- Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480423962
感想・レビュー・書評
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一事に徹すれば、万事の深淵を見られる…
そんなことを、ひしと感じさせられる一冊だった。
著者は、アクティブに動く…人を訪ね、寺社をめぐり、
美術展をに行き、本を読む…
その眼差しは、静謐でいて深いのだ。
出会ったことの本質を、真摯に受け止め、
自身に素直に反映させる…こうした姿勢は、
なかなかできることではない。
あ、と気づいた…凡庸であることは、
こうした姿勢で、世に対峙することを
忘れていしまうことなのではないか…いや、
そもそも、これまで自分をそのように省みていただろうか?
著者は、実母との別れをこのように記している…
―その棺をおおうまでは、決してみえていなかった。
突然幕が下ろされ、白日の下にその人を
みることのなくなったその時から、
実は本当にその人をみるのだった。
なくしてから、気づくことは多い…それは誰しも、
うなづくことだろう…しかし、自分自身を省み、
改めることができる人はどれくらいいるだろう?
これは、静かに、深く、身に沁みる本だった…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
言葉、文章が綺麗で品の良さを感じた。
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あえて著者の作品のなかで、一冊を選べと言われたら、この著作を挙げる。染織家としてだけでなく、文章家として、また、一個の求道者としての彼女の精神が、鮮烈に、また熱情的に示されている。現代日本における随想の極みを指し示す一冊。
(選定年度:2019~) -
京都東山の朝焼けの光景、近江八幡の琵琶湖の向こうに沈む夕日、そんな自然の景観を言葉で写し取ろうとする姿勢には、筆者が自然の樹木や草花から染色するための「色をいただく」作業に通じる確かな観察眼がある。
個人的には、雪国の中学生との交流が書かれた「藤原の桜」をたいへんおもしろく読んだ。
筆者の染めた糸で織られた衣装の展覧会などがあれば、ぜひ見てみたい。 -
何度も読み返したい名著。
日本語も美しい。
自然の中から色をいただく、という
著者の謙虚な姿勢に
いろいろ考えさせられる。 -
自然から色をいただくということ。
色というものは元々、むせかえるような植物の香りや、樹皮を剥いだり、花を摘んだり、五感にもっと近いものだったのだなと気づかされました。
「染め」のはなしを通して、生き死にのことまで、深く思考するきっかけとなります。
美しい文章にどっぷりと浸かりたいとき、とてもおすすめです。 -
とある本の中で、「美しい表現とは何か。表現の幅を広げるためにもおすすめです」と紹介されていた本書。
その書評に偽りなく、うつくしく澄んだ言葉を紡ぐひとでした。
著者は、人間国宝であり現役の染織家・志村ふくみです。
彼女は、山に入り、自然に生えている草木から染めの材料を集めます。自然の色で糸を染め、機を織るのです。
何度も染め重ね、糸を交互にひたすら織る、根気のいる作業でしょう。それでも、それがどれほど大変なのかについては、一言も触れられていません。
描かれているのは、小さな花のうつくしさや、桜の色のちがいのこと。 生命のかがやきを知っている人の丁寧な仕事ぶりは、読んでいて穏やかなきもちになります。
彼女は、書かれているもの、音がするものだけに目や耳をむけるのではありません。他の人が見落としてしまうものに目を向け、多くを語らぬものの声を聞き取ることができるのです。
類まれなる人が描く、最高級の絹織物のような随筆集でした。 -
志村女史は染織の人間国宝として、そしてエッセイストとしても著名な方。しかし私はあまり読んだことがなかった・・・。
旅行の道中にエッセイを読む習慣がついて手に取ったこの本、旅の途中母に取られてしまって(笑)、最近ようやく読み終わることができた。読んでいると、女史の歴史・文学の知識や深い洞察に助けられて、植物や動物の命をいただくひとりとして、自然との距離、ことばを取り戻すヒントがもらえそうな気がする。
生真面目で美しい文体は女史の生き方そのもの。著作も多い方なのでゆっくりと読み進めたい。染織家なので文体にも色彩感覚が極めて豊か。日本に棲んでてよかったとしみじみします~。 -
とにかく感性が豊かで、文章が美しいのです。
山道で見つけた小さな花にも、凛々しさや奥深さを見出しています。
染色家らしく、さまざまな色を持ち出しながら見たこと感じたことを表現しています。
読み手にも、色とりどりの自然や絵画や音楽が目に浮かぶようです。
「その人にしか書けない文章」を、自分も書けるようになりたいです。
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登場する著作・著者
谷崎 潤一郎:蘆刈
ブレーク:無垢の歌、経験の歌、セルの書
柳田国男:妹の力
白洲正子:老木の花
柳宗悦
幸田露伴
幸田文
シュタイナー
小林秀雄
西行:山家集
:さむがりやのサンタ
本居宣長:玉勝間
紫式部:源氏物語
谷崎潤一郎:陰翳礼讃
ギリシャ神話
リルケ:マルテの手記
リルケ:オルフェイスへのソネット
大岡信編:日本の色
古今和歌集
大岡信:言葉と力
白洲正子
夏目漱石:それから
ホイットマン
真壁仁:紅花幻想
加藤藤九郎:土と炎の迷路
上村松園:青眉抄、人生の花
宮沢賢治:雁の童子
三島由紀夫:日本文学小史
タゴール
シュタイナー:色彩の本質
片山敏彦:心の遍歴、ときじく
ロマン・ロラン
ヘルマン・ヘッセ
道元
登場するクラシック
ワーグナー:楽劇「パルジファル」
アルヴォ・ベルト:ヨハネ受難曲
六十の手ならいというのは、六十歳になって新しいことを始めるという意味ではなく、今まで一生続けてきたものを、改めて最初から出直すことだと言う。
平凡を非凡に務める
真実一路の旅なれど 真実、鈴ふり、思い出す