世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界 (ちくま学芸文庫 カ 39-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480097187

感想・レビュー・書評

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  • 世界史の流れを、「国家」という単位ではなく、「世界」全体で見つめ直すべきだ、ということを様々な角度から講釈してくれている本。

    この本が示そうとする事柄は、次の文に端的に表現されている、と思っています。

    p26「近代の世界は1つのまとまったシステム(構造体)をなしているので、歴史は「国」を単位として動くのではない。すべての国の動向は、「一体としての世界」つまり世界システムの動きの一部でしかない。「イギリスは進んでいるが、インドは遅れている」などということはなく、世界の時計は一つである。現在のイギリスは、現在のインドと同じ時を共有している。両者の歴史は、セパレート・コースをたどってきたのではなく、単一のコースを押し合い、へし合いしながら進んできたのであり、いまもそうしているのである。いいかえると、「イギリスは、工業化されたが、インドはされなかった」のではなく、「イギリスが工業化したために、その影響を受けたインドは容易に工業化できなくなった」のである。

    過去500年間にわたって、ヨーロッパからスタートした「近代世界システム」が、どのような流れで世界を飲み込んでいったのか、それぞれのポイントにおける解説がなされています。

  • 世界システム論概論とでもいうべき、入門編しては最適なテキスト。

  • 図書館で借りた。
    世界システム論の講義録。元は放送大学の教科書だとかで、それを再編・文庫化されたものだ。
    世界システム論と聞くと、アメリカのウォラーステイン(Wallerstein)が提唱したのが有名だが、この本はそこには深く言及しておらず、また理論的に"システム"として捉えたりといった話は乏しい印象を受けた。広い意味での世界史講義といった印象。
    システム論としては物足りないと感じたが、まぁそもそも「世界システム論」自体新しい理論でもないので、一つの世界史講義として楽しんだ。

  • ウォーラステインが提唱した「世界システム論」という史観概念について解説されている。
    世界システム論とは、歴史を国単位で捉えて、諸国が互いに不干渉な状況であるセパレートコース上での競争をおこなっているとする「単線的発展段階論」へのアンチテーゼとして生まれた。
    つまり、勤勉国家が「先進国」、怠け者国家が「後進国」になっているとするのではなく、「中核国」が「周辺国」から収奪したために、「先進国」と「後進国」が生まれたというように、国単位ではなく、世界を一つの単位/構造体として捉え、構造体内の相互作用において全体の状況が作り出されているという考え方である。
    近代初期においては、世界における西ヨーロッパの影響力は小さく、経済・文化・技術などあらゆる点において、アジア(特に中国)の方が進んでいた。
    次第に、(火器などの暴力技術も含まれる)技術がアジアから到来し、一揆などに対応しかねた領主層が「国家」の存在を求めるようになり、封建制度から国家国民制度へと移行していった。
    ここに、世界システムの萌芽が見られ、その後、西ヨーロッパ諸国は、大航海時代→植民地支配→工業化といった流れで世界システムを地球規模に拡大させ、常に新しい「周辺」を探し求める。

    ・世界システムは「中核」と「周辺」が存在し、周辺から搾取した富によって中核が充足されるという構造がベースとなっていること
    ・現代社会において、世界システムから逃れた地域は存在せず、新しい「周辺」の拡大が見込まれないこと
    ・搾取するシステムである「工業」の姿変化してきていること(IT/金融に重点が移動)
    などを踏まえると、近代の世界システムから現代の世界システムへの更新を考えてみても良いではないだろうか。

    <メモ>
    ・国家国民モデルが希求された背景として、ウォーラステインは「農奴統治のため」ゲルナーは「高文化教育普及のため」とそれぞれ違う観点で見ている
    ・ヘゲモニー国家の支配力の拡大/衰退の順序は、いずれも生産→商業→金融の順となる
    ・ヘゲモニー国家衰退の理由としては、生活水準の向上→生産における優位性低下となり、上記の衰退スパイラルに陥るため
    ・世界システムにおいて、「世界帝国」は存在せず「世界経済」のみ存在する。帝国モデルは支配体制としての効率が悪い
    ・ヘゲモニー国家において一番有利なのが「自由主義」。そのため、ヘゲモニー国家の首都は最もリベラルで芸術や亡命インテリの溜まり場となる



  • ちくま学芸文庫
    川北稔 世界システム論講義


    世界システム論の本


    南北問題やヘゲモニー国家の変遷については 資本主義論と重複しているため、世界システム論の必要性が理解できなかったが


    奴隷貿易や奴隷制プランテーションにより イギリス産業革命が起きたとする ウィリアムズテーゼの論証は わかりやすかった


    「だれがアメリカをつくったのか」の論考に驚いた〜植民地時代にアメリカに渡ったイギリス人は、年季奉公人(期限付き白人債務奴隷)、死刑を逃れた犯罪者、失業者とのこと


    「世界システム論〜近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史を有機体の展開過程として捉える見方」


