- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480071651
作品紹介・あらすじ
国際法がわからなければ、我々はグローバル時代を生き抜くことはできないし、現代史も理解できない。基本から体系的に理解できる、第一人者による待望の入門書。
感想・レビュー・書評
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日本と韓国の関係悪化が止まりません。
従来から懸案だった竹島問題や慰安婦に加えて、徴用工訴訟における日本企業への賠償命令判決、レーダー掃射問題と課題続出です。
両国政府とも先方の責任を主張するのみで、出口が見えないスパイラルに陥っています。
本書は、国際法の泰斗による市民向けの入門書。とはいえ、国際法を体系的に理解しつつ個別論点についても幅広にカバーしていて読み応えのある内容になっています。
国際法の成り立ちから始まり、国内法との相違点や、環境や人権など新たなトピック、戦争と国際法など、興味深い知見がたくさん披露されます。
〇国際法は二国間の条約や協定だけでなく、ガットなどの多国間協定、国連の枠組みでの共同宣言など様々な形態があります。
国内法とちがって管轄権のある裁判所が存在しません(国際司法裁判所の審理は当事国の同意が要件となっている)。したがって、紛争の最終的な解決はどうしても関係各国のパワーバランスに依存 するところが大きく、そうした面から国際法の非力さを揶揄する識者も多く存在しています。
しかし、一方で、成文化された取決めは、大国の恣意的な行動を抑止し、地球環境や人権など、地球全体で取り組まなければならない課題に一定の方向性を与えるという機能は否定できません。
〇それ故、各国とも自国の行為を国際法の文脈に位置づけ、国際法に則っているということを国際世論に積極的に発信します。「国際法違反」というレッテルをいったん貼られてしまうと、国際的な非難のみならず、国連による制裁、関係諸国による内政干渉を招きかねないからです。
その反面教師が、第二次大戦時の日本、ドイツでした。日・独の行為は、1928年のパリ不戦条約(国際紛争を解決する手段としての戦争の禁止)違反とされ、当時の指導者が平和に対する罪で裁かれました。筆者も、東京・ニュルンベルク両裁判は、勝者の裁きという側面を否定できないけれど、戦争の違法化を史上はじめて明記した不戦条約の前では、その正当性は揺らぎようもないと指摘します。
〇筆者は慰安婦問題、徴用工、領土問題にも言及します。慰安婦問題については、1993年の河野談話とアジア女性基金の設立(基金は国費から支出されている)で、日本は公式に本人たちに謝罪しているにもかかわらず、マスメディアが同基金が公的なものではないと報道したことで、国際的に謝罪していないことになっていると、メディアの姿勢を批判します。徴用工については、日韓基本条約、日韓請求権協定を前提とする限り、韓国国内の問題とせざるを得ないとの立場です。が一方で、国際司法裁判所をはじめとする国際法専門家の間では、条約締結時の取決めよりも、その後の人権観の発展により判例変更される「発展主義」が優勢なので、その点も留意する必要があると指摘します。領土問題では、北方領土については日本政府の「日本固有の領土」の主張根拠は弱く、竹島、尖閣については韓国・中国の主張に無理があると指摘します。無難に断定を避ける他の有識者とは異なり、かなり思い切った意見を示されている印象です。
〇筆者は筆をおくにあたってこう述べます。「大国のパワーゲームの前に国際法は無力だという現実に何度も打ちのめされたが、それでも国際法には平和な世界をつくり自由、人権保護を希求する力を持っている。21世紀の日本は、経済的には影響力を低下させつつあるが、だからこそ、国民、メディア、政治家が国際法を理解し、国際法を活用する知恵をソフトパワーとして身につけるべきだ」と。
〇本書の脱稿をおえて間もなく大沼先生はお亡くなりになられました。巻末に娘さんが最後の日々について書かれていますが、命の尽きる最後まで、本書の完成に心血を注がれたそうです。全巻を通じて、筆者の国際法に対する信頼があふれでた名著だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
