生き物が大人になるまで~「成長」をめぐる生物学

著者 :
  • 大和書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479393511

感想・レビュー・書評

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  • 家で飼っているグッピーが最近子どもを産んでいます。
    生まれるとすぐに泳げるし、エサも自分で探して食べます。
    これって凄いことだと見ていて感心します。
    2~3ミリくらいの体が日に日に大きくなり、いつの間にか3~4センチ程に育ちます。
    生まれた時から小さな大人という感じでしょうか。

    生むのは卵か赤ちゃんか。
    子育てをするか否か。
    大きくなるのか質を変えるのか。
    子ども時代が長いか短いか。
    本能のみにたよるか知能を活用するか。

    生き物に関して、このような話題について書かれている本を読むのが好きです。
    昆虫はトンボやチョウやカブトムシのように親子が別の生物にしか思えない不思議な成長をします。
    カエルもそうですが、親子で明確に形態が違う生き物は、大人になった時期が明確です。
    なぜ、このような成長の仕方になったのかという疑問は解決されないままですが、興味が失せることはありません。

    『第3章 「ふつう」ってなんだろう』 あたりから、人間という生き物を見つめなおす方向に話が進んでいきます。

    普通の犬ってどんな犬?ふつうの花やふつうの顔って何?
    「ふつう」は、平均値という便利な道具を作り出した人間が好んで使う言葉。
    これが「ふつう」なんて明確な定義ありません。

    どんな動物でも3~4年もあれば立派な大人になるのが「ふつう」ですか?
    「5歳になったら一人前になって独り立ちするなど、人間ではとても考えられない。」言われてみれば確かにそうです。
    ヒトは、なんと成長が遅い生き物なんだろうと思います。
    10歳でも子ども。20歳でやっと成人?
    ゆっくり大人になる戦略をとった人間は奇妙な生き物です。

    親のために子供が犠牲になる生き物はいません。
    未来の世代を犠牲にして今を生きようとする生き物はいません。
    これが「ふつう」の生き物だとすると、「ふつう」でないのは人間だけです。

    そして、「成長するってどういうこと?」という話題に入っていきます。

    成熟してこそが成長、いくら体が大きくなっても未熟のままでは成長とは言えません。
    生き物は単に大きくなることでなく、質を変え成熟することを目指しています。
    経済や社会も同じではないでしょうか。単に右上がりに数字が伸びていくことが成長でしょうか?と問題提起しています。

    生き物には成長する力が備わっています。頑張ったから成長できたわけではありません。
    草が芽を出し、葉を茂らせ、花を咲かせるのは頑張ったからではありません。
    人がハイハイし、立てるようになり、歩いたり走ったりできるようになるのは頑張ったからではありません。
    時期が来れば自然とそうなるようになっているのです。と、頑張ることを美化しすぎる社会を風刺しています。

    この本の表紙をめくると、そでの部分に「知ると、人間が見えてくる。」と書かれています。
    さまざまな生物の多様な成長の仕方を題材にして、人間にとって大切なことを考えてみようといった子供向け(小学生には無理かな)の本です。
    この本のカテゴリは"生物学"になるのでしょうが、本質はチョット違っていました。
    生物としてのヒトの特性や成長戦略と、他の生物が選択している成長の姿(生存戦略)を根拠として、人間の生き方を考えるという新鮮な体験ができました。

  • 臨月が近くなった時に友達が貸してくれた本。
    とても読みやすい生き物や植物が切り口の自己啓発本といった感じだった。
    最後の方に"大人にできることは、子どもが育つ環境を作ってあげることだけなのかも知れません。"
    とも書いてあるように、子どもに期待をかけすぎず、固定観念に囚われすぎず、子どもと成長できたらな、と感じた。

