- Amazon.co.jp ・本 (575ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480034977
作品紹介・あらすじ
時は南北戦争後。大義名分を失った武器マニア「大砲クラブ」の面々が途方もないことを思いつく。「月に砲弾を!」資金集めに誘致合戦、嫌がらせ等あれやこれやの末、巨大砲が完成する。そこへ、砲弾に乗り込もうという無鉄砲なフランス人が現れた-。この古典的SFが、これほどアイロニカルな文明批評だったとは。物理学、歴史から精神分析まで、該博な注が多層な読みを可能にし、まさに現代の物語として蘇らせる。
感想・レビュー・書評
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これは労作です。ヴェルヌの小説に詳しい注釈をつけて解説。まるで大学教養課程の講義みたい。本書一冊をマスターすれば、大学教養課程の4単位分くらいの知識になりそう。
ヴェルヌの月探検二部作は当時の最先端科学の知識を総動員していますから、科学に関する注釈も豊富にあります。
特に宇宙論については詳しく、当時の宇宙論の議論の歴史がよく分かります。
高校や大学で耳にした科学者の名前も頻出します。
高校物理で名前が出たロバート・フックは実績の割に当時の評判は悪かったらしい。
ロラン・バルトがヴェルヌ論をものしていたらしく、その紹介もあります。
また、バービーケーンが演説の時、それまでに描かれた月旅行の物語を挙げていきます。
ヴェルヌ以前にこれだけ描かれていたんですねえ。私の今後の人生でどれだけ読めるか。
また、砲弾ロケット内での排泄物の処理については
「生命維持どころか、快適な暮しにさえ、何ひとつ欠けたものはなかった」という一文で全て処理されている
で済まされています。まあこの問題については当時の科学では解決不可能なので触れなかったということなのでしょうか。
江口清さんは創元SF文庫の解説で
「(前編・『地球から月へ』は)今日読むと退屈な箇所が少なからず散見され、科学冒険小説としては『月世界へ行く』に劣る」
と書かれています。だから文庫編入にあたって前編を削除してしまったんですね。
もちろんそういう読み方もあります。
しかし科学冒険小説のエンタメとして読むのではなく、背景や周辺知識のうんちくを楽しむという読み方においては前編の方が優れていて、そういう意味で本書が生まれたのでしょう。
選択肢が多く準備されていて個人の目的意識によって使い分けられるのがいいと思います。日本の翻訳事情は恵まれていますね。
著者のミラー氏はヴェルヌを詳しく研究されたようです。本書の序章ではヴェルヌの生涯について詳しく述べられています。
実はヴェルヌやその親族は私生活の公開を拒否していたらしく、ヴェルヌの生涯についてはよく分かっていないようです。ヴェルヌの夫婦仲は良くなかったとか、息子のミシェルとも一時は不仲だったとか。しかし後にミシェルとは和解して執筆のパートナーとなったそうです。
ヴェルヌの死後ミシェルが手を入れて出版した作品も9つばかりあるそうです。
また、当時のアメリカではヴェルヌの翻訳事情は良くない、と批判されています。
世界大ロマン全集版『月世界旅行』を翻訳された江口清さんが解説で
「現在の科学界をリードするアメリカとソ連ではヴェルヌ作品が広く読まれている」
と書かれていましたが、現実は少し違っていたということでしょうか。
SF KidなWeblog
ヴェルヌ『月世界旅行』ちくま詳注版
https://sfkid.seesaa.net/article/486044141.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
こちらも、ごらんください。
「宇宙の話をしよう:小野雅裕(著)」~あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート
→ http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1717.html
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アポロ計画の予見 技術を銃砲よりも平和利用へ!
原題 Da La Terre A La Lune (1870) 「月世界旅行」は、後の宇宙開発に影響を与えたすばらしい作品です。
1870年にすでに、宇宙空間に到達する方法を 科学的な説得力のある内容で書いたことは驚きです。
武器である大砲の砲弾を 平和利用しようという考え、みんな見習いたいものです。
反対に 宇宙までが 勢力争いや戦争に巻き込まれることの無いように!
さて、苦心の結果作られた砲弾ロケット、
果たして月へいけるのか? 後編へ続く・・。 ⇒ 月世界へ行く
内容 :
時は南北戦争後。
大義名分を失った武器マニア「大砲クラブ」の面々が途方もないことを思いつく。
「月に砲弾を!」資金集めに誘致合戦、嫌がらせ等あれやこれやの末、巨大砲が完成する。
そこへ、砲弾に乗り込もうという無鉄砲なフランス人が現れた―。
この古典的SFが、これほどアイロニカルな文明批評だったとは。
物理学、歴史から精神分析まで、該博な注が多層な読みを可能にし、まさに現代の物語として蘇らせる。 -
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
1865年4月に米国南北戦争は終わったが、本書執筆中は北軍が南部に侵入して虐殺やインフラ破壊など行っていた。奴隷制廃止自体は当然視するヴェルヌは、戦後、和解のための国家目標としてあくまでも民間人の手で宇宙征服=ひとまず月に到達を想定、同年に出版された。のちにケネディ大統領が踏襲/砲口までの加速は2万8千Gにもなる、生きて到達するつもりならロケットしか無いが、殺傷力の最たるものを、超巨大化し平和的に(?)転用に対して全世界から賛同の募金、ただし英国を除き/ケンブリッジはハーバード大学のこと、反射望遠鏡を設置
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ジュール・ヴェルヌが書いたSF小説の名作。古典ともいえる小説であるが、予言していたのかといえる世界観にも注目。
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続編早く読みたい!
ぼくの中では海底二万里に次ぐぐらい面白かった -
ツィオルコフスキー、オーベルト、ゴダード……宇宙開発に携わった人達の多くに影響を与えたといわれるジュール・ヴェルヌの作品。三部作の第一作。SF小説ではあるが、今では常識とされてる内容もここには多く記述されていて、宇宙ロケット開発のパイオニア達が愛読したのもうなずける。