国際法学者大沼保昭氏による国際法の入門書。本書が同氏の遺稿となってしまったようだ。これまで表面的には安定していた国際秩序は21世紀において崩壊しかけており、現状を理解し、今後について考えるためには国際法の理解が不可欠だと考えて本書を手に取った。就活中なので読了までだいぶ時間がかかった。
様々なテーマから検討することで、国際法の全体像を解きほぐそうとしている。検討のなかでは現代の国際法とその解釈には様々な課題があることがわかる。国家中心的な視点から国際法を理解するのは時代遅れであり、NGO、専門家、メディアといった非国家主体も交えた視点が必要であるようだ。
アジアには地域的な人権機関がないという課題がある。なぜ日本が主導しないかといえば、それは戦前の大東亜共栄圏構想の推進に対する、他国の怨恨が未だに根深いことが考えられる。ただアジアにこそ人権機関は必要だと思う。
筆者も触れているように、日本は今後様々な民族を抱える国になっていく。しかしながら、日本は日本人の国だという固定観念は根強く残っており、在日朝鮮人も含めた外国系の人々の権利を保護するための法制度が整っているとはいえない。当たり前のことだが日本政府は日本人によって構成されているから、やはり彼らにもそうした固定観念はあるのだと思う。 -
大沼保昭 新書 普通の速読 速読 法律 国際
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著者は死の前日まで本書の執筆をしていたという。その狙いは一般市民向けに国際法認識を共有してもらうことにより、自衛隊や日米貿易摩擦や中韓との歴史問題等々の理解を深めてもらうことにあるとのことだが、語られているのは国際法の可能性と限界である。
著者も言うように「戦争と平和の問題が国際法の中心課題」であるとすれば本書のメインは第3部となる。そこでは中国の台頭やテロ集団、利己的国家(主にロシア)により国際法が揺さぶられ、破られ、蹂躙される<国際法冬の時代>への懸念が語られる。概して救いの無い内容ではあるが、所々の記述から著者の国際法への役割期待が感じられるし、最後は日本へのエールで終わっているのが印象的でもある。 -
資料ID:98181584
請求記号:081||C||1372
配置場所:工枚特集①
(※配置場所は、レビュー投稿時のものです。)
☆特集展示「SDGs特集」☆
SDGsを特別なものとしてではなく「自分ごと」として捉え、それぞれの活動、生活の中に浸透できるようSDGsを理解し社会課題に関心を持つことを目的としています。 -
漠然としていた「国際法」の概念が、収束してきた、‥気がする。
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329||On
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新書なので、国際法の個別論点に深くは突っ込まない。一方で「国際法的な見方」を気軽に身に着けるには400頁は重厚。また現在の国際問題に対する著者の意見が所々にあり(それ自体は穏当だが)、記述が著者の意見なのか国際法の標準的な考え方なのか分からなくなったりもする。
他方で中身は充実。意識的にか、馴染み深い現実の事象に関係する内容も記述されている。近隣国との現実の問題の所在を理解する助けになった。
たとえば、国家間関係のみから、民間や異なる文明間の「民際的・文際的」思考枠組みも要求される、非国家主体も国際法のアクターとなる、という21世紀の流れ。条約解釈をその時代に即して判断するという原則と、現代の国際社会で有力になりつつある、条約締結後の規範意識の変化にしたがって解釈する「発展的解釈」の違い。近年韓国内で提起されている問題もこの流れの一つだろうか。
また、日本と中露韓との問題で、国際法上の議論と、歴史的観点・「正義」の議論の違い。日韓については明示的に、2つの議論双方からの評価を双方の国民が正確に理解し、それを踏まえた上で折り合える解決をもとめることが大切、と記述されている。 -
国際法の観点から、人権、集団的自衛権など
国際ニュースを理解する上で避けて通れない
重要なトピックに新たな視点を与えてくれる。
国際法の限界を冷静に見つめつつ、
それでもむき出しの国家エゴより
マシなんだから、うまくつかって
行こうよ、という著者の遺言のように
感じた。 -
一般向けの国際法の入門書ですが、一通り勉強した人が読んでも、改めて気づかされることは多いはずです。