明治維新を幕末の動乱の時期から、各藩/各人の思惑に焦点を当てることで、明治維新をどう観るかを問いなおす。明治維新を見なおすことは、人間ドラマにとどまらず、人材登用や複雑な利害関係者との交渉など、現代社会にも多くの示唆を与える。

    ■所感
    明治維新をよく理解していなかったが、歴史作家の大家である半藤さんと、歴史と哲学に精通し"啓蒙経営者"と呼べる出口さんの知見から明治維新を学びなおせる。薩長、坂本龍馬、岩倉使節団くらいしか知らなかったが、各人の明治維新において果たした役割を学べた。
    ただ歴史をなぞるのではなく、現代の意思決定に学べる要素が大きい。情報収集から情報公開の大切さ、人材配置などはいつの時代も肝になる。
    歴史は勝者が作るというのが、明治維新(薩長革命)にも当てはまると痛感。

    ■詳細メモ
    ・明治維新(明治政府誕生)は薩長の暴力革命
    関ヶ原の戦い以降の200年の禍根を薩長が晴らした、それが明治維新。幕府の開国決定が尊王攘夷につながったものの、攘夷は無理と判断した薩長が尊王倒幕に傾いた。
    そもそもの尊王は、家康?が廃止した「幕府が朝廷にお伺いを立てます」を復活させたあたりから始まっていた。攘夷は開国に伴い生まれたが、薩英戦争と下関戦争で海外の実力を知り断念。まず倒幕が作家の目的に。

    ・ただ人材登用は抜群
    たとえ薩長を中心とした西軍(官軍)びいきの人材配置でも、奇跡のピースがピタリとはまった。狭義の明治維新かつ(武家政治終了)は暴力革命でも、広義の明治維新(日本の近代化)は当時の素晴らしい人材とその登用術のおかげ。

    ・活躍したのは誰か?
    - 勝海舟の様に幕府側からも支えた人が。〇〇人に入るのは薩摩人、京都人などが当時の概念だったのに対し、初めて「日本人」を概念にした。幕府と薩長で争っている場合ではない、と一気に人々を啓蒙した。
    - 隠れた構想家、阿部正弘。グランドデザイン。出口治明さんが選ぶ功労者第1位。
    - 坂本龍馬はアイデアのパクリスト、ただ構想力とコーディネート力が抜群。秀吉やビルゲイツタイプ。
    - 大久保利通は阿部正弘の構想(グランドデザイン)を実行に移した、視座が高い。出口治明さんが選ぶ第2位。
    - 伊藤博文や山縣有朋は"小粒"。それでも伊藤博文は日露戦争の落とし所をわきまえていた、現状把握ができる人。山縣有朋はシビリアンコントロールを日本から無くした。統帥権の独立が後の大戦の悲劇に
    - 徳川慶喜はよく分からない。鳥羽伏見の戦いで錦の御旗を見ただけで撤退したのは謎
    - 岩倉具視は謀略家の腹黒(かなり悪く書かれている)。ただ岩倉使節団は明治維新に寄与した。(倒幕後の国家隆盛に欠かせない)
    - 西郷隆盛は革命家。毛沢東に近い(詩人であり農本主義、ロマンチスト)。だから革命後の政府で上手く立ち回れなかったが、革命には欠かせない人。

    ・明治維新の成功の要諦
    阿部正弘が「開国→富国→強兵」の順に進めようとしたこと(出口さん)。日本には資源がない、しかも鎖国で海外の情報ない。だからまず開国しないと富国も強兵もできない。
    なお、日露戦争以降、日本が誤った道に進んだのは「閉国」路線を歩んだから(司馬史観に近い)。これでは海外の正確な情報つかめず、兵器開発や戦術面でも劣る、だから大和魂と白兵戦法のゴリ押しで大戦では悲劇を生んだ。
    開国後の吉田茂は「強兵」をアメリカに任せて、開国と富国に集中。これが戦後復興に寄与した。

    ・勝海舟、西郷隆盛らの自己改革
    武士階級が封建社会と決別しようとしたことも忘れてはならない。自己改革できる覚悟ないと「維新」は成し遂げられない。これも阿部正弘がアヘン戦争の現状を知っていたからこそ、開国やむなしとできた。ただそれを受け入れた幕府側の武士(阿部もその一部だが)の功績、勝海舟こそ立役者。(半藤さん)