  • 「生物学」に擬態した
    「道徳」の本ではないでしょうか。
    いろいろ考えさせられました。

    「イノコヅチの恐ろしい作戦」
    しっかりとした大人になるためには
    しっかりと子ども時代を過ごすことが大切

    「経験とは成功と失敗を繰り返すこと」
    哺乳動物の親の役割は、子どもを守ることだけでなく
    安全な環境で経験を積ませることも

    「個性という戦略」
    バラバラであるということは
    何が正しくて何が優れているか
    わからないということ
    バラバラであるということも、生物が進化の結果
    手に入れてきたもの

    「子どもは大人になるために生き
    大人は子どもを作るために生きる
    だたそれだけ」
    生物の親は、子どものために命をも捧げる
    しかし親のために子どもが自らを犠牲にする生物はいない
    ましてや、未来の世代を犠牲にして
    今を生きようとする生き物はいない
    もし、いるとすれば、それは人間だけ

    「年寄り(子どもを作らない大人)は
    次の世代に知恵を授ける存在」
    別に若い人をつかまえて説教する必要はない
    長い人生の経験の中で身につけた「生き方」を見せればよい
    若い人たちにお手本を見せればよい

    「勝手に成長してしまうもの」
    時期がくればやりたくなる
    時期がくればできるようになる
    頑張ることは必要ない

    「大人だって成長したい」
    心の底から楽しいと思える「好奇心」や
    心の底からやってみたいと思える
    「挑戦心」や「向上心」があったとしたら
    それこそが
    今の成長ステージで発揮される
    成長する力なのではないか

    「子どもは育てるものか」
    子どもは育つもの
    大人にできることは
    子どもが育つ環境を作ってあげることだけなのかもしれない

  • 動物と植物。
    様々な生き物が大人になるまでを綴りながら、人間の成長についても綴られています。
    それがとても自然で分かりやすくて、時々ハッとさせられたり、しみじみと頷いてしまう。
    生き物の様々な不思議もおもしろかった。
    生きるうえでの学びがたくさん詰まってました。

    *第一章 大人と子どもはどこが違う?
    *第二章 「遊び」と「学び」
    *第三章 「ふつう」ってなんだろう
    *第四章 成長の計り方
    *第五章 成長する力は、どこにある?

  • 面白くて読みやすい本だった。具体的な例を挙げて説明されていて勉強になった。”子供は育てるものではなく、育つもの。大人にできることは子供が育つ環境を作ってあげること”という言葉が心に残った。

  • 誰に向けて書かれた本?

    「はじめに」みたいなこの本の作り的な説明がなく、いきなり具体的な話が始まるので、何の話?みたいな気持ちでずっと読んでしまい、論がわかりやすい稲垣さんの本の中では、ちょっと読みにくく感じた。章と章、話と話のつながりはあまりなく、コラム集みたいな本なのかな?
    本能の話が出てくるが、オスがメスを好きになるのって本能なのかな?ペンギンにもゲイカップルがいるというけど……

  • さまざまな著作を非常にわかりやすく整理されていると感じたうえに、ときおり「はっ」とさせられる

    「稲作」「子育て」という言葉 なんか簡単に使っていたけど 成長とは何かということを考えると、また違って見える

    目に見えない成長 の大切さ
    大切にしていきたい視点であった。

  • 面白く、読みやすい本。ヒトとその他の似ているところ違うところをわかりやすい文章で教えてくれています。他のことも教えてほしくなる文章です。

  • ハサミムシの子育てが泣ける。

  •  面白かった!と、読み終わってすぐ思った。
     動物、植物の生態や本能について述べながら、人間がどのように生きていくと楽なのか、ヒントを提示してくれている。
     他人と比べない、自分に備わっている能力を育て成長させること。年をとったら次の世代に生き方を見せること。
     生きることをシンプルに考える道を教えてもらった。

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著者プロフィール

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ):1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する記述や講演を行っている。著書に、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』(ちくま文庫)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』『ナマケモノは、なぜ怠けるのか』(ちくまプリマー新書)、『たたかう植物』(ちくま新書)など多数。

「2023年 『身近な植物の賢い生きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

稲垣栄洋の作品

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