ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480075284

作品紹介・あらすじ

2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した。21世紀最大規模の戦争はなぜ起こり、戦場では何が起きているのか? 気鋭の軍事研究者が、その全貌を読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 子どもに「ウクライナ侵攻」をどう伝える? 小泉悠氏も想定外の「古臭い戦争」の正体  - コクリコ[cocreco]
    https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/housework/vozDi

    ウクライナ戦争が古典的な戦いになった3つの訳(小泉悠) – Asia Pacific Initiative 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ
    https://apinitiative.org/2022/09/12/40047/

    筑摩書房 ウクライナ戦争 / 小泉 悠 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480075284/

  • 2021年1月から本書上梓時点の2022年9月まで、ロシア、ウクライナの開戦前夜の軍事的状況、プーチンの論文や思想の変化、実際の戦況も前半と後半に分け、時系列にまとめる。

    新聞やニュースなどで日々耳にしても、そう簡単には状況を理解できないでいたところ、きっちり文章にまとめてあり、また根拠となる情報源が文中に示されるのでなるほどと信憑性を感じる。文体はテレビでの語りとおなじく論理的でわかりやすい。

    最後に主体的な議論の必要性を説く。
     ウクライナの状況は、日本が戦争に巻き込まれた場合に(あるいは周辺で戦争が発生した場合)そのまま跳ね返ってきかねない問題であり、日本はこの戦争を我が事としてとらえ、大国の侵略が成功したという事例を残さないように努力すべきではないか。とるべき行動の選択肢を真剣に検討しておく必要がある。

    この戦争は「どっちもどっち」と片付けられるものではない。ゼレンスキーとて完全無欠のリーダーではないし、バイデン政権もロシアを止めるためにあらゆる手段を尽くしたとは言えない。が、それでもこの戦争の第一義的な責任はロシアにある。その動機は大国間のパワーバランスに対する懸念、プーチンの民族主義的な野望であったのかもしれない。が、一方的な暴力の行使に及んだ側はロシアである。開戦後の多くの虐殺、拷問などの点を明確に踏まえ、ただ戦闘が停止されればそれで「解決」になるという態度は否定されねばならない。
     


    メモ
    本書の問い
    〇これだけの戦争が何故起きてしまったのか、
     ・・侵攻の狙いは、ゼレンスキー以下を電撃的に排除して政府を瓦解させる「斬首作戦」
     ・・プーチンが範としていたのは、ソ連やロシアが行ってきた周辺諸国への介入作戦ではなかったか。
     ・・2021.7月の論文、2022.224のビデオ演説は、ウクライナは依然ロシア・ソ連の一部なのだという認識。独立してはいるが西側の思想に毒されている。
     ・・ネオナチ思想~ウクライナ内のロシア系住民を弾圧している
    〇それは本質的にどのような戦争であったのか、
     ・・極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」である。無人飛行機などハイテク機械などが使用され効果も上がっているが、戦争全体の趨勢により大きな影響を及ぼしたのは、侵攻に対するウクライナ国民の抗戦意識、兵力の動員能力、火力の多寡といったより古典的な要素だった。
    〇戦場では何が起きており、日本を含めた今後の世界にどのような影響を及ぼすのか。
     ・・性質が古典的であるとすると、そこで決定的な影響を及ぼすのは、歴史上多くの戦争の勝敗を分けてきた、暴力闘争の場になるのではないか。
     ・・テクノロジーや非軍事的闘争手段による「新しい戦争」に備える重要性は低下しないとしても、「古い戦争」への備えを無視してよいことにはならない。この点は我が国の抑止力をめぐる議論において重要な論点となろう。
     ・・ウクライナへ各国が直接介入しないのはロシアの核戦力に対する恐怖の存在である。仮に台湾有事が発生した場合、日本の役割はポーランドのそれに類似したもの~核侵略国に対して軍事援助を提供するための兵站ハブや、情報支援を行うアセットの発信基地になる可能性が高い。~これは日本が核兵器を持つ侵略国(中国)の核恫喝を受けることを意味しており、この点の国民的議論が必要だが、それはなされていない。このままでは将来の軍事的脅威に明確な国民的合意なしにずるずると巻きこまれることになるのではないか。

    ・情報による攪乱は民主国家同士で効果を発する。ロシアは情報統制国家であるので、情報攪乱は効果があまりなかった。

    ・プーチンの世界観:大衆が自分の考えで政治的意見を持ったり、ましてや街頭での抗議運動に繰り出すことはありえず、そういう事態は必ず首謀者と金で動く組織が背後にある。


