台湾とは何か (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068910

感想・レビュー・書評

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  • 【221冊目】元朝日新聞台湾特派員だった筆者が書いた2016年発行の本。筆者がここ10年の台湾を書いたと言っているが、その10年がどのような過去に規定されていたのかという点も簡単にまとめてあるので、台湾(の特に政治)に関する入門書としては最適だと思う。

     読んでいて痛烈に感じたのは、筆者の「かつて、日本においては、台湾について正面から論じることをはばかられる時代があった」という認識。これが文書の端々から感じられる。

     興味深かった指摘の1点目は、今の台湾には大陸から台湾を守る盾が2つあるという話。
     1つ目の盾は、現状維持を望む民意。しかし、アンケート結果から浮かび上がるのは、大陸中国の圧力さえなければ独立を望むという台湾の民意である。「台湾は台湾」という民意は、各種選挙を通じて繰り返し表明され、台湾の政治家もこうした民意に配慮して活動せざるを得ない。結果として大陸中国もこれに一定程度留意せざるを得ず、安全保障上の盾となっているとのこと。
     2つ目の盾は、「台湾は『中華民国』である」ということ。これは、「台湾は台湾」という(最近の)大衆意識と矛盾するようであるが、このロジックの帰結は「台湾は『中華民国』であるからこそ、1つの中国を望む」というものである。大陸中国としては、眼前の的は台湾独立論であり、「台湾=中華民国」が「1つの中国」を望んでくれる限りは台湾独立論よりは御しやすい相手と認識するようだ。このことは「92年コンセンサス(九二共識)」というアプローチに姿を変え、中台関係のキーワードの1つとなっている。

     興味深かった指摘の2点目は、台湾と沖縄、尖閣諸島の関係である。
    ・1879年に、日本政府が沖縄県設置
    ・1895年に、日本政府が沖縄県に、尖閣諸島への勝手な渡航を禁止するための杭打ちを認める
    ・1896年に、日本政府が台湾の割譲を受ける
    時系列で並べると、沖縄→尖閣諸島→台湾と、第一列島線に従って見事に南下している。地理的な近接性だけでなく、歴史的な経緯からも沖縄と台湾は、近代日本政府の南下拡張政策の対象だったことが分かる。
     ただし、筆者が、台湾の人が自己決定権を求めているように、沖縄の人も自己決定権を求めているというのには賛成できない。台湾が求める自己決定権は、政治体制や安全保障といった「国家」の根幹にかかわることであるのに対し、沖縄の人は、日本という国に組み込まれていることについては反対していない(地元2紙のアンケート結果からも、60%以上の人がこれを肯定している。)。

     あと、台湾と大陸中国を隔てたものが、近代性だという指摘も面白い。日本の統治により、台湾には近代的な教育や制度、設備がもたらされた。第二次大戦終結とともに台湾は日本の統治から解放され、待ち望んだ中華民国が台湾島に到来した。しかし、実際にやってきた中国兵は鍋を担いでいたという俗話である。ここに中華民国の前近代性が象徴され、日本支配以上に台湾の人々に嫌悪されてしまったという話である。

     台湾と大陸中国を隔てるものの中身は極めて多様かつ複雑であり、ここを理解しない限りは現代東アジアは語れないなと感じた。

  • とても勉強になりました。台湾の歴史的な成り立ちや中国・日本との関係性を学ぶことが、東アジアを学ぶことに直結していることに気づかされます。また、台湾史から見た、著者の沖縄への考察も洞察に満ちていると思います。