    • tr26さん
      補足
      明治維新の発端=薩長の暴力革命なのだが、阿部正弘(幕府)のグランドデザインを大久保利通(薩摩)が具体化し、実行。そこには勝海舟(幕府)...
      補足
      明治維新の発端=薩長の暴力革命なのだが、阿部正弘(幕府)のグランドデザインを大久保利通(薩摩)が具体化し、実行。そこには勝海舟(幕府)も英国交渉などで絡んでいたことを考えると、明治維新の「全て」=薩長の功績とするのは誤り。半分は幕府の自己改革。
      2021/12/18
  • 碩学のお二人の明治維新論 やはりただ者ではない 特に出口氏は圧巻
    経済の視点で「数字」で歴史を分析すると見えてくる世界が違う 迫力も

    1.統帥権の独立 これは山縣有朋の仕業 言語道断 治安維持法も
     強権的国家主義者のようで、結局は自分の権力拡大 ポスト確保
     軍国主義をもたらし、結局は国家の滅亡
     司馬遼太郎は坂の上の雲で終わらせてはダメ、昭和の大敗戦まで同じストーリー

    2.開国のグランドデザイン 阿部正弘 大久保利通
     開国-富国-強兵 帝国主義の世界と戦う
     勝海舟も同じ認識 西郷を説得し、江戸を守った 焼け野原になったら日本は終わり
     国家の危機 人材登用を広く正しく行えば、歴史は変わる
     門閥制度→実力主義・実績主義
     cfフィンランド国家の危機 1991年破綻

    3.1938年近衛声明の阿呆さ 戦争の相手を無視してどう始末するのか
     「始末」の大切さが判らなくなってしまう
     全く同感 現代のアベノミクスも同じ 始末の考えはない デフレ脱却が欲しいだけ
     現政権=現日本の幼児性は共通するものがある 歴史の怖さ

  • 半藤氏と出口氏の対談本。でかつ日本の幕末に焦点を
    絞って語られている内容です。
    阿部正弘・横井樟南・勝海舟・大久保利通・坂本龍馬・
    西郷隆盛・伊藤博文・山形有朋・吉田松陰・・
    2人のそれぞれの人たちに対する評価を読むのは
    面白く読めました。
    二人の、半藤氏の見方はとても面白いと思いました。

  • 幕末維新史は初心者でしたが、これは分かりやすくて面白いです。幕末から太平洋戦争までの、思想的、人脈的な全体の流れが理解できました。
    巻末の推薦書を、今度は読んでみよう。

  • もう明治維新150年とか薩長土佐で勝手にやってくれと思っている人たちにとっては当たり前の視点・史観では有るけど、それがこの2名の対談でより明確になっていて大変心地が良い。よく太平洋戦争の総括が不十分である事への指摘が多いが、そもそも日露戦争当時戦争への総括が不十分であり、その実際が広く国民に知らしめられなかった事により、再び「鎖国」となり、それ太平洋戦争へ繋がっているという指摘は重要だし、それは今の我が国の現状にも重なって見える。戦争は外交・政治の一手段である、これは即ち戦争中であろうとその前段階であろうと相手との対話と交渉が必要である事を示している。日中戦争時の近衛内閣の「国民党とは交渉に値せず」は、現状の我が国の北朝鮮政策と重なって見えてきて仕方がない。右手で棍棒で殴り合いながらでも、左手の指一本ぐらいは相手と繋いでおくのが外交であり、政治である。結局戦争は政治の一手段である以上対話でしか終わらないのだ。

  • h10-図書館2018.12.28 期限1/18  読了1/15 返却1/16

  • 「維新」とは新政府が後につけた正当化の呼び名。阿部正弘のグランドデザインと引き継いだ大久保。伊藤、山縣の権威付けに利用された吉田松陰(この人へも低評価)。統帥権が西南戦争からの山縣の発想で帝国憲法前にできていたとは知りませんでした。世界を見てきた者と内しか知らない者。権力に対する執念の有無。これまでは新政府側からの時代小説やドラマで語られることの多かった「明治維新」。確かに最近幕府側からのストーリーも増えてきましたね。その方が公平で立体的に考察できますね。やはりこの時代は面白い。お二人の対談、グッド。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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