    2022.12.10第1刷 2022.12.25第3刷 購入

  • 初・小泉先生。とてもわかりやすかった。
    ウクライナ戦争に関しては色んな人が色んなことを言っており、正直一般人の私は何が真実なのかわからない。
    著者はもちろん豊富な知識を有しているけれど、それでもわからないことはわからないと記載されている点、個人的にとても好印象。
    良い意味でのヲタクっぽさがあって好き。他の本も読んでみよう。

  • 本書が発売されてから一年近くが経とうとしているが、残念ながら戦争は終わりそうもない。

    最近日本では、ウクライナ戦争に関する報道も減りつつあるような気がする。

    本書は戦争が始まる少し前からの両国の動きと、開戦後昨年の秋に至るまでの経過や、両国と関係諸国の動きを端的に分かりやすくまとめ分析している。なかなかの良書だと思う。

    分析にあたり、事実を重視して可能な限り公平であろうとする努力には共感を覚える。終わりに、今後の日本で早急に考えておかねばならぬ事が端的に纏められている。このウクライナ戦争は、日本の国民の一人一人がこの東アジア地区での日本役割をしっかり考えるいい契機になると思うし、そうしなければいけないだろう。

    その為にもこのウクライナ戦争にどう自分自身が関わっていくかを、しっかり考えねばならなだろう。

  • ロシアによるウクライナ侵攻が起こって以来、メディアに出ずっぱりな感じの小泉悠さんの、12月に出版された書籍。

    執筆していたのは9月までとのことで、そこまでの戦況を踏まえての解説・分析。まだ現在進行形の戦争についての書籍なので、最終的にどうなるのか、結局プーチンの「目的」はなんだったのか、というのは著者さんの推測でしかないのですが、現在進行形で起こっていることなので、出版されてすぐに読むことに意義があるのではないかと、予約して購入。とはいえ、読むのにちょっと時間はかかってしまいましたが、読むことができてよかった。


    開戦前の状況、開戦直前の状況、そして開戦からの線局の解説がとてもわかりやすく書かれていました。

    私自身は、2月24日に突然のニュースでびっくりしたし、それからしばらくは、あまりの「非現実感」で、意味がわからなかったし、その頃にどんなことが起こっていたのかまとめて知ることができました。
    しばらくしてからYouTubeのニュース解説的な動画で色々な情報をチェックはしていたけれど、それでもわからないこと知らないこと、言われても理解できないこと、たくさんあるわけですが、現代社会に生きている人間として、これからも状況を注視していきたいと思っています。


    状況が落ち着いて、「振り返って」書かれた続きを早く読めますように…。

  • 12月に登場している一冊だ。ウクライナで現在進行形の事態が直接的に起こったのは2022年2月だったが、その以前への言及も在る。が、「何が起こっていて、如何いうことなのか?」について語る内容で、概ね9月頃までの状況を反映した叙述となっている。
    2月に事態が起こった頃、ロシア側が一気呵成の攻勢で短期決着を図るかのように見えたが、そのようにはならなかった。そして年末を越えて未だ続いていて、予断を許さない状態になっている。如何してそういう展開になって行ったのか?そういうことに関して、何らかのメディアのコメントのような“編集”を極力排し、可能な範囲でロシアの軍事に関する事等の研究者として論じようとしているのが本書である。大変に参考になる。
    ロシア側はウクライナの政権を早期に壊滅させてしまい、傀儡的な政権を立て、状況を造るというような所謂「斬首作戦」を目論んだと見受けられる。そして“内通者”というような存在も仕込んだ痕跡が在るようだが、この「斬首作戦」が不発に終わった。政府機関、要人を襲撃するような行動に出るべく先行した部隊が孤立するというような不手際が在り、ウクライナの政権は「ここに留まって闘う」として求心力を強めたのだった。
    仕掛けたロシアが戦いの主導権を握るような状況が続いていたが、ウクライナ側は装備の支援も受けながら、ロシア側の活動を抑制する要所を巧みに攻め、夏頃からは寧ろ主導権を握るようになっているとも見受けられる。そして様々な思惑が渦巻き、戦禍の圧倒的な拡大が抑制されてはいる。が、戦闘はなかなか止まずに現在に至った。
    著者は2014年頃のクリミア関連の争乱を「第1次ロシア・ウクライナ戦争」とし、目下の状況を「第2次ロシア・ウクライナ戦争」と呼ぶべきとしている。恐らく、或る程度年月を経て事態が振り返られる時には、こういう言い方になるであろう。それを踏まえて本書は『ウクライナ戦争』と題されている。
    本書の終盤の方に少し言及も在るのだが、情勢の推移というような事柄の表裏一体で「無数の個人の様々な事」というモノも在ることも忘れるべきではない。尊い命が損なわれ、重傷を負うような事や、その他様々な事柄で人生が歪んでいる人達が多く在り、戦闘に身を投じるようなことになった人達の複雑な想いというモノも渦巻いている訳だ。
    「〇〇と名が付くのが気に入らない」と“非難”と叫び続けて何が如何なるのでもない。本書のようなモノに触れて、何が如何なっているのかを知ろうとすべきなのだと思う。今般の戦争は、最近の技術の成果というような装備が駆使され、現在の技術水準の下での通信の妨害というようなことが繰り広げられている。が、現地で起こっていることは総じて、「侵攻して来た者を何とか退けようと、人々が強い意志で闘う」という、所謂「近代の総力戦」というようなモノが定着した何十年前から変わらない様相でもあるのだ。
    軍事関連の事柄や地域事情というような事を論じるなら、そういう論に終わりは無いとも思う。が、「第2次ロシア・ウクライナ戦争」と呼ぶべき事態に関して、早く段落して頂きたいものだ。死傷者が増え続ける状態に幕を引いて頂きたいというように思っている。それは何時か?そこは判らないが、多分、何れ本書の“続篇”も登場するようになるであろう。
    大変に参考になるので、広く御薦めしたい一冊だ。