    「台湾に対する思考停止」から脱却したいものです。

  •  筆者自身も書いているように、最近10年の事象が中心で、「賞味期限」は長くないかもしれない。しかし、東アジア政治の中での単なる一要素ではない、現在の台湾としての台湾を気軽に知ることができる良書である。
     台湾内の世代交代の中で台湾アイデンティティが強くなっていることは半ば常識だが、本書ではその中身を丁寧に解説している。世論調査では非統一派も現状維持派も多数を占めること。台湾独立は理想・信仰として若者を引き付けながらも、民進党主流派は「中華民国」という枠組みを現実的な選択として残していること。
     また筆者は、日本の言論界は台湾に対し「思考停止」に陥っていると繰り返し述べている。尖閣諸島や南シナ海領有権問題、また総理談話や慰安婦を含む歴史問題では、台湾が当事者として語られることはほとんどないことに改めて気づかされる。特に筆者は、古巣の朝日新聞を含む「左派」の台湾への姿勢に対し手厳しい。現在、日本の「右派」が反中つながりで国民党から民進党に舵を切って応援するのに対し、「左派」は、中国への配慮からか、国民党も民進党も応援できずにいると指摘している。今後の日本の政治・言論界と台湾との関係を見る上での一つの視座になりそうだ。
     一方、物足りない部分もあった。2016年総統選での国民党の敗北は、中台の緊張緩和を進めた馬英九が「台湾人の総統」になれなかったからだと指摘しているが、ではなぜ2008年総統選では民進党が負けたのか。筆者は「陳水扁政権の腐敗と失政による不人気」のためとごく簡潔に指摘しているが、そうならば中台関係とは別の要因ということだろう。筆者は、台湾問題が中台関係から切り離され、中国問題におけるサブ・イシューから脱しつつあると述べているが、本書では全体を通じ専ら中台関係の文脈で台湾を語っているようだった。

  • 台湾の現状とその背景がわかる。
    ますます台湾に興味が湧いた。

  • 東南アジアの人たちと近現代史について胸襟を開いて話し合える日が来るのでしょうか。私は隣人である中国、韓国、北朝鮮そして台湾のことを少しでも知っておこうと思い、最近はこれらの国の歴史を少しずつ学んでいます。悲しい事実が多いですが、目を逸らさず偏らず、何が起こったのかを受け止めたいと思います。

  • 最近の台湾を知れる。

  • 東日本大震災時,巨額の支援を日本に提供した台湾。「親日」と言われる台湾。正式な国交がない中,身近で重要な存在となる一方で,正確な情報を得ることが難しく,近くて遠い「国」である台湾の今を,記者の眼で,研究者の眼で,そして生活者の眼で,複眼的に描く。小籠包を食べに台湾を訪れる前に一読を。

    *推薦者(国教)K.M
    *所蔵情報
    http://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB21187807?caller=xc-search

  • 現在の台湾情勢を理解するための格好のガイドブック。台湾問題をずっと取材してきた著者の視点は確か。入門書としてもオススメできるが、一読で全部は理解できないだろうな。「1992年コンセンサス」とか難しすぎる・笑

    台湾人が台湾語で話すとき、日本語で話すとき、そして中国語で話すとき、微妙にそれぞれ違うなどの指摘も重要。

    小林よしのり『新ゴーマニズム宣言 SPECIAL 台湾論』を評価しているのだが、あれは司馬さんの『台湾紀行』の焼き直しみたいな本だと思うが……。

  •  日本人がよく知らない台湾の政治について台湾勤務経験のある記者が語る。

     中国と争いなし崩し的に二つの国のようになっている中国と台湾。日本は明治に台湾を占領下に置いて日本の一部とし、敗戦を機に手放し、後に中国との国交を優先し台湾をタブーにした。
     現在は民主化し、かつで毛沢東と争った国民党と民進党の二大政党制で政権を争っている。そこには中国との距離感が大きな争点になっている。
     この本では首相になったばかりの蔡英文や前首相の馬英九についても詳しく書かれていて、近代から今日の台湾までがふれられる内容になっている。

     日本人はもっと台湾を学ぶべき。

  • 台湾の今、温度感が伝わってくるようで、とても興味深く読んだ。
    著者の野嶋氏が戴国煇、伊藤潔それぞれの『台湾』を今日でも学ぶことはたくさんありメーンの書棚からはずせないと語っているように、私にとってはこの本がそれにあたると思った。
    まだまだ理解しきれない点もあり、知見をひろめていくためにこの本を指針にしたいと思う。

    日本人の台湾に対しての「思考停止」について不健全と指摘していたが、それは万物にいえることであって、国家間だけではなく自分にも思い当たることがあり猛省した。

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著者プロフィール

野嶋 剛(のじま・つよし):1968年生まれ。ジャーナリスト、大東文化大学教授。朝日新聞入社後、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、国際編集部次長、アエラ編集部などを経て、2016年4月に独立。『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『認識・TAIWAN・電影――映画で知る台湾』(明石書店)、『蒋介石を救った帝国軍人――台湾軍事顧問団・白団の真相』(ちくま文庫)、『台湾とは何か』『香港とは何か』(ちくま新書)、『新中国論――台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)など著書多数。著書の多くが中国、台湾で翻訳刊行されている。

「2023年 『日本の台湾人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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