    南北問題
    *世界的な分業体制の中で、北の国が工業化して開発され、南の国が原料生産地として開発された
    *中核〜世界的な分業体制から多くの余剰を吸収できる地域。西ヨーロッパ
    *周辺〜食糧や原材料の生産に特化され、中核に従属させられる地域。東ヨーロッパ、ラテンアメリカ


    ヘゲモニー国家の変遷が世界大戦へ
    *近代世界システムが地球全域を覆い、新たな周辺を開拓する余地がなくなった
    *アフリカ分割を契機に、世界が帝国主義とよばれる領土争奪戦に突入
    *帝国主義とは、地球上の残された周辺化可能な地域をめぐる、中核諸国の争奪戦




    世界システムは、その地域間分業の作用を通じて、西ヨーロッパ=中核では国家機構を強化しつつ、周辺国では国家を溶解させる効果をもった

    ヨーロッパのシステムと中華システムの違い
    *ヨーロッパのシステムは政治的統合性を欠いた経済システム〜国民国家の寄せ集めにすぎない
    *ヨーロッパのシステムでは、各国は競って武器や経済の開発を進めた
    *中華システムの中核は、一帯をひとまとめにして支配すふ帝国となっていた

    ヘゲモニー国家
    *中核地域のなかでも、圧倒的に強力の国
    *17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、第二次大戦後のアメリカ
    *世界システムのヘゲモニーは、生産、商業、金融に及び、崩壊するのときも この順に崩壊する
    *ヘゲモニーは長く続かない〜生活水準が上昇し、賃金が上がり、生産面での競争力が低下するため
    *ヘゲモニー国家は、自由貿易を主張する





  • 近代世界史がなぜヨーロッパを中心に展開していくことになったのか、それは世界は個別の主体(国家)による自由競争なのではなく総体として捉えるべきシステムであるから、という世界システム論で捉える本。元々は口頭の講義なのかとても読みやすいです。この書籍以降のアフリカ・中東の紛争と難民、欧米のナショナリズムの状況だったり、中国の台頭、あるいは気候変動問題なども地球規模の相互作用の中で捉えるという意味では今では当たり前の話ではありますね。それでもヘゲモニー国家の変遷と各国の文化の成立要因が連動しているところなんかはなるほど、と面白かった

  • 感想
    西洋の世界観の下に地球が一つのシステムにまとめ上げられる。ITCによって加速しているが、ローカルな動きも見られる現代。統一には限界があるか。

  • 先に岩波ジュニア新書の「砂糖の世界史」を読んでいると理解が早いと思います。

  • 現在の世界がどのようにして一つの価値観に支配されてきたか、500年ほどの近代史をもとに解説されていた。
    歴史をあまり勉強してこなかった自分にはわからない部分もあったけれど、ざっと500年間をまとめてくれていたので大きな流れを掴むことができた。
    イギリスの甘い紅茶文化がなぜ形成されたのか?
    インド経由のお茶と、三角貿易で得た砂糖が中核となるイギリスに集まったからということを知って、どんな文化にも歴史があるのだと感心した。

    もちろん細かい部分でそれぞれの国の文化があるものの、ヨーロッパ的思想で統一化されている世界観と考えるのも面白かった。

  • 世界の仕組みというか、現代社会を外観するために参考になる本。時々こういった本を読むと、ああ、そうだったという確認と、そいういう見方もあるのかという新たな視点を得られるのでとても良い。今回は近代ヨーロッパを中心に、経済システムの切り口で歴史を外観するもの。これまでの教科書や歴史解説書では、「国や王朝」単位で物事を捉えていることが多いが、この本は国境や〇〇家ではなく、モノ(農作物、工業製品、奴隷も)の流れで歴史を解説し、評価もしてくれている。この見方に立つと、大航海時代の世界の中心はインドや中国など東・東南アジア地域であり、この地域は域外との取引をしなくても十分豊かだった。従って、ヨーロッパ征服などということは起こらなかった。一方、次第に力をつけ始めた欧州では、ヘゲモニー国家が誕生し、農業、工業、金融の順で世界を支配しようとした。この動きが進展すると、周辺地域は搾取の対象となるので産業や民主主義などが育成されず、いまだに低発展国となっている、などなど。新しい見方をくれる一冊

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著者プロフィール

1940年大阪市生まれ。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士課程中退。大阪大学大学院文学研究科教授、名古屋外国語大学教授、京都産業大学教授、佛教大学教授などを経て、現在、大阪大学名誉教授。著書に『工業化の歴史的前提』(岩波書店)、『洒落者たちのイギリス史』(平凡社)、『民衆の大英帝国』(岩波書店)、『砂糖の世界史』(岩波書店)、『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(共著、中央公論新社)、『イギリス近代史講義』(講談社)、訳書にウォーラーステイン著『史的システムとしての資本主義』(岩波書店)、コリー著『イギリス国民の誕生』(監訳、名古屋大学出版会)、イングリッシュ/ケニー著『経済衰退の歴史学』(ミネルヴァ書房)、ポメランツ著『大分岐』(監訳、名古屋大学出版会)他多数。

「2013年 『近代世界システムIV』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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