  • 2022年2月24日に始まったロシア×ウクライナ戦争。
    開戦1年前の状況と今年9月末までの戦況推移を総括した内容。戦争の原因を視野に含めているが、それでも多くは謎のまま。なぜなら、プーチンが何を考えてどういった動機で戦争を始めたのか、その合理的な理由が簡単に見つからないからだ。
    古今の軍事理論を用いてロシアの戦争遂行も検討している。その上で今次の戦争は、兵力と火力を軸にした最も古典的な戦争として理解できることを示す。

    それでもやはり、最後まで読んでもプーチンが戦争を始めた動機が分からない。著者の見立ては「自分の代でルーシ民族の再統一を成し遂げる」というプーチンの民族主義的野望ではないかと想定している。そうかもしれない。あるいは他の理由かもしれない。とにかく、現時点では誰も分からない。

    21世紀に戦争?冗談だろ、と最も衝撃を受けた世界的出来事だった。ロシア軍の蛮行などはまるで中世のようで、自分が何世紀に生きているか分からなくなった。なにより歴史は前に進むだけでなく後退すらあることがショックだった。プーチンがこの戦争を止めない限りウクライナ戦争は今後数年は続く。そして米国・西側諸国はウクライナの支援を止めない。
    頑なにロシアを擁護する人々や、どっちもどっち論の相対主義を排して、「この戦争の責任はロシアにある」(その通りだと思う。)という著者の主張が、戦争の情勢分析と経緯を通して展開されている。著者と反対意見をもつ人ほど読むことを薦める内容だった。

  • 刊行のタイミングから、全容が分かる!というわけにはいかないが、軍事的な目線が特徴的であり、この戦争のきっかけ、意味するものの一端を感じられる。

  • ウクライナ戦争を章ごとにわかりやすく解説。どちらの地域でも被災された一市民へ寄り添う作者のフェアな気持ちが好ましかった。

  • 侵略開始1年位前からのロシア、ウクライナの関係、其々の国内事情、それに米欧は衛星画像その他情報から侵略の意図、時期もかなり正確に把握していた事等、細かく解説され分かり易かった。
    歴史や戦争論も交え、軍事的戦術、兵器まで細かく解説される一冊だが、そもそもの「なぜ今こんな戦争が起こったのか、これからどうなりそうか」については憶測の域を出ない。
    これについては何年後か、或いは意外に早く(昨日あたりからワグネルがモスクワに向かったとか引き返したとかのニュースもあり)でも、何らかの決着を見た後の分析を待つしか無いのだろう。

    兵器や兵員数など軍事力比較分析、プーチンの思惑や当初想定したであろう侵略プランと修正案、各国の事情踏まえた駆け引きといった細かい分析等々を読み進めながら通底していた思い「国のトップや上層部の愚かで冷酷な判断のせいで、辛く悲しい生活を強いられる事になるのは一般国民、生活者である事の視点の欠落」は、筆者も同じだった様で、その辺について「あとがき」で触れられていたのを読み、ある意味救われた思いと筆者への共感度、信頼感が増した。

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著者プロフィール

小泉 悠(こいずみ・ゆう):1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年、サントリー学芸賞受賞)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書、2021年)、『ロシア点描』(PHP研究所、2022年)、『ウクライナ戦争の200日』(文春新書、2022年)等。

「2022年 『ウクライナ戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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