バレンタイン: 短篇集

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  • 新書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784403210907

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。著者が幼少期をすごした六郷あたりの風景が書き込まれていて、土地に馴染みのある自分には心地よいです。どの短篇も、妻や母、そして幼い頃の著者自身といった、身のまわりの人々がかつて営んでいた(いま営んでいる)生活が、少しずれていくさまを扱っています。過去は思い出のなかで、完全な事実としてではなく、記憶する者の主観によって変質した形で保管されるものですが、この短篇集は、それを物語という形で展開してみた試みのように感じます。

  • 午前三時の目ざめ方は特権的なのである。
    何なら文学的といってもいい。

  • 夜、眠る前に一章ずつ。
    一度にたくさん読んではいけない。
    戻れなくなるから。

    現実が突然にお隣の別世界へ変わる。
    恐ろしかったり、温かったり、せつなかったりする。

    柴田氏の小説がこんなに不思議に満ち溢れてるなんて!

    ユアグローの飛行機の短編をもっとエッセイ的にした感じ。
    とても好き。

    「妻を直す」「ウェイクフィールドの微笑」が特にお気に入り。
    現実でも小説でも、男性にとって奥さんというのは不思議な生き物なのだろうか。

  • エッセイとも小説とも区別がつかない不思議な短編集でした。
    突飛な話が多くて、でも突飛とも思えなくて。
    平坦な語り口なのに、何だか胸がチリッとするような、そんな1冊です。

    「期限切れ景品点数券再生センター」「書店で」がお気に入り。

  • 短編小説ということだけれど,主人公は著者自身で,
    過去の自分を「君」 と呼んで回想していたり,
    その自分と現在の自分を重ね合わせたりしている。

    過去から最近の出来事を物語にした,エッセイみたいなもので自伝的。

    その語りかたは翻訳家らしいというのか,
    アメリカ文学の翻訳小説みたいな雰囲気を持っているように感じられた。

    翻訳家で,さらには東大教授の柴田元幸さんが普段こんなことを
    考えたり経験していたりするのかと考えたりしながら読めておもしろかった。

  • 『大航海』掲載のエッセイ中心に、書下ろしも掲載。ありえた他の現在を想像する、という筋立てが多い。柴田元幸が現在の彼に満足しているのだな、とわかる。「ウェイクフィールドの微笑」、「映画館」、「卵」あたりが好き

  • 柴田元幸さんが書いた作品が集められている。
    柴田さん自身のエピソードが多く含まれており、柴田さんに興味を持ってこの本を手にした人は充分楽しめるのではないか。そうでない人にとっては物足りないかもしれない。
    自分は、六郷周辺で展開するストーリーが好きです。

  • 翻訳家である柴田さん自らが書いた短編小説14編を収録。(翻訳業から小説家を目指すつもりなのだろうか?)各短編とも、著者自身を反映したかのような、インテリの人物が登場する。当たり前のように読み進めていくと、突然異次元に入り込んでいって足元をすくわれるような感じ。『バレンタイン』という短編から始まって、『ホワイトデー』という作品で終わるところは、著者なりの遊び心か?

  • 残念!残念すぎる!
    柴田さんの翻訳書は大好きだけど、翻訳者と作家は別物だ。彼が優れた翻訳者であったばっかりにこんな、小説としての出版価値には首を傾げざるを得ないような本を出すことになってしまって気の毒でたまらない (皮肉ではなく本当にそう思う)。
    内田樹さんのブログの古い記事にこんな一節がある。
    --
    創造よりも批評に傾く人は、クリエーターとしてはたいした仕事はできない。
    これはほんとうである。
    私自身がそうであるからよくわかる。
    私もまた腐るほどたくさんの小説を読んできて、「これくらいのものなら、俺にだって書ける」と思ったことが何度もある。
    そして、実際には「これくらいのもの」どころか、一頁さえ書き終えることができなかった。
    銀色夏生さんは歌謡曲番組をTVで見て、「これくらいのものなら、私にだって書ける」と思って筆を執り、そのまま一気に100篇の歌詞を書いたそうである。
    「作家的才能」というのはそういうものである。
    努力とか勉強とかでどうこうなるものではない。
    人間の種類が違うのである。
    --
    柴田さんが傲慢だとは思わないし、批評に傾いているとも思わない。
    でも「俺にだってできる」と思ってもできないことってあるんだよねえ。
    いや、残念ながら。

  • 翻訳者として名高い柴田元幸の初の小説集。
    さすが、名翻訳家は文章もうまい。
    翻訳のイメージがあるからか、どことなく外国のこじゃれた(ウィットに富んだ、というやつ)小説のイメージを受けた。
    著者本人を思わせる登場人物がさらりと現れ、まるで「最近自分の身辺にあったこと」のようにありえない出来事をするっと語ってしまう(幼少時の自分と出会ったり、妻が故障してしまったり)感覚がおもしろい。

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著者プロフィール

1954年生まれ。東京大学名誉教授、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒けん』、エリック・マコーマック『雲』など。講談社エッセイ賞、サントリー学芸賞、日本翻訳文化賞、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。

「2023年 『ブルーノの問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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